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    ヴァイオリニストの役に難儀するジュンくんのために、もう弾かなくなって久しいヴァイオリンを弾いてあげることにする日和くん、的なジュンひよを書こうとして、その前章でにっちもさっちも行かなくなったやつの供養(推敲できてない)
    いつもだったらうまくやるのに、体調不良により別の意味でうまくやっちゃうことも昔はあったのかなって。
    英智と日和だけ。ジュンくん出てきません。(最後名前だけ)

    それでも拍手は届く「こんなところに居たんだ」

     頭上から降ってきた呆れ混じりの言葉に、地を這っていたぼくの気分は更に降下した。その声には遺憾ながら聞き覚えしかない。せっかく会場の端っこで大人しくしてたのに。全部台無しだ。額にじわりと汗が滲む。顔を合わせたくなんてないのが本音だけれど、人目があるとそういうわけにもいかない。
     重たいばかりの頭を持ち上げて前を見上げれば、途端にシャンデリアのギラギラした照り返しが目に刺さった。くらりと視界が回る。
     あ、まずい、かも。
     ――ううん、大丈夫。落ち着けばやり過ごせるはず。両の目尻を片手で押さえるようにして顔を覆えば、光が遮られて少しはマシになった。ぎゅっと目を閉じる。いち、に、さん、と心の中でカウントを取って、ゆっくりと瞬きを数回。視界を定めれば、ようやくちゃんとピントが合った。
     目の前にはもちろんと言うか、やっぱり英智くんが立っていた。相変わらず底意地の悪い笑みを貼り付けている。その楽しげなこと。
     仕立てのいいネイビーブルーのスリーピースは至ってシンプル、に見えるけど。金のカフスボタンに施された細工の精緻さはさすが天祥院財閥と思わせる。靴やポケットチーフも同様だ。見る人が見れば分かる出で立ち。派手に、見せつけるみたいに、着飾る必要がないと言うこと。こちらと違って。――ああ、本当に、悪い日和。比較なんてぼくらしくない。
     そもそも、こんな会場の隅までやってきて何の用だろう。挨拶はだいぶ前に兄上と揃って済ませている。話すことなんて何もない。早く離れてほしかった。どこに居たって英智くんが寄って来たらそこが話題の中心になっちゃう。

    「まあ、まずは飲みなよ」

     両手に持っていたグラスのうち、片方を差し出された。半分くらいに深い赤紫色が注がれている。よく熟成された葡萄の色だ。視線を戻せば、英智くんは心外だなとでも言いたげな顔で「僕たちまだ初等部なんだから。大人扱いされると思う? もちろんジュースだよ」と言った。一言多いね。
     英智くんがお酒を持ってきたとは別に思ってない。こういう大人数が一堂に会するような席では必要以上に何かを口へ入れたくはないだけだった。とりわけ色の濃いものには気を遣う。けど、いくら近くに誰もいなくたって、誰が見ているか分からないのに突き返すこともできない。選択肢はあってないようなものだった。
     受け取ったグラスをくるりと回して中身を揺らす。
     まあ、こんな衆目の中で、英智くんが手に取るものに、何かよくない物を混ぜ入れるような命知らずがいるとは思えないね。
     グラスを傾けてひと口含むと、濃い葡萄の味が口いっぱいに広がった。口当たりは爽やかで、すっきりとした喉ごし。乾ききった口内の潤う感覚がした。

    「なら、大人ぶって駆け引きしようとしないで、用があるならさっさと言って」

     英智くんは自分の分のグラスをゆったりと傾けこくりと喉を鳴らすと、まるでおとぎ話に出てくる邪悪な猫みたいに目を細めた。

    「じゃあ訊くけど。君って本当に、何をするにしてもそういうことにしているわけ?」
    「何が?」
    「さっきの演奏」
    「だから、何が? すごく上手! ってわけじゃなかったけど、かと言って聞くに堪えないほどでもなかったでしょ」
    「そうだね」

    ふっと空気の漏れるような笑い。今、鼻で笑われたよね?

    「あっ、ごめんね? 情緒の分からない英智くんに演奏の善し悪しが分かるわけもなかったね!」
    「情緒を感じるのは観客だよ。懸命な奏者でいれば、あとは聴きたいように聴いて好きなように解釈してくれるものだ」
    「懸命だなんて何の冗談? きみにとってはただの手慰みでしょ」
    「僕はね。でも、君にとってはそうじゃない」
    「……何が言いたいの?」
    「褒めてもらうために練習したのに、その一方で褒められることを望んでいないなんて、ね。君は本当に難儀だ。早熟し過ぎているとも言える」

     本当に、英智くんはいつもぼくの嫌な部分をわざと抉ってくる。

    「知ったような口で喋らないでくれる? そうやって気の利いた分析みたいに喋ってれば自分の気持ちは出さなくて済むもんね。いいご身分だね!」
     「なんでそう喧嘩腰なのかな? そんなに感情を表に出してばかりで大丈夫?」
    「大丈夫って何。どうしてぼくがぼくらしくあることを抑えなきゃいけないの?」
    「『ぼくらしく』、ねぇ」

     わざとらしくぼくの言葉を復唱するその声には、呆れとも皮肉ともつかない響きがあった。多分だけど、これは、明らかに”気付いている”。

    「いつも間違えるところ、今日は完璧だったそうじゃない」

     そして核心を突いてきた英智くんの言葉に、思わず舌打ちが出そうになった。

    「……英智くんに褒められても、ぜんっぜん嬉しくないね」
    「そうだろうとも。『兄上』より目立っちゃっていたからね」

     もう言い返さない。頭が痛くて痛くてうまく思考が働いてくれないから、このまま会話しても主導権は取られっぱなしだろう。英智くんは目を細めた。ひと呼吸分の沈黙が落ちて。

    「体調が悪いならそう言えばいいのに」

     瞬く。言い方は淡々としていたけれど、からかい混じりの言葉ではなかった。きっと英智くんは、心配してくれているのだと、思う。柄にもなく。でも、天祥院財閥の跡取りたる天祥院英智に矜持があるように、巴財団の次男坊にだってそれなりの矜持があるんだよね。

    「あはは。自分がしないこと、他人にさせないでくれる?」

     意地の悪い言葉を使った自覚はある。英智くんは露骨に眉をひそめた。まるで泥水を踏み抜いて、跳ねた飛沫がかかったような、嫌そうな顔。ほんの少しだけ胸がすく。
     自分の足で踏み込んだんだから、自業自得だよね。




     
    「弾いてあげようか?」
     言ってから、ああ、口が滑ったね、と他人事のように思った。
    そうしてぼくは、実家からヴァイオリンを借りてきて、ジュンくんの前に立っている。
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    __AmaAmaNe

    MOURNINGヴァイオリニストの役に難儀するジュンくんのために、もう弾かなくなって久しいヴァイオリンを弾いてあげることにする日和くん、的なジュンひよを書こうとして、その前章でにっちもさっちも行かなくなったやつの供養(推敲できてない)
    いつもだったらうまくやるのに、体調不良により別の意味でうまくやっちゃうことも昔はあったのかなって。
    英智と日和だけ。ジュンくん出てきません。(最後名前だけ)
    それでも拍手は届く「こんなところに居たんだ」

     頭上から降ってきた呆れ混じりの言葉に、地を這っていたぼくの気分は更に降下した。その声には遺憾ながら聞き覚えしかない。せっかく会場の端っこで大人しくしてたのに。全部台無しだ。額にじわりと汗が滲む。顔を合わせたくなんてないのが本音だけれど、人目があるとそういうわけにもいかない。
     重たいばかりの頭を持ち上げて前を見上げれば、途端にシャンデリアのギラギラした照り返しが目に刺さった。くらりと視界が回る。
     あ、まずい、かも。
     ――ううん、大丈夫。落ち着けばやり過ごせるはず。両の目尻を片手で押さえるようにして顔を覆えば、光が遮られて少しはマシになった。ぎゅっと目を閉じる。いち、に、さん、と心の中でカウントを取って、ゆっくりと瞬きを数回。視界を定めれば、ようやくちゃんとピントが合った。
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