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    douishoR

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    douishoR

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    全部捏造しました!!!!!!!!!!!!!許してください

    【古森ちゃんとウーシェン】𝐃𝐞𝐥𝐢𝐠𝐡𝐭 𝐈𝐧 𝐓𝐡𝐞 𝐍𝐢𝐠𝐡𝐭「小森」
    ふいに呼び止められ、小森が振り返ればいつも自分の世話をしている上司であった。
    話によれば、ニュースにもなっている騒動の収拾にあたれというもので、小森は「は、はい!」と力強く頷いた。

    「必ず二人以上で任務にあたるように」
    「わ、わかりました!」
    「異能の被害にあった人物は理性がなかったり、身体も人間ではなくなっている者も多い。ダーリンか、または相応の力を持つ人物と組みなさい」
    「了解です」

    コクコクと何度も頷くと、上司は去ってゆく。しかし、一つ返事したものの、小森はダーリンに宛てがあるかと言われれば少ない。何より、契約を迫られたら断れそうにない。どうしたらいいものか……とトボトボと歩いていれば、ポン!と肩に手を置かれる。「ヒャッ!?」と甲高い声とともにキュウリを見た猫のように飛び上がりそうになった小森が振り返る。そこには、いつもより跳ねた髪のウーシェンが立っていた。

    「う、ウーシェン先輩!どどど、どうしたんですか!?」
    「陽芽ちゃん、今日の俺、なんか違うと思わない?」
    「へ、え!?」

    突然めんどくさい彼女のようなことを言い出した先輩に、小森は困惑しながらも上から下まで彼の全身を見てやる。健気である。いつもより乱れた髪……は、活発的な先輩のことだ。猫が一匹通れるくらいの塀の上を歩いてきたのかもしれない。あの経験は怖かった。と小森は冷や汗を垂らしながら更に下へと視線を移す。端正な顔立ちだ。口を開かなければ…いや、動くことすらしなければ……と唸る女性職員を小森は見たことがある。それは彫刻と変わらないのでは?と思ったが、藪蛇なので小森は押し黙って聞いていた。端正な顔立ちの代表、ぱっちり二重の目にふと、違和感を覚えた。真っ黒な目の中に薄っすらと存在する瞳孔がなんだか細長いような……気のせいだろうか。その目は「なに?」と目を細めたウーシェンにより隠されてしまう。

    「陽芽ちゃん?わかった?」
    「にゃ、なんでもないでしっ」
    「なんて?」

    笑ったウーシェンから咄嗟に目を逸らした小森の視線の先には覗き込んできた彼の首筋がドアップであった。ヒィと思わず背を反り返しながらも、何か模様があるのが見え動きを止める。その姿は完全に蛇ににらまれたカエルのようだった。首元には鱗のような模様が薄っすらと光って見えた。確か上半身に大きなタトゥーがあったはずなので、また新しいものを入れたのだろうか。と、小森はそれを口にする。
    そうすれば、ウーシェンの笑顔が更に深まった。

    「せーかい!さすが陽芽ちゃんネ~!」などと調子のいいことを言われ、「へ、へへへへ」と小森ははにかんだ。まさかこのめんどくさい彼女ムーヴが、小森の波乱の一日のきっかけだとは知らずに……。


    「実はこれ、本物の蛇の鱗なんだヨ~!凄いデショ!」
    「へぇ!今ってそんなタトゥーもあるんですねぇ!」
    「違うヨ」
    「え?」
    「例の異能の影響ヨ~!」
    「え?……えええええっ!?」

    ニコリと笑ったウーシェンの笑顔がとびきり胡散臭く見えたころには、小森は既に彼のペースに巻き込まれていた。小森の知能がなまじ高いせいで、彼が先ほど上司が言っていた事件の被害者であると瞬時に理解してしまったのだ。パントマイムでもしているかのように両手を右往左往とさせながら、顔を青ざめさせウーシェンを見上げる。彼の顔は飄々としており、落ち着いているようだ。こんな時でもいつも通りなんて、流石先輩!と小森はズレた感心をしていた。

    「大丈夫なんですか!?」
    「いや、全然。今も人ぶん殴りたくて仕方ないヨ~」
    「えええ!?たたた、大変じゃないですか!?」

    全然大丈夫じゃない!と袖口にしがみついてきた小森を見て、ウーシェンはゲラゲラと笑っている。これではどちらが被害者なのかわからない。ウーシェンは「それでネ、」と話しを続ける。

    「でも仕事があるデショ」
    「あ、そっか。今多くの職員が招集掛けられているって聞いてます」
    「そ~、俺も小森ちゃんも非番だったデショ~」
    「そうなんですよ、でも私予定とかなかったですし、寧ろやることが出来てラッキーっていうか……」

    見上げた社畜根性である。小森がえへえへと床の染みを見つめているのと対照的に「へぇ~」とウーシェンは窓の外を飛んでいるハグロトンボを見ていた。「あ、私の話なんかつまんないですよね」と指遊びを始めたところで、丁度トンボが窓から観測できなくなるとウーシェンが彼女と目を合わせる。

    「それで、これも何かの縁だし、俺と臨時組もうヨ!」
    「え!わ、私とですか?」
    「そうだヨ。小森陽芽とだヨ~」

    動揺の激しい彼女に、ウーシェンは「ダメ?」と小首を傾げた。小森はそれに「い、いえ!」とつい反射的に否定してしまったのだ。

    なにせ彼は彼女にとって恩人であった。まぁほぼ一方的に売られた恩みたいなものだったが。
    彼との出会いは強烈で、ゴミカスの彼氏の借金の連帯保証人になった挙句Ag:47に放り込まれた小森に「なんとかできるカモ」と軽いノリで手を差し出したのがウーシェンだったのである。そして翌週、行方が知れなかった彼氏と共に小森の家に現れた驚きと光景は、きっと何年も忘れられないであろう。家に現れた、というのは文字通りの意味で、仕事から帰った小森が玄関を開けると、そこには彼氏と、その彼氏の上に座るウーシェンがいたのである。驚きと、彼氏ともう一度会えた喜びと、心配と、そしてなぜここにいるのかわからないウーシェンへの恐怖で小森は、ウーシェンに「借金返しておいたヨ!」と言われて更に大混乱に陥った。彼の軽いノリと共にとんとん拍子で全ては片付いてしまったのだ!
    ――そんな鮮烈な知り合い方で、とんでもない恩を押し付けられた小森は、ウーシェンへの拒否権を持っていないに等しい。そうやって今までさんざん彼に振り回されてきたのである。
    それでも、小森はウーシェンへの信頼も畏まった態度も揺らがなかった。彼女はとんでもなく男を見る目がないからだ。

    ああ、それが今!最も悪い形で彼女を窮地に陥らせていた!
    ウーシェンの精神は安定しておらず、常にどこか狂気を孕んでいるかのように目をぎょろぎょろと動かしている!そして狂気に落っこちそうになった時、小森の腕に牙を立て、遠慮なく生き血を啜るのだ!

    ただでさえ荒事が好きだったトラブルメーカーの彼が更に人を殴ることに執着し、現在進行形で小森を襲おうとしていた。小森が必死に刺股で押さえているものの、小柄な彼女とデカくムキムキな男との力の差は大きく、反対に小森が地面に押し付けられている。
    ウーシェンはニヤニヤとしながら今にもひっくり返りそうになる彼女を見下ろした。

    「陽芽ちゃんよわ~」
    「先輩が強いんですよぉ!血ならいくらでもあげますから、食べないでくださいぃ!」

    悲鳴にも似た情けない声で小森は必死に「やー!」と刺股を動かすも、呆気なく押し返され、ついにゴロンと背中と地面がくっついた。ひっくり返った小森の腹に刺股の柄を押し付け、二股の金具に肘をつく。

    「いや、全然素面」
    「じゃあなんで襲うんですかぁ!?」
    「おもしれーから」
    「なにが!?」
    「陽芽ちゃんが必死なトコ」
    「う゛~ッ!!!」

    お腹を押さえられると呻き声をあげながらバタバタと暴れる小森の姿に、ウーシェンはひっくり返った蝉を思い出してまた笑った。小森は泣いていた。

    戯れていれば、ウーシェンがふと顔をあげる。視線の先には、先ほど小森に釘を刺していた上司だ。上司はこちらを見た途端、歩く速度を上げた。小森の上からヒョイと退いたウーシェンは、そのまま小森の腕を掴んで引き上げる。グイッと簡単に体を起こされた小森はその剛腕と鬼の形相の上司とで混乱いっぱいになりながらも、ウーシェンに引かれるまま足を動かす。

    「やべ!陽芽ちゃん、逃げよ~!」
    「え?え?ま、待ってくださいせんぱーい!置いてかないでくださいぃ!」

    「ウーシェン!!」と、クソデカ怒号を背に、ウーシェンたちは本部を飛び出した。
    上司は玄関ホールで何か騒いでいるが、既に彼らには届いていない。
    小森はもつれそうになる足から、自分の手を引くウーシェンに視線を上げる。脚のコンパスの長さ以前に駆け下りた階段で、既に息は絶え絶え。途切れ途切れになりながらも、ウーシェンへと声を掛ける。

    「せ、せんぱい!そっち、はっ……駐車場でっ……すよっ!」
    「合ってるヨ」

    小走りの小森とは違い、スキップでもするように歩きあっという間に駐車場へと着いた。ウーシェンは迷いなく一台の車へと歩みを進める。フロントガラスにもたれかかるように置かれたパンダのぬいぐるみが目印の車……小森が「わ!かわいい!」と思わず声をあげる。よく見るとパンダのぬいぐるみだけじゃなく、ヘッドドレスもパンダのカバーが掛けられている。小森はいつぞやに見たウーシェンのTシャツに笹食ってる場合じゃねぇ!と飛び出すパンダの絵柄があったことを思い出した。

    「もしかして、先輩の車ですか?」
    「まァそんなとこヨ」

    ウーシェンが濁すような言い方をしたことに気づいた小森は、それを言及しようとしたがさっさと車に乗り込む彼の姿に口を閉ざした。迷いなく運転席に乗ったウーシェンを見て、後部座席へと慌てて乗り込む。手慣れた様子でエンジンを掛ける彼の姿に、小森は先ほどの疑問を飲み込むことにした。答えがどうであれ、彼がこの車に乗り慣れていることは確定で、不安要素を払拭させるには十分だったからだ。
    実際は、この車の所有者はウーシェンではなく、単純に彼の顔の良さにより絆された職員が好きにさせているというなんともクズなエピソードがあるのだが……それを小森が知る機会がくる可能性は極めて低いだろう。


    繁華街近くに路駐すると、指示があった地点へと二人は足早に移動を開始した。
    この周辺で一番の繁華街というだけあり、あちらそちらから店員の客引きの声が聞こえて来て、観光客でごった返していた。とても事件が起きている渦中だとは思えない。小森もついつい、店先に並ぶ商品へと視線が寄っていってしまう。綺麗なブレスレット、地元にもあった甘栗詰め放題、どこかの民族のお守り、期間限定ジェラート、激安の古着……日頃手にとらないような製品に興味が引かれる。
    少し目を離せば、ぴょんぴょん跳ねた黒い頭は随分先に進んでしまっている。小森は慌てて人混みを掻き分けようともがくものの、逆方面へと向かおうとする人、商品を見ている人でなかなか前へと進むことが出来ない。
    モタモタしている間に、黒い頭は見えなくなってしまった。かなり高身長のウーシェンは目印としては抜群な効果を発揮するのだが、それもこの人混みでは効力を失ってしまっている。

    「どどど、どうしよ……せ、せんぱぁいっ ウーシェンせんぱいぃ」

    小森は泣きべそをかきながら声を出すが、へにょへにょの声ではそれも街の活気にかき消されてしまう。すっかり途方に暮れてしまった小森は、右に左に眼球を動かしながら必死に先輩の姿を探す。まさかこんな序盤に先輩の足を引っ張るとは!小森は凹みながらもとりあえず最後に見た先輩の位置まで向かうことにした。

    「っわ!」

    ドンッと強い衝撃に思わず上体が後ろに反る。そしてベショッという音。
    視線を向けると自分の胸の上に乗っかるようにジェラートが引っ付いていた。俺のスーツがジェラート食っちまった状態になったのである。しかもこのジェラート先ほど小森がチェックしていた期間限定のジェラートである。紅色のジェラートが心臓をぶち抜かれたような染みを作る。ジェラートをぶつけた男は、茫然とする小森に舌打ちを一つして「邪魔な女だな」と恨み節までぶつけてくる。それがいつぞやの元カレの機嫌が最悪な時にダブって、小森はますます小さく縮こまってしまった。

    「――俺のツレに何か用?」

    低く唸るような声が頭上から降ってくる。それは間違いなく探していた先輩――ウーシェンであった。小森が振り返ると、前を歩いていたはずのウーシェンが背後をとるようにピッタリと後ろについていた。彼の節ばった手が男の肩を掴むと、ギシリと骨が軋む音が聞こえた。男は「ヒッ」と短い叫び声をあげると、ウーシェンだけでなく小森もろとも突き飛ばす形で、彼女の肩口を強く押し、慌てて逃げていってしまった。ふらついた小森の後頭部がウーシェンの胸にぶつかる形で受け止められる。

    「す、すみません」

    と咄嗟に謝ると、ウーシェンの手が今度は小森の肩に伸びる。鎖骨でもへし折られるのかと身構えた小森であったが、ウーシェンは「イイヨ」と短く返事をしただけ。
    そのまま小森を抱え込むような形のまま人の流れに逆らって進み始める。押されるような形で小森が突き進んでゆくと、有名な肉まん屋の前で突然回れ右と90度に体を半回転させられた。
    小森は目を瞬かせる。曲がり角を曲がっただけ……道を一本外れるだけで、あれほどいた人影はなくなり、営業しているのかわからないような店が立ち並んでいる。小森を固定していた腕も離れたものの、依然として小森の頭上に落ちる影は存在したままだ。「せんぱ……」と言いかけた時、小森の目の前に真っ白な丸が現れる。ふんわりと香るのは生地の甘い香りと、ジューシーな肉の香りだ。

    「に、肉まん!?」

    いつの間に、と小森は目を瞬かせた。曲がり角にあった肉まん屋で止まることはなかったはずだ。小森がウーシェンのことを探していた時にでも買ったのだろうか。不思議がっていれば、肉まんが唇にムニッ!と押し付けられる。小森の顔に影を作っているウーシェンの目が細められる。

    「冷めないうちに食べなヨ」

    小森の手を掴んで無理矢理肉まんを持たせると、もう一つ持っていた肉まんにガブリ!と噛みついた。肉まんのほぼ半分を口に入れたウーシェンは歩くスピードを落として寂れた店と店の間の更に細い道をゆく。
    ……というか、ここは一般人が通っても良い道なのだろうか。青いゴミ箱や酒のケースを避けながら小森は肉まんを片手についてゆくのであった。

    小森がようやく肉まんの半分を食べ終えた頃、ウーシェンが「ここだヨ」と指さした。そこはやっぱり寂れた店で、曇ったショーウィンドウには見慣れない民族衣装が飾られていた。

    「れ、レトロなところですね?」
    「知り合いの店ヨ」

    上司が渡してきた資料にはない店に動揺しながらも、小森は丁寧に言葉を選んでウーシェンを見上げた。小森に視線を向けぬまま、ウーシェンはドアノブへと手を掛けようとする。その時、ギィと斌治の音を立てながら開いた扉。小森が「ヒエ」と後ずさりすると、扉から店主らしき老人が顔を覗かせた。

    老人はウーシェンの顔を見るとギョッとした顔で目を見開き、嫌そうに眉を顰めた。対するウーシェンは相変わらずニコニコと食えない笑みのままだ。光を一切反射しない彼の目が細くつり上がる。

    「そんな顔しないでヨ、客に失礼デショ」
    「客?お前が?」

    怪訝そうな老人に、ウーシェンが頷く。そして、小森の胸元を指さした。ジェラートをたらふく食ったスーツはすっかり繊維にまで紅色を吸収してしまっていて、染まった範囲が広がっている。
    老人は再び目を丸くしたあと、渋々「入れ」と二人を招き入れた。



    「こんな綺麗な服!初めてです!」

    くるりっ 一回転した小森は、美しい刺繍が施されたチャイナドレスを着て顔を綻ばせる。今カレが元カレになって以降自分の給料が自由になってから、生活に必要な分以外はすべて家に仕送りをして自身には投資してこなかったために、このような高級そうな洋服を持ってはいない。ちなみに先ほどまで着ていたスーツは洗濯機に掛けられているらしい。今はその洗濯待ちだ。

    ひとしきりはしゃいだあと、ハッとしてこちらを見ているウーシェンに感想を求めてみた。ウーシェンはジッと見つめたあと、「いーんじゃない」と5個目の肉まんに口をつけた。完全に気の無い返事であったが、浮かれている小森ははにかみながら「へへ、そ、そうですか?」とドレスの裾をひらひらと持ち上げていた。ドレスから白く細い足首が覗き、その先にある黒いOL用のヒールが浮いてしまっている。その靴を見て、ようやく小森はハッとご機嫌モードから帰還し、慌てて汚さないようにそっと近くの椅子に座った。
    ――本部を出る前からずっと走ったり歩きっぱなしだったので、ドッと疲れが押し寄せてくるような気がする。さっき食べた肉まんも良い感じに小腹を満たしていて、外の気温なんか感じられないくらい冷えた室内は火照った体を鎮めてくれる今、くつろぐにはまさに最高の条件が揃っていた。しかし洗濯機とこんな豪華な服まで借りている身……いけないいけない!と小森は迫り来る睡魔にブンブンと髪を揺らした。このままでは寝てしまう!と、ウーシェンの方に顔を向けると「なに?」と近寄ってきてくれたことにホッとしながら、任務の段取りなんかを確認する。今日のウーシェンは意外にも真面目に返答をしてくるので、更に安堵感が増した。異能の影響下に晒されてはいるものの、精神的にかなり安定しているようだ。
    ――流石先輩!と小森は目を輝かせた。実際は、狂気状態がデフォルトなだけなので、様子がなにひとつ変わらないだけなのだが。
    そんなことは知らず、愚直にウーシェンを信じている小森は安心しきり、そして……
    スヤスヤと寝た。
    ウーシェンの話に合図血を打ち、どうやって返そうと考えた矢先の陥落であった。それもこれも、彼女が彼の事を信頼しきっているからに他ならない。小森は男を見る目がとんでもなくないのだ。


    「……あれ」

    小森が目を覚ますと、横にいたはずのウーシェンはいなくなっていた。時間を確認すると30分ほどが経過していたようであった。店内は物音一つしない。
    いけない!寝ちゃったッ!と慌ててキョロキョロとしていれば、椅子の背もたれに値札シールが貼られているのを発見する。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん……と、書かれた金額に驚いて椅子から飛びあがる。
    ――売り物に座っていたどころか、こんなに高い椅子だったなんて!買い取りなんてことになったらどうしよう……。
    半泣きの小森は壁に沿うように距離をとると、助けを求めるようにウーシェンを探した。
    沢山のトルソーに着せられた服たちは、どれも値札がついているものの、埃を被っている。その先に併設された部屋は照明も暗いシャンデリアがまばらにぶら下がっていて、アンティークの机、食器棚、クローゼットと、雑多に置いてあるようだ。洋服は小森が今着ているようなチャイナドレスが多いが、家具などはその限りではなく、雑多な印象を受ける。
    そうして店の奥までやってくると、扉の向こうから話し声が聞こえてきた。ウーシェンと、あの老人の声だ。

    「――で、欲しいものはこれだけか」
    「十分ヨ!ああ、あとあのチャイナドレスは買い取るヨ」
    「お前が商品に金を出すようになるとはな」
    「タダで貰っていいなら貰うけど?」
    「ダメに決まってるだろうがッ!」

    相変わらず人の神経を逆なでしているようである。二人がやいのやいのとやり取りをしていると、扉が開いた。小森は慌てて隠れようにも今更遅く。ドアノブを捻ったウーシェンとバッチリ目が合ってしまった。青ざめている小森を見たウーシェンはニンマリと笑う。まるで子どもの悪戯を見つけたように。

    「おはヨ~」
    「す、すすすすみませっ!盗み聞きしようとしていた、わけじゃっ!」
    「いーよ、別に。それより、仕事再開ヨ」

    カラッとした笑顔のまま、ウーシェンが小森の横を通り過ぎる。小森は彼を追いかけようとして、次に出て来た老人にハッとした顔で声を掛けた。

    「すみませっ、あの、この服いくらですか?!」

    買い取りという単語を聞き取っていた小森は冷や汗を垂らしながら服を握りしめた。貯金で足りるだろうか……と数字でいっぱいの小森に、老人は小森の後ろへと視線を向けた。

    「――……すでに支払い済みじゃ」

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