妙なラベルを貼られたな「お前って、そういうところあるよな」
神谷が何気なく呟いた一言に、東雲は咄嗟に上手い反応ができなかった。今、お前、と呼ばれたのは自分なのだろうか。周りをきょろきょろ見渡して、自分以外に話し相手がいないことを確認し、また少し驚く。神谷はいつも通りの顔で、着崩した学ランのポケットから、飴を出して舐め始めた。それがカラコロと、やわらかい頬の中を転がる音は、放課後の教室にはよく響いた。
「東雲?」
「今、私のことを“お前”と言いましたか?」
疑問を口に出してみて、今度は自分の声の響きが、思いの外冷めていることに驚く。神谷はぎょっと目を丸くして、ばつの悪そうな顔をした。
「悪い、怒った?」
「怒ってはいません」
「本当か?けっこう怖かったぞ」
2512