治角名のパロ本家の当主である祖父が若い芸者を引き取ったのは治が十の時であった。女中の話を盗み聞いた話では、知多だかどこかで踊り子をしていたそうで、腕前はたいそう評判だったと言う。しかし不幸があって脚の腱を痛めてしまい、踊れなくなって路頭に迷っていたところを祖父が拾ったらしい。
「年はまだ十六、七やて」
「あれまあ。上のお孫さんより若いやないの」
「養子や言うとるけど、ようはお妾さんやろ?お子様方は嫌な顔なさるやろなぁ」
「当たり前や。そんなどこの馬の骨かも分からん情夫に遺産の分け前渡ってまうんやから。うちかてええ気せんわ」
女中の口振りからなんとなく良くないことなのだと察せられたが、行き場のない人を助けたのだから、祖父はいいことをしたはずなのになぁと治は内心思っていた。
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