Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    かいこう

    @kaikoh_h

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Gift Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 287

    かいこう

    ☆quiet follow

    よく眠れました/smib

    ##smib

    よく眠れました 分駐所の入り口から元気よく近づいてくる足音に、志摩はロッカーの前で口元を緩めた。
    「おはよー、志摩ちゃん」
    「おはよ。元気だな」
    「んー昨日、めっちゃよく寝れたからかな」
    「そりゃよかった」
     ロッカーの扉を閉めて、横に立つ伊吹と向かい合う。言動と同様、表情も溌剌としていた。恋人が元気なのは嬉しい。
    「実は昨日、元カレから連絡が来て」
    「えっ?」
    「何もねぇよ?別れても友だちって奴じゃねーし。浮気されたらもう俺としては別れるしかねーし。あいつの爺ちゃんは好きだったんだけどなー、一緒に暮らしててすげー元気で昔陸上やってたつって、俺の足、速い速いって誉めてくれて、一緒に走るって言い出したことがあったんだけどさ、さすがにそれはやめといた方がよくない?って止めたんだけど、そういやあいつと意見があったのあの時だけかもしんねーな」
     いきなり始まった昔話に志摩はついていけなかった。
    「ま、待て待て、元カレ?元カレから連絡?何で?」
    「やり直さねー?って。いやあり得ないし」
    「…それだけ?」
    「そんだけ…あっ、じゃなかった」
    「は…」
    「まだ話の続きがあって、そいつに浮気されてからさー、つい考えちゃうわけ、浮気しねーかなって。いやしてほしいって意味じゃなくて、でー…その連絡の後で志摩も浮気とかすんのかな…って考えてたら…いつの間にか、ふふっ、寝てちゃってた」
    「あり得ないんだけど」
    「ごめんて。悪い癖だからどーにかしたいんだけど、ついね、つい、想像が、こー、止まんなくって」
     へらへらと笑う伊吹を見ている内に顔がきつくこわばっていく。志摩はもう一度繰り返した。さっきよりも強い口調に、伊吹が表情を曇らせる。
    「あり得ない」
    「…だからごめんって言ったじゃん」
    「何で伊吹が謝るんだよ」
    「えーもう何なの謝っても許さんてやつ?」
    「そうじゃなくて伊吹は謝る必要がないだろ。悪いのは浮気した元カレなんだから、伊吹はひとつも悪くない」
    「もしかして志摩、俺の元カレに怒ってんの?」
    「めちゃくちゃ怒ってる」
    「へーそうなんだぁ…」
    「伊吹を傷つける奴は許さない」
    「ひえー俺めっちゃ愛されてんね」
    「愛してるよ」
     久住の件で勝手に相棒を解消しようとしたのは三ヶ月前のことだ。結果伊吹が自暴自棄になって二人揃って捕まったくせに、どの口が言うんだか。特大のブーメランを喰らいながら、こうして生きて気持ちを伝えられる状況に、志摩は喜びを噛み締めた。
    「志摩が浮気するとこは想像できなくて気づいたら寝てたんだよね」
    「おう」
    「すげーよく眠れた」
     薄く笑う伊吹の目がいつもよりぬめっているような気がする。
    「じゃあ今日もいっぱい走れるな」
    「うん。志摩…」
    「なに」
    「ちょっとだけ、ぎゅってしていい…?」
     志摩は腕時計で時刻を確認した。始業時間までまだ三分ある。返事の代わりに両手を広げると伊吹が飛び込んできた。
    「あー伊吹が可愛過ぎて仕事したくねー…」
    「俺も志摩がイケメン魔人過ぎて働きたくないー…」
    「…よし、時間だ相棒」
    「おっしゃあ」
     ぼやいた後で勢いよく離れる。その頃には普段と同じ目の色だった。闊達としている犬の明るい輝き。視線の先で伊吹が大きく笑った。好きな相手をよく眠らせることができたなんて。志摩はときめいた。こんなに嬉しいことはない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💕💞☺🙏💕💕💖💖💖💖❤💘💖💞💗💗💗🙏💞💞💖💖💞💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    かいこう

    DONEタオル/花流
    花流の日まで後6日~
    タオル 自分の洗濯物を片づけるついでに、流川のシャツや下着類もしまってやろうと棚の引き出しを開けようとすればがたがたと引っかかる。ふぬっと強引に開けてやった。中の衣服は雑然としていて、これが開けにくかった原因かと、桜木は呆れる。
    「あいつはよぉ…」
     バスケ以外はずぼらなところがある男の引き出しの中身を、仕方がないなと整理してやることにした。ここのところ、遠征や取材で忙しかったのを知っている。甘やかしているな、と思いながら、それでも普段の生活で、不得手ながら家事に勤しむ姿に接しているので、まあいいか、と畳み直し、きれいに詰め始めた。
    「ぬ…?」
     引き出しの奥に古びたタオルが入れられている。見覚えのある薄れた色合いや洗濯を重ねて薄くなってしまった生地の具合に、目を瞬かせた。それは、桜木の親が桜木が生まれる前に赤ん坊の肌かけにと桜木のために買ったもので、赤ん坊の時分から、幼稚園、小学校、中学校と育つ中、ずっと桜木の手元にあったタオルである。おしゃぶりの代わりにタオルの角をよく吸っていたと言われたり、そのタオルがなければ、昼でも夜でも寝られないと泣き喚いたり…自身の記憶に残っているもの、いないもの、合わせても思い出がたくさん刻まれている桜木の大事なタオルだった。小学校を卒業する頃にはもう肌かけにはしておらず、代わりに枕カバーとして使っていたものの、高校入学を翌日に控えた夜、中学校での最後の失恋から立ち直れなくて、可愛い恋人なんてこの先現れないんじゃないか、もしいるなら顔が見てみたい、好きになった相手とつき合いたい…と、布団に入って枕を、大事なタオルを、べそべそと涙で濡らしていれば、視界の端で模様がひとつ、すっかり消えて元々のタオル地の色が露わになっていることに気づき、束の間失恋の辛さも忘れて、桜木は起き上がると慌ててタオルを確認する。白いタオルに淵をぼやかせた青空と、元気よく飛び跳ねているキツネたちが描かれているはずだった。これまでの洗濯で全体的に色が薄くなってきたとは言え、一匹のキツネが、まるまる消えてしまったなんてことはない。初めての事態に、これ以上使って残っているキツネたちも褪せて見えなくなってしまうのは嫌だと、桜木はその夜から、タオルを使わなくなった。畳んで大事に取っておく。しばらくは長年使っていたタオルが手元にないことが寂しかったが、高校生活が始まれば、バスケに出会
    2612

    かいこう

    DONEラブレター、こわい。/花流
    花流の日まで後8日~
    ラブレター、こわい。「…今日のは怖い…かも」
     下駄箱に入っていた手紙を読んでそう呟く流川を廊下の曲がり角から伺っていた桜木は、よっしゃと歓声を上げながら飛び出しそうになって慌ててリーゼント頭を引っ込める。そんな桜木に気づかない様子で、流川は便箋を封筒に戻すと肩にかけていた鞄にしまい、階段を上がっていった。その後ろ姿に口元を手で隠しながらぷくく…と笑う。今日こそ流川を怖がらせてやれた。天敵である流川の強い物を知って、それを与え続けて八日目。ようやく効果があったようで、桜木は嬉しかった。明日はもっと怖がらせてやろう…流川が怖いと言う、ラブレターで。流川の姿が完全に階段の向こうに消えてから、桜木はこそこそと忍び足で階段を上った。踊り場をひとつ過ぎ、一年生の教室がある階で、またさっきのように少しだけ顔を覗かせる。流川は教室の手前で眠そうに大きな欠伸をしていた。天才による天才的な策略に嵌っているとも知らずに呑気なもんだぜ。教室に入り姿が見えなくなった流川を追うべく、見つからないように隠れながら廊下を進み、開いていた窓の隙間から、いけ好かないキツネ野郎を観察した。何せラブレターを書くには、情報が必要だから。
    4140

    かいこう

    DONEベテラン/花流
    かわいそうなりょーちゃんとバカップルの片割れるかわくん
    花流の日まで後11日~
    ベテラン 他には誰もいないチームのトレーニングルームの片隅で、流川と話し込んでいた男が立ち上がった。その若手は怪我でしばらくチームから離れなければならず、気持ちが荒んでいたようだが、憧れでありチームメイトでもある流川との面談で、感情が落ち着いたらしく、穏やかな顔つきで目元を拭っている。トレーニングルームの入り口で、流川に向かってひとつ頭を下げた彼が、こっちに近づいてくるのに、出入り口に立っていた宮城は片手を上げた。出て行く前に、流川と話すようアドバイスしたことへのお礼を言われる。大したことはしてない、チームメイト全員が復帰を待ってる、焦らずに治療に取り組んでくれ、と伝えて見送った。病院から検査結果を伝えに来た時は沈んでいた目の色に活気が戻り、明るく潤んでいる。口元も頬も溌剌としていた。どんな理由であれ、バスケットをやりたい人間がバスケットができない状態に陥るというのは、辛い。どうか乗り越えてチームに戻ってきてほしい…背中が見えなくなるまで、祈るような気持ちで見つめてから、流川の元へと赴いた。
    1634

    recommended works