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    tyaba122

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    tyaba122

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    タイトル決まって無いので、なんて呼ぼう……。
    リリーかな?🖤🤍️✡️⚔️??暗号だな??
    ネーミングセンス無いので、いいタイトルあれば教えてほしい…_:( _ ́ω`):_

    とりあえず、リリーと呼んで決まったらそっちで呼ぼうかな。

    諸注意は前回と一緒です。

    ガーデンバース(騎士side)

    「ツカサくん、なんだか不機嫌だね」
    「そのような事はございません」

    不思議そうにする類は、それ以上何も聞いてこない。きっと、『何かあったのだろう』とそう察しているのだろうな。このように主君に悟らせてしまうのは従者として情けない。情けないが、許してほしい。
    脳裏で藤色のふわふわとしたくせ毛の少年を思い出し、またムカムカとしたものが胸の奥でくすぶり始めた。

    (このオレに対して暇人だと…?! なんたる無礼かっ…!!)

    思い出すだけで腹が立つ。突然目の前から消えた少年は、一体どこの迷子か。
    昼過ぎに警備を兼ねて客人のお部屋の傍を巡回していた時に見つけた幼い子ども。妹の咲希よりも小さい、オレの半分ほどの背丈しかないその子どもは、あろう事か目の前から突然姿を消してしまったんだ。消える直前に言われた『どうやらノワール領の騎士団長殿は大層お暇な御様子で』という言葉を思い返すだけで腹が立つ。魔術師見習いとはいえ、このオレを暇人と愚弄するとは…!
    むむむぅ、と頬を膨らませてしまいそうになるのを耐えて、唇を引き結ぶ。次に会ったら、目上の者に対する礼儀をしっかりと躾てやらねばっ…!

    「そう言えば、夕食を共にと御令嬢方から申し出がありますが…」
    「断っておいてよ。執務で疲れているのに、客人の対応なんて無理だから」
    「こちらから招待したのですから、多少なりとも時間を作るべきです」
    「父さんが勝手に招待したんだから、僕には関係ないよ」

    椅子の背もたれにもたれかかり、今にも溶けてしまいそうなほどやる気のない主君に溜息が零れる。
    旦那様は、花体質ではなく普通の人間だ。その為、希少と称される花体質の、それも花食みとして生まれた類を誇らしく思っている。花食み体質は何らかの能力に秀でており、優秀であるという噂もあるからな。現に、類はとても頭がいい。本を好み、幼い頃から知識欲が強く、加えてバイオリンや詩等の芸術にも長けていた。そんな類の元へ縁談を持ちかける者たちは多い。幼い頃から公爵という家柄も相まって婚約者候補が沢山いた。そうしてアプローチをかける女性の相手をする内に、すっかり女性が苦手になってしまったわけだが…。本心を隠して相手を騙そうとする化かし合いも、しつこく言い募る強引なアプローチをする者も苦手だ。お陰で、結婚していてもおかしくない家柄と容姿と年齢だというのに、未だに結婚相手もいない。旦那様が心配する気持ちも分かる。
    まぁ、それも類らしくて良いと思うが。

    「せめて、一部屋ずつご挨拶に伺ってはいかがですか? 一日で伺うには難しくとも、日を分ければそこまで時間もかかりませんから」
    「嫌だよ。本を読む時間が無くなってしまうじゃないか」
    「このままでは申し出も増え、いつまでも対応に追われるでしょうね」
    「…………」

    オレの言葉に、類が怪訝な顔をする。きっと、オレが言いたいことが伝わったのだろう。
    このままそれぞれの部屋で過ごさせていれば、何かしら問題が起きる可能性がある。同じ花生み同士で言い合いになれば対応に追われるのは類だ。それに、執務中に強行突破で会いに来ようとされれば、余計面倒だろう。それならば、会う時間を少しでも設け、それ以外の時間は大人しくするようにと伝えればいい。一番いいのは、類が誰か一人を選んでブートニエールになれば、ほかの御令嬢が諦めて帰ってくれるはずだが、類は誰も選ぶつもりがないのでそれも難しいだろう。あとは申し出のある縁談を断り、お帰りいただくという手もあるが、どうも帰りそうな雰囲気がない。どの御令嬢も、簡単に引き下がるような雰囲気ではなかったからな。
    一番早いとすれば、夜会を欠席したブラン辺境伯の方だろうか…。

    「はぁ、仕方ないから、一人ずつ訪問すると伝令を頼むよ」
    「かしこまりました」
    「その代わり、一日一人だよ。あまり時間も取れないから、そう伝えておくれ」
    「はい。では、一度失礼致します」

    重い腰を上げてくれた類に安堵し、部屋を出る。廊下で待機していた使用人達に類の言葉を伝え、花生みの御令嬢達へ伝令を頼んだ。会いに行く順番は、とりあえず領地の順で良いだろう。ノワール領の隣にあるルージュ領から順に、時計回り回ればいい。
    一通り決めて仕事を割り振り、部屋に戻る。すでに本に没頭する主君を見て、肩を落とした。

    (全く、この調子では、跡継ぎ探しに苦労するだろうな)

    公爵家を継いだ類は、ノワール公爵という立場である為に、時期公爵を育てる義務がある。だが、当の本人は結婚する気もなければ子どもの事なんて考えてもいない。
    旦那様が心配なさる気持ちが、よく分かる。

    (まぁ、オレも人のことは言えんが…)

    類と同じく花食み体質ではあるが、オレも花生みに興味は無い。類が煩わしいと思う気持ちも分かる。
    だからこそ、あまり強く言えないわけだが…。

    「……そういえば、今朝のあの子どもは、甘い匂いがしたな…」



    「良いですか? 失礼のないように、十分気をつけてくださいよ」
    「…分かっているよ」

    はぁ、と溜息を吐く類をキッ、と睨むように見れば、類は肩を落とした。
    これからルージュ領の御令嬢と会うのだ。失礼な態度を取れば、両家の関係が悪くなる。女性と会話するのが苦手な類にも、ここは何とか乗り越えてもらわねばならんのだ。

    「いつもの様に黙ってしまうのはナシですからね! 興味ないからとキョロキョロするのもやめてくださいよ!」
    「だったら、ツカサくんが相手をしておくれよ」
    「貴方の婚約者を決めねばなりませんのに、何故オレが相手をするんですかっ!!」
    「わぁ…ツカサくん、顔が怖いなぁ」

    大きな声でそう言ったオレに対し、類は苦笑して逃げようとする。そんな事を許すはずもなく、類の背を押してどんどん屋敷から少しだけ離れた庭の方へ向かう。
    花生み体質の客人が陽の光を浴びれるようにと、旦那様が特殊な部屋を用意した。それは屋敷の裏の広い庭に建てた硝子張りの建物で、陽の光がどこからも入る特別性だ。類の婚約者を探すだけだというのに、そこまで手の込んだ準備をする旦那様は、余程類の将来を案じているらしい。その内、招いた花生み全員とブートニエールに、と言い出しかねん勢いだ。類は絶対に断るのだろうが…。
    見えてきた赤いカーテンで彩られる建物に、手の力を込める。逃がさないという気持ちで類の背を押しながら、「良いですか? 絶対に変なことはしないでくださいよ」と念を押す。渋々返事をした類は、諦めたようにとぼとぼ歩き始めた。こんな調子だが、やる時はやると知っている。例え、苦手な女性を前にしたら微笑むだけ微笑んで全く何を話さなくなるほど緊張するとしても、だ。
    入口の方へまわり、部屋の扉をノックする。と、待っていましたとばかりに部屋の中から、深紅のドレスを纏った女性が出てきた。

    「公爵様、お待ちしておりました!」
    「…お、お待たせして、申し訳ございません」
    「さぁさぁ、中に入ってくださいませ! とっておきの紅茶をご用意しておりますの!」
    「……では、失礼して…」

    あからさまに引き気味の主君に、こほん、と咳払いをする。どう見ても類の苦手なタイプの女性だ。今にも逃げ出したいのか足取りも重い。けれど、ここは耐えて頂けねばならん。これも一重に類の為だ。
    そう心を鬼にして、オレは黙ったまま類の後方で静かにやり取りを見守った。



    「お疲れ様です、主君」
    「…ツカサくん、全く助けてくれなかったね……」
    「何を仰いますか。オレはただの護衛ですよ」
    「……婚約者候補を帰したら、今度は僕が君の花嫁探しを手伝ってあげるよ」

    恨み言のようにそう言った類から、サッ、と顔を逸らす。相当不機嫌なようだ。まぁ、一時間以上も話しかけられて限界なのだろう。この機会を逃さないとばかりに、類へのアピールがすごかったからな。ルージュ領の御令嬢は、ノワール領と隣同士で家同士の繋がりも強く、幼い頃からそれなりに顔を合わせる機会もあった。だからこそ、類の婚約者候補としては有力であり、類と歳はあまり変わらないにも関わらずまだ他の令息とも婚約をしていない。類の婚約者となれなければ、彼女は年齢的にも結婚相手を探すのに苦労するから、必死なのだろう。花生み体質であれば、花体質を持たない者にとって希少価値もあるので貰い手は多いはずだが。

    「明日はヴェール領の御令嬢ですね。全員回るまで、頑張ってくださいませ」
    「…もう全員お引き取り願いたいな」
    「せめて少しでも機会が無ければ、皆さん諦めないと思いますよ」
    「はぁ。……面倒だなぁ…」

    既にやる気のない主君に苦笑しつつ、屋敷の方へ向かう。と、視界の隅に人影の様なものが映った。そちらへ目を向ければ、木々の向こうへ誰かが向かっていく。
    「ツカサくん…?」と類に問いかけられ、ハッ、と顔を類の方へ向けた。不思議そうにする類は、先程の人影を見ていなかったのだろう。だが、確かに先程までここに人がいたのだ。微かに甘い匂いがするので、きっと花生み体質の者だろう。この辺りは、花生み体質を持つ客人の部屋が一定間隔で集まっているからな。

    (他領の御令嬢とトラブルを起こされては困るし、なるべく離れた場所まで行かないよう注意しなければ…)

    仕方ない、と類に一度体を向け、「先に屋敷にお戻りください」と一言告げる。驚く類は「どうしたんだい?」と問い返してくるけれど、細かく説明していては追いつけなくなってしまう。「すみません」と一言謝罪し、オレは先程の人影を追って林の方へ駆け出した。驚いてオレの名を呼ぶ類には、後で謝罪しよう。
    確かこっちの方に…、と人影の消えた方へ来れば、人が通ったのだと分かる足跡が残っている。それを辿って、さらに奥へ向かう。と、少し開けた場所に出た。花や草が生い茂るその場所は、どうやら人の出入りの少ない場所のようだ。足跡が無くなってしまっており、人影も完全に見失ってしまった。

    「…どこへ行ったんだ……?」

    この辺に部屋のある御令嬢といえば…。敷地の場所をなんとなく思い浮かべて今自分のいる場所を考える。多分、ヴェール家の部屋とブラン家の部屋の間だろうか。となると、この前あの子どもを見た場所はもう少し向こうだったのでは…?
    そこまで考えたところで、ヴ…ンと変な音が微かに聞こえてきた。ふわりと地面から空気が流れるのを感じて足元へ目を向ければ、円の形に地面が光っているのに気付く。
    まずい、と咄嗟に逃げようとしたが間に合わず、ぶわりとその光がオレの体を包んだ。

    「っ、く……」

    目の前があまりに眩しくて目が開けられず、腕で顔を覆う。と、足首に何かが絡まるような感覚を覚え、次いでぐらりと体が大きく揺れた。足が引っ張られ、体が宙に投げ出される。ぐるん、と頭が大きく下へ落ちて、気持ち悪さに吐き気が込み上げた。それをなんとか耐え、ちかちかとまだ明滅する目を開けて周りを見れば、オレのすぐ下に今朝見かけた少年が立っていた。
    じっ、とオレを見ていたその少年は、呆気とするオレを前にしてにまりと口元に弧を描く。

    「おやおや、大丈夫ですか? 騎士殿」
    「………っ〜〜〜……!」

    人を小馬鹿にした様なその発言に、ぷつん、と何かが切れる音がする。
    かぁあ、と顔に熱が集まり、手を前に伸ばしたが、少年に触れる前に軽々と寄せられてしまう。ひょいっ、と後ろへ一歩下がるそいつは、『捕まえてみろ』と言わんばかりに挑発的な顔をオレへ向けてきたのだ。それに余計腹が立ち追いかけようとしたが、そこで足が動かないことに気付いた。

    「な、なんだこれはぁああっ…?!」
    「あっはははははは…! そんな簡単に罠に引っかかるとは思わなかったよ。それで本当に騎士団長なんて勤まるのかい?」
    「んなっ、…なんだとぉ〜?!」

    お腹を抱えて笑い出すそいつに、ぐぐぐっ、と拳を強く握り締める。目上の人をおちょくるとは、なんと無礼な奴か…! 類の護衛騎士ではあるが、オレだって一応子爵位を持っているのだぞ?! 魔術師見習いに馬鹿にされて許せるはずがない。
    捕まえたら一発オレのこのゲンコツを御見舞してやるというのにっ…! 手の届かないところでいまだに腹を抱えて笑う子どもに、腸が煮えくり返りそうだ。「早く降ろせっ!」と大声で怒鳴るように言って睨めば、子どもは「どうしようかなぁ」と楽しそうに返してくる。
    ちら、と見れば、オレの足を拘束して宙吊りにしているのは、魔法の様だ。蔦のようなそれを見て、腰に下げた剣の柄を握る。鞘から抜いた剣で蔦を斬れば、あっさりと拘束が解けた。くるりと半回転して地面に着地すると、そいつは「おぉおお…!」と態とらしく拍手してくる。
    その大人を舐め腐った態度も気に入らん。じと、と睨むように見下ろせば、そいつは怖がる素振りもなく にこりと笑い返してきた。肝の座った奴だ。

    「すみませんねぇ。僕の後を追って来ていたので、敵かと思いまして」
    「それで許すと思うなよ、ちびっ子」
    「………」

    ぴく、とオレの言葉に反応した子どもが、更にその笑みを深くする。何かが気に触ったのだろう。だが、先にこちらを怒らせたのはコイツだ。
    とっ捕まえて誰の従者か吐かせてやる。類が花嫁探しに乗り気では無いのだから、これを理由に自領へ追い返せば一石二鳥だろう。
    などと腹の虫が治まらずそんな風に作戦を立てるオレの前で、そいつはぱちん、と指を鳴らす。瞬間、雨も降っていないのに突如として上から大量の水がバケツをひっくり返したかのように降ってきた。叫ぶことも出来ずに強い水圧に襲われ体がぐっしょりと濡れてしまう。前髪で視界が奪われ、水を吸った服は動くのも怠くなるほど重たくなる。べっとりと肌にくっつく濡れた布の気持ち悪い感触に顔を顰めれば、目の前のそいつはまた腹を抱えて笑いだした。

    「っ、こいつっ…、叩き斬ってやるッ…!!」

    ぶつん、と先程より大きな音で何かが切れた。
    手に握った剣を振り上げて勢い良く振り下ろせば、軽々とそいつはオレの剣を避けてしまう。ぶんっ、ぶんっ、ぶんっ、と右へ上へ左へと剣の軌道を変えて連続で剣を振るも、全く当たらんっ! けらけらと笑って避けられると、余計に腹が立つ。
    なんなんだこいつはっ…! 子どものくせにちょこまかしおってっ…!!

    「あぁ、もうっ! 避けるでないっ!!」
    「ふふ、そんな振り方で当たるわけ無いでしょ、“おにーさん”」
    「こ、いつっ…!!」

    くるり、くるりと踊るように避けるそいつは、べっ、と舌を出してオレをおちょくってくる。服が重いせいで動きが鈍い。いつもならこんな奴すぐに捕まえると言うのにっ…!
    思いっきり振り下ろした剣が地面に突き刺さり、ガクッ、と足がもつれた。抜けなくなった剣に、自分が挑発に乗って冷静さを失っていたと気付く。そんなオレの目の前へ、そいつは一瞬で間合いを詰めてきた。にこりと笑ったそいつは、口角を上げて勝ち誇った顔をすると、ひらりと片手を横へ降る。

    「ふふ、ばいばい、“おにーさん”」
    「あっ、…待てっ……!!」

    ぱちん、と指を鳴らしたそいつは、今朝と同様に一瞬で姿を消してしまう。
    またしても易々と逃げられてしまった事に、はぁあ、と重い溜息が零れた。類の専属騎士になってかなり経つが、こんな事は初めてだ。

    「……っ、くそ…」

    久しく味わってこなかった敗北感に、オレはガン、と地面を強く叩いて当たるしか無かった。

    ―――
    (黒百合side)

    「ツカサくん、どこ行ったのかな…?」

    突然走り出したツカサくんが気になって後を追いかけてみたけれど、見失ってしまったようだ。
    昔から運動神経がよく足も早かったから、僕が追いつけるはずもない。屋敷の場所は分かるけれど、これ以上奥へ進むのはやめた方がいいかもしれない。ツカサくんの事だから、怪我をするようなことは無いと思うけれど、一体何故走り出したのだろうか。

    「護衛騎士が主人を置いてどこかへ行くなんて、本来は有り得ないことだけどねぇ」

    ここが僕の屋敷であり、それなりに僕も戦えるから一人にしても大丈夫と信頼されている、と考えてのことだとは思うけどね。それにしたって何も言わずに走り出すのはどうかと思うよ。今襲撃にあったらどうするつもりなのか。
    ガサガサと木々の間を抜け、とりあえず開けた場所へ出る。と、 大きめの池が見えてきた。

    「そういえば、父さんが昔庭に作っていたっけ…」

    懐かしいな、としゃがみ込んで中を覗けば、魚もいるらしい。客人の部屋を建てるために庭を一時的に作り替えてしまったけれど、この池はそのまま残したのか。今度餌を持って見に来るのも良いね。そう思いながら立ち上がれば、視界の隅で何かが光った気がした。
    はた、と顔を向けると、先程見た建物と似た建物がそこにある。硝子張り出てきた、ドーム状の建物。白いカーテンは開ききっているから、中の様子がよく見える。

    「あれは…」

    内装は白で統一されているから、ブラン辺境伯家の部屋だろう。確か、先日の夜会を欠席した御令嬢のいる部屋だ。
    面倒くさいタイミングで来てしまったなぁ、と顔を顰め、帽子の縁を引っ張る。顔を見られる前に離れなければ…。そう思いながら部屋の中をちら、と見れば、白い大きなベッドの上で人影が動いた。
    キラキラとした金色の髪を手で撫でながら、ぼんやりと空を見上げるその姿に、思わず足が止まる。

    「………」

    音を発さない口が自然と開いたまま閉じられず、目が逸らせない。硝子張りの壁は陽の光を反射させてキラキラと輝いており、その輝きのせいか室内にいる女性が輝いて見える。少し幼いその姿に、心臓が大きく跳ね上がった。白いリボンで髪を結わえると、彼女は辿々しい動きでベッドから降りる。両手をついて片足ずつゆっくり床へ降りる姿は可愛らしい。ベッドのサイズが高いのだろうか、踏み台があれば安心かもしれない。ふんわりとした白い服は寝巻きにも見える。眠っていたのか少し跳ねた髪も可愛らしい。誰かを探すように部屋の中を見回して、見つからなかったのか硝子の方へ近付いてくる。そうして硝子に手をついた彼女は空を見上げ、気持ち良さそうにふわりと微笑んだ。
    その顔を見た瞬間、ぶわりと顔に熱が集まり、心臓の鼓動が一気に早くなる。

    (…ぁ、…日光浴をしているのか……)

    きらきらしていて、綺麗だ。今までは陽の光を浴びて何が変わるのかと思っていたけれど、この瞬間、確かに彼女はこの行為から“効果”を得ていた。瞳を伏せて暖かい陽の光を気持ち良さそうに肌で感じているだろう事が、ここからでも見てわかる。
    そんな姿に、思わず足が一歩前へ出た。カサッ、と足元の草木から音がして、その微かな音に気付いた彼女がハッ、とこちらを振り返る。

    「ッ……」

    目が合った瞬間、心臓が止まってしまったかのように感じた。周りの音が一切聞こえなくなり、視界が彼女で占領される。じわぁあ、と顔が熱くなって、手に汗が滲むのを感じた。
    時が止まったかのようなその瞬間は、何十秒、何十分と感じられ、心臓の鼓動がバクバクバクとすごい早さで鳴り始める。
    そんな僕に気付いた彼女は、不思議そうな顔をした後、ぺこりと頭を下げてきた。つられて僕も、わたわたともたつきつつも急いで頭を下げる。それを見て、彼女はくすくすと笑ったのだ。

    (…か、わいい……)

    日に焼けていない白い肌と、淡い桃色と金色がグラデーションになっている長い髪、蜂蜜色をした宝石の様にキラキラと光る瞳と、硝子に触れる小さな手。さながら本の挿絵で見た天使のような姿に、ごくん、と喉が音を鳴らす。近付けば幻のように消えてしまいそうで、踏み出すのが怖い。けれど、もっと近くで見たいとさえ思ってしまう。足は石のように動かず、汗の滲む手で苦しい程鼓動する胸元を握り締めた。
    声をかけたいのに、なんと言っていいか分からない。こちらを見る彼女の瞳に自分が映るのがなんだか急に気恥しくなってしまって、逃げ出したい衝動に駆られる。
    どうしよう、と頭の中は様々な感情でぐるぐると回っていて、目が回りそうだ。
    そんな時、何かあったのか彼女が後ろを振り返った。部屋の中へぱたぱたと駆けていくその姿に、まるで金縛りが解けたかのように足が一歩前へ出る。

    「っ……!」

    その瞬間、僕はこのなんとも言い難い感情と恥ずかしさに、屋敷へ向かって一目散に逃げ出した。

    ―――
    (白百合side)

    「おぉ、戻ったのか、ルイ!」
    「ただいま戻りました、白百合様」
    「今日は随分と上機嫌だな!」

    部屋の入口に突然現れたルイの方へ駆け寄れば、にこにこと笑顔のルイが頭を下げる。
    こんなにも機嫌のいいルイは珍しくて、オレまで嬉しくなる。ゴソゴソと服のポケットから小さな袋を取り出したルイは、「薬草を採ってきました」とそれをテーブルに置いた。鼻歌混じりに薬草を仕分けるルイを見て、その上機嫌な様子に口元が緩む。

    (…そういえば、先程の者は……)

    ハッ、と庭先にいた者を思い出して顔を向けるも、そこにはもう誰もいない。黒い服を纏っていたから、この屋敷の使用人だったのかもしれんな。なにせここはノワール領だ。使用人も皆黒い服や装飾品をつけている者が多い。まぁ、使用人の服は大抵黒と白で、他の領では装飾品で見分けるのだが…。
    まぁ、必ずしもそうしろ、というわけでもないがな。ブラン領は白を基調としているので、ルイも本来は白のローブを纏うはずだが、ルイは黒を好んで着ているしな。お父様もそこは諦めているようで、白い服の中に黒が混ざって少々不思議な光景だった。
    そんな事を思い出してくすくすと笑えば、ルイが不思議そうにこちらを向いた。

    「どうかなさいましたか?」
    「いや、なんでもないぞ」

    ルイにそう返し、ベッドに腰かける。
    先程見た者は、帽子と長い前髪で顔がよく見えなかったが、背が高くてかっこよかった気がする。先日の夜会に出ていれば会っていたかもしれんが、生憎オレは不参加だったからな。残念ながらあの者が誰なのかさっぱり分からん。
    ただ、この部屋に案内してくれた使用人ではないことだけは分かるのだが…。

    (まぁ、その内会う機会もあるだろう…)

    オレがこの屋敷に留まるうちは。早々に自領へ帰されてしまったら誰かわからないままかもしれんが、それならそれで仕方あるまい。
    公爵様にとっても、体が弱いブートニエールなんて願い下げだろう。夜会にも参加出来なかったのだから、こんな無礼者は早く追い出したいだろうしな。
    オレの為に頑張ろうとしてくれるルイには悪いが、長生きできるとも思っておらん。天命がくれば、その時だ。
    陽の光に目を瞑り、気持ちいい暖かさにごろりとベッドへ横になる。怠惰だと言われるかもしれんが、この部屋は本当に心地良い。これだけでも、この領へ来た甲斐が有るかもしれん。自領へ帰るまで、沢山陽の光を浴びさせてもらおう。
    うとうととするオレの方へ、足音が近付いてくる。
    すい、と額が撫でられて、優しい声音で「おやすみなさい」と聞こえた。
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    tyaba122

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    リリーかな?🖤🤍️✡️⚔️??暗号だな??
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    とりあえず、リリーと呼んで決まったらそっちで呼ぼうかな。

    諸注意は前回と一緒です。
    ガーデンバース(騎士side)

    「ツカサくん、なんだか不機嫌だね」
    「そのような事はございません」

    不思議そうにする類は、それ以上何も聞いてこない。きっと、『何かあったのだろう』とそう察しているのだろうな。このように主君に悟らせてしまうのは従者として情けない。情けないが、許してほしい。
    脳裏で藤色のふわふわとしたくせ毛の少年を思い出し、またムカムカとしたものが胸の奥でくすぶり始めた。

    (このオレに対して暇人だと…?! なんたる無礼かっ…!!)

    思い出すだけで腹が立つ。突然目の前から消えた少年は、一体どこの迷子か。
    昼過ぎに警備を兼ねて客人のお部屋の傍を巡回していた時に見つけた幼い子ども。妹の咲希よりも小さい、オレの半分ほどの背丈しかないその子どもは、あろう事か目の前から突然姿を消してしまったんだ。消える直前に言われた『どうやらノワール領の騎士団長殿は大層お暇な御様子で』という言葉を思い返すだけで腹が立つ。魔術師見習いとはいえ、このオレを暇人と愚弄するとは…!
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