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    konkon12165

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    猫を飼っている雄炎の話

    愛猫と私「ただいま〜」
     ドアをガチャンと開けて海外用の大きなキャリーケースを引いた白雄が帰ってきた。玄関には既にお行儀よく並んだ赤毛の成猫と青みを帯びた黒い毛並みの子猫がお座りしていて、白雄は愛猫たちの愛らしさに顔がどうしようもなく緩んでしまう。小さな頭をそれぞれ撫でてやると、奥のリビングに続くドアが開いてこれまた愛猫を腕に抱いた紅炎が出てきた。
    「ただいま、紅炎」
    「おかえり。二匹とも大人しく帰りを待っていたぞ」
    「そうか、いい子だったなぁ。あとでご褒美をやらないとね」
     白雄が愛猫たちを目一杯褒めると、二匹は心なしかピンと耳を立てて尻尾を揺らしどこか誇らしげだ。白雄の飼い猫である赤毛の猫はエンと言い子猫はリュウという。今回仕事の都合で海外に出張に行くことになり、恋人である紅炎が出張の間ずっと預かっていたのだ。幸い紅炎も愛猫を一匹飼っており、普段からお互いの家に行くときは愛猫も一緒だったため、エンもリュウも慣れた環境で白雄の帰りを待つことができたのだった。
     二匹の愛猫を目一杯撫でて靴を脱ぐと、廊下に上がって今度は紅炎に手を伸ばす。ずっと会いたくてたまらなかった。時差があって電話も容易ではなかったが、多少無理をしてでも声が聞きたくてほぼ毎日電話をしていたのだ。とうとう帰ってきたのだと思って胸がいっぱいになる。伸ばした手で頬を撫で、キスをしようとそっと顔を寄せた。温かく柔らかい感触が唇に触れるのを期待したが、むにっと口元にあたったのはなんだかひんやりしていて毛のはえた何かだった。おかしい。紅炎は髭はあるもののちょこんとした可愛らしい大きさでこんなに毛深くはない。しかもちくちく何かが口元に刺さる。訝しく思って目を開けると、紅炎が腕に抱いていたリュウとよく似た青みを帯びた黒い毛並みの成猫が、器用に片方の前足を上げて肉球で口元を押し返し、白雄が紅炎に近づくのを阻止していた。白雄は一度顔を離すと今度は別のルートからキスしようとするが、今度はさっと別の前足で阻止される。猫の反射神経に人間が敵うものではなく、無言のまま続く攻防にとうとう紅炎は笑ってしまった。
     しかし、白雄は大真面目だ。真顔で紅炎の腕の中の猫を見下ろすと猫の方もじっと白雄を見上げる。
    「どういうことだ……お前うちの可愛いエンに粉をかけておいて、紅炎も自分のものだと言いたげだな?二股なんて許さんぞ俺は。第一紅炎は俺のだ」
    「ふふ……猫相手に怒っても仕方がないだろう。ユウは毎朝おはようのキスをしてくるから、もしかすると自分だけの特権だと思っているのかもしれないな」
     ユウは本当に賢い子で、毎朝紅炎が起きる時間になると鳴いて体をすり寄せて優しく起こしてくれる。そうして紅炎が目を覚ましたのを見ると、ちゅっと鼻先を紅炎の口元に寄せるのだ。それを毎朝の習慣にしている。それを聞いて白雄は拗ねたような顔をした。
    「俺の特権になる日も近いからなそれは……」
     もはや暗に同棲やその先を望んでいることを言ってしまっているのだが、海外から帰ってきたばかりで時差ボケに過度の疲れが度重なっている白雄は気づいていないようだった。紅炎は目を丸くしながらも全力でそれを聞かなかったことにする。白雄のことだ。ちゃんと準備して場所も選んで言い出したかったに違いない。失敗したと分かればきっと落ち込むに違いなかった。そういう可愛げのある男なのだ。
     本人が失敗に気づかないよう、そろそろユウを下ろして目一杯お疲れ様と抱きしめてやろうかと思い、飼い主の贔屓目を抜きにしても美しい愛猫を撫でる。その時、足元からなぁんと声が聞こえた途端、ぱっと下を見たユウが紅炎の腕から飛び降りた。ユウはエンに体をすり寄せるとぺろぺろと顔を舐め、尻尾を絡ませると仲睦まじい様子でリビングへと戻っていく。紅炎は二匹を見送ると、自身も帰りを待ち望んでいた男の手を引いて抱き寄せたのだった。





    END
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