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    motegishi

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    motegishi

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    少なくともこのモイニコは本誌見たあとじゃもう続き書けそうにないから放流

    ニコの魔力が暴走した。
    正確に言えば、不安定な精神に流されて、魔力を正しく扱えなくなってしまった、というのが正しいようだった。
    今は落ち着くまで魔力を極力低く保っているようだが、それは即ち常に極端な疲労状態に自分を追いやっていることになる。そんなことをすれば、ただでさえ不安定な精神がさらに安定しなくなるのはわかりきっていることだ。
    けれどニコは、部屋に誰も入れようとはしなかった。バンすらも追い出され、今はリビングでああじゃないこうじゃないと皆で話し合っている段階だ。オレを除いて。
    誰も片付けようとしないので、ニコの暴走した魔力によってめちゃくちゃにされた部屋がそのままだ。片付けないならせめてどけよ、掃除できないだろうが。

    さて。
    オレがハブられている理由だが、そもそもニコの暴走理由にある。
    ドラマを見て、不意に思い出してしまったらしい。災いの日、オレが撃たれた時のことを。
    まだ身体が戻って間もないのだ、1ヶ月の修行で心と身体がなんとか定着しても、不安に駆られるのも無理はない。
    それで暴走して、部屋中のものを浮かせて飛ばして大慌て。オレが声をかけたのが逆効果で、ガラスは割れるわ壁は凹むわで大変なことになってしまった。
    そんなわけだから、ニコを元気付けるにはオレの存在は邪魔だということで会議にも参加させてもらえず、仕方ないので黙々とクッキーを作って焼いている。せめて、甘いものを食べれば元気が出ないだろうか。それとも、オレが作ったものすらもダメなんだろうか。オレを見て、あの日のことを想起してしまうのがダメだというのなら、きっとダメなんだろう。
    自分の存在が、ニコにとって枷になってしまっているというのは、酷く苦しい。

    焼けたクッキーをテーブルに置くと、みんな一瞬だけ視線をこちらに向け、短く感謝を述べてまた会議に戻る。方向性が碌でもない方向に行きそうなことだけが心配だ。

    「だからやっぱりここは酢イカゲームの出番だと思うんだよ」
    「いやわかるで。酢イカゲームはポテンシャルだけならやれる子や。ただなぁ、ニコがダブ酢イまで到達できるかどうか……」
    「絶対にその案は違うだろ」

    碌でもない方向に行ってた。思わず口を挟んでしまった。

    「モリヒト〜やっぱコイツらダメだよ。お前がいねぇと話進まねえって」
    「お前かてさっき酒飲ませるとか碌でもない案出しとったやないか!!」
    「でもモリヒトさんじゃ今のニコさんには逆効果ですからねえ……」
    「さっきからどうでもいい話でウダウダ時間浪費してんじゃねぇ」
    「あ! ウルフ!」

    見れば、ケイゴはウルフに変わっていた。用があって、三日月のクッキーを作ったのだ。

    「お前の意見を聞きたかったんだ、ウルフ」
    「そんなこったろうと思ったよ。で、何が聞きたい?」
    「オレと同じ状況に陥った時。お前なら、どうする」

    ウルフは笑って、クッキーを豪快に3枚ほど頬張った。ミハルとカンシとバンも、自分の分をウルフに取られないうちにと手元に寄せ集めて、あっという間にクッキーの山は無くなってしまう。オレまだ食ってないのに。

    「無理矢理にでも抱き締めて甘い言葉でも囁いてやりゃあ、女はコロッと落ちンだろ」
    「誰に対しても同じことをするか?」

    ウルフはしばらく黙った後で、金色の瞳をオレに向ける。瞳孔が鋭く細められていた。

    「……しねぇな」
    「なら」
    「モリヒト。お前はただ自分が出してる結論と似たような意見を求めてるだけだろ。コイツらん中じゃ、オレが一番望む答えを出しそうだったからわざわざ召喚した。そうだろう?」

    ウルフは嗤って立ち上がる。

    「らしくねぇんだよ。テメェの結論が出てんならテメェで決着付けろ」
    「……そうだな。お前の言う通りだ」
    「待て待て待てワシら置いて話進めんなや! モリヒト、お前何する気や」
    「ニコと話しに行く」
    「ダメですよ! またニコさんが暴走したら家壊れちゃいますよ!」
    「じゃあ何かニコを元気にする案は出たのかよ」

    聞けば全員押し黙って、ウルフは大きく欠伸をしながら部屋に戻っていく。寝るつもりなのだろう。

    「オレだってニコを苦しめたくはない。だけどいずれは向き合わなきゃいけない問題だ。今ここで平和的に解決したって、問題を先送りにするだけだ」
    「それはまあ、そうなんだけどさあ……」
    「それで更に傷ついて、ニコが黒に染まったらどないするつもりや」
    「そうはならない」

    はっきりと、カンシの目を見て言い切った。

    「黒に染まろうがオレが絶対に白に引き戻す。だから、そうはならない」
    「なんでそんな自信に溢れてるんだよお前」
    「まあそこまで言い切られちゃ、ボクたちも諦めるしかないですかね……」
    「はぁー……しゃーないな。信じるで、モリヒト」

    みんなは諦めたようにそう言って、ゾロゾロと部屋に戻っていく。戻る部屋がないバンはドラゴンの姿に戻って、そのままソファで丸まって眠ってしまったが。
    荒れた部屋をようやく片付けてから、ニコのためにとっておいたクッキーを手に、オレはニコの部屋の扉を叩いた。

    「……モイちゃんなら入って来ないで」

    第一声からなかなか手厳しい。けれどニコの言葉は無視して声をかける。そうでもしなきゃ、進まない。

    「クッキーを焼いたんだ。食べるか?」

    沈黙。答える気がないのだろう、と思いつつも、言葉が返ってくることを信じて部屋の前に留まっていると、1分ほどしてからようやく、か細い声で「食べる」と声がした。

    「扉、開けていいか?」
    「モイちゃんは触らないで」

    動く気配があって、皿がギリギリ通る程度の隙間だけ扉が開く。そこからクッキー皿を部屋に入れれば、それが手からするりと離れて扉はすぐに閉まってしまった。けれど扉の前から離れた気配はなく、すぐそこでクッキーを静かに咀嚼する音が僅かに聞こえる。

    「美味いか」

    返事はないが、黙々とクッキーを食べ続ける音だけは聞こえてくる。お腹も空いていたのだろう、晩飯を食べていないわけだし。

    沈黙が続く。いつしか咀嚼音も消えて、本当にただの静寂がそこに生まれた。どちらも扉の前から動こうとはせず、ただ一枚の板を隔てて背中をむき合わせているのがなんとなくわかる。
    オレは居心地悪くはないけれど、ニコはどうだろうか。

    「ごめんね」

    不意にぽつりと謝罪の言葉が聞こえて、オレは黙って耳を傾ける。

    「また、ニコのせいで迷惑かけちゃった」
    「気にするな、いつものめちゃくちゃな魔法に比べたら大したことじゃない」
    「でも」

    そこで一度言葉を止め、大きく深呼吸する音が聞こえて、それからニコは、言葉を続けた。

    「ニコの家みたいに、モイちゃんの家を壊しちゃうかもしれない」
    「うちはデカいし地下室だってある。半分ぐらいぶっ飛んだってどうにかなるさ」
    「モイちゃんはよくてもお父さんはショックでしょ……」

    まあ、それはそうだが。そこはあまり冷静にならないでほしかった。

    「それに、壊すのが家とは限らないでしょ」



    【空白】



    「聞こえるか」

    とく、とく、と正常に刻まれる心臓の音。ニコは何も言わず、それに耳を傾けながら頷いた。

    「な、生きてるだろ」

    ニコはまた、無言で頷いた。

    「オレは、ちゃんとここにいるから」
    「でも」

    ニコは身体を離して、オレの胸に手を当てた。
    触れているのは、撃たれた場所だった。2箇所、正確に。

    「ニコのせいで、またモイちゃんが犠牲になるかもしれない。今度こそ、本当に死んじゃうかもしれない。そう思ったら、不安で不安で仕方なくて……自分でも、わかるの。黒に引かれてるって」
    「……」
    「もしもニコが黒魔女になれば、みんなの命が、モイちゃんの命が脅かされないのなら、ニコは喜んで黒魔女になる」

    ダメだと、言えなかった。そう考えてしまう気持ちは痛いほどわかってしまうから。

    「黒魔女になったら、どうなるんだろうね。やっぱり思想が変わって、寿羅さんを信仰するようになっちゃうのかな。そうなったら、みんなはどうするんだろう。やっぱり、ニコの敵になっちゃうかな?」
    「ならない」

    ニコの胸部に手のひらを置いた。とく、とく、と刻まれる鼓動が、だんだんと大きくなっていく気がする。

    「ニコが黒魔女になっても、オレは絶対に隣にいるし、絶対に白に引き戻す」
    「……なんで言い切れるの」
    「自信があるから」

    ニコはその言葉を聞いて黙り込んだまま、またオレの胸に顔を押し付ける。
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