ココロノトビラ「どうしよう……」
佐藤美桜は小さくそう言うと、辺りをキョロキョロと見渡した。
挙動不審な動きをする美桜に、他の学生たちはチラリと一瞥こそするものの、声を掛ける様子はない。何か困っていることは分かるのだが、話しかけたが最後、時間を取られるのは分かっていた。きっと誰かが声を掛けるだろう。そんな勝手な思いを抱いて。
だが美桜はそんな周囲のことは気にせず、必死に辺りを見渡している。どうしよう、あれがないと困るのに。美桜の瞳に涙が貯まると同時……。
「──あっ、あのっ!! だだだだ大丈夫デショウカ!? 何かありましたか!?」
そんな美桜の背中に掛けられる声が一つ。
聞こえたのは女の子の声。少なくとも同性である、という事実に美桜は振り返る。きっと男性だったら無視してその場を立ち去っていたかもしれない。
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