果て「いいところ、連れてってやる」
日曜の朝、突然そう言われて、なんの覚悟もないままここまで来てしまった。
「……ねえ、まだ着かないの?」
どれくらい自転車を走らせただろうか。高校生になって僕達に買い与えられたママチャリ六台。僕の二号は青い色。最近は調子が悪くて漕いでいると二、三分に一度、高い音で悲鳴を上げる。今日は悲鳴を何度聞いたかもうわからない。
国道沿いの道路をひたすらに西へ走らせてきた。はじめは高い建物や車がうじゃうじゃだった景色が少しづつ木々の緑や青空が映り込んでいく。
信号待ちの度におそ松へと問いかけても首を捻って
「……そうだな、まだ? かな」
曖昧な言葉だけが返ってきた。
吹いてくる風は汗が滲んだおでこを撫でてくれる。気持ち良さに目を細めた。横を見ると兄も同じように目を細めている。形の良いおでこがちらりと見える。
「ふうん」
と呟いて腕で強引に汗をぬぐった。
「あそこで休まねえ?」
信号の先には、コンビニの看板が見えた。
ペットボトルのお茶を二本買って、駐車場の端に座り込む。ママチャリと僕達の影が四本、横一列に並ぶ。
「これ食え」
おそ松がリュックから菓子パンを取り出してこちらに差し出す。とにかく甘くてデカいパン、食べ盛りの僕達の腹をなんとか埋めるために母さんが買い置きしてくれてあるものを持ってきたのだろう。
二人で同時に袋を開け、かぶりつく。ここまでなんだかんだ三時間ぐらい経っている。自分でも思ってた以上にお腹が空いてたようだ。あっという間に手からパンが消えていた。口の中のパサつきをお茶を流し込んでクリアにする。
横を向くとおそ松は半分ぐらい食べ進めた状態で空を眺めていた。もみあげの先ぐらいが汗で湿っている。
「なにか、いいものでも見つけたの?」
そう聞くと少し首をこちらに傾けた。
「……なんでそう思った?」
「んー。どこか楽しそうだったから」
その返しが当たっていたのかわからないけれど、こっちを四秒見つめて、おそ松が僕の頭をかき混ぜるように撫でた。
「犬みたいに撫でないでよ!」
そう言って軽く払い除けたけれど、別にそうされた事は嫌じゃなかった。知ってる、あれは照れ隠しなんだ。
おそ松が楽しいなら、きっと間違ってない。
再びサドルに跨り前へ進む。