夏の夜風が肌を撫でるように吹き抜けていく。
境内の笹が風に揺れ、吊るされた短冊がさわさわと音を立てていた。
高明はその音に耳を傾けながら、境内の隅にひとり佇む。
地元の神社で毎年開かれる七夕祭り。
子どもの頃から、七月七日のこの場所には、必ず敢助が隣にいた。
しかし、今年は違った。
大学進学で長野を離れてからというもの、敢助と言葉を交わす機会は目に見えて減っていった。
そもそも、これまで毎日のように顔を合わせていた二人にとって、「連絡を取り合う」という習慣はなかった。
顔を見ればわかる、言葉にしなくても伝わる、そう信じていた。
しかし、物理的な距離ができてしまうと、言葉にしなければ何も伝わらない。
だから、電話は難しくても、せめて文字だけでも繋がっていたくて、最初の一ヶ月は勇気を出して何通もメッセージを送った。
「元気にしていますか」とか、「今日はこんなことがありました」だとか。
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