Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    AonoAster

    @AonoAster

    X: https://x.com/AonoAster
    pixiv: https://www.pixiv.net/users/6441798

    ☆quiet follow Yell with Emoji 👍 ♥ 💚 💛
    POIPOI 8

    AonoAster

    ☆quiet follow

    お題:看病 シャアシャリ
    #深夜のシャリ受ワンドロワンライ

    なんと、人には腕が二つもあるコモリ・ハーコートは激怒した。必ずかの赤い彗星を上官の寝床から除かねばならぬと決意した。コモリには政治が(同僚のエグザベに比べれば)わかる。飄々とした上官が世を渡っていくその背中を見ながら過ごしてきた。けれども、いかなる駆け引きを持ち掛けられたとしても、病床にある敬愛すべき上官に言い寄る男を看過することは出来なかった。そもそも、体調が悪いという上官を見舞いに行ったらこのよくわからない金髪の男まで隣で寝込んでいたという時点でコモリには理解しがたいのだ。なぜ病人が増えているんだ。風邪を伝染させてしまったと中佐は言っていたが、どうしてそうなったのかは二人とも口を閉ざしていた。中佐の秘密主義はいまに始まったことではないが、それにしたって、である。

    「病室の中に病人がふたり。ベッドに入れて叩いたらさらに増えでもするんですかね」

    ビスケットじゃないんだから、という応酬を予期しながら叩いた軽口は、中佐の小さな呻き声によって遮られた。見ればもともと上気していた顔はさらに赤くなって、「あまりそういうことは」「さすがに同じベッドはちょっと」とか何とかもごもごと呟いている。いつもの涼やかな表情はどこへやら、どうしようもなく視線がうろうろと彷徨っていて、「うげ」と思わず声を漏らしてしまったのはコモリだけの失態ではないはずだ。だというのに、隣で聞いていたエグザベくんには「それはセクシャルハラスメントってやつなんじゃないか」などと言われてしまう始末である。同じベッドどうこうは中佐の言い出したことなのに。

    「ちょっと、どこがハラスメントだって言うの!」
    「ふむ、そうだな、同じベッドに入れて人数が増えるというのは繁殖を連想させて」

    コモリの抗議に応えたのはエグザベではなかった。横からひょいと顔を出した金髪の男─中佐の態度からしてどう考えても赤い彗星であるが、とりあえず本人の希望に従って見え透いた偽名ことシロウズと呼んでおく──が口を挟んできたのである。最悪のマナー講師をやめろ。というかそれはあんたのほうがハラスメントだろ。というか病人はおとなしく黙って寝ていろ。どれを言うべきか迷った結果、コモリは無言でシロウズをジトリと睨みつけた。だいたい意図は伝わったらしく、彼は無言で肩をすくめる。こういう時、ニュータイプとかいうのは便利だ。

    ともかく、こいつらを同じ部屋に置いておくわけにはいかなかった。どこか熱で輪郭の蕩けたような声でぽつぽつと交わされるやり取りなんぞ聞かされ続けた日にはこちら側が平熱でいられなくなる。熱を帯びたどこか柔らかな眼差しなんぞ、自分の上司が向けているのも向けられているのもあまり見たくはない光景だった。とはいえここで二人きりにしてしまえば何が起きるかわかったものではない。だから言いくるめて連中を隔離したのだが、その判断がどこまで正しかったのかコモリは今なおちょっと判断をつけかねている。

    なんせ、口を開けば互いの心配をしているのだ。寝込んでいるとはいえ成人男性だ、水分と栄養分の差し入れをしたら充分であろうと思っていたのだ。それでも、「彼が寂しがらないだろうか」なんて、ぼんやりとした口調で呟いているのを聞いてしまえば、そのまま暗い部屋に放置もしづらくなろうというものだ。自分自身も相当に苦しかろうに。

    「寂しがるって言ったってね。5年も放置しておいた人が言うことじゃないですよ」

    隔離した隣の部屋で至極まっとうな事を迷いなく言い放つエグザベくんに、シロウズが「ぐ」と怯む声。彼を監視につけておいたのは正解だった。頑張れ、と内心で応援しながらコモリは壁越しに耳をそばだてる。

    「それを言われると手痛いな。……だが、だからこそでもあるんだ」
    「だからこそ?」
    「ああ。自分の存在を夢として処理されそうになってね。それが嫌だったから手を握ったら、なんとも嬉しそうな顔をしていたんだ……だから、その、なんだ。今更だが、放っておきたくないと思った。これ以上寂しくなってほしくないと。愚かしい男だと君は思うかね」
    「いや……そんなことは……」

    マズい。エグザベくんがほだされかけている気がする。赤い彗星の人心掌握スキルをちょっと舐めていたかもしれない。あまりにも厄介。中佐に気を揉ませ続けるだけのことはある。何なら目の前の中佐もちょっと身を起しかけていることだし。

    「なんかあんなこと言ってますけど。握ってほしいとかあるんですか?」

    なかば牽制を込めて声に出したコモリの質問に、中佐は苦笑しながら首を横に振った。そりゃそうだろう。この上司は赤い彗星のことになるとこちらが驚くほどの強情さを見せる事がある。それが「寂しいから手を握ってほしい」なんていう訳がないのだ。部下の前なら猶更の事。部屋の向こうに聞こえるように、「違いましたかぁ」と返事する。

    「はい。……まあ、熱も出てることですし、大佐がそうされたいって言うのなら、頂いたものを返すのも悪くはないかと思いますが」
    「ウワァめんどくさっ(ははっ、素直じゃないですね)」
    「少尉。逆です」
    「どうせ両方わかるんだからいいじゃないですか」

    嫌な予感がして、コモリは適当に返事をしながら壁の向こうの気配を探る。向こうは静まり返っていた。まずい。内心で「ゴメン」と念じてからコモリは明るく声をはりあげた。

    「ま、まあ大佐の心配はいらないですよ! 必要ならエグザベくんが大佐の手を握ってくれますって!」
    「んー……まあエグザベ少尉なら良しとしましょう」

    「なら」って何だよと思う間もなく、壁の向こうから「コモリ!?」という抗議の声と「それでは彼はどうなるんだ」という声。面倒になったコモリはもう壁越しに直接返事することにした。

    「必要があったら中佐の手もエグザベ君が握ってくれますよ! ほら、彼の手は二つあるから」
    「……ならいいか」
    「よくないですよ! ちょっとコモリ!!」

    抗議の声が上がっているが、黙殺している。あんたが軽々しくほだされかけるのがいけないのである。

    同僚に差し出されてなお、エグザベは激怒できなかった。彼は人がよく、そして政治ができない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    AonoAster

    PROGRESS脱走被検体IF『MAVでなくても手は取れる』第6話『飛び出していけ赤い彗星』

    記憶喪失のシャア・アズナブル(自分がキャスバルだったことは思い出したがシャア時代のことはほぼ覚えていない)と相手がシャアだと気づいてないエグザべ・オリベ(クランバトル登録名『レッド・コメット』)が一時的な運命共同体をする話。

    中佐とコモリもいます。CPではないですが、赤い彗星のMAVは灰色の幽霊しかいません。
    『MAVでなくても手は取れる』最終話『飛び出していけ赤い彗星』実際のところエグザべは無策で突入した訳ではなかったし、スバルもまた彼の身を案じなかったわけではなかったのだ。

    エグザベがビルの中に姿を消してしばらくした頃、スバルもまたその場所に訪れていた。彼のほうが目立った場所を歩き回っているのだから、彼に接触しようとする者がいるかどうか見るのが情勢を知る上では一番手っ取り早いと思ったのだ。疑似餌として扱っているとも言えるだろうが、それが他に手段のないスバルなりの責任の取り方でもあった。

    ふと奇妙な直感が働いて、スバルは植え込みに視線を落とす。そこには古い子供の玩具が転がっている。子供の落とし物を誰かが道の端に置いたようにしか見えないそれが、エグザベが難民の子供から貰ったものであることをスバルは知っていた。間違いなく、彼がここに来て意図をもってそこに置いたのだ。
    8336

    AonoAster

    PROGRESS脱走被検体IF『MAVでなくても手は取れる』第5話『コンニチハオイソギデスカ』

    記憶喪失のシャア・アズナブル(自分がキャスバルだったことは思い出したがシャア時代のことはほぼ覚えていない)と相手がシャアだと気づいてないエグザべ・オリベ(クランバトル登録名『レッド・コメット』)が一時的な運命共同体をする話。

    中佐とコモリもいます。どこもCPではないつもりです。
    『MAVでなくても手は取れる』第5話『コンニチハオイソギデスカ』「もう自分でも気づいてそうだけど、君はある種の才能を持っているんだ」

    クランバトルから戻ってきた翌日の夕方。台詞の内容とは裏腹に、表面の焦げたケーキをつつきながら切り出したエグザベは物憂げに言葉を並べていた。この話をするのに乗り気ではないのだろう。次の言葉に迷っているようだったから、スバルは助け舟を出すことにした。

    「ジオンに来いと?」
    「そうだ、よくわかったな。……僕がソドンに戻れて、君の記憶が戻らなくて……というか行くあてがなくて、そして中佐が許せばだけど」

    前提の多さに思わず笑ってしまう。きっと彼にとっては遠い先のことなのだろう。自分としてはどうだろうか。おそらくかつてもそうしていたように、二手先三手先を読んで考える。ジオンに潜り込むというのは、復讐の事を考えるとそう悪い手段ではないように思う。戦争が終わった今は軍人よりもエンジニアなどの肩書きを得たほうがいいのかもしれないが、どちらにせよ協力的な伝手があるというのは都合がいい。
    6828

    AonoAster

    PROGRESS脱走被検体IF『MAVでなくても手は取れる』第4話『クランバトルのレッド・コメット』

    記憶喪失のシャア・アズナブル(自分には信頼するMAVがいたこと以外何も覚えていない。肉体年齢21歳)と相手がシャアだと気づいてないエグザべ・オリベ(イズマ単独捜査中)が一蓮托生になって数日にわたりドタバタする話。クランバトル編だ! 

    中佐とコモリもいます。どこもCPではないつもりです。
    『MAVでなくても手は取れる』第4話『クランバトルのレッド・コメット』クランバトル出場にあたってエグザベは一つだけ条件をつけた。『降参あるいは逃走のタイミングはエグザベが決定し、それを決めた場合はエグザベより先に逃げること』である。本当は頭部以外狙うなとか指示に従えとか色々条件をつけたかったのだが、相手が本気で命を狙ってこない保証ももうないのだ。その上にこちらが乗る機体も未知の借り物で、挙句スバルはニュータイプとはいえ記憶がないのだ。すべてが未知数である以上、あまり細かい事を言ってもしょうがない。

    どうにか約束を飲み込ませて、自分たちが代打で乗る機体を見せてもらう。倉庫に隠されたMSは、端的に言うとかなり古いザクだった。赤くてV字のアンテナがついている。赤いガンダムに外見だけでも寄せようとしたのだろう。ビットはもちろん、頭部バルカンらしきものも見当たらない。正真正銘角付きの赤いザクである。
    7952

    AonoAster

    PROGRESS『MAVでなくても手は取れる』第3話『灰と緑の星標』

    記憶喪失のシャア・アズナブル(自分には信頼するMAVがいたこと以外何も覚えていない。肉体年齢21歳)と相手がシャアだと気づいてないエグザべ・オリベ(イズマ単独捜査中)が一蓮托生になって数日にわたりドタバタする話。ランドムーバーも出たぞ!

    CPではないつもりです。
    『MAVでなくても手は取れる』第3話『灰と緑の星標』「なるほど、それで死んだ事になったのか。君も、そして私も」
    「そうなんだよ……」

    連絡がすぐに取れない以上、手持ちの情報を整理して何とかするしかない。そう思ってスバルと話し込んでいたのだが、結局のところ得られた情報よりはエグゼべから与えた情報のほうがはるかに多かった。彼は妙に勘が鋭くてあっという間にクリティカルな機密以外の情報──つまり、軍警がエグザベについて把握している程度の情報──を把握してしまったのだ。途中から、どうせ一蓮托生なのだからと教えてしまった部分もないではなかったが。

    そして彼から聞き出せた情報といえば、およそ半年以上前の記憶を喪失していて、そしてその覚えている半年の大半をあの施設で過ごしていたという事だった。それより前に自分が何をしていたかもあの施設が何なのかも知らないようだった。それでも収穫がなかった訳ではない。彼は施設に身柄を抑えられる前に赤いガンダムを目撃していた。半年前に見たのなら、サイド6でグラフィティアートを描く赤いMSの目撃情報が報告される前という事だ。彼の過去がわかれば、あのガンダムがゼクノヴァ以降どうしていたのかが掴めるかもしれない。
    6667

    AonoAster

    PROGRESS『MAVでなくても手は取れる』 第2話『エグザべ・オリベ死亡説』

    記憶喪失のシャア・アズナブル(自分には信頼するMAVがいたこと以外何も覚えていない)と相手がシャアだと気づいてないエグザべ・オリベ(イズマ単独捜査中)が一蓮托生になって数日にわたりドタバタする話。シャリア中佐たちも出たぞ!

    シャアとエグザべの距離が近いですがCPではないつもりです。
    『MAVでなくても手は取れる』 第2話『エグザべ・オリベ死亡説』水をたっぷり吸った布は重たくまとわりついて動きを妨げる。布の中身、つまり意識を失った人間の体はさらに重い。つまるところ、入院着を着て気絶している成人男性というのは水中で抱えるには最悪の荷物の一つであった。それでもエグザべは一度掴んだ体を手放しはしなかった。川岸へとどうにか辿り着いた時には随分と流されてしまっていたし、体力も殆ど使い果たしていたが、どうにか橋の下の暗がりへと身を隠すことに成功した。きっと、最後のほうは溺死体が流されているようにしか見えなかっただろう。

    夜の闇に紛れて身を潜めて、引きずるようにして川から引き揚げてきた金髪の男の身体を横たえる。長く水中にいた体は冷え切っていて、かろうじて生きているという有様で浅い呼吸を繰り返していた。その入院着は今や見落としようがないほど赤く染まっている。そっと脱がせてみれば、そこにあったのはやはり複数の銃創であった。運がいいのか勘がいいのか掠める程度のものが多かったようだが、いかんせん出血量が馬鹿にならない。加えてほとんど溺れかけの状態だったのだ。放っておけばこのニュータイプの同胞は今夜ここで死ぬだろう。それは勘を使うまでもなく明らかな事実だった。
    5134

    related works

    recommended works