吐息も涙もないけれど生命感のいざこざとか、回り続ける社会とか、ヒエラルキーとか。生まれ持った環境によって決まる、どうしようもない金属のレールとか。
それによって形作られた精神性は、作られている時間の2倍をかけないと修正はできないらしい。
ため息のようなものをひとつ、呼吸すらまともにできない体で、声音だけでも生命の真似事をしてみる。
酒も煙草も摂れやしない、機械の体にできる逃避方法。
首をなぞって左耳の下、パーツをずらして出てくるスイッチ。
ぐ、と押し込んで1秒、2秒、3
到着したのは真っ黒な空間。浮遊感を感じるここは、人で言う夢の中。機械で言うスリープモード中の省エネ電気信号。
外界の干渉を受けない穏やかな電子の海。
人だった頃はどう足掻いてもどこかと繋がりがあった。音や光や、香りや温度、……それら全てが消え失せた、やわらかい暗闇がここ。
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