「なんでここに呼ばれたのか分かってるよね?」
板の間に座らせられた俺の目の前に立つ男。
はんなりと真白い衣で口元を隠す仕草は平素と変わらないけれど、その言葉に乗せた色が珍しくも怒りをのぞかせていることを思えば、なぜだか正面から男の顔を見る事は出来なくてそっぽを向いたまま「わぁってる」。
(分かってねぇわけねぇだろ。)
八つ当たりである、まごう事なく。
だって俺は100パーセント俺が悪いってことを理解してるんだから。
美女の覗きだなんて、貴族の男だったら誰でもしてる。
覗きをして好みの女を探すってのが当たり前なんだから。
ただ今回は先方が俺を気に入ってると言う事実で大事になっちまっただけで。
(そうだ。俺なんかを婿にさせたいなんていう姫がいるなんて思わなかったのが悪かった)
はぁ、と頭上から溜息が落とされる。
「なんでこんなに色ボケに育っちゃったのかなぁ?」
「煩せぇ」
「煩い、じゃないよ。まったく。僕はそう育てた覚えはないんだけど」
「知るか。」
「知るかって。まぁいいけどね。で?のぞき見をするほどは、気にはなっていた姫なんだろうになんだって結婚を嫌がるのさ?身分だってしっかりしているから結婚したらそれこそ、いい生活ができると思うよ。」
「したくねぇ」
「したくない、って」
確かに噂にたがわず綺麗な姫であった。純粋無垢で柔らかそうで、花の様に微笑むことができる上に高貴な身の上。結婚をしてプラスになる事はあれどマイナスにはならない相手。
分かってる
だけど。
口を閉ざした俺に、ふぅん。とため息だか納得だかをつかない息を零した男を見れば
身分だけは高いけれど、計算高くて骨ばっていて硬そうで、作り物のような笑顔な上に
結婚対象には絶対ならない相手は言った。
「ねぇ、道満。もしかして君さ、本命が居るのかい?」
だなんて。
呆気にとられる俺をよそにそいつは
「えっと僕がそこそこ口添えしようか?」とか「あ、後見人としての後ろ盾が必要ならいくらでのこの名を使ってくれて構わないからね」なんて宣う。
本当に腹が立つ
こっちのことなんて何も分かろうとしねえ態度に腹が立つ。
(いつか見てろよ!)
目の前で俺の恋が叶うようにとほわほわと笑う相手に、心の中だけで宣戦布告をした。