てんせい『花子くん』
って呼んでくる高い声が好きで、からかって。
もちもちとした白い頬を彼女の好きなハムスターみたいに膨らませるのがかわいくて。
ずっと、ずっと探してたはずのねねおねーさんの面影を見つけて、嬉しくなって。
あの時の俺が思ってたよりも幼い印象のある、体年齢としては年上にあたる少女。
君が俺を呼び出したときはまた会えたことに歓喜して。思ってたよりも幼くて、突っ走る無謀さを見て、庇護欲?なんていうのかな。そんなのが沸いて。
一緒にいる時間を重ねるたびに、ねねおねーさんとは違う一面を見つけて。
――また、恋心を盗まれて。
時計守の騒動でヤシロの寿命が残り少ないことを再確認されられて。
星祭りでヤシロは思ってないだろうけど、デートまがいのことをして。ヤシロが牛にひかれて、過去に飛ばされてるのをただ、見ることしかできなくて、過去の自分に嫉妬して。
四番の作ったエソラゴトで勝手に突っ走って。…ヤシロに似たのかな。無謀に行動しようとするとかさ。なんて自嘲して。ヤシロに隠し通してきた寿命のこともバレて。
宿泊学習で夜にも会えるって言われてひとり嬉しくて、生者の特権に、好きな子と生きれる時代に生まれた一番に少しだけ嫉妬して。うまく手玉に取られて。
ずっと前から、俺の行動基準はヤシロで、ねねおねーさんで。
それから目を逸らし続けて。
『俺もヤシロと一緒に…生きてみたかったな』
初めて言葉にして伝えた本心は伝えるには遅すぎて、伝えたいことにしてはあまりに遠すぎて。
遠い昔のあの日に惹かれてから、惹かれて、惹かれて惹かれ直して。恋焦がれて。
あまりに"好き"だなんて薄っぺらい二文字なんかで伝えるのはなんか…忍びなくて。
学園にいたカミサマとは違う神様がいたとして。そいつが決めた運命なんて、と思っていた自分への当てつけか。
…いいよ。俺は…自分で縁を手繰り寄せるから。
神様だろうとなんだろうと、護りきってみせるから。
…だから。
お願い。
彼岸に来ないでね。ヤシロ。
「…ぜんぶ?」
なんて当たり障りのない言葉で誤魔化した。
*
源先輩が言っていた。
花子くんを祓って、葵を助けるって。
ずっと目的は一緒だと思ってた。勘違いだったんだって落ち込んで。
それを見かねたのか光くんが話しかけてきてくれて。
源先輩から花子くんを引き離して、私と花子くんで境界のどこか遠くに逃避行。
そんな作戦。
―—花子くんの本心に触れられたと思ったのにな
断絶が起こった最後、花子くんの顔は見えなかったけれど、絶対本心だってわかるから。
いつも花子くんが私を護ってくれてたの、知ってるから。
今度は、私が。
助けてあげる。
七峰先輩とのお茶会から帰ってきた時に見た、過去のあまねくんも、花子くんも。
泣き顔なんて…
もう見たくないから。
だ、大丈夫!私は、七不思議の七番目の花子くんの助手なんだから!
「…はなこくん」
弱音なんて…
「あいたいよ…」
吐いちゃだめなのに…
もう少しだけ、弱いところを見せたら泣き止むから、どうかこの時だけは許してね。
絶対に、迎えに行くから。
たとえ、死んじゃったとしても。あなたのそばにいられたらもういいから。