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    かいこう

    @kaikoh_h

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    かいこう

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    顔/伊吹と志摩
    バットリの悪夢に囚われている伊吹
    切断とか嘔吐とか出てくるので好きな人はどうぞ
    甘々字書きワードパレット22金平糖と23ティラミス

    ##smib

    「ん、志摩ちゃん、ありがとー」
     志摩が新しく買ったという動物の顔を模したクッションの写真が表示されているスマートフォンを相棒に返す。
    「今回のもかわいー」
    「だろ?」
     胸を反らして誇らしげに言う志摩の可愛さに、伊吹は声を上げて笑った。結構酔っているので、知らない内に声が大きくなる。つられて志摩も笑っていた。もうすぐ日づけが変わろうとする深夜の、闇に包まれた官舎の一室が笑い声で満ちる。先月、久住を逮捕してから、自分に対する志摩の空気が、柔らかくなったと伊吹は思っていた。俺が悪い、何もかも俺のせい、というような気負った鎧が、目の前のビールの泡みたいに、すっかり薄くなった、いい感じ。久住の件で相棒としての仲がこじれるまで、結構です、の頻度は四月に比べればだいぶ少なくなっていたが、今は一層、心を開いてくれているようだった。自ら初めて部屋に招いてくれたり、柔らかくて丸みを帯びたフォルムのぬいぐるみやクッションが好きなんだと教えてくれたり。当番勤務の後で、よく互いの部屋を訪れて、今夜みたいに飲むことが増えた。最初はその日の夕方頃には帰路に着いていたのに、気づいたら、一晩泊まって、翌朝帰るという流れになっている。嫌ではなかった。伊吹にとっては楽しい。伊吹から受け取った私用のスマートフォンを手に、志摩が室内を見回した。
    「伊吹は部屋にこういうの置かないよな」
    「こういうの?」
    「ぬいぐるみとかクッションみたいなやつ」
    「あーでも顔はある」

     今日も仕事だと、分駐所の手前の廊下に置いてあるホワイトボードをとおり過ぎようとしたところで、背後からの足音に気づく。
    「伊吹」
    「おはよう、志摩」
     挨拶しながら振り向けば、こっちに近づいてくる志摩には顔がなかった。恐らく、そこに顔が乗るのであろう首の接地面が剥き出しになっている。白い骨と首の筋肉の赤色がやたらと鮮やかで目についた。
    「顔がないけど」
    「ああ」
    「どうしちゃったの」
    「こうすれば伊吹が罪の意識を感じないかと思って、ほら、見えないだろ、久住の仲間に撃たれたところが」
    「…志摩ぁ…!」
     志摩の優しさに胸がときめく。心臓が躍るように跳ねた。気分がどんどん浮かれていく。浮かれついでに、ふと、志摩にキスしたくなった。胸の内側を誰かにくすぐられたような感覚に、伊吹はくすくすと笑い出す。顔がないのに、志摩も自分と同じようににやついているのが分かった。体内がじん、と温かくなり、何かが芽生えそうな気配がする。とてもいいものだ。ていねいに扱ってそれを大きく育てたい。一体何が育てようというのか、伊吹は目を輝かせながら、そこにはない志摩の顔を見つめた。なくても、志摩も見返してくれているという確信がある。視線を交わす内に、嗅覚の鋭い犬がにおいの元に辿り着くように、伊吹も答えに近づいていった。ああ、俺は、志摩が。

    「伊吹、起きろ」
    「…んあ?」
    「もう朝だ。そろそろ帰る」
     肩を揺すぶられ伊吹は眉根をしかめた。ぐぐと目元に力を入れてからぼうっと瞼を開ける。朝だ。カーテンを引いていない室内に明るい陽の光が射しこんでいる。寝起きのぼんやりとした意識に、いつまで飲んでいたか分からない酒の余韻が混じり合って、頭にもやがかかったようだ。のろのろと起き上がる。手をついている布団代わりのマットレスに寝転んだ記憶もなかった。
    「大丈夫か?」
    「ああ、うん…」
    「ここのところ、飲み過ぎだな、いくら居心地がいいからって…」
    「冷蔵庫に食パンあるよ、朝飯食ってけば?」
     自堕落な飲み会を悔やむ志摩の声を聞きながら、伊吹はまだ帰らせないようなことを言う。その内、こうやって誘うつもりだった。夕方には解散していた二人飲みが夜まで伸びて、眠くなればそのまま横になればとそそのかされて、朝が来たところで、離れ難い。ローテーブルと布団の間に座っている志摩は顔でも洗ったのか、自分よりいくぶんさっぱりとした顔つきだった。それでも誘いを断る合理的な理由が思いつかないのか、視線を上げて何やら考えている。
    「…そう言えば」
     別の話をすることにしたようだ。
    「顔って何」
    「顔?」
    「昨日の夜、顔はあるって、伊吹が」
     志摩に言われて、起こされるまで見ていた夢が蘇る。パステルカラーのなめからなクリームと見事な装飾で彩られた甘くておいしいケーキみたいな夢が、口に入れて飲み込んでみれば、実際は絵の具やクレヨンや粘土で作られていたと気づいたような、食べてはいけないもの、食べられないもの、スポンジやメレンゲなどではなく、あるいは不快感を掻き立てる生々しく粘ついた得体の知れないぬめりでできていたと思い至らされた。強烈な吐き気が腹の底から込み上げてくる。伊吹は勢いよくトイレまで這った。便器の中に胃の中身をすべて吐き出す。
    「うっ…うえぇ…」
     喉に胃液が沁みる頃には志摩が背後に立っていた。伊吹は手を伸ばして水を流す。床に尻を落とすと、トイレの壁に背中を預けた。
    「…はー…やば、吐いちった…」
    「伊吹が吐いたとこ、初めて見た。昨日、そんなに飲んでたか?」
    「飲んでたんじゃない?あー…ね、志摩ちゃん、ポカリ飲みたい…」
    「冷蔵庫?」
    「コンビニ」
    「はっ?ないのかよ」
    「お願い」
     嘔吐した時に潤んだままの目で見上げれば、組んだ初日に白手袋を投げて貸してくれた時よりは穏やかな渋り顔で買いに行ってくれる。ドアが閉まり、官舎の廊下に遠くなる志摩の足音が聞こえなくなってから、伊吹はもう一度吐き、小便をし、洗面所で手を洗って口をゆすいだ。ふらつきながら部屋に戻る。
    「…志摩」
     さっきまで志摩がいた、ローテーブルと布団の間の床には、志摩がいた。正確には、目を閉じて、後頭部やひたいやこめかみが赤く濡れている、志摩の顔がある。伊吹は、己にしか見えず、また触れないと自覚している志摩の顔を両手で抱え、それから睡眠時にいつも使っている枕に、ぽそ、と置いた。血を拭えば、眠っている人に、見えるかもしれない。志摩の顔の下に伊吹はごろりと横になった。顔面が天井を向くように置いたので、本来なら首と繋がっている部分の断面が視界に入ってくる。表皮、真っ赤な筋肉、白い骨…伊吹はそれらを見ながら、頭の位置を調節した。からだがあれば、生きていれば、鼓動が聞こえるところに耳を持っていく。自分の胸の音がうるさかった。志摩には言っていないことがある。久住のクルーザーで見た夢の内容だ。久住を撃って、志摩の死体のそばでうなだれる。そこで話を終わらせたのは、到底人に言えるような内容ではなかったからだ。

     倒れたまま動かない志摩の瞼を閉じ、胸の上で手を重ねる。
    「おい、相棒、返事しろよ…」
     相棒の死を受け入れるかのような行動に反する、ちぐはぐな台詞が口からこぼれ出る…どのくらい座り込んでいたのか…茫然とする頭が、これからどうなるかを囁き始めた。そんな、今さら、刑事みたいなこと。捜査の手順なんか思い描いたところで…自嘲を浮かべて、それでも伊吹は動くことにした。遠くへは逃げられない、逃げたいのかもはっきりとしない。ただ、相棒とは離れ難かった。でも全部は持って行けない。どこにするかと、選んだのが、志摩の顔だった。クルーザーの中で見つけたナイフで首を切断する。ごと、ごろ…と頭部だけになって揺れる顔を両手で抱いた。目を閉じている。まるで眠っているみたいだ。血塗れの手のひらでなるべく汚さないように目の前に掲げる。デッキに出て、揃って風に吹かれた。角度によって、夜の黒と月光の白が入り交じる水面のなんと美しいことか。志摩の顔を見つめる内に、伊吹は自身の欲望に気づいた。もう他には何もしたくない。いつからか、こんなふうに、志摩を手に入れたかった。後悔や罪の意識とともに持ち上げた志摩の顔の重みに手が震える。一緒に走りたい人の不在をはっきりと自覚したところで、悪夢は終わった。

    「ポカリ買ってきたぞ。適当に朝飯も…って食えるかどうか分かんないから、一応、飲むタイプのゼリーも」
     玄関のドアを勝手に開けて、志摩が部屋に入ってくる。伊吹はシーツに耳をくっつけていた。いくら優れた嗅覚で探しても志摩の呼吸音や脈拍は聞こえない。そりゃそーだよな、ここには志摩はいないもん…志摩が布団のすぐ近くを踏んだ。上から覗き込まれる。
    「寝てんのか?うわ、起きてる…泣いてんの?」
     枕元にコンビニで買ってきたものが入っている袋が置かれた。膝を折った志摩が手を伸ばしてくるのを涙越しにぼうっと眺める。労わるように肩をさすられた。
    「気持ち悪い?頭痛は?また吐く?」
    「…ううん」
    「じゃあ…何で泣いてんだよ」
    「志摩がいないから…」
    「もう帰って来ただろ」
    「…俺が志摩に見捨てられたって切れたせいで殺されちゃった」
    「は?」
    「俺が、しでかした、結果」
     手のひらで枕に置いた志摩の顔を確かめる。久住を逮捕して、違法薬物を吸わされたので精密検査のために入院することになったその夜だった。そう言えば、伊吹の最悪な夢ってどういうのだったんだ?隣のベッドに横たわった志摩に聞かれて、打ち明けなかった時から、志摩の顔は伊吹のそばにある。乾いた血でごわついた前髪、未だ仄かな熱を感じられるような気がする肌、二度と開かない瞼、無言を貫く唇…悪夢の中でした志摩の目を閉じるための動きを何度も繰り返した。そんな手を、志摩にすくわれる。現実には何もない空間をさまよう、半端に曲がった指と志摩の手のひらが重なった。つかんでほしくて出していたわけではないから、伊吹は手を引こうとしたが、志摩に許してもらえない。
    「俺はここに居る」
    「…しま」
     硬くて強張っていて必死で脆い声音に、そんなこと言うタイプじゃないでしょ、とおかしくなった。嘘、うそ、志摩が優しいことは知っている…そのせいでまた泣けてくる。ふふ、と笑った後で、新たな涙がとうとうと溢れた。笑ってやり過ごしたいのに。触れ合っている志摩の手の存在感は著しく、伊吹は無視することができなかった。反対の手で顔の上半分を隠す。泣きながら、汗ばんだ手で、志摩のそれを握り返した。顔のことは言うつもりじゃなかったのに。そんなに酔っていたか?それともわざと?汚い自分に伊吹はうんざりとした。夜の病室で、夢の内容を尋ねてきた志摩の声を思い出す。何かあれば、割れてしまいそうなガラスみたいな声だった。志摩の手を握り直す。時に悲しみに沈んだ夜から引き上げてくれた、時に浄化槽や最悪の夢へ一緒に落ちていく、頼りなくて、力強い、血の通った愛すべき手を親指の腹で撫でさすった。
    「伊吹のせいじゃない…俺…俺たちがしでかしたことだ」
     また一人で背負う気かと拗ねそうになったところで志摩が言い直す。
    「ごめんな」
     結局、自分は何も変わっていなかった。たわんだガラスみたいな志摩の謝罪を聞きながら伊吹は己の本質を認める。蒲郡に出会っていなければチンピラになっていたような男で、心の中にはすぐにカーッとなる凶暴な犬を飼っていて、自分の失態で死んでしまった相棒の顔を離れ難いからと持ち帰る欲深さを受け入れるしかなかった。そうしないとだめになる、前に進めない。これからも何度も打ちのめされるだろう…伊吹はごしごしと涙を拭った。
    「しま」
     相棒を見上げながら呼ぶ声は頼りなくて笑ってしまう。庇護欲をそそる何か装っているようで、おこがましさを感じた。ずるくて弱くて考えるのが苦手で、でも足が速くて言葉にできなくても分かることがある。上半身を起こして志摩と向かい合った。正面の相棒がいつもより小さく見える。志摩のうなじに手を回した。己の手のひらがずいぶんと熱を帯びていることに気づく。ガラス細工みたいな目を覗き込んだ。そんな顔しなくても大丈夫、俺たち走れるよ、志摩のことが好き、大好き、愛してるってやつだね…頭の中で浮かぶセリフのどれひとつとも形にならない。涙腺が壊れた。馬鹿みたいに泣くしかない。泣きながら志摩の顔を見ていると、ぐい、と抱き寄せられた。目元が肩に来るように誘導される。ぴったりとくっついた肉体のしっかりとした硬さや温かさに伊吹の喉が震えた。背骨が大きくわななく。
    「ふうっ…うっ…ううぅ…っ」
     すがりついて嗚咽を漏らせば後頭部を撫でられた。自分の肩にこっちの顔を押しつけるように、ゆったりと手が上下に動く。伊吹は泣きながら、自分たちの間に志摩の顔が収まっていることに気づいた。ますます涙が出る。悲しくてたまらなかった。久住が指したドアを開けて、血塗れの志摩を見つけた時から。遣る瀬なく、志摩の肩に顔をぐりぐりとこすりつけた。志摩が応えるように頬を寄せてくる。涙が志摩の肌に移った。どのくらいそうしていたか、涙の勢いが衰えてきたのに、伊吹は目元をこする。ひりついて、少し痛んだ。
    「…落ち着いたか?」
    「ん…」
     志摩の肩から顔を上げる。腹の間に収まっていた志摩の顔がころ、と揺れた。床に転がり落ちるそれを伊吹は目で追う。
    「伊吹?」
    「…志摩の顔」
    「俺の顔?」
    「うちにあるの、志摩の顔」
    「なに…」
    「あの船で死んだ志摩と離れたくなくて、持ってきちゃった」
     笑ってくれたらいいなと思うから伊吹は先にへらへらと笑ってみせた。志摩がぎょっと目を剥く。手を伸ばして転がったせいで乱れた髪を整えてやった。
    「…もしかしてそこにあるのか」
    「うん」
    「捨ててこい」
    「やだよ」
    「本人が言ってるのにか」
    「…しまってばでりかしーない…」
     向かい合っている志摩の顔がなくなったところを想像して伊吹は涙ぐむ。
    「でも、なあ、あれは夢で…」
    「そうだけどさ、分かんないじゃん、またしちゃうかも」
    「しねーよ」
    「するよ」
     心の底からではなく、ただ今の伊吹のためだけにもうしないと否定してみせた志摩に対して、だって俺たちはそういう人間だろう、とは言えなかった。捨て切れない本質が剥き出しになった夢。志摩の顔が苦しそうに歪んだ。それでもどうにか抗っている。だから少しも楽しくなかった。
    「俺は、俺みたいな奴でも刑事を目指そうって思わせてくれたガマさんを今でも恩師だと思ってるし、志摩のことはまあまあいい相棒だと思ってる」
    「まあまあ…」
    「冗談だって。すげーいい相棒、愛してるよ」
    「そりゃどーも…」
    「まじで。好き、大好き、ビッグラブ、いつかちゅーしたい」
    「すれば?」
     人の欲望を罪滅ぼしに使う志摩が腹立たしいのに、嘔吐の残滓が薄く残っている口内を隅々まで舐め回させてやりたい。
    「だめでしょ」
    「…めちゃくちゃ物好きな奴」
    「んっ?んっ?」
    「よりにもよって俺かよ」
    「そうなんだよねー何でかなー」
    「俺に聞くな」
    「まあ、俺はこんなふうに抱えていくからさ」
     伊吹は両手で血がこびりついた志摩の顔を持ち上げた。愛しさが勝手に目に宿る。もう二度とないと分かっているのに、死んだばかりの志摩の顔はいつか吐息をもらしそうだった。
    「だから志摩も一緒に苦しんだらよくない?」
     夢見が悪かったせいか、心が挫けそうな疲労感が足先からじわじわと這い上ってくる。相棒を想って、一緒にと言ったのに、志摩はやはり、いつ壊れてもおかしくないような儚げな目つきをしていた。そう簡単に病める時も健やかなる時も伊吹と一緒に刑事を頑張りますと誓ってくれるとは思っていない。あれ?これ、プロポーズみたいじゃん?死が二人を別つまで?返事をしない志摩に笑いかけた。賢い頭の中から、何もかも俺のせいだと自分を責めている聞こえてきそうだが、そんなわけはないし、そうでもある。誰もかれもが影響し合うスイッチで、選択の行方は、誰にも分からなかった。だったらもう、そのスイッチでいることを志摩は止めてしまいたいのかもしれない。伊吹は目を凝らした。疲れて倦んで俺のせいでと傷ついて投げやりな風情が漂う志摩の中に宿っている、明日への光を探す。
    「なあ志摩、いっこ聞きたいんだけど」
    「なに」
    「刑事止めたりしないよな」
    「…保留」
    「保留かよ、俺となら、今まで助け損なった人たちの分まで、取り戻せるんじゃなかったの?」
    「かもな」
    「いーけどね、俺は諦めないから、志摩がうんって言うまで聞いてやる」
     対して、志摩の方が、眩し気に目を細めた。
    「バカだな、ほんと」
    「おう、諦めのわりー藍ちゃんだかんな」
     刑事にぶらさがるしかないわな、取り上げられたらなーんもない…悪夢が囁く。自分が思うほど、信じているものはなかった。尊いゴールなのか、溺れてるからつかんだだけの藁なのか。選んだつもりで、最初からひとつだけ…生死を賭けた瞬間に明らかになる本性を背負って、走って、最期の瞬間まで。いつか自分をぎゃふんと言わせられたら最高だ。諦めなければ、また、あのビルの屋上で見た夕陽に会えるかもしれない。
    「というわけで、朝飯、食おーっと」
    「この状況でよく食べる気になるな」
    「志摩は腹減ってね?」
    「減ってるけど」
    「口の中、ちょっとゲロ臭いから歯磨きしてくる」
    「行ってこい、あ、一応、ポカリ飲んどけよ」
    「はは、優しー、そーゆーとこ、好き」
    「はいはい、俺も俺も」
    「二回言うなよ、ぜってー惚れさせてみせっからな」
    「期待してないで待ってる」
    「生きてりゃ何回でもチャンスはある」
    「長生きしろよ」
    「そりゃするって、ちゅーもえっちもいっぱいしたい派だから」
    「セクハラ」
    「志摩はなーんかむっつりっぽい」
    「仮にも好きだって言ってる奴にそういうこと言うか?」
    「むははは」
    「お前、まじで…」
    「はー楽しい、ね、志摩ちゃん」
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    かいこう

    DONEタオル/花流
    花流の日まで後6日~
    タオル 自分の洗濯物を片づけるついでに、流川のシャツや下着類もしまってやろうと棚の引き出しを開けようとすればがたがたと引っかかる。ふぬっと強引に開けてやった。中の衣服は雑然としていて、これが開けにくかった原因かと、桜木は呆れる。
    「あいつはよぉ…」
     バスケ以外はずぼらなところがある男の引き出しの中身を、仕方がないなと整理してやることにした。ここのところ、遠征や取材で忙しかったのを知っている。甘やかしているな、と思いながら、それでも普段の生活で、不得手ながら家事に勤しむ姿に接しているので、まあいいか、と畳み直し、きれいに詰め始めた。
    「ぬ…?」
     引き出しの奥に古びたタオルが入れられている。見覚えのある薄れた色合いや洗濯を重ねて薄くなってしまった生地の具合に、目を瞬かせた。それは、桜木の親が桜木が生まれる前に赤ん坊の肌かけにと桜木のために買ったもので、赤ん坊の時分から、幼稚園、小学校、中学校と育つ中、ずっと桜木の手元にあったタオルである。おしゃぶりの代わりにタオルの角をよく吸っていたと言われたり、そのタオルがなければ、昼でも夜でも寝られないと泣き喚いたり…自身の記憶に残っているもの、いないもの、合わせても思い出がたくさん刻まれている桜木の大事なタオルだった。小学校を卒業する頃にはもう肌かけにはしておらず、代わりに枕カバーとして使っていたものの、高校入学を翌日に控えた夜、中学校での最後の失恋から立ち直れなくて、可愛い恋人なんてこの先現れないんじゃないか、もしいるなら顔が見てみたい、好きになった相手とつき合いたい…と、布団に入って枕を、大事なタオルを、べそべそと涙で濡らしていれば、視界の端で模様がひとつ、すっかり消えて元々のタオル地の色が露わになっていることに気づき、束の間失恋の辛さも忘れて、桜木は起き上がると慌ててタオルを確認する。白いタオルに淵をぼやかせた青空と、元気よく飛び跳ねているキツネたちが描かれているはずだった。これまでの洗濯で全体的に色が薄くなってきたとは言え、一匹のキツネが、まるまる消えてしまったなんてことはない。初めての事態に、これ以上使って残っているキツネたちも褪せて見えなくなってしまうのは嫌だと、桜木はその夜から、タオルを使わなくなった。畳んで大事に取っておく。しばらくは長年使っていたタオルが手元にないことが寂しかったが、高校生活が始まれば、バスケに出会
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