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    manju_maa

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    manju_maa

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    ごろうくん視点。獅童編中盤の全カットした空白の二週間の話の一部とヤルオ討伐後の話。「」ない。
    本当は本編に入れたかったけど時間が足りなくて泣く泣く書くのを止めたけどやっぱり書きたかったから書いたシーン

    来栖暁に育てられたあけちごろうくんの話~番外編③~色んな人の世話になりながら、39度近くまで上がっていた熱は完全に引いた。今は蓮が診せたという医者に言われた通り、静養期間だ。身体が元気なのに学校にも仕事にもなんなら外にも出れないというのは、中学時代の謹慎中の三日間を思い出す。
    熱がある間は昼間は双葉に、夜から朝は蓮が泊まりがけで付きっきりでそばに居たが、熱が引いたことで蓮はひとまずルブランに返した。
    『こうなったのは俺のせいだから』『お前は放っておくとまた無理するから』と色んな理由を述べられて拒否されたが、ならモルガナを監視役として引き続き家に置くからという妥協案を出すと、渋々承諾した。とはいえ昼間は双葉が家に乗り込んできて持参したパソコンをカタカタといじっている。蓮と約束ノートなるものを作って、それのおかげで一人で外出もできるようになったんだと自慢げに話していた。『明智はわたしの恩人だからな!』と満面の笑みを向けられたときは眩暈を起こしかけたが何とか耐えた。
    『前』はともかく今は違うからと言い聞かせつつ、ならばと時間潰しに読んでいた本を置いて、双葉に向き合う。

    ……ねえ双葉、ちょっと調べてほしいことがあるんだけど
    んー?なんだ?
    前に獅童のこと調べてやるって言ってくれたよね。それを頼みたいんだ
    …お、遂にか!
    ああ。多分、次のターゲットは獅童になると思う。改心後の立件に備えて証拠を集めておきたいんだ
    ふんふん、なるほどなるほど

    前にイセカイナビで冴さんの名前を検索してみたがパレスは見つからなかった。探そうと思えば怪盗団のターゲットになりえるパレス持ちの歪んだ人間なんて腐るほど居るかもしれないが、そんな回り道をする必要はもうない。

    つまり、こういうことだな?
    うん?
    やるんだな?明智!今、ここで!!……ってやつだな?
    ……まあ、やるのは君だけど
    わははは!……うん、満足した。あとは任せろ
    あ、うん……よろしく……

    そうして双葉はノートパソコンの画面を見つめながらカタカタとキーボードを叩き始める。完全にメジエドを撃退した時のような完全集中モードに入ったようだ。

    ……………………

    結局なんだったんだよ今のやり取りは。
    勝手に満足するなよ。

    〇 〇

    熱が引いたことを聞きつけた怪盗団達は待ってました!と言わんばかりに見舞いに行くと口を揃えて言い始めたが、生憎あんな大人数が全員入るほど暁が用意したこの部屋は広くない。ていうかそもそも他人を家に入れたくない。
    しかし既に蓮や双葉が毎日来ていることを考えると今更な話でもある。ならせめて来るなら少人数か一人ずつで来いと返すと、最初に顔を見せたのは意外にも春だった。

    久しぶり。調子はどう?
    おかげさまで元気になったよ。心配かけて悪かったね
    ううん。謝るのはこっちだよ。お父様の改心の件で無茶させてたんだよね。初めてパレスに行った時だって私のこと守りながらだったから負担増えてたんだろうし……本当にごめんなさい
    気にしないでいいよ。とにかくあがって
    ええ、お邪魔します

    春はぺこりと頭を下げながら敷居を跨ぐ。
    双葉は既に帰宅しており、家には泊まり込みしているモルガナしか居ない。

    よおハル!久しぶり!
    モナちゃん!元気そうでよかった

    モルガナも僕が倒れて以降ずっとこの家に居たそうだから彼女と会うのはデスティニーランドぶりなのだろう。そんな二人の再会を尻目に見ながら、一般常識として客人に出す飲み物の用意しようとして手が止まった。普段自宅に人を呼ぶという概念があまりにもなかったため、恥ずかしながらその一般常識ですらこの家では通用しないようだ。彼女には申し訳ないが普段嗜んでいるであろう紅茶などのお洒落なものは出せそうにない。
    思い返すと暇を見ては顔を見せに来るというより一方的に押しかけてくる鈴木も、ここ連日入り浸っていた蓮も双葉も、全員息をするように自然に玄関を通って、飲み物は自分で買ってくるか勝手に冷蔵庫から取り出して飲み始めるという自由な振舞いだった。それでは客人に振舞う飲み物の有無を気にする機会などあるわけもない。気軽すぎる間柄というのも少し考えものだな。

    …ごめん。君の口には合わないことは分かったうえで失礼を承知で聞くんだけど、インスタントコーヒーと牛乳とただの水、どれがいい?
    ええ?病み上がりの人にそんなことさせられないよ。気にしないで
    流石にそれは気が引けるんだよ。君みたいな根っからのお嬢様相手だと、特に
    そ、そう…?じゃあちょっと肌寒くなって来たし……コーヒーを頂こうかな
    本当にごめん。今度ティーバック買っておくよ
    謝らないで。押しかけたのはこちらだもの。気持ちだけで充分だよ

    そう言って笑う春の優しさが正直ありがたい。ただ男のプライドとして彼女の優しさに甘えるわけにはいかない。今回をきっかけに頑なに教えなかった住所がバレてしまった。今後あのお人好し集団が突然押しかけて来ることは多々ありそうだし、誰がいつ来てもいいように紅茶くらいはすぐに出せるようにしておこうと心に決めた。竜司辺りに馬鹿にされると癪だから。
    お湯で溶かした粉末コーヒーが入った湯気の立つマグカップをリビングテーブルに座る春の前に置いてから、その正面に腰掛ける。
    春の動作はマグカップに入った安物のインスタントコーヒー相手であっても令嬢としての上品さがしっかりと表れている。その気品さと出したものの貧相さが釣り合わなくて、余計に罪悪感が募ってしまった。

    でも意外だな。明智くんってインスタントのコーヒー飲むんだね
    それどういう意味?
    だっていつもルブランのおじさまや蓮くんのコーヒー飲んでるんでしょう?あそこのコーヒーの味を覚えちゃうと、それ以外のコーヒー受け付けられなくなってそうだなと思って
    ……………

    まあ、正直に言うと春の言う通りだ。厳密に言えばマスターや蓮のと言うよりかは暁の淹れたコーヒーを、の方が正しいが。
    暁のコーヒーを飲んで育ったようなものだ。だから正直インスタントのコーヒーなんか劣化品すぎて飲めたものではない。
    ないのだが、暁を真似て専用器具を使って淹れたところで、自分のコーヒーの味の方が劣化感が出てしまいそうだったから。なら劣化していて当たり前のインスタントを飲んでいた方が多少はマシというよく分からない発想で、家ではインスタントを愛用している。

    蓮くんとも話してたんだけど、最近コーヒー豆に興味があってね。家でも豆を栽培したりして、色んなお店のコーヒーを飲み比べてるの。当たり前だけどインスタントだとしてもしっかりコーヒーの味するんだなって今また一つ勉強になったわ
    君が今まで飲み比べてきたような本格的なコーヒーとは遠く及ばないけどね
    そうかもしれないけど不味いわけじゃないもの。コーヒーって質だけじゃなくて気持ちも大事だと思うの。気持ち一つで味も変わる。だから明智くんが淹れてくれたコーヒーの味、私は好きだよ

    そういえば暁も僕が煎れたコーヒーに対して似たようなことを言っていた気がする。
    今回に関しては別に粉を入れてお湯を注いだだけのものだから、『僕が淹れた』という括りには入らないと思うが、まあ食い下がる話でもないのでそれ以上は言及しないでおく。本人がそう言ってくれるのなら、そういうことにしておこう。

    …それで今日来たのはね、お見舞いもそうだけど…私の口から報告したかったの。貴方と、モナちゃんに
    僕に?
    ワガハイもか?
    ええ。怪盗団の皆よりも先に、私を導いてくれた、恩人の二人に

    モルガナを顔を見合わせた。
    確かに最初に彼女をパレスで連れ回したのは僕とモルガナだけれど。

    オクムラフーズのことよ。会見の後、お父様、辞任表明したの

    それはネットニュースやテレビで見ていたから知っていた。
    あれだけブラック企業として話題になって記者会見までしたのだ。そのまま社長を続けるより、身を引いた方が信頼回復の第一歩としては妥当な判断だと思う。
    状況だけ見れば『前』の時と変わらない。大きく違うのは奥村の生死のみ。方針はともかく今までずっと会社を支えていた奥村が突然死ぬ形で居なくなるか、きちんと後任に引き継ぎをした上で生きて社長の椅子から離れるかでは当然ながら残された人間達の立場も心境も全てが変わる。

    後任はもう決まってるの?
    ええ。将来的には私が継ぐことになってるんだけど、私も今は学生の身だからその間は高蔵さんっていう人に決まったわ。お爺様が経営してた頃からの常連さんで、その縁でオクムラフーズに入った人なの。お父様もできる限りサポートするって言ってくれたし、私も色々勉強しながら少しずつお手伝いしていこうと思ってる。新事業の計画もあってね。時間をかけてでも、オクムラフーズを良い方向に立て直せるよう頑張っていこうって、皆で話し合ったの
    ……そう

    高蔵という名前も知っている。確か『前』の時も死亡した奥村の後任としてオクムラフーズの新社長になっていた男だ。それ以降のことは知らないし、知ろうともしなかった。それにそうなって間もなく死んだ身としては彼が取り仕切るオクムラフーズがどうなったのかは知る由もない。

    明智くんが言ってくれたように……お父様、今までのこと全部謝ってくれたわ。杉村さんとの婚約もすぐに破棄してくれた。これから苦労することは多いと思うけど、でもお父様も優しかった頃に戻ってくれたし……これで良かったんだと思う。だから、そのきっかけをくれた貴方達にお礼が言いたくて
    きっかけはワガハイらだとしても行動したのはオマエだぜ、ハル
    ……うん、そうだね。モルガナの言う通りだ

    そう、礼を言われることはしてない。
    全て、春の心の強さが導いた結果だ。僕はそれに乗じて自己満足の罪滅ぼしをしただけで、何もしていないのだ。

    それでもよ。明智くんが背中を押してくれたからこそ、今がある。あの時の言葉が本当に心強くて、頼もしくて、勇気が持てた。……だから、本当にありがとう
    ……………………………

    そう言う春の笑顔は穏やかで晴れていて、相変わらず眩しかった。直視できないほどに。
    ……君だけは、僕に礼を言ってはいけない。だって、かつて君の父親を殺し、その本来あるべき笑顔を黒く塗りつぶしたのは、紛れもなく僕なのだから。




    〇 〇





    終わったな、明智
    ……うん。そうだね

    雪が降り始めるクリスマスイブの渋谷駅。仲間達と別れ、蓮と二人で並んで立ち尽くす。
    メメントスとの融合もなくなり渋谷駅前の景色は元通りになった。そんなこと、初めからなかったかのように周りの通行人達は行き交っている。 しかし今まで獅童を支持していた大衆の意見は悪人というものに変わりつつある。人の認知なんてそう簡単には変わらないだろうから、ひとまず今はそれでいい。

    ……お疲れ様、二人とも

    そんな中、カツカツとヒールがコンクリートを叩く音と聞き覚えのある声が後ろから近付いてくる。
    蓮と同時に振り返ると、冴さんがそこに居た。先程の戦いで彼女の声も聞こえていたし、元々近くには居たのだろう。

    なんだかさっきまで大変なことになってたけれど、もう大丈夫なのよね?
    はい。恐らくは
    ……そう。本当に、お疲れ様

    そう言って、冴さんは穏やかに微笑んだ。
    ……彼女のこんな笑顔を見るのは初めてだ。こういう顔もできるんだ、この人。
    しかし穏やかな顔も一瞬。いつものクールな表情に戻って、蓮の方に向いた。

    雨宮蓮君、だったわね。真の姉の、新島冴です
    …どうも
    明智くんや真から話は聞いてるわ。獅童の立件や君の冤罪については、私達大人に任せて頂戴。思うことはあるだろうけど、今は信じてほしいとしか言えないわ
    ………分かった。今は貴方を信じる
    ありがとう

    小さく頷き合う蓮と冴さん。
    そしてそのまま冴さんはこちらを向いた。

    ……それで、明智くん。私をここに呼びつけた理由って前言ってた渡したいもののことよね?
    話が早くて助かります

    胸ポケットからUSBメモリーを取り出して、それを冴さんに渡す。
    冴さんには予め今日の夜に渋谷駅前に来て欲しいと伝えていた。きっと夜には全ての戦いが終わっていると、信じてのことだ。

    中に蓮が獅童に暴行したとされている瞬間の録画データが入ってます。これを証拠として提出して再審申請をして頂ければと
    ……まあ貴方が用意したものなら間違いなく証拠になる内容なんでしょうね。使うのは構わないけど、目撃者の貴方にも証人として出廷してもらう可能性があるわよ
    勿論構いません。蓮にもその事は伝えてますし。……ね?

    蓮の方に顔を向ければ、こくんと頷かれる。

    ……そう。分かった。じゃあこれは預かります
    頼みます、冴さん
    何かあればまた連絡するわ。……じゃあね、メリークリスマス

    そうして踵を返して去っていく冴さんの後ろ姿を二人で見送った。
    流石に雪も降る夜に立ち続けていると寒くなってくる。早めに退散して家で温まろう。

    ……じゃあ僕も帰るよ。君も風邪引く前に早く帰りなよ、蓮
    待ってくれ

    しかし足を踏み出そうとした所で、蓮に手を掴まれた。

    なに?
    お前、どうせ帰っても一人だろ
    ……そりゃあ。一人暮らしだからね
    なら一緒にルブランに帰ろう。クリスマスに一人なんて寂しいだろ
    …は…?

    よりにもよって言うことがそれなのか。ふざけてんのか。
    その辺ではしゃぐ浮かれた馬鹿な男女共と一緒にしないでもらいたい。

    別に寂しくなんかないよ。そもそもクリスマスなんて気にしたこともない

    少なくとも、暁が消えた後の二年間は。
    誕生日と同じだ。アイツが居ない時点で、誕生日もクリスマスも、僕にとって存在価値はない。周りがやたらうるさいだけの、ただそれだけの日だ。

    お前が気にしなくても俺が気にするんだ

    ギュッと、手を掴む力が強くなる。その、こちらを真っ直ぐ見つめるグレーの瞳は揺れている。僕を引き止めるのに必死になっている、そんなように見えた。

    …………蓮
    なんだ
    言っておくけど、僕はモルガナの代わりにはなれないよ
    ───っ

    揺れていた瞳が見開かれて、掴んでいる手がビクッと揺れた。彼にとっての地雷を、綺麗に踏み抜いたのだと確信した。
    蓮が今、肩に下げているカバンは中身がないのかしおれている。いつもそこに入って、モゴモゴと動いていた黒猫の姿はない。
    異世界の消滅と共に現実の世界を生きる存在ではなかったモルガナもまた、同時に消失したのだ。

    ……………………

    しかし、蓮はすぐに表情を真剣な眼差しに戻した。

    そんなこと、思ってない。モルガナはモルガナ、お前はお前だ
    ならなんで僕に構うんだ。放っておいてくれないか。疲れてるんだよ
    嫌だ
    嫌だって……君ねえ……
    行くぞ
    ちょっ……だから……!!

    そうして蓮は僕の手を掴んだまま渋谷駅の方へと歩き出す。
    なんだか既視感があるなと思ったけれど、あれは奥村パレスの時もこうやって手を引かれていたな、なんてどうでもいいことを思い出してしまった。
    あの時と同じくこちらの事を気に停めずズカズカと歩き続ける蓮の歩幅に合わせるように、引きずられるように歩いた。

    ……クリスマスだっていうのに恋人を差し置いてなんで僕なんだよ
    恋人なんか居ない
    嘘つけよ。各地で色んな女性と会ってるくせに
    嘘じゃない。皆、友達で協力者だ

    きっぱりと返された。少なくとも杏、真、双葉、春が蓮を見る目はリーダーを慕うそれとは別の感情が孕んでいるのは目に見えていた。それ以外にも色んな女性と接点があるのは『前』から変わらない。だというのにそれらを全て友達と協力者の一言で片付けている。
    ……コイツ、まさか数多の告白をそう言って蹴ってきたのか?
    まあ二股三股かますよりかは誠実な対応だが、振られた側からすればたまったものではない。

    ……随分と罪作りな男だな
    全部明智のせいだ
    はぁ?人のせいにしないでもらえる?
    いや、明智のせいだ。明智のことが心配すぎて彼女作る気になれない
    人のせいにするなっつってんだろ

    歩きながら蓮が横目で一瞥して、また前を向いた。
    なんなんだよさっきから、コイツは。

    ……心配したんだ。熱出して倒れた時も、ヤルダバオトにロキを奪われた時も、ベルベットルームで一人だけ見つけられなかったのも、それ以外でも。ずっと。ずっとだ
    …………………………
    だから俺はちょっと怒ってる。お前は俺を心配させすぎだ。なので、ルブランで佐倉の人達とのクリスマスに参加しろ。拒否権はなしだ

    それきり、蓮は黙って歩き続けた。
    手は離さないまま、カツカツと足音だけ鳴らして。

    ………知るかよ、そんなの

    漏らした不満も、聞き入れられることはなかった。


    〇 〇


    ……結局、本当に佐倉家のクリスマス会に最後まで巻き込まれた。
    ようやく解放を許されたのも、マスターが雪による電車の配慮をしてくれたからだし。これで明日は明日で怪盗団のクリスマスの打ち上げがあるのだから無理やり食べさせられた七面鳥の油で胃もたれしそうだ。

    (……人の気も知らないで。あのクソゴミ)

    よりにもよって佐倉家の人間達とクリスマスなど、どの面下げて時間を過ごせというのか。この世界の明智吾郎は若葉を害しているわけでもない、純粋な仲間として皆に受け入れられている。だからマスターも双葉もルブランに足を踏み入れた時点で笑顔で歓迎してくれた。なんなら感謝もされてしまった。
    だけれど、その中身は二人の大切な存在を殺し、仲間も裏切った犯罪者だ。
    向けられる純粋な笑顔が眩しくて、本当に拷問を受けているかのような気分だった。

    ………………

    それでも、その笑顔が暖かいと思ってしまった。
    それはやっぱり、久しぶりに『家族』に触れてしまったからなのだろう。
    ただでさえもう消えたと思っていた暁と再会したばかりで頭が追いついていないというのに、本当にどいつもこいつも自分勝手な雨宮蓮である。

    ……?

    そうこうしているうちに自宅であるマンションの前に到着した。雪が降り続けるエントランスに続く出入口の前に、小さな何かが佇んでいる。
    長い間そこに居たのか雪が少しだけ積もっているそれは、近づいてみると黒猫だった。
    黒猫の顔が、ブルーの瞳がこちらを向く。青い宝石のような、綺麗な目と、白と黒の、ハチワレで───

    …よ、よおゴロー。さっきぶり

    しかも喋った。
    喋る白黒のハチワレ猫の、似た個体なんか居るわけがない。目の前に居る猫は間違いなく、正真正銘モルガナだった。

    君、消えたんじゃなかったの?
    えーーと…消えたのは、異世界のワガハイだけだったみたい…
    はぁ?
    わ、ワガハイだってよく分かんねーよ!皆の消えないで欲しいって声が聞こえて、気づいたらこの姿で渋谷に居たんだ
    ならさっさと出て来れば良かったじゃないか。皆かなり落ち込んでたよ
    それは……その……あれだけカッコつけて消えた手前すぐ出るのも恥ずかしくて……

    なんだそれ。
    さっきのクリスマス会の時も唐突にモルガナのことを思い出した双葉が泣き出してたものだから男が三人がかりで慰めた後に軽いお通夜ムードになったばかりだ。全方面に誤って欲しい。

    皆の前に出るのは嫌だけど、僕なら構わないってこと?
    そういうわけじゃねーって!ただ、その、二人で落ち着いて話す時間が必要だと思ったんだ!
    ……話す時間?

    モルガナはこくりと頷く。

    さっきも言ったろ。ワガハイも今は全部の記憶がある。だから、レン……いや、オマエ的にはアキラのことだって、今のワガハイなら知ってるんだ
    ……………………

    ……そうか。そういえば、そんなことを言っていた気がするな。
    傘を閉じて、その冷え切った小さな身体を抱き上げる。

    とにかく中に入るよ。こんなに冷えたんじゃ先に風呂入らないと
    ミルクも頼んだ!
    はいはい

    ひとまずモルガナと共に帰宅した。
    風呂に入れて毛を乾かした後、要望通り温めた牛乳を出してやる。

    ここに来るのも今となっては慣れちまったけど……レンもこの部屋に入ってたんだな
    今は本来の保護者の人が契約してる事になってるけど、元々はアイツがこの部屋を用意したからね。それで、この部屋で僕は全部を思い出した

    モルガナの言うレンとは今頃屋根裏で一人になっている蓮ではなく、ベルベットルームに居るであろう蓮……暁を指している。

    なあ、ゴローは本当にレンに育てられたんだよな
    そうだよ。小二から高校の入学式の日まで、ずっとアイツと暮らしてた
    ……その、楽しかったか?
    ……………………

    返事はできなかった。
    その言葉を言うのは、モルガナ相手ではない。それはモルガナ自身もすぐに察したようだ。

    いや、悪い。今の言葉は忘れてくれ
    ……別に
    なあ、レンとの話聞かせてくれよ。ワガハイも、アケチと別れた後のレンのこと聞かせてやるからさ

    きっとモルガナは蓮との再会よりこちらを優先するべきだと思って渋谷からここまで来てくれたのだろう。
    しかし、その言葉には首を横に振った。

    ………悪いけど、今は話す気にも聞く気にもなれない
    なんでだよ。もしかして嫌なのか?
    …そうじゃない。悪い意味じゃないんだ
    なら…
    三月の卒業式に、アイツが外に出てくる。約束したんだ、絶対に来いって。…多分その時が正真正銘、蓮の最期になる
    ……!

    暁がまだ雨宮蓮だった頃に、僕と別れてからどういう未来を過ごし、そして『こちら』に来たのか。蓮が居なくなった後、残された怪盗団達はどう思ったのか。それが気にならないわけではない。
    ただ、今ここでモルガナとその話で盛り上がってしまったら『過去の話』になってしまう。
    それは嫌だった。だって、暁はまだ生きてるんだから。今もきっと、約束を果たすために頑張って耐えてくれているはずだから。

    だから、その話は蓮をちゃんと見送った後にゆっくりしたい。その方が…伝えたい言葉も、ずっと思ってたことも、全部直接言えるから
    ……そうか。そうだよな
    悪いね、わざわざ来てくれたのに
    いいんだ。オマエがレンに対してそう思ってくれてるだけで、ワガハイも安心した

    そう言うモルガナは満足そうにしている。
    このモルガナは、二人の雨宮蓮と相棒として過ごしてきた。確かに大切な相棒の決死の覚悟が無駄になったところなんて見たくはないだろう。

    ……じゃあレンの話はまた今度だ
    そうだね

    二人で頷き合う。
    タイミングなんて、暁を見送った後であるなら何時でもいい。
    だって、僕は今も生きている。暁が望んだように。未来を、何にも縛られず、自由に生きているから。
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    Replies from the creator

    manju_maa

    DONEタイトル通り。二番煎じに二番煎じを重ねてテンプレを煮詰めたような話。たぶん主明
    ※ペルソナとか異世界とかなんもない本編とは全く関係ない謎時空
    ※明智が架空の病気(※ここ大事)で心臓弱い子
    ※明智ママがガッツリ出てくる。
    ※なんでも許せる人向け
    小学生の病弱吾郎くんと蓮くんが出会う話①この街には小学校の登校路から外れた道を行くと、低めのフェンスに囲まれたかなり大きい家がある。アニメなんかでよく見るお屋敷のそれ。道路も公園も、なんなら住宅も少ないその区域に静かにひっそりとそれは佇んでいた。
    フェンスの内側は芝生が生えた庭があって大きな桜の木が一本生えている。花見し放題だななんて思いながらボーッと眺めていたある日、飛び交う桜の花びらに混じって木の陰に隠れていた屋敷の二階の窓から外を覗く奴が居ることに気づいた。
    チョコレートのような、牛乳をたっぷり入れたココアのような、そんな茶色の髪を風で揺らしながら。夕方近いとはいえまだ太陽が昇っている時間帯にパジャマの上からカーディガンを羽織るという格好で、そいつはずっと外を眺めていた。髪は長いし顔も女の子みたいで、下から見上げるだけじゃ性別は分からない。年齢は多分同い年くらいだと思う。
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    manju_maa

    PROGRESSごろうくん視点。獅童編中盤の全カットした空白の二週間の話の一部とヤルオ討伐後の話。「」ない。
    本当は本編に入れたかったけど時間が足りなくて泣く泣く書くのを止めたけどやっぱり書きたかったから書いたシーン
    来栖暁に育てられたあけちごろうくんの話~番外編③~色んな人の世話になりながら、39度近くまで上がっていた熱は完全に引いた。今は蓮が診せたという医者に言われた通り、静養期間だ。身体が元気なのに学校にも仕事にもなんなら外にも出れないというのは、中学時代の謹慎中の三日間を思い出す。
    熱がある間は昼間は双葉に、夜から朝は蓮が泊まりがけで付きっきりでそばに居たが、熱が引いたことで蓮はひとまずルブランに返した。
    『こうなったのは俺のせいだから』『お前は放っておくとまた無理するから』と色んな理由を述べられて拒否されたが、ならモルガナを監視役として引き続き家に置くからという妥協案を出すと、渋々承諾した。とはいえ昼間は双葉が家に乗り込んできて持参したパソコンをカタカタといじっている。蓮と約束ノートなるものを作って、それのおかげで一人で外出もできるようになったんだと自慢げに話していた。『明智はわたしの恩人だからな!』と満面の笑みを向けられたときは眩暈を起こしかけたが何とか耐えた。
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