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    かいこう

    @kaikoh_h

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    かいこう

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    惚気を聞くなら/smib+きゅーちゃん

    ##smib

    惚気を聞くなら 居酒屋で個室の座敷に案内され、メニューを手に取ったところで向かいに座った伊吹が話しかけてきた。予定がなかなか合わず、ようやく会えた今日は偶然週末で、店内はざわざわと騒がしい。話を聞こうと顔を上げれば、居酒屋の天井の明かりが映りこんだ伊吹の目は、きらきらと輝いて、明るい表情と相まって、今夜を楽しく思ってくれていることが伝わってくるようだった。
    「九ちゃん、元気してた?ちょっと聞いてほしいんだけど、志摩の話、この前、めっちゃ報告書書かなくちゃいけない日があったの、俺、報告書書くの苦手じゃん?でも負けてらんねーなって頑張ったわけ、で全部書いて、たいちょーんとこ持ってって一発オッケーもらって、一緒に帰ろつって待っててくれた志摩にお待たせって、やり直しなしだったーってピースしたらさ、何て言ったと思う?今の可愛かった、伊吹の可愛さは5,000点だなって言うわけ、えー志摩ってばちょーきゅるきゅるーつて思いながら、俺も乗って、何点満点中?なんて聞いてみたわけ、そしたら、ふふっ、なんと、100点満点中の5,000点だけどって…もーさぁ、俺さぁ、志摩の方こそ可愛過ぎのきゅるきゅる魔人でまじで分駐所でどーにかなっちゃうかと思った」
     長い指をした両手で話しながらピンク色になっていった頬を押さえる伊吹を九重は一瞥し、それから伊吹の隣に座っている志摩に視線を転じる。
    「今日は100,000,000点」
    「もー志摩ちゃんてばぁ♡」
     メニューを見ている志摩が優しい笑みを浮かべて言えば、伊吹はくすぐったそうに身を捩った。何か、まあ、楽しそうでよかったな。九重はメニューをめくった。伊吹が近況報告を兼ねて送ってくるLIMEではなく直で聞く惚気にはなかなか衝撃がある。伊吹とつき合い始めた志摩がこんなにべろべろになるとは予想外だった。それぐらい、伊吹が好きだということなのだろう。座卓の向かいでじっとしていない伊吹の肩が志摩にぶつかった。志摩がメニューから顔を上げる。二人は見つめ合った。互いを見る目には、明るいぬくもりが宿っていた。具体的に言うなら火が点いた蝋燭のような…近い場所で明るい火を灯している二本の蝋燭はゆるゆると融け、混じり合う融けた蝋じみた粘度の高い視線を絡ませて…まだ今夜は一滴も飲んでいないのに九重は胸やけを覚える。つき合い始めて1ヶ月のカップルってこんな感じだったっけ…二人と久しぶりにこうして酒を飲むことは楽しいはずなのに、少ししんどいかもしれない…いや、いや、そんなことはない、きっと最近働き過ぎたのだ。
    「九ちゃん、大丈夫?何か顔色よくねーけど」
    「大丈夫です」
    「調子悪くなったら早めに言えよ?志摩もこの前寝込んじゃって」
    「そうなんですか?」
    「ちょっと疲れて…伊吹が作ってくれたうどん、うまかった」
    「もーそれ何回も聞いたから!めいっぱいラブ入れたもん。また志摩に何かあったら、同じようにふーふーして、あーんしてあげっから」
    「頼むな♡」
    「てか志摩は俺にふーふーとかあーんとかしてくんないの?」
    「え、するけど」
    「いつ?昨日してもらったっきりなんだけど」
    「今、今する♡何かあったかいもん頼んで伊吹にふーふーしてあーんする♡」
    「志摩、大好き♡」
    「俺も好きだよ♡」
    「…お話中すみませんお二人とも注文は決まりましたか」
    「ごめんごめん、すぐ決める」
     九重はたまらず促す。二人はいそいそとメニューを見始めた。惚気が途切れてほっとできたのも束の間で、メニューに印字されている料理や酒の名前を指してはいちゃいちゃねちゃねちゃし出すので、二人を待たずに注文するために座卓の呼び出しボタンをピンポンと押す。
    「はいご注文どうぞ」
    「この店でいちばん度数と金額が高いお酒をください」
     それぐらいないと、今夜はやってられそうになかった。
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    かいこう

    DONEタオル/花流
    花流の日まで後6日~
    タオル 自分の洗濯物を片づけるついでに、流川のシャツや下着類もしまってやろうと棚の引き出しを開けようとすればがたがたと引っかかる。ふぬっと強引に開けてやった。中の衣服は雑然としていて、これが開けにくかった原因かと、桜木は呆れる。
    「あいつはよぉ…」
     バスケ以外はずぼらなところがある男の引き出しの中身を、仕方がないなと整理してやることにした。ここのところ、遠征や取材で忙しかったのを知っている。甘やかしているな、と思いながら、それでも普段の生活で、不得手ながら家事に勤しむ姿に接しているので、まあいいか、と畳み直し、きれいに詰め始めた。
    「ぬ…?」
     引き出しの奥に古びたタオルが入れられている。見覚えのある薄れた色合いや洗濯を重ねて薄くなってしまった生地の具合に、目を瞬かせた。それは、桜木の親が桜木が生まれる前に赤ん坊の肌かけにと桜木のために買ったもので、赤ん坊の時分から、幼稚園、小学校、中学校と育つ中、ずっと桜木の手元にあったタオルである。おしゃぶりの代わりにタオルの角をよく吸っていたと言われたり、そのタオルがなければ、昼でも夜でも寝られないと泣き喚いたり…自身の記憶に残っているもの、いないもの、合わせても思い出がたくさん刻まれている桜木の大事なタオルだった。小学校を卒業する頃にはもう肌かけにはしておらず、代わりに枕カバーとして使っていたものの、高校入学を翌日に控えた夜、中学校での最後の失恋から立ち直れなくて、可愛い恋人なんてこの先現れないんじゃないか、もしいるなら顔が見てみたい、好きになった相手とつき合いたい…と、布団に入って枕を、大事なタオルを、べそべそと涙で濡らしていれば、視界の端で模様がひとつ、すっかり消えて元々のタオル地の色が露わになっていることに気づき、束の間失恋の辛さも忘れて、桜木は起き上がると慌ててタオルを確認する。白いタオルに淵をぼやかせた青空と、元気よく飛び跳ねているキツネたちが描かれているはずだった。これまでの洗濯で全体的に色が薄くなってきたとは言え、一匹のキツネが、まるまる消えてしまったなんてことはない。初めての事態に、これ以上使って残っているキツネたちも褪せて見えなくなってしまうのは嫌だと、桜木はその夜から、タオルを使わなくなった。畳んで大事に取っておく。しばらくは長年使っていたタオルが手元にないことが寂しかったが、高校生活が始まれば、バスケに出会
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