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    かいこう

    @kaikoh_h

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    かいこう

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    わるいこと/伊吹と志摩
    よろしくない話

    ##smib

    わるいこと「■■ちゃん、別れてほしいんだけど」
    「…えっ…?何で…」
    「好きな人ができたから」
     コーラとグラスの中の氷が混ざり合っていく。冷えたものがやがてぬるくなっていくその始まりを、伊吹は一瞥した。知り合いが店長をしているゲイバーで出会った男が、いつもならほとんど変わらない表情をこわばらせている。まるでロボットみたいに計算が速くて、滅多に怒らない優しい人だと紹介してくれた店長からその内出禁を言い渡されるかもな、とぼんやりと思った。公休日に店に行って、紹介や自力で知り合った男とつき合い、そしてこんなふうに振るのは三度目になる。伊吹自身はバイだ。人懐こい態度で今は分からないかもしれないが、この悪癖が知られるのも時間の問題だろう。
    「お、俺に嫌なところがあったら、直すよ、藍…」
    「んーん、■■ちゃんはなーんも悪いないの、浮気性な俺がいけないの」
     つき合って一ヶ月半、これからデートに行くつもりでいた男が喫茶店の奥まった席の向かいで、俯いて目を左右にぎょろつかせていた。
    「何かの、冗談…」
    「えー?」
    「焼きもちやかせたいとか、試してるのか?」
    「いやいや、そーゆんじゃねーから」
    「だったら安心していい、俺は藍一筋だから。あっ、何ならスマホを見てもらってもいい」
    「だから違うんだけど」
    「俺は納得できない、別れてるなんて…」
    「じゃーこれ見て納得してよ」
     上部にベルがついたドアが開閉する音に、伊吹は喫茶店の入口ほ振り返る。男がひとり、店内を見回した。伊吹が手を振ると、声をかけてきた店員に伊吹たちが座っているテーブルを指してから近づいてくる。
    「いらっしゃーい」
    「遅れたか?」
    「いや?時間ぴったり」
    「…誰…」
    「俺のー、好きな人ー」
     四人かけテーブルの伊吹の横に座る男を、■■は茫然と見やった。伊吹が笑いながら男の腕をぎゅっと組めば、■■の目尻がひくひくと痙攣する。血の気が引いた顔と伊吹は平然と対峙した。
    「どうも、伊吹の好きな人です」
    「あははっ、ウケる、ね、ちゅーしよ…」
     素っ気なくも自分の物言いを否定しない男に伊吹は囁く。まるで目線を誘導するようにじっと■■を見る男の横顔を眺めた。男が伊吹と視線を交わらせる。誰か見ているような、見ていないような状況で、伊吹は男と口づけた。視界の端で■■の膝の上にあった手がびくっと震える。
    「こういうわけだから、今日でおしまい。バイバイ」

     伊吹が振った相手が出て行くのを見送ってから、伊吹の新しい好きな彼役として呼ばれた志摩は、相棒とともに喫茶店を後にした。
    「これからどーする?来てくれたお礼に飯でも奢るけど?」
    「今日は帰る」
    「ふーん」
    「こっち」
    「え、なになにー」
    「さっき、足りなかったから」
     細い路地に伊吹をぐいと引きずり込んで、壁に押しつけると、下から唇を押しつける。ぬるりと閉じられた唇を舐めれば、慣れた様子で口が開かれた。壁と伊吹の腰の間に腕を回して、志摩はねっとりと伊吹の口内をまさぐる。せっかくできた恋人を、二ヶ月も経たずに振る伊吹の手伝いをさせられるのはこれで三度目だ。次の休み、時間ある?と聞かれて指定の場所に赴けば、今日みたいに、伊吹の好きな人間を演じさせられた。お互いに本気で好きなわけではない。久住を逮捕した直後から伊吹がするようになった理不尽な劇だ。こんなことを繰り返していれば痛い目に遭うだろう。整った歯列を舌でなぞり、上顎をくすぐった。舌を甘噛みされたお返しに、ちゅうちゅうと柔らかく吸い上げる。しばらく深いキスに没頭した。息が苦しくなって口を離す。吸い過ぎたのか、伊吹の唇は真っ赤になっていた。二人分の唾液で濡れたそこに、志摩は視線を注ぐ。
    「ん…?」
     好きではないが、たった半年、相棒としてやってきただけで、これから先ずっと、深く関わっていきたいと思う相手だった。薄く笑っている伊吹の、星が散っているかのような藍色の瞳を覗き込む。どうしてこんなことをするのかと、初めて呼ばれた日に志摩は聞いた。俺さーこれからも志摩といたくて、志摩も同じように思ってくれてるの分かってて、だからそれで、どこまで俺と堕ちてくれんのかなーって。屈託のない笑顔の後ろに、久住のクルーザーで見た悪夢が陽炎のように揺れていた。相棒に自分の死と引き換えに犯人の逮捕を託す男と、相棒の死に抑えられず犯人を撃ち殺した男と。悪夢の中で、それぞれの何かが死んだ。許さないから殺してやらないという道を選んだ健やかな精神の足元に何かの死体が転がっている。現実ではうまくスイッチを押せたけれど、悪夢に押されたスイッチの結果に、囚われていた。白日の下に晒せないような選択も、一緒にしてくれるかどうか。志摩は試されていた。
    「…やっぱり行こうかな」
    「おっ行っちゃうー?」
    「伊吹とならどこまでも行くけど」
    「にゃはは」
    「とりあえず、伊吹の家」
    「りょーかーい」
     機嫌よく歩き出した伊吹に手を引かれる。握り返すと明るい笑顔を見せられた。伊吹が行こうと言うのなら、地の果てでも暗い海の底でもともに行くつもりが、志摩にはある。
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    かいこう

    DONEタオル/花流
    花流の日まで後6日~
    タオル 自分の洗濯物を片づけるついでに、流川のシャツや下着類もしまってやろうと棚の引き出しを開けようとすればがたがたと引っかかる。ふぬっと強引に開けてやった。中の衣服は雑然としていて、これが開けにくかった原因かと、桜木は呆れる。
    「あいつはよぉ…」
     バスケ以外はずぼらなところがある男の引き出しの中身を、仕方がないなと整理してやることにした。ここのところ、遠征や取材で忙しかったのを知っている。甘やかしているな、と思いながら、それでも普段の生活で、不得手ながら家事に勤しむ姿に接しているので、まあいいか、と畳み直し、きれいに詰め始めた。
    「ぬ…?」
     引き出しの奥に古びたタオルが入れられている。見覚えのある薄れた色合いや洗濯を重ねて薄くなってしまった生地の具合に、目を瞬かせた。それは、桜木の親が桜木が生まれる前に赤ん坊の肌かけにと桜木のために買ったもので、赤ん坊の時分から、幼稚園、小学校、中学校と育つ中、ずっと桜木の手元にあったタオルである。おしゃぶりの代わりにタオルの角をよく吸っていたと言われたり、そのタオルがなければ、昼でも夜でも寝られないと泣き喚いたり…自身の記憶に残っているもの、いないもの、合わせても思い出がたくさん刻まれている桜木の大事なタオルだった。小学校を卒業する頃にはもう肌かけにはしておらず、代わりに枕カバーとして使っていたものの、高校入学を翌日に控えた夜、中学校での最後の失恋から立ち直れなくて、可愛い恋人なんてこの先現れないんじゃないか、もしいるなら顔が見てみたい、好きになった相手とつき合いたい…と、布団に入って枕を、大事なタオルを、べそべそと涙で濡らしていれば、視界の端で模様がひとつ、すっかり消えて元々のタオル地の色が露わになっていることに気づき、束の間失恋の辛さも忘れて、桜木は起き上がると慌ててタオルを確認する。白いタオルに淵をぼやかせた青空と、元気よく飛び跳ねているキツネたちが描かれているはずだった。これまでの洗濯で全体的に色が薄くなってきたとは言え、一匹のキツネが、まるまる消えてしまったなんてことはない。初めての事態に、これ以上使って残っているキツネたちも褪せて見えなくなってしまうのは嫌だと、桜木はその夜から、タオルを使わなくなった。畳んで大事に取っておく。しばらくは長年使っていたタオルが手元にないことが寂しかったが、高校生活が始まれば、バスケに出会
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