レイジさん:トート閣下、ユイちゃん:エリザベート「そうして誤魔化しても無駄ですよ。貴女は本当は、奴を愛してなどいない」
「そんなこと…っ!」
必死に抵抗するユイに、レイジは淡々と残酷な言葉を投げ付ける。
「貴女が真に愛するのは……」
「!…っ…や、やめて……」
後退るユイをじわじわと追い詰め、彼女の腕を掴み上げる。
「この私です……っ!」
「……違う!!」
乱暴に身体を引き寄せ、そのまま吸血しようとしたその瞬間、ユイは彼の身体を突き飛ばす。ヴァンパイアのレイジに比べたら人間であるユイのそれはあまりにも弱い力であったが、いつにも増して反抗的な彼女の行動にレイジは不意を突かれていた。
「そんなに私の血が欲しいなら、奪ったらいいです…」
諦めを感じさせる彼女の発言に、レイジは勝ち誇ったようにほくそえみ、もう一度彼女の方へと手を伸ばす。
「……けど……愛することはできない……!」
続けて苦しげに紡がれたその言葉は、レイジの心を凍り付かせるには十分であった。彼女に真っ向から拒否されていることを思い知り、彼は表情を失っていく。
しかし、レイジは自分が感情に支配されることを何よりも嫌っていた。快楽に弱い彼女のことだ、彼女が自分の牙を求めるのも時間の問題であると、彼は心のうちで呟く。先ほど受けた精神的なダメージには気付かないフリをして、心に蓋をしたまま。
「今に私を求める時が来ますよ…」
レイジは不敵な笑みを浮かべてそう言い放ち、青褪めるユイの表情を確認する。そうして恭しくお辞儀をすると、その場から姿を消した。