素直「ずいぶんできあがっとるのう」
「んー…」
目が半分も開いていない間抜けな顔をしている私を見ながら、彼は面白そうに呟いた。
今日は、前々から雅治が家に泊まりにきて、一緒に映画を観ることになっていた。
お互い忙しくて中々会えない日々が続いていたから、朝の支度の時間からずっとワクワクしていた。なのに、ちょっとしたミスをしてしまって上司に注意をされたことがずっと心に引っかかっていた。いつもならこんなに引きずらないのに、最近ずっと忙しかったからなのか思ったよりも自分を追い詰めていたようだ。
そんなこんなで帰り道、いつも飲まない度数が高めのお酒を買ってきてしまって今に至る。
「もう映画の内容も覚えとらんじゃろ」
彼はそう言いながらテレビを消す。
「うん。覚えてないから雅治が1から説明して」
「珍しくワガママなお姫さんじゃの。ほら、寝るならベッド行きんしゃい」
慣れた手つきで自分の体に寄りかかっていた私を起こす。
「やだ。もうちょっとこのままいさせて」
「…聞くか迷ったんじゃが、何かあったんか」
「バレてた?」
隠し事はすぐバレる。私が隠すのが下手なのか、彼が見抜くのが上手いのか。
「大したことないよ〜。ちょっとうまくいかなかっただけだから」
「こういうときは素直じゃないのう」
少し呆れた声で言われてしまった。
この人にはなんでもお見通しで、なんだか悔しくなってきた。好きな人にめんどくさいって思われたくない。自分で処理できることは自分でどうにかしたいって思ってしまうから、言わないようにしてたのに。
「でも雅治だってそういう時あるでしょ。たまには私を頼りなさいよー」
彼は口数が多いわけじゃないし、これまでだって知らないうちに大きな決断をしたり、無理をしたりと心底驚かせれてばっかりだ。
多分お互い似通う部分があるからこそ、気を遣ってしまうのだろうけど。
「プピーナ。一体なんのことかの」
思い当たるところがあったのか、少しバツが悪そうに雅治が私の頬をつねりながら言う。この何気ない時間が1番幸せだなぁなんて思いながら、いつのまにかさっきまで落ち込んでいた気持ちはどこかにいってしまったことに気づく。
「ふふ、久しぶりに顔見て喋ってたら元気出てきた。ありがと」
「別に何もしとらんが、まあいいぜよ」
体を起こして雅治に向き直り、両手を広げる。
「ごめん。お酒まわって立てないからベッドまで連れてって。それで…」
流石にさっきから甘えすぎかなって思い、口をつぐんでしまった。でも、言葉の続きをまっすぐな瞳がじっと待っているのが見えた。
「一緒に寝て欲しい」
雅治がなんとなく満足そうな顔をしたような気がするけれど、知らないふりをしておこう。