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    manju_maa

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    あけちごろうくん(小3くらい) を来栖暁が親代わりになってしっかり愛しながら育てていく親子もの主明

    書き出し編

    来栖明があけちごろうくんを育てる話①願ったのは、彼に『与える』時間。
    代償は、与えた『俺』が消えること。
    でも、『俺』は消えても俺は居る。彼の運命はこれから変えるが、俺の運命は変わらない。

    ──ならばいい。充分だ。

    そう伝えると、青い少女は『分かりました』と、静かに目を閉じた。



    〇 〇



    おかあさんが死んだ。
    おそうしきで、色んなおじさんやおばさんたちに『おまえのせいだ』って、いっぱい怒られて。
    そんなおじさん達がいるいえにひきとられて。おかあさんが生きてたときはあんまりいい子でいられなかったから、いい子でいようとべんきょうしたり、おてつだいしたりして頑張ったけど、やっぱり怒られて。
    その家に子達とも仲良くなれなくて、それで他の家に行けって言われて、そこでもがんばったけど、だめで。

    ……それをずっと、ずっと、何年も繰り返して。
    そうして僕はまた、別の家に行くことになった。

    今日の朝までお世話になってた親戚から渡された紙に書いてある家の場所を目指して、やっと辿り着いた。
    書いてある通りの番号の扉の前に立って、でもインターホンがついてる場所は手が届かないので、扉をグーにした手で叩いた。
    扉の向こうからドスドスと足音が聞こえる。
    扉を開けて自分を見下ろした目が冷めていくのを見るのは何度目になるのだろうなんて思いながら、開いた扉にぶつからないように一歩下がって、今日からどれくらい関係が続くかは分からない親戚の顔を見上げようとして、

    ……ああ、もう来ちゃったのか

    上から降ってきた声に身体が強ばった。
    ああ、また『面倒な奴が来た』という目で見られているのかもしれない。
    今度はどんな人がそういう顔で自分を見ているのかが怖くて、足元から視線が動けずにいると、

    連絡したらもう出たって聞いて途中からでも今から迎えに行こうと思ってたんだけどな
    え……

    思わず、顔を上げてその顔を見上げた。
    黒い、モジャモジャした髪の、背の高い若いお兄さん。お母さんのお葬式には居なかったから、初めて見る人だった。
    お兄さんはしゃがんで、目線を合わせてきた。高いところにあった顔がいきなり目の前に来たので、ビックリして一歩下がった。

    一人で迷わなかったか?無事に着いて良かった
    ───────

    そう言って、お兄さんはニコッと笑った。
    今まで向かった親戚の家でこうやって笑って迎えてくれる人は居なかった。皆が皆、嫌な奴を見る目で見てきた。家に着いても溜息をついて、嫌々迎えられてばかりだったのに。

    まあとにかく入ろう。玄関で立ち話もなんだからな

    お兄さんは立ち上がって、閉まる扉を背中で押えながら玄関の端に寄った。僕が通れるように。
    玄関の先には片付いた部屋に繋がる短い廊下が見える。恐る恐るもう一度彼の顔を見上げると、

    ん?どうした?

    また優しく笑って、首を傾げた。
    それが慣れなくて、逸らすように視線を前に戻して玄関に足を踏み入れた。
    靴を脱いで、左右に揃えて向きを直す。お兄さんはそれをずっと黙って見下ろしている。何か言われるのだろうかと顔を見ると、驚いたように目を丸くしていた。

    偉いな……ずっとそうして来たのか?
    …………そうしないと、怒られてたので
    なんだそれ。金持ちの豪邸でもないくせに靴くらいで子供相手にそんな強く当たらなくたっていいのにな

    僕が靴を脱いで廊下に立ったところで、お兄さんは玄関の扉を閉めて、同じように廊下に立った。
    『こっちだ』と言いながら歩き出す彼に着いていく。

    ここが風呂場で、あっちがトイレ。……って、電気のスイッチ届かないな。後で踏み台買いに行こうか。……こっちがリビングと台所。……で、ここが俺の部屋だ。特に入っちゃダメとかはないから自由に入ってもらって構わないよ

    一通り家の中を案内されて、ひたすらコクコクと頷く。ここまで丁寧に案内されたことも無かったけれど、どっちにしろ家の間取りは早く覚えないといけない。そうしないとまだ怒られてしまうから。
    お兄さんの自室の隣にはまだ案内されていない部屋の扉がある。あの部屋はなんなんだろうとジッと見ていると、彼はまた笑った。

    じゃあ最後はお待ちかねの、君の部屋だ
    ……僕の?
    当たり前だろ?

    言いながら、最後の部屋の扉を開ける。
    ベッドと勉強するための机、タンスが一通り置かれている小さな部屋 。それはどれも新しくて、誰かが使うのを待ってたように佇んでいた。

    ベッドも机もちょっと大きいけど多分君は俺くらいの身長まで大きくなりそうだからな。それを見越したサイズにしたよ。机なんかは今は大きくて使いにくいかもしれないから、君が良ければ勉強とかはリビングの机でやってもいい。そのうち丁度良くなる。……いっぱい食べて大きくなろう

    と、大きな手が頭を撫でた。
    その動作はとても優しくて。

    ………………

    お母さんが生きてた頃を含めても、いつぶりなのが分からないくらい久しぶりの感覚。
    今まで会ってきた親戚達とは違う、生まれて初めて会う優しい人。
    そんな人の顔を改めて見上げると、僕の視線に気づいたその人はまたニコリと笑う。
    ……それが、その意味が、分からなかった。

    ……お兄さん
    え、お兄……?あ、そうか。そうだよな。ごめんごめん

    お兄さんは苦笑すると、もう一度膝を折って、僕に目線を合わせてきた。

    自己紹介、まだだった。俺は、えーっと……あきら。来栖暁って名前なんだ。これからは暁って呼んでくれて構わないよ
    …………あけちごろうです
    うん、吾郎。君にピッタリのカッコイイ名前だ。……あのな、吾郎に一つ先に謝らないといけないことがあってな

    お兄さん──改め、暁さんは少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
    きっと、一ヶ月後にはまた別の親戚の家に行け、とかそういうことでも言われてしまうのだろう。今までの人とは違う優しい彼でも結局そうなる。
    別にいい、そんなのは慣れっこで──

    俺な、吾郎の親戚とかじゃないんだ
    え?
    君の親戚の人達に無理言って、君を引き取らせて欲しいって言っただけの赤の他人なんだ。後見人ってやつ?……まあ吾郎にはまだ難しい話かな
    …………
    だから、この先もしかしたら親がどうとか色々と言われて嫌な思いをする事があるかもしれない。なるべくそういうことにはならないようするけど、万が一って事もあるから。……そこだけは許してほしい
    …………それ、だけ?
    …? そうだけど

    それが何か?という顔で暁さんは不思議そうに首を傾げた。

    しばらくしたら、他のところに行けって、言わないんですか?
    言うわけないだろ?今日から俺は君のことを育てなきゃいけないんだから
    でも……
    吾郎は見ず知らずの大人と暮らすのは嫌か?

    ふるふると必死に首を横に振った。
    ……暁さんは優しい人だ。嫌な顔をされるより暁さんみたいな人の方がいい。
    だからこそ、そんな人にまで結局見捨てられてしまう日がきっと来てしまう。今まで、いつもそうだったから。

    ………………大丈夫だ
    え…。…っ!

    そっと抱き寄せられた。
    暁さんの大きな身体の中に僕の身体は収まった。背中に手を回されて、身動きが取れない。でも苦しくない。

    ……悪いけど、君のことは色々聞いて全部知ってる。親戚の人達は否定してたけど、今まで嫌なこと沢山言われてたんだろうってことも分かる
    …っ……

    大きな手が、頭を撫でた。
    何度も何度も、大切なものを触るように。優しく。

    今日会ったばっかりの大人のことなんか信じられないかもしれない。だから今は信じなくていい。でも、俺は吾郎のこと裏切らないよ。傷つけないし、見捨てない。出ていけなんて絶対言わない
    …………
    吾郎はお母さんのこと、好きだったか?

    こくんと頷く。
    お母さんは、ずっと優しかった。優しかったから、僕のために頑張ってくれて、そして死んでしまった。

    じゃあ、吾郎のお母さんに負けないように、吾郎のお母さんに安心してもらえるように、俺も吾郎のこと大切にしてみせる。だから、少しずつでいいから、俺の事をいつか信頼できる大人だって思えるようになってほしい。吾郎に信じてもらえるように、好きだって言ってもらえるように、頑張るから
    …………………本当に?
    ああ、約束する。だって、そのために俺は、君を引き取ったんだ

    肩を掴まれて、離される。
    僕の視線と同じ高さにある暁さんは、「な?」と言ってまた優しく笑ってみせた。
    その笑顔が、お母さんが向けてくれていたかつての笑顔と重なって見えて、

    ……お、かぁさ……

    耐えられなくて、涙が溢れた。
    ……色んな人に『お前のせいだ』と言われて。厄介者扱いされて、冷たい目で睨まれて、そして結局出て行けと言われ続けてきた。
    泣いてたら余計にその人達に怒られるから、泣いたらダメなんだと必死でこらえ続けてきた。

    ……大丈夫。悲しい時は好きなだけ泣いていいんだ。……怒らないよ。大好きな人が死ぬのが悲しいのは当たり前なんだから
    ……ぇっぐ……うぇ……
    辛かったな、今までずっと。……ごめんな

    そうしてまた暁さんの胸の中に収まる。
    頭を何度も何度も撫でながら、優しい言葉をかけてくれる。
    それがとても、温かくて。

    うあああああああ…っ!

    僕は、初めて声をあげて泣いた。
    暁さんは、ずっと、ずっと、優しく抱き締めてくれていた。


    〇 〇



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