Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    monet_charca

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    monet_charca

    ☆quiet follow

    遅ればせレノ誕

    夜に叶う食堂でのパーティーが一段落して、フィガロは自室に引き上げると隠しておいたワインボトルを取り出した。今夜は酒を飲もうと決めていた。きっと少しくらい飲みすぎてもミチルも怒らないだろう──レノックスの誕生日なのだから。フィガロはそう確信していた。
    「さて、と……」
    ワインの栓を魔法で抜くと、手酌でグラスに注ぐ。折角なので窓際に椅子を移動させて、窓を開けて夜の空気を部屋に入れる。窓から顔を出して空を見上げれば、《大いなる厄災》が輝いている。それを見ながらひと口、ワインを口に含む。この季節は少しだけ肌寒い風も心地よい。そんな季節に生まれた男のことを少しだけ羨ましく感じた。
    昼間のうちに顔を合わせた時、朝から祝われ続けているレノックスに「飲もう」と声を掛けたものの、パーティーで散々酒を注がれて飲まされて、珍しく酔っ払っていたし今日はもう来ないだろう。人気者で真面目なレノックスがそうなることをフィガロは予測していたし、その上で声を掛けた。きっとフィガロが誘ったことも覚えているレノックスは、明日の朝謝罪と共に改めて誘ってくれるだろう。そういう、真面目な男だ。それを笑って受け入れれば良いと思っていた。
    別に今日じゃなくていい。今夜はレノックスがよく眠れればいいと、そういう些細な幸福を祈りながらワインを飲む。祝うのは本人が居なくても良いのだと。
    「あー、良い風」
    暑すぎず冷たすぎない春の風がフィガロの髪を揺らす。そういえば、森の方面の魔法舎の軒下に渡り鳥の巣が出来ているのだとミチルが言っていたのを思い出した。春の風に乗ってやってくる鳥が、新たな命を育んでいるのだと。
    「本当に良い季節だよ」
    窓枠に頬杖をつきながら、ぽつりと呟く。言葉にはならないが、とてもレノックスらしい季節に生まれたのだと、フィガロは思っていた。足を組んで夜風にあたりながらワインを飲んでいると、フィガロの部屋のドアが叩かれた。
    「はぁい?」
    返事をして椅子から立つと、ドアに向かう。開けるとそこには今夜ここに来ないであろうと思っていた男が立っていた。
    「……フィガロ先生」
    フィガロがドアを開けるなり、レノックスは何故だか不満そうな顔をしていた。
    「レノ?パーティーはもういいの?」
    「はい。皆部屋に戻りました。まだ飲み足りない者たちはシャイロックのバーに行きました」
    「そう。レノは行かなかったの?」
    首を傾げるフィガロに、レノックスは深く溜め息を吐いた。
    「あなたが誘ったんでしょう?忘れてしまったんですか?」
    「えっ……あ、うん。でも、おまえ酔っ払ってたから、来ないかと思って」
    「それでお一人で飲んでいたんですか」
    「うん、まあ……」
    戸惑った様子のフィガロに、レノックスが呆れた様子で再び溜め息を吐く。レノックスが訪室して来たことに驚いていたフィガロもさすがにムッとした。
    「別に今日じゃなくても、いつでも良かっただろう?」
    別に酒を飲む機会なんていくらでもある。それこそフィガロとレノックスが特に理由もなく飲み交わした夜は少なくもない。それなのに、今夜はやたら引っかかる物言いをしてくるレノックスに苛ついた。
    「俺は今日が良かったんです」
    レノックスは不機嫌そうなフィガロに怖気づくことなく部屋に入る。そして、なんの衒いもなくそう言って、フィガロを抱きしめた。
    「は?」
    抱きしめられたフィガロは、キョトンとしていた。至近距離でその表情を見たレノックスは、これも忘れているのかと眉を顰めた。
    「あなたが言ったんですよ。嬉しい気持ちを言葉で伝えにくいなら、全身で表せばいいと」
    「あー……言った。言ったね」
    「フィガロ先生に誘っていただいて、俺は嬉しかったんですよ」
    ぎゅっと抱きしめる腕に力を込められてフィガロは小さく悲鳴を上げた。拗ねたようにレノックスは言う。
    「でも、フィガロ様が一人で飲んでいたので」
    「……悪かったよ。本当に来ないと思ってたんだ」
    フィガロが自分の呪文を唱えると、その手には南でよく目にする銘柄の酒瓶があった。少し体を離してそれを見たレノックスは、じっとその瓶とフィガロを丁寧に認めると、もう一度強く抱きしめる。慌ててフィガロは酒瓶を割らないように避難させた。
    「っ、ちょっと、レノ!危ないじゃないか」
    「嬉しいので」
    「おいおい……」
    フィガロは呆れたように笑いながらも、酒瓶を魔法でテーブルの上に送って、空いた手をレノックスの背中に回した。そろりと動くその手に、レノックスはくすぐったそうに少しだけ肩を竦める。
    「酒くさ」
    大きな背中を撫でながらフィガロが笑う。レノックスはそれをまた嬉しく思う。二人の間に隙間が無いほど抱きしめ合うと、フィガロは漸くもう一度祝福の言葉を囁いた。
    「誕生日おめでとう、レノ」
    「それをもう一度聞きたかったんです」
    「みんなに散々言って貰っただろ?」
    「あなたからが良いんです」
    レノックスが本当に嬉しそうにそう言うので、フィガロも胸が温かくなった。
    「それじゃあ、改めて乾杯しようか。──そろそろ離してくれる?」
    「いえ、もう少しこのままで」
    レノックスの体温を感じながら、フィガロは仕方ないかと苦笑した。自分を優先してくれた、お誕生日様のおねだりを叶えてあげたくなったので。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💖💖☺💞💞😭😭😭😭😭😭💞💞💞💞💗💗💗💖💖💖💖💖💖💖💖💖❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    monet_charca

    DOODLE遅ればせレノ誕
    夜に叶う食堂でのパーティーが一段落して、フィガロは自室に引き上げると隠しておいたワインボトルを取り出した。今夜は酒を飲もうと決めていた。きっと少しくらい飲みすぎてもミチルも怒らないだろう──レノックスの誕生日なのだから。フィガロはそう確信していた。
    「さて、と……」
    ワインの栓を魔法で抜くと、手酌でグラスに注ぐ。折角なので窓際に椅子を移動させて、窓を開けて夜の空気を部屋に入れる。窓から顔を出して空を見上げれば、《大いなる厄災》が輝いている。それを見ながらひと口、ワインを口に含む。この季節は少しだけ肌寒い風も心地よい。そんな季節に生まれた男のことを少しだけ羨ましく感じた。
    昼間のうちに顔を合わせた時、朝から祝われ続けているレノックスに「飲もう」と声を掛けたものの、パーティーで散々酒を注がれて飲まされて、珍しく酔っ払っていたし今日はもう来ないだろう。人気者で真面目なレノックスがそうなることをフィガロは予測していたし、その上で声を掛けた。きっとフィガロが誘ったことも覚えているレノックスは、明日の朝謝罪と共に改めて誘ってくれるだろう。そういう、真面目な男だ。それを笑って受け入れれば良いと思っていた。
    2161