Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    kyomu_kz

    @kyomu_kz

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 😘 💕 🗼 🍻
    POIPOI 18

    kyomu_kz

    ☆quiet follow

    大遅刻ケケ誕
    cp無し/生存if

    酸いも甘いも ガキの頃から周りには見えていないものが見えていたオレだから親にさえ疎まれていて、唯一誕生日を祝ってくれた田舎の爺さんもオレが小学校に入ってすぐに亡くなった。
    何処にいても疎外感を感じていたオレはこの日を迎える度に何故自分が生まれてきたのか自問自答しては寂しさや孤独に蝕まれそうになる心にガッチリ蓋をして生きていた。
    正直昔から誕生日なんてあまりいい思い出もなかった。

    だからこうしてオレなんかの為に美味い食事と、綺麗にデコレーションされた家族三人で食べるには大きなホールケーキを準備して帰りを待ってくれる温かな家庭を持ててこの上なく幸せだ。
    息子が反抗期を迎えて成人して一緒に酒を酌み交わしながら語り合って、新しい家族が出来てオレ達夫婦もゆっくり歳を重ねて…なんて話が飛躍しすぎかも知れないけれどこれから先もずっとこの幸せが続いてほしいとそう願っている…




     シンクの明かりだけが灯された薄暗いキッチン。
    空腹に襲われながら冷蔵庫の扉を開けるとコンビニのスイーツコーナーにあるケーキが入っていて「おめでとう」と一言だけ書かれたメモが貼り付けられていた。
    学校の行事も聞いていないし、妻や息子の誕生日でもなくて一瞬訳が分からなかったが思い出した。

    「あぁ、今日オレの誕生日か…」

    最近仕事が忙しくて自分の誕生日なんて忘れていた。
    冷蔵庫からビールとケーキを取り出しテーブルに置く。
    二ピースだけが入った容器を開け、一緒に備え付けられていたプラスチックのフォークで一口掬い口の中に放り込むとチョコレートケーキの纏わりつく甘さが広がり、すかさずビールを流し込むと甘味と苦味の相反する不慣れな味に一瞬眉を寄せたが、朝からろくに食事も摂らず仕事に忙殺され疲労しきった今のオレには身に染みるほど美味しく感じられた。

    がむしゃらに走り回って、キャリアを積んで地位も徐々に上げることが出来てきてこれからは今まで以上に忙しくなる。

    オレには帰る家があるんだ。
    もっともっとしっかり働いてこの温かな家族や家庭を守らないとな…



     もっともっともっともっともっともっと



    「あれ、オレは一体どこで間違えた……?」



    ビクッと体が落ちる感覚で意識が浮上した。
    何か懐かしい夢を見ていた気がする。

     周りを確認するとオレはソファに座りブランケットを膝にかけていて、隣でスマートフォンを弄っていた暁人がオレに気が付いた。

    「おはよう。最近忙しくしてたし、アジトでお祝いして一気に疲れちゃったみたいだね」

    アジトでお祝い…あぁ、そうか今日はオレの誕生日と言う理由でアジトのメンバーや、何故かオレに懐いてしまった麻里まで集まって祝ってくれたんだった。
    確か暁人が二次会がしたいってオレの部屋までやってきたけど、ここ数日の疲労が溜まってたオレはソファに座って即寝落ちパターンか。

    「こんなおっさんなんかに気を遣いやがって」

    「皆んなKKには感謝しているからね、大切な人をお祝いしたいのは当たり前じゃない?」

    「……」

    「…僕小腹空いちゃった。ケーキの残りちょっと食べようよ!」

     あまりに真っ直ぐな返答に不意を突かれ黙ってしまったオレに気付いてか、そう言って暁人はタッパーに詰められたケーキの残りとビール缶を二本冷蔵庫から取り出してきた。
    四本のローソクを並べられた綺麗に着飾ったデコレーションケーキはタッパーに詰められたことでアジトで見た時よりも歪な形に崩れていてまるでオレの人生みたいだなとぼんやりと考えながら、早速ケーキにぱくついている暁人を眺める。

    「チョコケーキだからビールと合うかなって思ったけどなかなか大人な味だね…でもなんか悪くないかも!」

    あぁ、これ何処かで見た気がする。
    確かオレが一人になる前の…

    「なあ暁人、オレはちゃんとやれているか?」

    あっ……ヤベ、また変なこと言ったかも知れない。
    こんな若者相手に情けねぇな、本当に。

    「わり、忘れてくれ」

    「……来年もその次も、そのまた次もその次の次もずっとずっと先のその次も全力で祝ってあげる」

    「………ばかじゃねえの」

    「KKのことは家族同然に思ってる。だからさ、あんたが生まれてきた大事な日を正々堂々祝われろ!」

    そう言って笑いながら一口で食べるには大きく掬い取られたケーキを載せたフォークを向けられた。

    「お前達兄妹のことも、嫌ってくらい祝ってやるから覚悟しとけ」

    「僕は嬉しいけど麻里は気難しいお年頃だからなぁ〜」

    「うるせ、お前達はまだまだガキだ素直に大人に甘えてろ!」

     失ったものはもう二度と取り戻せない。
    オレが馬鹿だったって後悔してももう遅い。

     赤の他人と擬似的な家族ごっことか、一度躓いた奴が最低だと思われても構わない。
    親子ほど歳の離れたこいつらがオレのことを家族のように思ってくれるなら、それに応えるのがオレの罪滅ぼしになると言うのなら、心に未だ残る罪悪感を償わせてほしい。

    暁人から向けられていたフォークを奪い取ってケーキを頬張った後ビールで流し込むと優しくまろやかな甘みとビターな苦味が喧嘩することなく混じり合い、涙が出そうなほど美味かった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺😭🙏🙏🙏💗💗💗👍💗💗💴💴🎂🎂🎂😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭🎂🎂😭😭😭😭😭😭😭🎂🎂😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works