ヴァンパイアパロヴァンパイアパロ
闇色に染まった空にアラザンのような小さな星々と細い三日月が浮かぶ夜。暗く冷たい雰囲気の廊下を柔らかなネグリジェに身を包んだ女……皇水希が歩いていた。普通の人間ならもう部屋で休む時間だが、彼女は同居人の事情で昼夜逆転の生活をしている。そのため活動する時間は夕方から明方まで。
「今日は学校ないし、何しようかな……」
キッチンに行き、軽く食事を済ませ、歯磨きや洗顔など軽く自分の身なりを整えた水希はどういう休日を過ごそうか考えている。
「水希」
すると不意に後ろから声をかけられ、優しく抱きしめられた。水希はくるりと後ろを振り返り、嬉しそうに頬を綻ばせた。
「れー君!おはよう」
「ん、はよ。つーか起きた時隣いなかったから焦ったんだけど?」
「ごめんね、ぐっすり寝てたから起こしちゃ悪いかなって思って……次からは起こすね」
れー君ことこの屋敷の家主である御影玲王は水希の手を自分の頬に触れさせ、約束だぞ?と彼女の手に頬擦りをする。水希は彼が頬を膨らませながら甘えてくる姿があまりにも可愛らしく見えてしまい、思わず笑みが零れてしまった。
「笑うなって!」
「ふふっ、ごめんって。そういえば、どうして私を探してたの?」
「ああ、“朝ごはん”を食べさせてもらおうかなって思ってさ」
そう言いながら彼は水希を正面から抱きしめ直し、彼女の首元に軽くキスを落としていく。そう、玲王は夜の住人であるヴァンパイア、そして水希は彼に血を吸われる為にここに住んでいるのだ。そんなこと、何度もされているから分かっているが、それでも彼の髪が首や肩に触れるのは、とてもくすぐったくて慣れない。
「あははっ!れー君、くすぐったいってば」
「えー…でも俺、腹減ってるからさ。もうちょい我慢して?」
彼はそう言うと笑っている彼女の首筋を舐める。それに驚いた水希は「きゃっ!」と可愛らしい声を上げてしまう。
「今日はどこからにしようか…この細い首でもいいけど、手首もいいよな?あ、柔らかい太腿も捨て難い。悩むなぁ」
鼻歌を歌いながら候補として挙げられた箇所にキスをしていく玲王は顔を赤くしながらぷるぷると小動物のように震える水希を見て、抑えている吸血衝動が弾け飛びそうになった。あーあ、さっきまで楽しそうに笑ってたのにこんなに怯えちゃって…本当に可愛いなぁ。
「でもやっぱここがいいかな♪」
「あっ…」
そう言うと彼女のネグリジェの襟を二の腕くらいまでに下ろし牙を立て、ゆっくり突き刺していく。牙が突き立てられた場所から血がジュワリと溢れ、それを嬉しそうに玲王が啜る。
「んー、水希の血…めっちゃ美味い。いくらでも飲めそうだ」
「ひぅっ…」
抜いた牙を再び水希の肩に埋めて、じっくり味わう。痛みに耐えていた彼女も次第に目を潤ませ、頬を赤く染めていた。ゃだ、おねが、ぃ…とまって、……と玲王の身体を精一杯押すが、血を吸われ力が入らない水希の抵抗など彼にとってちょっとしたスパイス程度にしかならない。
「ははっ、マジで可愛い♡」
足腰に力が入らなくなり、頭がぼんやりとし始めた水希は膝から崩れ落ちそうになった。吸血をして元気になった玲王はくったりとしている水希を支え、姫抱きして部屋に連れて行く。
彼らの活動時間は始まったばかり。