汀遊び　ついさっき見た一尺玉の花火みたいな顔をして彼が笑う。
「うわ、なんか足元もぞもぞする！」
　叫びながら、暗い海の際に立って騒がしくはしゃぐ。歩道から砂浜に降りる階段にライト機能をオンにしたスマートフォンを立てかけて即席の投光器代わりにして、その横に座って波と遊ぶ彼を眺める。ライトの光は海面までは届かずに、砂浜に混じった石英や貝や丸まったガラスをほんのわずかずつきらめかせていた。漏れた光が、彼が脱ぎ捨てていったスニーカーと靴下を照らしている。
　ほとんど真下から見上げるようだった花火は今も目の奥でチカチカと瞬いては鼓膜に響き、三半規管を心地よく揺らしている。最後の花火が打ち上がった後、一斉に駅へと向かう人混みを避け、ふらりと道を逸れてこの砂浜へ来たのはきっと正解だった。花火大会の会場となった島の裏手へ、裏手へ。そうやって、民家の明かりさえない夜の奥へ辿り着いた。

2021/8/3 AM10:00　日付　八月三日
　時刻　午前十時
　場所　合宿施設・矢後勇成自室前の廊下

（突入の号令、ならびに号砲）
（ドアが蹴られる衝撃音）
（蝶番が弾ける音）
（おたまで鍋を叩く騒音）

頼城「貴様いつまで寝こけるつもりだ！」
指揮官「武居、ドアを壊すのはやりすぎ」
武居「あ？　これくらいで済んでまだマシだろ、さっき悪魔が火薬調合してたぞ」
浅桐「派手な爆発はドラマチックだが、一点照準の精密爆破はロマンだよなァ」
佐海「いえ、ぜったいドア枠ごと吹き飛ぶ量でしたよ……」
三津木「でもどっちにしろ、ドア壊れちゃったね……直せるかな？」

（戸上がおたまと鍋を床に置き、『本日の主役』と書かれたタスキを取り出しながら室内に入る）

戸上「矢後、そろそろ起きた方がいい。主役がいないと締まらない」