花束を貰ってお互いに俳優という華やかな職業をしていれば、他人からプレゼントを貰う機会は山程ある。
その日、帰宅したフィガロを迎えたのはまだ値札を剥がしたばかりのような、見覚えのない真新しい花瓶とそれに飾り付けられた彩り豊かな花だった。花束をそのまま差し込んだような様子に、フィガロは同居人のことを考えて少し笑った。きっと、困ったのだろう。
「ただいま」
手洗いうがいを終えてリビングに入ると、ソファーで台本を読んでいたレノックスが振り返る。
「おかえりなさい」
なんて事のない挨拶の応酬だが、長いこと一人暮らしをしていたフィガロにとっては何度繰り返してもなんだか新鮮で擽ったい気持ちになる。思わず弛みそうになる表情を抑えて荷物を片付けに行く。
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