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    tyaba122

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    case2:謎解き
    前回の話があまり絡みなかったから、絡ませようとしたけど、上手くいかない…。仲間にすらなってくれてない…。はよなって。
    次はデートかな…( 'ω')

    黒星を追う 2※前回のあらすじ※

    喫茶店に立ち寄った類くんの目の前で殺人事件が起き、カフェの店員さんが容疑者に。
    見事事件を解いた類くんはカフェの店員さんと仲良くなりました。

    以上。
    なんでも許せる人は、お進み下さい。

    ーーーー

    「はい、これ」
    類はバサッ、と目の前に置かれた資料を見て、体をゆっくりと起こす。コップや紙の束や本でぐちゃぐちゃの机は、他の物を置く余裕はない。そんな類の机の上を呆れたように見て、寧々は溜息を一つ吐いた。
    「見つかったってよ。“犯罪指示書”」
    「……やっぱり、今回も“X”が裏にいる、ということだね」
    ふんわりとした若草色の髪を一纏めに束ねたポニーテールの女性 寧々は、スマホを取り出すと慣れた手つきで操作する。画像フォルダを開き、何枚かスクロールしてから、その画面を類に見せた。
    「メールアドレスは今回も違うもの。相変わらず、送り先は特定不可能」
    「名前も偽名だね。今回の紹介相手は?」
    「どっかのバーでたまたま横に座った知らない“女性客”らしいよ。優しく悩みを聞いてくれて、相談先にって紹介してもらったんだって」
    小洒落たバーの写真をちらっと見て、類はまた資料に目を向けた。
    そこに書かれているのは、Wordで作られただろう書類。用意する物、事前準備、当日の行動等細かく書かれた、台本のようなものだ。けれど、それは決して演劇なんて可愛らしいものではない。
    「……“犯罪指示書”…、ねぇ…」
    ここ数年で突然増えたこの“犯罪指示書”。恨みのある相手を殺害する為の手引書だ。殺人の他にも、誘拐事件や強盗、詐欺の指示書もある。十年以上前から何件かあったという報告もあるけれど、話題になり始めたのは三年程前からだ。犯罪の実行犯を捕まえ、犯人の持ち物や身辺調査中に見つかるようになったこの資料。どれも作成者は同じ人物であり、犯罪を唆した首謀者として指名手配されている。
    ただ、この首謀者の名前も顔も性別も年齢すら分かっていない。その為、組織はこの首謀者を“X”と呼んでいる。
    「まさか、帰国後すぐに新しい指示書を拝めるとはねぇ」
    「あのねぇ、わたし達の仕事は指示書集めじゃないの。このXを捕まえる事なんだから」
    「分かってはいるけど、さすがに情報が少な過ぎる…」
    国際特別捜査官。加盟国内であればどの国でも捜査ができ、特定の相手を追うことが出来る。主に幾つかの国の事件に関わる大物の犯罪者を追う、特殊な捜査官だ。
    大学卒業後、類はアメリカで犯罪捜査を担当する事となり、巡り巡って、今は国際特別捜査官という役職にいる。そんな類が日本に帰国したのは、数週間前。類達の追うXが日本にいるという情報を得て、すぐさま帰国した。情報通り、Xはこの日本で行動しているようだ。カフェでの一件で逮捕された女性客 山田恵美の自宅から、Xに渡された“犯罪指示書”が発見された。
    「黒髪の青年、桃色の髪の美女、白髪の老人に、人の良さそうな男子学生、そして今度は、お淑やかな長い髪の女性客…」
    「変装上手とは噂されてるけど、人物像が全く違うから探しようがないじゃない…」
    「Xがグループ犯という可能性も捨てきれないけど、どの実行犯もコンタクトを取った時は一対一だと話していた…」
    寧々と類はお互いに難しい顔で資料を睨むように見る。犯罪指示書は数十件と増え続けている。それなのに、裏で犯罪を画策するXの情報だけは一向に増えない。
    Xが犯行を支持する時は、決まって知人からの紹介でクライアントに近付き、悩みを聞くフリをして巧みな話術で相手の不安を助長させ、犯罪を唆す。そしてクライアントがその気になったところで“手伝いたい”と申し出て、犯罪指示書を提供する。やり取りは基本メールか電話のみで、実際に本人に会う事はない。けれど、悩みがあるなら良い相談相手を紹介すると言い出す“仲介役”が必ずクライアントに接触している。類達は、この“仲介役”が“X”本人ではないかと考えている。そして、その仲介役は、毎回人物像がまちまちである。
    「はぁ…、少し休憩にしようか」
    「…もしかして、またあの“カフェ”に行く、なんて言うの?」
    「ふふ。良ければ寧々も行くかい?」
    「いい。今日はえむと食べに行く約束してるし」
    類をじとっとした目で見る寧々は、類の誘いに顔を背けて素っ気なく返した。興味はあれど、寧々はあまり人前に出るのを好まない。日本に帰国してからは、仲間達で借りているこの家の中でほとんど過ごしているようだ。
    類はそんな寧々に、残念そうに肩を落としてから席を立つ。上着を着て、いつも持ち歩いている鞄を掴むと、片手をひらりと振った。
    「それじゃぁ、また後で」
    「何か分かったら連絡しなさいよ」
    返事を返す代わりにもう一度手を振り、類は部屋を出ていった。部屋に残された寧々は、はぁ、と深い溜息を吐くと、机上に置かれた書類を手に取る。
    「いっそ、謎解きが得意な“探偵”でも仲間になってくれればいいのに」
    そんな事をぽつりと呟き、タイミング良くかかってきた電話に応答した。



    「いらっしゃいませっ!」
    「こんにちは、司くん」
    「類さんっ!!」
    カラン、と入口のベルが鳴り、いつもの明るい声が店内に響く。お昼にはまだ早い時間だからだろうか、店内は静かだった。いつものようにカウンターに座れば、向かい側から氷の入ったグラスが置かれる。
    にこにこと笑顔の司くんは、「今日も来てくれたんですね!」と嬉しそうな声で言ってくれた。
    「ここの味が気に入ってね」
    「頑張って作るかいがあります!」
    「今日のオススメはなにかな?」
    店内にいるのは司くんだけのようだ。店長の青柳くんは、外出中だろうか。読みかけの本が置かれているので、トイレかもしれない。目の前でほんの少し身を前に乗り出している司くんは、僕の問いに首を左右へ交互に傾ける。「タマゴサンドはこの前も食べていたし、ビーフサンドも食べただろ。野菜は苦手だと言っていたから、ハムサンドのレタスを抜けば食べられるか…?」とぶつぶつ何かを言っている。どうやら、以前『野菜はあまり食べない』と言った言葉を覚えてくれていたらしい。そうして少し悩んだ末、司くんはパッ、と表情を綻ばせると「クリームグラタンはどうですか?」と僕に提案してくれた。
    どこかわくわくと期待する様な表情の司くんが可愛らしくて、つい口元が緩んでしまう。
    「なら、それにしようかな」
    「かしこまりました! 少し待っていてくださいね!」
    「時間はあるから、ゆっくりでいいよ」
    ぱたぱたと小走りで準備する彼の足音が聞こえてくる。その足音にまた気持ちが和んでいく。店内のお客さんは二人程だ。お昼になるとこのお店はとても混雑すると聞いたから、いつもお昼より少し前にするのが日課になった。あの事件以来、このカフェの店員である司くんと会話する機会も増え、それなりに仲良くなれたとも思う。
    (偶然本名を知られてしまったけれど、それが彼でよかった)
    天真爛漫という言葉が合うだろう、明るく元気な司くんと話すこの時間は、煮詰まった捜査の息抜きになる。
    不意に、カウンター内で作業をしながら ひょこりと顔を覗かせた彼の瞳と視線が合う。突然の事に驚いていれば、彼は僕と目が合ったことに気づくと、へにゃりとその表情を綻ばせた。
    「類さん、眼鏡似合いますねぇ」
    特に意味は無いのだろう。言いたいことだけ言ってまた作業に集中する司くんに、開いた口が塞がらない。ふと指先で触れれば、確かに眼鏡をかけたままだった。いつもは外に出る時に外すのだけど、相当疲れていたようだ。資料を見る時に目の疲れを和らげるという目的で使っている眼鏡な為、無くても支障はない。けれど、彼にあんな表情で褒められてしまっては、今更取るのも気が引けてしまう。
    (…なんというか、彼と話すと気が抜けてしまうねぇ)
    人柄や性格なのだろう。人を和ませるのが上手いのだ。現に、この店に入る時に彼が他のお客さんと楽しく話をしている姿をよく見かける。この店の店長である青柳くんは、司くんとは違って物静かであまりお客さんと会話する姿は見ない。だからこそ、接客のほとんどを司くんがしているのだろうね。代わりに、青柳くんは珈琲をいれるのが上手い。ここで食事をしていると、おかわりの注文がよく入っているのを見るからね。良いバランスのカフェだと思う。
    そんな風にお店の雰囲気を感じていれば、「お待たせしました」と司くんの声が聞こえてくる。目の前に置かれたグラタンは、こんがりと焼かれたチーズのいい匂いと共にふわりと白い湯気が立っていて、食欲をそそわれる。差し出されたスプーンを持って、軽く器の端の焦げ目を削いだ。
    「類さん、両利きなんですね」
    「…何故、そう思うんだい?」
    「最初にこの店に来た時は左手を使ってましたが、二回目からは右手を使ってるので、どちらも使えるんだな、と…」
    「ふふ、司くんは良く人を見ているんだね」
    じっ、と僕の手元を見つめる司くんは、僕の言葉にへにゃりと表情を綻ばせる。照れたような、嬉しそうな、そんな表情がまた可愛らしい。“慕われている”と、思ってしまいそうになる彼のそんな態度は、悪い気がしない。実際、僕がこの店に来ると、彼はカウンターの向かい側でよく話しかけてくれている。ここまで分かりやすく僕に興味を持ってくれているのは、何かしらあるのだろう。
    ふむ、と一つ思案して、顔を上げる。僕の方を見ていた彼は、僕と目が合うと、その瞳を瞬かせた。
    「司くんは、僕の仕事に興味があるのかい?」
    「ぇ…」
    「僕の行動を観察するのは、多少なりとも僕の“何か”に興味があるからだと思うのだけど」
    不思議そうな顔をして、司くんが数秒考えるように黙ってしまう。けれど、すぐにその表情がくしゃりと崩れ、彼はほんのりと頬を蒸気させてバンッ、とカウンターに両手をついた。ずいっ、と前のめりに身を乗り出した司くんが、「そうなんですっ…!」と少し大きな声で返してくる。
    「オレ、ミステリーとか大好きでっ…! この前の類さんの推理がかっこよくて、すごい憧れててっ…!!」
    「す、少し落ち着いて…」
    「犯人を当てちゃう所も、トリックを見破って追い詰めるところも全部かっこよくて、オレも類さんみたいな探偵になりたいって…!!」
    「探偵ではなくて、刑事なんだけど……」
    興奮した様子でいつも以上に饒舌になる司くんに、思わず苦笑してしまう。
    青柳くんがよく本を読んでいるのは見るけれど、司くんもそうなのだろうか。店に来る度に話しかけられるのは、この前の事件を解決したのがきっかけか…。観察されているとは知っていたけれど、なんとも可愛らしい理由で悪い気はしない。もしかしたら、事件の話が聞きたい、というのもあるのだろうか。小説のようにトリックに凝った事件はそうそうないけれど…。
    と、そこでついこの前の事件を思い出した。キラキラした顔でまだ何か続けている司くんに苦笑して、全然閉じない彼の唇に人差し指を当てる。
    「んむっ……」
    「それなら、一つ謎解きを出そうか」
    「っ…!」
    僕の言葉に、彼はピッ、と背中を伸ばして口を閉じる。そんな、どことなく忠犬の様な司くんが可愛らしくて、つい くすりと笑ってしまった。
    「とある一家は、両親と娘一人の三人家族で住んでいたのだけど、ある日の夕方、母親が何者かにナイフで刺されてしまったんだ」
    「…」
    それは、数日前に実際に起こった事件だ。
    父親は仕事中。娘は自室で勉強をしており、母親はリビングで家事をしていた。娘は二時間ほど自室で勉強をし、飲み物を飲もうと部屋を出て、リビングで倒れる母親を発見。救急車を呼んだが、母親は意識不明の重体だった。
    現場に落ちていた包丁はその家のものであり、母親の指紋と血液が付着していた。玄関の鍵はしまっていて、ベランダの窓はあいている。けれど、高層マンションの上階に位置しているので、外からの侵入は難しい。犯行時刻に家にいたのは娘一人だった為、警察は娘が容疑者だと判断した。
    「さて、君は誰が犯人か分かるかい?」
    「……凶器は包丁、玄関の扉は閉まっている。念の為に確認しますが、オートロックとかでは無いですよね?」
    「オートロックではないよ。家の鍵は三人とも所持しており、家の中から二人分の鍵も見つかったよ」
    「父親が会社にいた証明は?」
    「会社の同僚がアリバイがあると証言しているよ」
    僕の話を真面目な表情で聞き考え始めた司くんを横目に、グラタンをスプーンで掬う。息で軽く冷まして口に入れれば、クリームソースの優しい味が口の中に広がっていく。マカロニは柔らかく、チーズの表面はカリカリしているのに内側がとろってしていて美味しい。パン粉のサクサクした食感もいい。鶏肉も柔らかくて美味しい。
    ゆっくりとグラタンを食べながら、ちら、と司くんに目を向けると、彼は真剣な顔で何も置かれていないカウンターを見つめながら考えているようだった。そして、なにか気になったのか、顔を上げて僕の方へ視線を向ける。
    「外部犯ですね」
    「…何故、そう思うんだい?」
    「先程類さんは、『外からの侵入は難しい』と言いました。『不可能』ではなく、『難しい』と。可能性があるということですよね?」
    「ふふ、君は鋭いねぇ」
    司くんの言う通り、『不可能』ではない。ベランダは隣の部屋と繋がっており、部屋と部屋の間に仕切りがあるだけだ。少々危険だけど、塀を伝えば侵入出来てしまう。もしくは、上の階からロープで侵入することも可能だろう。けれど、万が一被害者に途中で見付かってしまうと騒がれてしまう恐れがある。一歩間違えればそのまま転落死も有り得る。
    「被害者の倒れていた場所は、窓の側ではないですか?」
    「御明答。開いた窓のすぐ側だよ」
    「んー…、ベランダの塀をつたい部屋に侵入し、物取りの犯行に見せかけようとして、娘さんが部屋から出てきてしまったから思わず逃げた、なんて展開なら話は早いんですけどね…」
    「おや、もう解いてしまったんだね」
    諦めたように肩を落として、事件の真相を彼が話した。まさかこんなにもすんなりと解かれるとは思わなかったな。情報も最低限だったというのに、必要な情報を自分で聞き出して、当ててしまうとは…。
    「え」と目を丸くさせ驚く天馬くんに、にこりと笑って見せる。トリックはないけれど、少ない情報でここまで発想を広げられる想像力は素晴らしい。ミステリーが好きだというから、普段から色々な事件の話を見ているのかもしれないけれどね。
    「意外と呆気ないんですね…」
    「現実の事件なんて、そんなものだよ。人間が起こすのだからね」
    「……そういうものですか…」
    ふーん、と少し残念そうにする司くんに、「ご馳走様」と手を合わせる。食べ終わった食器を彼に手渡せば、司くんは「どうでしたか?」と首を傾げた。
    「とても美味しかったよ」
    「それは良かったです!」
    「さて、お腹も膨れたし、僕はそろそろ仕事に戻ろうかな」
    ガタッ、と席を立ち、レジに向かう。司くんはカウンター内で慌てて僕を追うと、「七百八十円です」と金額を提示した。千円札を払って、お釣りを受け取る。
    まだ何か言いたげな司くんは、言いかけた言葉を飲み込んで、「またのご来店、お待ちしてます…!」といつもの言葉を口にした。
    「またね、司くん」
    「はいっ!」
    後ろから聞こえる「ありがとうございましたっ!」という言葉に口角をそっと上げ、行きつけのカフェを出た。
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