貧乏ショウちゃん野草を食べるー寝ても覚めても調査漬けの日々
世のため人のためボールを投げ続けた結果
少女は絶望的に貧乏だったー
あまりにも貧乏だ。どれくらい貧乏かというと財布の中に80円しかないくらいには貧乏だ。無一文ではないが何も買えない。
「ミジュマルどうしよう。ご飯が食べられないよ」
「ミジュ〜!」
相棒のミジュマルも泣いている。アタシも心の中で泣いている。泣いていてもお金は出てこない。ここはサバイバルに生きるしかない。
ミジュマルのご飯はきのみを確保して……
アタシは野草でも食べよう……
薬になるような草だ、栄養価もきっと高いはず。これだけ空腹ならきっとなんでもごちそうだ。
「苦い」
口に含んで何度か咀嚼するとすごいエグみと爽やかを通り越して草オブ草の香りが口中に広がった。飲み込めなくもないが心を無にしないと飲み込めない。
これは……泣く。
「ミ、ミジュ」
あまりの不味さに地面に伏してしまったアタシを見てミジュマルが腰を抜かしそうな勢いで驚いてしまった。大丈夫だよ、死んでないよ。死にそうなくらいにひもじいし草は不味かったけれど。
「ミジュミジュ……」
ミジュマルがきのみをそっと差し出してくれた。
「ミジュマルダメだよそれはミジュマルのごはんだよ……」
「ミジュ(訳:また採ればいい)」
「ミジュマル……」
気は引けるがありがたくいただくことにした。腹が減ってはなんとやら。少しでも食べたら動けるようになるだろう。
これを食べたらきのみを探しに行こう。オレンの実はそう遠くないところに生えているはずだ。いっぱい採ってミジュマルにおなかいっぱい食べさせてあげよう、なんて考え事をしていたからこんなことになるのだ。
ゴリッ
「あ」
歯が……欠けてしまった……
ミジュマルが渡してくれたきのみはオレンの実じゃなくてむしくいぼんぐりだったのだ。
「ミジュ……」
そう、ミジュマルは性格がうっかりやだった。
「大丈夫だよミジュマルアタシが不甲斐ないトレーナーだからミジュマルは悪くないからー」
「何やってるんですか」
あまりにも自分が情けなくてわんわんと泣いていたら背後から憐れむような声が聞こえた。
「それで、調査に出るたびにボール製作代がかさむから収入より支出が上回り続けて食べられなくなったと」
イモヅル亭にて黒曜の原野でのもはや茶番レベルのミジュマルとの情けないやり取りの事情を説明している。今思うと限界のテンションでちょっと恥ずかしい。
そんなあまりにもひもじくて情けないアタシを見かねてウォロさんがイモモチを奢ってくれた。甘じょっぱいタレが絡んだイモモチとほかほかごはんが身に染みる。彼の優しさも五臓六腑に染み渡る。
ミジュマルもおなかいっぱいになってトゲピーと仲良く遊んでいる。まさに救世主である。
「そうなんです。ボール代は補助欲しいですよホント。」
「アナタが投げすぎなのでは」
「だって数投げなきゃ当たらないんですもん。コーシエン球児じゃないんですから無理ですって。」
そう、アタシは投げるのが下手くそなのだ。近づくと大体ポケモンに襲われるか逃げられるかなので物陰に隠れてフェザーボールを投げるのだが大体当たらない。当たってもボールから出るからひたすら投げるしかない。
「コーシエン球児ってなんですか」
「めっちゃボール投げるのが上手い子供のことです」
知るわけがない単語を持ち出して悪かったなと反省したがこの説明で大体合ってるから許してほしい。
「は、はあ……それよりも。真面目に仕事に取り組むのはいいことだと思いますが食べられなくなるまでするべきではないと思いますよ。何事もほどほどに」
「はい、反省してます」
優しい人だなと思う。知り合って長くもない余所から来た人間の面倒を見てくれるのだ。そりゃあトゲピーも懐くわけだ、この懐き方を見るにきっと近いうちにトゲチックに進化するだろう。
「あ、ウォロさんこのあと時間ありますか」
食事を終えてお腹いっぱい幸せいっぱい。今日はこの後予定がない。少し体も動かしたいし思い切って誘ってみる。
「ボール投げる練習したいので風船割り付き合って下さい」
「ジブンで良ければ」
アッサリと了解を貰えて更に幸せいっぱい。イモヅル亭を後にして2人で射的場に向かった。
「あ、いい成績出せたらまたイモモチを奢ってください」
「えぇ……」
ご褒美のおねだりも忘れない。本当の目的はイモモチというわけではないことは今はまだ内緒だ。
いつか受けた恩はちゃんと返したい。その為にはまずまともに調査出来るようにボールを上手に投げられるようにならなければならない。団員ランクを上げて一人前になったらその時は……なんて現状相応しくない願いを振り払うように投げて投げて投げて。
投げまくった結果……。
翌朝めちゃくちゃ筋肉痛になった。