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    baketuM0510

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    baketuM0510

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    牧台
    近未来レベルまで文明が進んだNLでの出来事

    途中まで

    H3R0_typeV高性能家事代行汎用機H3R0_TypeVをご存知でしょうか?
    ここ数年でNLの大手家電メーカーから販売された家事代行ロボットですわ。
    もとは地球のメーカーで販売されたものをNLでも展開しようとしていたようですけれど、緑化が進んだとはいえ熱砂の星、地球産の物がNLの常時高温状態に耐えられるわけもなく故障続きで大ブーイングを喰らっていたのを思い出しますわ。それから試行錯誤を重ねてなんやかんやありヴァージョンアップしてNL版として販売開始。高額な割にこれがまたとんでもない売れ行きなんだそうです。
    人気の秘密はその容姿にありました。高性能家事代行汎用機H3R0_TypeV(以下typeVとする)は基本的に男性型、金髪のツンツン頭に輝く碧い瞳、チャームポイントの泣きぼくろ、長いまつ毛に優しく微笑む顔…500年前にNLを救った英雄ヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿形(主に手配書参考)そっくりなんです。
    英雄に家事をやらせようという発想が商魂逞しすぎというか、敬意とか全くないですわね…。NLっぽいっちゃぽいですけど…。
    とにかく、歴史オタクやらヒーローに憧れる少年やらイケメンに奉仕されたいお姉さまやらに人気なんだそうです。

    なんで私がこんな話をしているのかといえば同じアパートに住むお隣さんの家がこのtypeVを購入したんです。良く働いて愛嬌もある良いロボットです。
    でも思えば初対面から変な感じがしました。

    その日もからっからに乾いた熱風が吹き荒れる最悪の出勤日でしたわ。保険会社に勤める私は長期の出張から帰ってきたところでした。保険金支払いを阻止するため体を張って対象を守り切った後でしたから重い脚を引きずりながらアパートに着いたときは寂れた我が家がとてつもなく愛おしく思えました。
    階段を上がって廊下を進もうとしたところで誰かが立っていることに気づきました。つきあたり、私の部屋の手前の扉の前で呼び鈴も鳴らさずに突っ立っているんです。怪しい人かと思ってそそくさと通り過ぎようとしたら彼は私の顔を見て「あッ!」と大きな声をあげました。
    「……こんばんは!キミここの隣の子?」
    「…そ、そうですけど…?」
    まだ少し明るいとはいえ遅い時間帯ですし、そんな時間に怪しい男から声をかけられて内心びくびくしてしまいました。彼はふにゃふにゃと気の抜けた顔で言いました。
    「ごめんね、驚かせちゃって。僕も今日から君のお隣さんだからよろしくね」
    「”僕も”?」
    「うん、この部屋の人のお世話になるの!」
    「あ~そうなんですか…、よろしくお願いします…?」
    じゃあ、なぜ部屋に入らないんでしょう?怖くて聞けませんでした。
    「引き止めちゃってごめん!もし良かったらこれからも話そうよ。僕は”typeV”」
    そこで初めて彼が人ではなく届けられた荷物であることに気づきました。
    「家事ロボットの?」
    「そう!」
    「ロボットってこんなに流暢に喋れるんですのね…。申し遅れましたメリルですわ。また機会があればよろしくお願いします」
    軽く会釈をしてにこにこと笑う顔を背中に自室へと引き払いました。
    隣の家の住人はたしか黒髪の若い男性だったと記憶しています。偏見ですけれどああいったもの(最新の機械だとか流行りもの)を買うような方には見えませんでしたから意外でした。私は軽く自炊をして夕飯を済ませた後皿を洗って洗濯をして…こんな時に家事ロボットがあれば便利なんでしょうね…。一介の会社員でもがんばれば買えるくらいの金額だそうですけどメンテナンスが大変とも聞くし…。思案していると部屋の外から怒鳴り声がしました。びっくりしてあんまり聞き取れませんでしたがどうやら例のお隣さんが大声を出しているようです。
    「誰や!?」「頼んでへんて!!」「帰れや!」などと聞こえてきましたが元カノとかが乗り込んで来たんでしょうか?それともストーカー?あまりにも騒がしいしトラブルなら保安官を呼ぼうと玄関のドアを少し開けて隣を覗き込みます。
    「スミマセン、トラブルでしたら保安官お呼びしましょうか?」
    「あぁ?」
    「あッ!」
    お隣さんは廊下で先ほどのtypeVに抱き着かれていました。
    「えッ?あれっ??お、お邪魔しました……?」
    「ちょッ!嬢ちゃん勘違いやて!ほんま!タスケテクダサイ!」
    「騒がしくしてすまない!すぐ部屋に帰るから大丈夫!お休みメリル」
    「え、えぇ?」
    なんだかわかりませんけれど大丈夫と言われたので扉を閉めてしまいました。一体どういう状況だったんでしょうか?不思議でしたけどそれ以降騒ぐ声がなくなったので気にしないことにしましたわ。
    それからお隣さんのtypeVとはごみ捨てやら買い出しでご一緒することもあって仲良くなりました。買い出しで重い荷物を持ってくれたり作りすぎたおかずを分けてくれたりしたこともあって最近ではすっかり懐柔されてしまいました。明日はチーズがたっぷり乗ったサーモングリルを分けてくれるそうです。持つべきものは良き隣人(ロボット)ですわね。

    大学2年の中盤に差し掛かったある日そいつは現れた。
    授業終わりに同期で行った飲み会から帰り、アパートの階段を上がるとそいつはくりくりとした目をこちらに向け次の瞬間ものすごい勢いで抱き着いてきた。
    「は!?なんやオドレ!」
    「会いたかった!」
    「誰や!?」
    「ノーマンズエレクトリック社から来た高性能家事代行汎用機H3R0_TypeVデス!」
    「頼んでへんて!!」
    「やだ!もう注文も支払いも完了してるもん!今日からきみがご主人だから!」
    なんでそないなことなっとんねん!家電メーカーのサイトなど引っ越しが終わってここ一年は見た覚えがない。ましてや家事ロボットなど
    「知らん帰れや!」
    「なんでそんなこと言うの!?」
    「スミマセン、トラブルでしたら保安官お呼びしましょうか?」
    出てきた隣人にすぐさま助けを乞う
    「ちょッ!嬢ちゃん勘違いやて!ほんま!タスケテクダサイ!」
    「騒がしくしてすまない!すぐ部屋に帰るから大丈夫!お休みメリル」
    オドレ何抜かしとんねん!
    「え、えぇ?」
    納得すなー!!!
    無慈悲にも扉を閉めた隣人に内心恨み言を叫び、残された男二人ぜーはーと息をした。
    「いつまでくっついとんねん!キショいわ!」
    「逃げない?」
    「…逃げへん」
    「嘘つかない?」
    「つかへん」
    「家入ろ?」
    いつまでもこうして玄関先で暴れていても解決しないのは確かだ。
    「変なことすなよ」
    「っ!うんッ!!!」
    あまりにも眩い満面の笑みに思わず薄目になる。しぶしぶ鍵を取り出し玄関の扉を開けた。
    「……なんか臭いね」
    「男の一人暮らしなんてこんなもんやろ」
    「カップ麺とか洗わないで捨ててるでしょ?」
    「うっさいな~、そもそもオドレなんやねん」
    「ノーマンズエレクトリック社の~」
    「それは聞いたて」
    「きみが注文したんじゃないの?購入確定のメール来てると思うケド…」
    「そんなんあるわけ…」
    携帯のメールアプリを開き迷惑メールの欄を漁る。ノーマンズエレクトリック社…ノーマンズエレクトリック社…あッ
    「あるんかい!」

    ~以下メール文~
    ******************
    件名:ご購入確定のお知らせ
    オクトヴァーン大学社会福祉学部担当教諭及び生徒の皆様

    この度はノーマンズエレクトリックの商品をご購入いただきありがとうございました。

    高性能家事代行汎用機H3R0_TypeV(教育プラン)は一般販売している高性能家事代行汎用機H3R0_TypeVに自ら教育を施すことができる教育者育成向けの教材プランです。言葉や概念などの情報をインプットしていない幼児同然の知能ロボットですが教育者の言葉を学習します。ぜひご活用ください。

    ノーマンズエレクトリック社
    *******************

    「授業で使う教材だって!じゃあ費用負担は大学側だね」
    「せやな!あせったわ~自分で高い金額払わなアカンのか思ったわ!」
    「よかったね!」
    「…幼児同然てかいてるけど」
    「ん?」
    「オドレなんでそんなデカいねん」
    将来児童養護施設の職員として働きたい自分にとって教育を経験するなら目の前のロボットはあまりにも図体がデカすぎる。自分の背丈よりほんの少し小さいくらいだ。ムキムキやし。
    「僕も分かんない。教授からメール来てるかもよ」
    ロボットがそう言うので再びメールを見返す。確かにtypeVを使った教育課題というメールが送られてきていた。資料を参考にこのロボットの教育を行い学期末にレポートを出すという内容だ。出席する必要がないので楽といえば楽である。気になるのは追記部分だった。

    生徒に配布したのは基本的に少年型のtypeVですが予算の都合上一名のみ成人型のtypeVを配布することになりました。該当する生徒には申し訳ありませんが同じ知能プログラムを搭載してるとのことなのでレポート提出に問題はないと思います。

    「該当生徒ってわいか…」
    「ハズレひいちゃったね…」
    目の前のロボットは目に見えてシュンとして落ち込んでいるようだった。これはもしかして既に課題が始まってしまったのでは?
    「お、落ち込むなて。ハズレやなんて思ってない」
    「本当?」
    うるうると溶けだしそうなエメラルドグリーンがこちらに向けられ、なんだか胸がざわざわした。というかこのロボットやけに顔が整っている。ふさふさと生えそろったまつ毛。日に焼けない白い肌。垂れ下がった甘やかな目じりに泣きボクロなんかつけて、とにかく何でもかんでも聞いてやりたいような庇護欲を煽る顔をしているのだ。
    「お、おう」
    どぎまぎしながら答えて思った。
    「ところでオドレなにで動いとるんや?」
    「ロボットだもん電気だよ。ほら充電器」
    ロボットは自身が持っていたサイドポーチから太いコードを取り出した。
    「燃費どんくらい?」
    「え~っと…」
    「ま、まて調べるわ!」
    PCを立ち上げて公式サイトや家電の電気代を比較するサイトを読み漁る。月平均3000$$弱…?目をこする。もう一度PCの画面を見る。3000$$弱、家電にしちゃ高い金額である。苦学生である自分にはなおさら…
    「返品で」
    「ええ!?」
    「金ないねん面倒見切れん」
    「ま、まってよ。レポート出せなきゃ留年しちゃうんじゃないの?」
    「無いもんはないしな教授に連絡するわ」
    「う~ッ、わ、分かった!僕の生活費は僕が稼ぐよ!」
    「稼ぐてお前」
    ロボットが働きに出るなんて大丈夫なんだろうか?多分何らかの法律に引っかかるし働きに行かせた使用者の責任が問われる気がする…。でも、こいつは既にやる気になってしまっている。
    「は~~~~~わかった!バイトちょい増やすくらいなんでもないわ、代わりにワイがいない間は電源落とすからな」
    「いいの…?」
    「おん」
    ロボットはぷるぷる震えた後がばりと抱き着いてきた。
    「やったー!」
    「うおっ!ガキかオドレは!…いやガキやったな…」
    「ねぇ!名前聞いてなかった!教えて!」
    「あ?おぉ…ニコラスDウルフウッドや」
    「ウルフウッド!ねぇ、僕の名前は?」
    「え~、トンガリ!」
    ロボットはくふくふと笑った
    「あはは!それって頭とんがってるから?」
    「気に入らん?」
    「ううん、すごく好き!」
    トンガリはぎゅうぎゅう抱き着いてきて顔をワイの胸にうずめた。
    こうして高性能家事代行汎用機H3R0_TypeV改めトンガリとの生活が始まってしまったわけである。


    それからあっという間に三カ月が過ぎた。大学の授業というのは世間様から見れば遅い時間から始まる。よって学生である自分はバイトの疲労を癒すため、始業のギリギリまで寝ていることがほとんどだ。今日もまたとっくに日が昇り切った空をカーテンで塞いだままベッドでまどろんでいた。ふわりとトーストのいい香りが漂ってくる。
    「あと30分後に授業だよ。起きてウルフウッド」
    「」
    トンガリにはスリープ機能がついているらしく自分が寝た後にスリープ状態に入り朝の8時に自動起動する。充電は夜の間に済ませてワイが学校やらバイトに行っている間もスリープ状態にする。夕飯の時間に合わせてまた自動で起動し家事をこなすのがルーティンである。バイト終わりに家に飯があり洗濯掃除ゴミ出しすべて終わっている生活に満足感を覚えてからはバイトのシフトをほんの少し増やすくらい何とも思わなくなった。精々毎日のシフトに30分付け足すだけだ。電気代など余裕でまかなえた。
    「寝るの終わり!ほら、今日の朝ご飯はツナサンドだよ~」
    大変魅力的な誘いである。もそもそと布団をどかしあくびをした。
    「おはよ」
    「おん」
    短く返事をして顔を洗うため洗面所に向かう。トンガリはてきぱきと使った調理器具を洗っていた。トンガリが来てからとてつもなく生活環境がいい、湿気の匂いはなくなったしラグや布団も頻繁に洗濯してくれているためが柔軟剤のいいにおいがする。部屋の隅にほこりを見ることも無くなった。
    机に用意されたツナサンドを頬張り思い出した。今日は課題のレポート提出日ではなかったか?
    「アカン!レポートやってないわ!!ちょッダチに移さしてもらうから早めに行くわ!」
    「えッ!?う、うん気を付けてね!」
    トートバッグを引っ掴んでどたどたとアパートを後にする。

    「助かったで~リヴィオ!最近バイト増やしすぎてやるの忘れててな~」
    「いいっすよ、ニコ兄にはいつもお世話になってるんで」
    リヴィオは同じ大学に通う学科違いの後輩だった。昔馴染みのため良くつるんでいる。一コマ目のあと教室で駄弁るのは週課のようなものだった。
    「そういやうちの学科、教材でロボット配られたん知っとる?」
    「え?知らないです!すごいですね」
    「幼児教育の経験っちゅう名目で子供のロボットが配られるんやけどワイのだけごっつデカいねん」
    「なんでですか!?」
    「予算の都合だかなんだか、知らんけど。まぁ家事機能ついとるからめちゃくちゃ助かってるんやけど、あいつが来てから家のほこり一つも落ちてへんねん」
    「ん?幼児の教育を経験するためのロボットなんですよね?」
    「おう、知能は幼児レベルってメールに書いてたわ」
    「幼児ってそんな完璧に家事しなくないですか?」
    「…確かに」
    「教えたんですか?」
    「なんも教えてへんな。教えてへんのにごみの分別も買い出しもちゃんとしよるわ」
    「じゃあ駄目じゃないですか、不良品なんじゃないですかそれ?不良品ならメーカーに言えば交換してもらえるかも」
    「……いやまぁいなくなられたら困るんよな~」
    「えぇ~?まぁニコ兄がいいならいいんですけど。今度見せてくださいね」
    「おう、ええで」
    時計を見る。次の時間は空きコマだった。
    「あっ俺次の授業あるんでそろそろ行きますね!」
    「おう、またな」
    リヴィオはノートをまとめてカバンに突っ込みこけそうになりながら教室を出て行った。今週の課題は先ほど提出したレポートだけなので次の授業までは暇だ。家に帰って食べ損ねたツナサンドでも食べようと立ち上がる。

    歩きながら考える。教えてない言葉、教えてない家事、そのすべてを既にトンガリは知っている。単純に一般販売されたロボットがウチに来てしまったんだろう。家の鍵をバッグから探り、階段を上がる。扉を開けると違和感に気づいた。トンガリはベッドの上で停止していた。否、寝ていた。明らかに寝息をかいていた。
    ドッと心臓に緊張が走る。
    そういえばトンガリは自分が寝た後にスリープに入っていた。日中も家を出た後そうなるよう設定したことになっていた。起動するのはいつも自分より早い。つまり自分はトンガリが実際にスリープしているところを見たことがない。さらに言えば充電コードがトンガリのどこに刺さっているのかも知らない。
    ふとゴミ箱を見た。白いレジ袋、自分が捨てた覚えはない。生ごみが入っている可能性はあったが結び目をほどき中を見た。スーパーのコロッケパンの袋が捨ててある。食べた覚えはない。ならなぜ、このごみがウチに捨ててあるのか?犯人はトンガリしかいない。しかし、メーカーや教授からのメールは何だったのだ?メールが本当なら本物のロボットがどこかにあったはずである。もう一度ベッドに近づく、恐る恐る呼吸を続けているのであろう胸に耳を当ててみた。どくどくと、生きている物の拍動が聞こえた。
    思えば最初から違和感はあった。なぜか起動状態で届けられたこと、最初から一般知識があったこと、かの英雄を模しているにも関わらず黒髪であったこと。
    「ん…」
    ぎくりと体が強張った。かすれた吐息を吐いたトンガリは寝返りをうってワイの布団を抱きしめた。起きてはいないらしい。
    「ウルフウッド…」
    トンガリはそう呟いて眉間に皺を寄せ、唇を噛んだ。思わずその唇を撫でてしまった。きつく噛みついているそこを優しくなでると安心したのか噛むのをやめてまたすうすうと呼吸をし始めた。伏せられた瞼の端からぽたっとシーツに涙がこぼれた。トンガリが機械ではないことになぜか喜びを感じている。こいつが生きて、呼吸をして、生活を共にしていることに、理由は分からなかった。
    ただ知っている気がした。こいつが機械でも人間でもないことを
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