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    かいこう

    @kaikoh_h

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    かいこう

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    写真の話/smib

    ##smib

    写真の話 新発売のスニーカーの情報を確認し終えた伊吹は、ブランドのサイトをスマートフォンの画面より大きく見たくて借りていた志摩のパソコンから顔を上げた。ダイニングテーブルの向かいの席では志摩が私用のスマートフォンを操作している。氷入りの麦茶のグラスを取り上げた。官舎の部屋だったらとっくに融けている氷がグラスの中でからからと揺れる。昨日、当番が終わってからそのまま泊まりにきているマンションは、同じようにクーラーと扇風機を使っていても、官舎より涼しかった。それが目的でこの部屋に入り浸っているわけではないけれど。伊吹はグラスをテーブルに戻すと頬杖をついた。去年、志摩から告白された時のことを思い出すと、今でも胸がきゅんとする。きゅるきゅるしていたのは顔を赤くして好きだと打ち明けてくれた志摩なのに、こっちまで、引きずられて、誰かや何かに向かって感じるだけだったきゅるきゅるになっていくような不思議な感覚に陥るぐらい、きゅんきゅんした。実際、そうなったのだろう。その証拠に、目の前の彼氏からよく、きゅるきゅるしてると言われるのだった。無意識の内に、伊吹はにやける。にやけが伝播したかのように視線の先で志摩もふっと口角を上げた。
    「志摩、何見てんの?」
     伊吹が声をかけると志摩と目が合う。
    「スニーカー、もういいのか?」
    「うん、見れたし、パソコン、ありがとー。で、なになに、にやにやしちゃって、何見てんの?」
    「先週の休憩中に猫が寄ってきただろ?その時の写真を見てる」
    「そう言えば志摩ちゃん、写真撮ってたね」
     公園でトイレを済ませて機捜車に戻る途中のことだった。近くの茂みから出てきて、足にすり寄ってきた猫。ごろんと地面に横たわるので撫でてほしいのかとしゃがみ込めば、撮っていいかと聞かれた。猫の代わりにいいよーと返事してやる。頭の上の方で志摩が写真を撮り始めた。猫派の志摩。後で写真を見せてもらおうと思っていたのに、今まですっかり忘れていた。
    「きゅるっきゅるな猫だったなぁ、人懐こくて」
    「ああ、そうだな」
     志摩の視線がまたスマートフォンに戻る。
    「きゅるっとしてた」
     実感がこもった口調に借りていたノートパソコンをばん、と閉じそうになった。ひくついた手で拳を作り、咄嗟の衝動を抑える。嫉妬した。ありえないでしょ、猫がきゅるっとしてたって言ったぐらいで。志摩がこっちを見そうな気配に俯いた。ちょっとタイム、待って、こんなの経験ないんだけど。きゅるっとしてるって、俺より?うわ、やばい、これはガチのトーンだ。これは言えないやつだわ。こっわ、心せっま、パソコン壊しちゃうとこだった。今までつき合ってる人が動物にかわいーとかかっこいーとか好きーとか言ってても何とも思わなかったじゃん…え?何で?何で何で?何で志摩はだめなわけ?初めて味わう感覚に混乱しながらも答えは分かっているようで、涙が滲んできた。志摩がきゅるきゅるしてるって言うの、俺だけじゃなかったんだぁ…結構な頻度で言ってくるから勘違いしちゃったぁ…
    「あ、写真、見るか?うまく撮れてるか自信ないけど」
     照れた様子で志摩が、返事もしていないのに差し出してきたスマートフォンを伊吹はどうにか受け取る。志摩は猫派だもんなぁ…確かにさ、きゅるっとしてた、ちょー可愛かった。俺はよく犬っぽいって言われるし、志摩も犬扱いしてたのになぁ。きゅるきゅるな猫だった。見たふりをして返そうか。自分の心の狭さについて一時間ぐらい膝を抱えていたかった。視界の端にちらっとパーカーの背中が見える。猫を撫でていた時に着ていたパーカーだ。間違いない…が、写真の構図に伊吹は違和感を覚える。ええい、と思い切ってスマートフォンの画面にしっかりと焦点を合わせた。四機捜の伊吹藍が背中を見せてしゃがみ込んだ状態で、首だけ捻って、おそらくスマートフォンのカメラのレンズを見上げている。写っているのは楽しそうに笑っている顔と、パーカーを着た肩と背中と、肩の向こうにちょっと覗いているスウェットズボンの膝と…
    「猫はぁっ?」
    「えっ?」
    「猫写ってないんだけどぉっ?」
    「写ってなかったか?」
    「写ってないよぉ、猫写ってないぃ、志摩ちゃん一体何撮ったのぉ?」
    「…伊吹」
    「スマホ見ながらきゅるきゅるしてるって言ってたじゃんんん」
    「だから…してるだろ、伊吹が、きゅるっと…」
    「もおおお」
    「写真、だめか?」
    「いいよぉ、もおぉ、志摩のきゅるきゅる魔人、好き!」
    「俺も、伊吹、大好き♡」
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    かいこう

    DONEタオル/花流
    花流の日まで後6日~
    タオル 自分の洗濯物を片づけるついでに、流川のシャツや下着類もしまってやろうと棚の引き出しを開けようとすればがたがたと引っかかる。ふぬっと強引に開けてやった。中の衣服は雑然としていて、これが開けにくかった原因かと、桜木は呆れる。
    「あいつはよぉ…」
     バスケ以外はずぼらなところがある男の引き出しの中身を、仕方がないなと整理してやることにした。ここのところ、遠征や取材で忙しかったのを知っている。甘やかしているな、と思いながら、それでも普段の生活で、不得手ながら家事に勤しむ姿に接しているので、まあいいか、と畳み直し、きれいに詰め始めた。
    「ぬ…?」
     引き出しの奥に古びたタオルが入れられている。見覚えのある薄れた色合いや洗濯を重ねて薄くなってしまった生地の具合に、目を瞬かせた。それは、桜木の親が桜木が生まれる前に赤ん坊の肌かけにと桜木のために買ったもので、赤ん坊の時分から、幼稚園、小学校、中学校と育つ中、ずっと桜木の手元にあったタオルである。おしゃぶりの代わりにタオルの角をよく吸っていたと言われたり、そのタオルがなければ、昼でも夜でも寝られないと泣き喚いたり…自身の記憶に残っているもの、いないもの、合わせても思い出がたくさん刻まれている桜木の大事なタオルだった。小学校を卒業する頃にはもう肌かけにはしておらず、代わりに枕カバーとして使っていたものの、高校入学を翌日に控えた夜、中学校での最後の失恋から立ち直れなくて、可愛い恋人なんてこの先現れないんじゃないか、もしいるなら顔が見てみたい、好きになった相手とつき合いたい…と、布団に入って枕を、大事なタオルを、べそべそと涙で濡らしていれば、視界の端で模様がひとつ、すっかり消えて元々のタオル地の色が露わになっていることに気づき、束の間失恋の辛さも忘れて、桜木は起き上がると慌ててタオルを確認する。白いタオルに淵をぼやかせた青空と、元気よく飛び跳ねているキツネたちが描かれているはずだった。これまでの洗濯で全体的に色が薄くなってきたとは言え、一匹のキツネが、まるまる消えてしまったなんてことはない。初めての事態に、これ以上使って残っているキツネたちも褪せて見えなくなってしまうのは嫌だと、桜木はその夜から、タオルを使わなくなった。畳んで大事に取っておく。しばらくは長年使っていたタオルが手元にないことが寂しかったが、高校生活が始まれば、バスケに出会
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