朝、簓が目を覚ますと──下着以外の服を着ていなかった。腰に走ったのは痛み。数秒呆然とし、昨日のことを思い出そうとしたが──どついたれ本舗のメンバーで集まり、盧笙宅で飲み始めて以降の記憶が無い。
周りを見回す限り、盧笙の家であることは間違いない。
隣には、家主が転がっていた。……同様に、服を着ていない状態で。
待て。どういうことだ。
フリーズしたままでいると、盧笙が呻き声を漏らしながら身動ぎした。目を覚ましたらしい。
「……んん、なんや、朝か……」
「…………盧笙…………」
「……簓? なんでお前服着てへんねん、……俺、も……?」
呆然とした顔が、段々と真剣な色を帯びていく。
「……ちょお待てえや。なんやこの腰の痛み……」
「………………嘘やろ……」
嫌な予感が、募っていく。簓は勢いよく盧笙の肩を掴んだ。うお、と盧笙が言葉を漏らす。
「尻は!? 尻さえ痛くないならええねん!!」
「やめろや!! 痛ないし違和感もないわ!! 腰だけや!!」
その言葉に多少安堵を覚えたものの。やはり、この状況は──間違いが起きた可能性を如実に表していて。
「なあ違うって言うてくれ! 俺ら間違い犯してないよな!?」
「……やって俺らが好きなのは零やぞ。っそや、零は……!」
ぎゃあぎゃあと騒いでいると──
「おーおー、起きたかお二人さん」
上裸の零が、風呂場の方から顔を出した。
待て。ということは、零も。
つまりは──酔った勢いで零に手を出した、のか?
「……俺と、盧笙……お前に……?」
「ああ。随分派手にやってくれたなあ」
簓が恐る恐る聞けば──呆気なく肯定が返ってきた。歯型やキスマークを残さなかったのは、最後の理性が働いたのだろう。
はあ、と零が大きなため息を漏らす。それから呆れたような、疲労の滲んだ笑いを浮かべた。
「おいちゃん、久々に骨折れたぜ。責任取ってくれるだろ?」
「取らせてもらいます!!」
「ホンマすまん!!」
「……なんだその勢い……?」
盛大な土下座をするふたりに、零は怪訝な顔をした。「ま、いいや。風呂借りるからな」風呂場から聞こえる水音をBGMに、簓と盧笙のふたりは頭を上げ、正座をしたまま口を開いた。
「……責任、取れ言われたもんな」
「……おん。誤算やったけど……こうして付き合えたんは、素直に嬉しいわ」
惜しむらくは、今日の情事での零の様子を全く覚えていないことだが──結果オーライだ。ふたりは下着姿のまま、よし、と小さく拳を作るのだった。
「盧笙、上の服借りるぜ。お前らにダメにされたからよ」
「……どんだけがっついてたんや俺ら……」
「……わからん……」
***
「……零」
名を呼んで、簓は零の手に自分の手を重ねた。ぴくり、と零の手が小さく跳ねる。
「……なんか最近お前ら、やたら引っ付いて来るな」
「そら、なあ」
盧笙が、おずおずと口を開く。
「……そら俺ら、付き合っとるわけやし……」
数秒の沈黙。
「……あ?」
「責任取る言うたやろ」
「……お前ら、何の話してんだ?」
「……は?」
呆気にとられるのは、二人の番だった。
「腰痛かったんやで!?服脱いでたんやで!?こんなんもうヤッとるやろ!!」
「お前らが飲んで変なテンションになって腹筋1番できたやつが勝ちって言い始めたんだよ。それで腹筋やりすぎたうえ爆笑して俺の服に吐いたんだ。お前らの服も汚れたしな」
「最悪やん」
「最悪だな」