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    konkon12165

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    雄→←炎からの龍炎。龍と炎の二人が白雄のお墓参りをする話。原作軸、新世界での話。

    #龍炎

    紅梅の咲く頃に「なぜいつも紅梅なんだ?白梅もあるだろうに」
     そう尋ねたのは何気ない疑問からだった。紅炎は梅が咲く季節になると、兄の白雄が眠る墓廟に必ず紅梅を供えるのだ。最初は季節の花だからと思っていたが、数年も経つと白梅もある中、必ず紅梅を飾るのに疑問を持つようになった。
     新世界となってから金属器がなくなり、ザガンの義肢より格段に不便になった義肢でも懸命に墓参りをするのを見かね、紅炎と共に墓参りに来るようになったので気づいたのも自然な流れだ。義肢が改良された今になっても、墓参りは必ず共に来ている。練家の男として国や民を守ろうと思うより前は一度も兄たちの墓参りに来ることがなかったので、兄たちには申し訳ないことをしてしまったと今になってよく思うのだった。
     紅炎は墓前に供えた紅梅を見ながら静かに白龍の問いに答えた。
    「……白雄殿下が紅梅が一番好きだと仰っていたからだ」
    「兄上が……?初めて聞いたな」
     思えば兄とそのような話をあまりした記憶がなかった。一番上の兄と話すには白龍は幼すぎたのだ。勇敢で優秀な兄たちと共に三国統一戦争を駆け抜けた紅炎の方が、実の弟の白龍よりずっと兄のことを知っているのは間違いない。兄たちが戦場に出ている間、白龍は話すどころか顔を合わせることすらなかった。その間も当然紅炎は兄の隣にいただろう。当時、あの若さで既に将軍だったのだから兄とて戦場では重宝していたに違いなかった。きっと白龍の知らない兄を紅炎は色々と知っているのだろうと思う。
     紅炎もそれに思い当たったのか、ぽつぽつと兄から聞いたであろうことを白龍に教えるべく話し始めた。
    「紅梅は殿下が恋い慕うお方に似ているから一等好きなのだそうだ。綺麗な赤色や厳しい環境でも凛と咲き誇るところが似ていて愛おしいと仰っていた」
     それを聞いて白龍は絶句し目を丸くした。そんなの、兄が恋い慕う人が誰かなんて、それを聞いただけで誰なのかすぐにわかったからだ。だが、紅炎はまるで自分ごとではないかのように静謐な面持ちで過去を語る。過日を愛おしむかのような優しい表情で。全く今に至るまで兄の想いには気づいていないのだ。鈍すぎる紅炎に伝わらなかったにしても、ここまであからさまなことを言いながら兄は気持ちを伝える気がなかったのだろうかと思っていると、紅炎が言葉を続けて答えを教えてくれた。
    「梅の花弁を撫でる手や眼差しが慈しみに溢れていたな。よほどその方のことを愛していらっしゃったのだろう。二回目の迷宮攻略から帰ったら誰か教えると言われたが、結局聞けず終いでどなたの事なのかは分からんが……」
     そう言いながら梅の花弁を撫でる紅炎の手つきと眼差しにこそ慈しみが溢れていた。きっと兄もそうしていたのだろうと思うほど想いが仕草に現れていて、それで気づかないほど白龍は鈍くはなかった。きっとこの男も兄のことが好きだったのだ。伝え合うことはなくとも、二人は相思相愛の仲だった。時を超えて知る真実に言葉が出ない。だが、大人になった今思えば兄は常に傍に紅炎を置き、過ぎるくらいに寵臣として扱っていたと思う。その行動の理由の全てが愛から来ていてもおかしくないほどに。
     教えてやればよかった。きっと今でも兄を思い続けているだろう目の前の男に。こんなにも健気に紅梅を持って墓前に来る男に。兄は紅梅などなくてもお前が来ればいいのだと、そう教えてやればいいのだ。生きている白龍には簡単にできるはずだった。
    「……そうか。兄の歳に追いついて分かるが、人を心から愛することを知るにはあまりにも短い時間だ。けれども、その短い中でできたならよかったと思う」
    「お前も随分言うことが大人になったな……」
    「うるさい。随分前から大人の男だ俺は」
     そう言ってそっぽを向くふりをして兄の墓標を見る。すみません、兄上。俺はどうしても貴方の気持ちをこの男に伝えることはできないのです、と胸中で呟きながら。よく兄の白雄に面差しが似てきたと言われることがあるが、まさか同じ男を愛することになるとはこの時まで思わなかった。小さい頃は強く憧れていたが、その期待と好意が一転して憎悪になり、また今度は愛憎ひっくるめた愛になってしまうのだから人間の感情とは実に複雑だと自分のことながら思う。これほど強く激しい感情を紅炎以外に抱いたことがない。紅炎が死ねば白龍も生きられないほどの強い思いだ。愛していると気づいた時は諦めに近かった。もうどうしようもないので、白龍ができることと言えば腹を括って愛する覚悟を決めるだけだ。兄の想いは墓まで持っていくこととなるが、兄の分まで精一杯この男を愛していこうと思うのだった。
     そう思い白龍が梅に触れていた生身の手をぎゅっと握る。そして紅炎にとっては唐突に兄の墓標に向かって驚きの宣言をした。
    「兄上、俺は紅炎のことが好きです。抱きたいという意味で。兄上の分も大切にします」
    「な……っ!何を言っているんだお前は!それも殿下の御前で下品なことを……!」
     紅炎は今までに見たことがないほど慌ててそういった。紅炎にとっては兄は唯一にして最高の主君。それは兄が亡くなって何年経とうとも変わらないのだ。兄に関することだけこうも表情が変わるのを少し悔しく思う。白龍はむっとして言い返した。
    「兄上の前だから言っている。それに下品だろうがなんだろうが、遠回しで風流な言い回しだとお前は墓に入るまで……いや、入っても俺の気持ちには気づかないだろうからな。お前が分かるレベルに合わせたらこうなるんだ。この鈍ちん野郎」
     兄の二の舞になるわけにはいかない。兄のように優しい言い方なんて白龍はしてやらない。生きてるうちに分からせてやると思う。
    「帰るぞ」
     そう言って紅炎の返事は聞かず、手を握ったまま兄が眠る墓廟を後にした。来年から墓前に供える梅の枝は白龍が選ぼうと思いながら帰路につく。なんと言っても紅炎の代わりに兄に捧げる梅なのだから、紅炎をもらう白龍が供えるべきだと思ったのだった。



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