「劇場の皆さんにお知らせします。間もなく劇団△△による秋公演、○○の公演が始まります。席をお立ちになっているお客様はお席にお戻りください。上演中はスマートフォンなど音の出る機器の電源はお切りいただき………………」
劇場に鳴り響くアナウンスに、類は開演間近の空気を感じるために、そっと目を閉じた。客席からはザワザワとお客さんたちの声が聞こえるが、舞台袖では開演前の独特な緊張感が漂っている。今日は1ヶ月近く稽古を重ねてきた舞台の初日公演の日である。有難いお話を頂いてから、この1ヶ月近く、毎日のように稽古を重ね、劇団員の人たちとより良い舞台を作ろうと試行錯誤してきた。
類はそっと目を開く。密かに周りにいる劇団員たちや裏方さんたちの顔を見れば、皆緊張感の中で、それでも幕が上がるのを今か今かと待っているのが見て取れた。その気持ちは類も同じである。幕が上がった瞬間のお客さんの反応、これから起こる数々の展開に彼らはどんな反応をくれるだろうか。舞台初日、幕が上がるこの瞬間にしかない高揚感を類も感じていた。
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