神様の気まぐれ久々乱 ⚠神様×人間パロ
「人の子が落ちている」
長い雨が上がった日。久しぶりの太陽の光に、散歩でもしようかと立ち上がったのはつい先刻。鳥居をまたぐようにして倒れ伏している小さな身体を見て“男の見目をしている人ならざるモノ”は目をまあるくさせた。
倒れている人の子は、雨にさらされたのであろう、着物の色が変わるほどにじっとりと濡れていた。
ううん、と頭を捻る。その時男が考えていたのは「ここでしなれては困るなぁ」というもの。当たり前だ。この男は人の生き死になんて興味がない。そういう存在なのだから。
「ねえ」
少し乱暴気味に肩を揺さぶる。そうするとどうだろう。人の子は「……ぅ」と微かに呻き声をあげたではないか。
「驚いた、生きているのか」
であればどうするべきか。正直、死んでいるとばかり思っていたものだから、何も考えていなかった。
きらり。そこで男の視界にきらきらと光るものが目に入った。それは倒れている人の子の髪の毛。癖のある赤毛。雨粒によって濡れて、太陽光により照らされているものだった。
それを見た瞬間「ああ、なんて綺麗なんだ」と目を奪われた。今まで見たことのある人間といえば全て黒髪ばかり。友人たちの中には茶色の髪をもつ者も居たが、それでもやはりこれ程までに煌めく赤毛を見るのは初めてだった。
「……欲しいな」
意識せずにこぼれ落ちたのは、そんな言葉。
そうだ、自分の物にしてしまおう。半分だけだけど自分の敷地内に入っているのだし、落ちているものをどうしようと此処の主である自分の自由だ。
そうと決まれば話は早い。男は自分よりもずっと小さいその身体を抱き上げて、自分の住みかへと引き返した。
人の子は相も変わらず意識がない。まあ、あたためればなんとかなるだろう。きっと。
ああ、楽しみだ。君はどんな瞳をして、どんな笑顔を見せるのだろうか。
確か人間は食事をしないと死んでしまうらしい。なら自分が作った自慢の豆腐を食べてもらおうか。
そんなことを考えながら、男は足取り軽く道を進んだ。