Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    misasasa23

    @misasasa23

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 👏 💒
    POIPOI 3

    misasasa23

    ☆quiet follow

    0422花主プチ展示品
    作:みさ
    ギャグテイスト

    side悠


    3月に入り、俺が親元に帰る日を数週間後に控えたこともあって最近陽介がやたらと堂島家に泊まりに来るようになった。まるで少ない時間を惜しむように。

    先ごろ冬の寒い河原で殴り合った俺たちは晴れて恋人同士というやつになったのだから離れ難いのは仕方ない。俺だってできるだけ一緒の時間を過ごしたいと思う。だが、こうも頻繁だと会えない時間を示唆されているようで何とも複雑な気持ちになってしまう。
    たとえ一時期離れたとしても八十稲羽には長期休みごとに帰るつもりでいるし、大学進学を機に陽介とルームシェアをする計画だってある。それこそもっと長い時間を共にする覚悟があるのだからこれくらいの別れ……寂しくないと言ったら嘘になるが耐えられないわけではない。むしろ一緒にいすぎて逆に離れ辛くならないか?などと思ってしまう。

    2人で歩く鮫川の河川敷、頭上には桜の花が蕾を膨らませている。
    「そろそろ桜咲くなあ…でもふたりで花見できる頃には帰っちまってるかもしれねーけど」
    ふと陽介が漏らす言葉にも心なしか寂しさが滲む。それが何となく悔しくて歩調を少し速めた。
    「別に、桜は今年だけじゃないだろ。…老後まで時間はある」
    「はは、老後って直斗の影のバステかよ。しっかしお前爺さんになっても渋いとか反則だよなぁ…」
    俺としてはこの先もずっと一緒だろ、という反論も込めて口をついた言葉だったが陽介はその意図に気付いてないのかさらりと話題を変えていく。そういうとこだぞ、ガッカリめ!とも思ったが口に出してからだいぶ恥ずかしいことを言った自覚が湧いてきたのでそっとしておいた。








    side陽介

    「うめ〜〜…お前お菓子まで作れるとかすげーな」
    バイトのない日の放課後はすっかり堂島家で過ごすのが癖になった。今日は悠お手製のプリンを出してもらったのでありがたく御相伴に預かる。ちょっと堅めのしっかりした弾力のプリンは程よい甘さで、中のカラメルの苦味と調和している。
    ご飯はもちろん美味いけど、お菓子作りまでこなすとか嫁力高すぎねえ?毎日相棒の作った味噌汁と生姜焼きとプリン食べてー。とか本人に伝えたらハイハイってクールに流されそうなことを考えている時にふと先週の何気ない会話が頭をよぎった。
    空になったプリンの皿を流しで洗いながら、隣で冷蔵庫の中身とにらめっこして今夜の献立を考えているであろう悠を横目で見る。
    「悠、そういえばこの間の帰り道の…老後になったらってやつさぁ」
    口に出した瞬間悠の動きがびたりと止まった。錆びついた機械のようにぎぎぎ、とこっちを見た悠の顔は大変渋い表情で染まっている。まるでムドオンカレー口に突っ込まれたみたいな。いつも真っ直ぐこっちを見つめてくる悠には珍しく視線を四方に巡らせたかと思えば静かにそっと冷蔵庫を閉める。
    そして、スクカジャでもかけました?って勢いでテーブルの上にあった財布とエコバッグを手にして早歩きで玄関へと向かった。



    「ちょっと買い忘れ思い出したからジュネス行ってくる」
    「ちょっ、?!まてまてまてまて!!」
    なんかもう見事なまでの逃走っぷりはレアシャドウかってレベルだ。俺も慌てて堂島家の鍵を引っ掴んで戸締りをして後を追う。競歩選手もかくやという早歩きは走ってもなかなか距離が縮まらず、やっと追いついた頃には鮫川の河川敷に差し掛かっていた。
    「ついてくるな!お前の役目は家の守りだ!」
    「誰が攻めてくんだよ!それよりさっきのはな…」
    「あーーー夕飯なににしようかなー肉じゃがかなー」
    ただでさえ町の人気者で目立つこいつと大声で半ば喧嘩じみた攻防をしつつ早足で歩く俺はそれはそれは河川敷を歩く人の目を引いているが構っている余裕はない。

    いくら聞こうともはぐらかし、ごまかし倒されて、買い忘れたらしい人参と糸こんにゃく(さっき冷蔵庫で見た気もするが)を買った俺たちはジュネスを後にしまた先程の河川敷へと戻ってきた。その頃にはやっとお互い落ち着いて歩調もいつも通りのものに戻っている。とはいえ相棒は半歩先を行く。もう教えてくれる気はないと判断した俺はぼんやりと悠の背中を眺めた。ぴんと伸びた背筋でいつも俺たちを導いて、先陣を切ってくれていた頼もしい背中だ。
    「なんで今更気付くんだ。このガッカリめ」
    いつもと変わらない背中で、少し歩調を速めればいつもと変わらないクールな眼差し。でもその耳だけは雄弁に悠の内心を物語っていて、とはいえそれを指摘すれば少しばかり意地っ張りなこいつは間違いなく拗ねるだろう。それがわかっているから敢えて口には出さず悠の隣に並ぶ。
    「そーそー。俺ガッカリだからさ…焦ってんのにしっかり俺の好きなもん作ってくれようとするしっかりした奴が一生そばにいてくれねーとダメみたい」
    な?と覗き込むと顔を逸らして、必死に平静を保とうとする悠の掌をそっと握った。いつもより熱い手を引いて家への道を歩き出す。
    雲ひとつない青空の下。
    いつかの2人が再び歩く桜並木を。





    余談だが、競歩で店に向かうところも手を繋いで帰るところもばっちり目撃していた完二に悠が賄賂という名のカップケーキを贈るのはまた別の話である。



    End
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖☺☺😍❤💘💖👏👏❤❤😍😍☺☺☺☺☺🙏🙏🙏🙏🙏🙏💴💴💴💴💴💴💴💴
    Let's send reactions!
    Replies from the creator