Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    かいこう

    @kaikoh_h

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 293

    かいこう

    ☆quiet follow

    よく眠れました/smib

    ##smib

    よく眠れました 分駐所の入り口から元気よく近づいてくる足音に、志摩はロッカーの前で口元を緩めた。
    「おはよー、志摩ちゃん」
    「おはよ。元気だな」
    「んー昨日、めっちゃよく寝れたからかな」
    「そりゃよかった」
     ロッカーの扉を閉めて、横に立つ伊吹と向かい合う。言動と同様、表情も溌剌としていた。恋人が元気なのは嬉しい。
    「実は昨日、元カレから連絡が来て」
    「えっ?」
    「何もねぇよ?別れても友だちって奴じゃねーし。浮気されたらもう俺としては別れるしかねーし。あいつの爺ちゃんは好きだったんだけどなー、一緒に暮らしててすげー元気で昔陸上やってたつって、俺の足、速い速いって誉めてくれて、一緒に走るって言い出したことがあったんだけどさ、さすがにそれはやめといた方がよくない?って止めたんだけど、そういやあいつと意見があったのあの時だけかもしんねーな」
     いきなり始まった昔話に志摩はついていけなかった。
    「ま、待て待て、元カレ?元カレから連絡?何で?」
    「やり直さねー?って。いやあり得ないし」
    「…それだけ?」
    「そんだけ…あっ、じゃなかった」
    「は…」
    「まだ話の続きがあって、そいつに浮気されてからさー、つい考えちゃうわけ、浮気しねーかなって。いやしてほしいって意味じゃなくて、でー…その連絡の後で志摩も浮気とかすんのかな…って考えてたら…いつの間にか、ふふっ、寝てちゃってた」
    「あり得ないんだけど」
    「ごめんて。悪い癖だからどーにかしたいんだけど、ついね、つい、想像が、こー、止まんなくって」
     へらへらと笑う伊吹を見ている内に顔がきつくこわばっていく。志摩はもう一度繰り返した。さっきよりも強い口調に、伊吹が表情を曇らせる。
    「あり得ない」
    「…だからごめんって言ったじゃん」
    「何で伊吹が謝るんだよ」
    「えーもう何なの謝っても許さんてやつ?」
    「そうじゃなくて伊吹は謝る必要がないだろ。悪いのは浮気した元カレなんだから、伊吹はひとつも悪くない」
    「もしかして志摩、俺の元カレに怒ってんの?」
    「めちゃくちゃ怒ってる」
    「へーそうなんだぁ…」
    「伊吹を傷つける奴は許さない」
    「ひえー俺めっちゃ愛されてんね」
    「愛してるよ」
     久住の件で勝手に相棒を解消しようとしたのは三ヶ月前のことだ。結果伊吹が自暴自棄になって二人揃って捕まったくせに、どの口が言うんだか。特大のブーメランを喰らいながら、こうして生きて気持ちを伝えられる状況に、志摩は喜びを噛み締めた。
    「志摩が浮気するとこは想像できなくて気づいたら寝てたんだよね」
    「おう」
    「すげーよく眠れた」
     薄く笑う伊吹の目がいつもよりぬめっているような気がする。
    「じゃあ今日もいっぱい走れるな」
    「うん。志摩…」
    「なに」
    「ちょっとだけ、ぎゅってしていい…?」
     志摩は腕時計で時刻を確認した。始業時間までまだ三分ある。返事の代わりに両手を広げると伊吹が飛び込んできた。
    「あー伊吹が可愛過ぎて仕事したくねー…」
    「俺も志摩がイケメン魔人過ぎて働きたくないー…」
    「…よし、時間だ相棒」
    「おっしゃあ」
     ぼやいた後で勢いよく離れる。その頃には普段と同じ目の色だった。闊達としている犬の明るい輝き。視線の先で伊吹が大きく笑った。好きな相手をよく眠らせることができたなんて。志摩はときめいた。こんなに嬉しいことはない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💕💞☺🙏💕💕💖💖💖💖❤💘💖💞💗💗💗🙏💞💞💖💖💞💖☺☺☺❤💯💒💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works