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    haruka

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    haruka

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    現パロシュミドゥ。訳あってシェアハウスで共同生活をしているドゥちゃんとシュミさんがくっつくまでの話。続きものです。
    記憶の有無や捉え方などはキャラによってまちまちの設定です。名前有り無しのモブが結構居ます。シュミさんにモブが関わってる描写あります。ご注意ください。

    遥かなる世界で君と     ※



     その瞬間、ふと、遠くにいる『彼女』を思った。

     本当に遠くに居るのかは判らない。
     確かめる術は無い。
     会うことも叶わない。
     ただ、それはもういい。

     長い間抱え続けた懊悩も、葛藤も、運命というものの前にすべて収束し、結実し、私はただそれに従うのみと考えていた。

     けれど、私が運命と呼んでいたものは、おそらく、その大いなる流れの、端の景色でしかなかったのだろう。

     人生は、この瞬間を迎えるためにある。
     そう思う瞬間は、一度ではなく、おそらく幾つもある。
     私が私の一部を変えようとするたびに。
     価値観を塗り替えられるということは、己が想定という枠を作っていただけの事に過ぎず。

     人はただ、死ぬまで、目の前で起こることを選択し、───そして感情のままに、その一瞬一瞬に心を震わせるのだろう。

     この状況もまた運命だというのなら、私は喜んで受け入れよう。

     そして、───願わくば『彼』のように。

     私も、この少女を守りたい。



       ※ ※ ※



     休憩室のロッカーから重いリュックを引っ張り出して、リュックのサイドポケットからスマホを取り上げたドゥラカは、届いていた通知を見るなり思わず顔をしかめた。
     いくつかの通知の中に混ざっているうちのひとつ。
     数時間前に届いていたメッセージの内容は、スワイプしなくてもが何となく察せられるものだった。
     だが、それでも確認しなければならないというこの一瞬の手作業が、億劫でならない。
     動画に挟まる広告を見る気持ちでメッセージを読めば、ドゥラカの想像したものとほぼ変わらない文章が目に入った。

    『ドゥラカ君、バイトが終わったら速やかに帰るように。明日はご実家に帰る日なのだから。』

     メッセージに付いている、穏やかな笑顔のメッセージスタンプが妙に癪に障る。

    (……あー、……うっざ…)

     真顔で適当なスタンプメッセージを返し、ドゥラカは上着のポケットにスマホを仕舞った。
     頭の後ろで束ねていた髪を一度下ろし、軽く髪を掻き上げる。休憩室の涼しい空気が頭を撫でていく。
     今日は熱気の上がる厨房と店内の行き来が多かったからか、まとめていた髪が蒸れて気になっていた。
     帰ったらさっさとお風呂に入ろう。ドゥラカは髪を結い直してリュックを持った。自転車に乗るときは髪を束ねてあるほうが楽だ。
     自転車の鍵が上着に入っているかポケットの上から確認していると、ドアの向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。
     やがて、せわしいノックのあとで店長が部屋に入ってきた。

    「ドゥラカさん居た!あぁ良かった!」

     悩ましげな表情の店長は、ドゥラカの顔を見るなりほっとした様子を見せた。そんな店長の表情の移り変わりをみて、このパターンはアレか、と察する。

    「あー…、店長、あっちの店に届け物ですか?」
    「そうなの!さすがドゥラカさん、話が早くて助かる!」
    「はぁ」

     もう四度目ですから。
     内心呟いて、ドゥラカは話を進めた。

    「今日は何を届けたらいいんですか?」
    「あぁ、ナフレカの瓶を二本とスパイスをいくつか。あとは書類も少し。頼めるかしら」
    「いいですよ。厨房に取りに行けばいいですか?」
    「それはいいわ、今から私が取ってくるから、少しここで待っててくれる?」

     はい、とドゥラカが応えると、店長は扉をほとんど開けたまま足早に厨房へと駆けていった。
     廊下から少し先の店内で流れるジャズが漏れ聞こえてくる。カフェでのおしゃべりを邪魔しない、ゆったりとした音色。そこへまた、店長の足音が加わってきた。
     ドゥラカは自分のリュックを背負い、店長からクーラーバッグを受け取ると肩に掛け店員用の裏口から店を出た。酒瓶の入ったバッグを気にしながら自転車に乗り、店を後にした。
     店の前の通りはカフェやバーが立ち並び、隣り合うテラスの穏やかな灯りが夜道を彩っている。
     少し顔を上げると、夜空には星が点々と見える。
     信号を待っているあいだは、なぜかいつも建物の合間に散らばる星を眺めている。
     小さいころから、ドゥラカは夜空を眺めることが好きだった。空を眺めていると気持ちが落ち着く。加えて、近所の幼馴染の影響もあって、ドゥラカは星を観る楽しさに目覚めた。
     しかし、星に詳しくはなれなかった。星の名前を少し知っているだけで、今日の夜空に何の星座があるかなんてことはさっぱりわからない。

     とはいえ、ここでは星を見つけることも難しい。

     都心部は建物も多くて、夜といえどまだ明るい。10分ほど移動をすると街の様子も変わってくる。観光地が近い通りなこともあり、20時を過ぎても道行く観光客が多い。
     ドゥラカの働く店は軽食をメインとしたカフェだが、もうすぐ見えてくるバイト先の姉妹店は、ランチもやっているが夜はバーに変わる。カジュアルに地酒が飲めると評判で観光客にも人気の店だ。
     そうしたこともあって、観光客がどっとやって来た日には酒や料理の材料が足りなくなるようで、姉妹店のカフェにある酒や食材の在庫をアルバイトが届けに行くということが度々発生していた。
     ドゥラカが今の店でアルバイトを始めて一年が過ぎたが、届け物をするのは四回でも少ないほうで、22時まで入っている先輩二人はかれこれ十回以上は届けているという。

    (……まぁ、お金が出るからいいけど) 

     急な配達にもアルバイトの文句が出にくいのは、配達分の手当が出るからだ。
     ドゥラカとしては、それでも在庫管理方法をもっとシステム化すべきではと思うのだが、学生アルバイトが意見したところで何か変わるわけは無いし、届け先の店はドゥラカの家の方向とそれほどずれていないから、帰宅のついでに給料がプラスされるならと納得している。

     それに、そういうことを考えるなら、自分の会社でやる。

     ドゥラカには自分の会社をつくるという目標がある。そのために今は、アルバイトをしつつ必要な勉強をする。経験を積む。
     しかし経験を積むのなら、届け先のバーのほうでと思っていた。
     客の年齢層も高く観光客も多いから語学の学びにもなるし、ビジネスの話をする客を観察する機会もあるのではと思っていたのだが、残念ながら、それは心配性である同居人───あのうっとうしいメッセージの送り主であるシュミットに反対され、今の店で働くこととなった。
     自転車を走らせながらそのいきさつを思い出し、ドゥラカは不満げに口唇を尖らせた。

     ドゥラカはいま、シュミットの所有するシェアハウスに住まわせてもらっている。

     高校に入ると同時に同居を始めて一年半。
     シュミットには、学生であり親元を離れているドゥラカの身元を預かっている、という立場があることは理解している。
     だが、それゆえ色々と気を回され過保護な対応を取られている、ようにドゥラカは感じている。離れて暮らす両親が、あまりドゥラカのやることに何も言わないほうだったから、余計にそう感じるのかもしれない。
     アルバイトも遅い時間帯にはシフトを入れていないし、帰りに遅い時間まで寄り道したことはほとんどない。個別のシャワールームがあるシェアハウスではあるものの、同居人同士である程度は入浴の時間も決まっているから、そこに時間を合わせて帰宅するようにしている。
     そんな割と規則正しい生活をしていても、ドゥラカのスマホには、今日のように帰宅を気に掛けるメッセージが時々入ってくる。さすがに鬱陶しい。
     明日は数ヶ月ぶりに家に帰る。
     地元はここから電車で二時間、15時台の電車に乗る予定だ。そしてドゥラカを駅まで車で送ってくれるのはシュミットだ。
     そうした予定を踏まえてのメッセージだということもわかっているのだが。 

    (言われなくてもわかってるってば!)

     バーの裏手に回り自転車を降りた。バッグを大事に抱えたドゥラカは、小さな苛立ちを足音に滲ませながらバーの裏口のドアを叩く。
     ドアはすぐに開いた。荷物の到着を待っていたのだろう、店員がほっとしたような顔でドゥラカからバッグを受け取った。

    「今日もほんっとにありがとう。これ、お礼のソーセージ。持ってって」

     顔の前に差し出されたのは、湯気と香ばしい匂いのする包みの入ったビニール袋だった。
     空腹のドゥラカは、たまらない香りを前に思わず笑顔になった。小さくお腹が鳴った。
     袋の重みからみて数人分は入っている。ドゥラカには今夜の夜食、シュミットや酒好きの同居人達にはいい酒のつまみになるだろう。

    「嬉しいです。ありがとうございます!」
     
     さっきまでの同居人への小さな苛立ちは、スパイスの効いた香りの前にすっかり掻き消えてしまった。それどころか、もう一緒に食べることまで想像してしまっている。 

    (シュミットさんたち、喜ぶだろうな……)

     袋をいそいそとリュックに仕舞うと、ドゥラカはようやく家路についた。ここからしばらく自転車を走らせることになるが、熱々のソーセージが冷める前には余裕で到着出来る。
     ジャズとクラシックの音色が風に乗って聴こえてくる通りには、ほろ酔いの客達が愉しげに歩いている。
     信号で自転車を停めたところで、ふとドゥラカは対面の通りに人だかりが出来ているのを見つけた。
     おしゃれな雰囲気の店から続々と客が出てきていた。ワンピースやスーツといった客の服装から、おそらくバーの中でピアノか何かのコンサートが開催されていたのだろう。酒を飲みながら生演奏が楽しめるから、観光客にも大人気なのだとバイトの先輩から聞いたことがある。
     どんな店なんだろ、とドゥラカは店の様子を眺める。コンサートの内容よりは、仕事の内容や客層、経営のことが気になる。
     だが、そんな諸々の考えは不意に、吹き飛んだ。

    (…………え、)

     店から出てきた客の一人に、ドゥラカの視線は釘付けになった。

     夜道と穏やかな照明の下でもひと際目立つ白のスーツと、一度見たら大体の人が忘れない、ぴんと伸びた特徴的な口髭の男。

     通りの向こう側に居るのは、間違いなくドゥラカの同居人のシュミットだった。

     そしてその横には、女性が立っていた。
     ふたりは談笑しながら、ちょうど店の前の階段を降りようとしていた。
     すると、シュミットがおもむろに女性へと手を差し出した。女性は上品で柔らかなシルエットのワンピースにヒールを履いている。足元が危ないかもしれないとエスコートしたのだろう。女性も微笑んでその手を取った。
     階段を下りた女性は、やがてシュミットから手を離すと、その手でそっと隣りの男の腕に触れた。

     それがあまりに自然な光景で、───そんな気がして、ドゥラカは何故か、ぱっとそこから目を逸らした。

     気づけば交差点の、目の前の信号の色は変わっていた。
     そのまま進むだけでいいのだが、ドゥラカはすぐ横の道へと入っていった。シュミット達が居る通りを背にして、出来るだけ速く自転車を走らせた。

     胸のあたりが、やけにうるさい。
     自転車のハンドルが妙に汗ばんで、握りづらい。

     次の角で家の方向へと通りを曲がり、そこからはまっすぐ道を進んでいく。 

     「………意味わかんない」

     夜風に呟きが消えていった。
     声が少し震えたのが自分でもわかって、───ドゥラカは困惑している自分に気づいた。

     意味がわからない。

     何かおかしなことが起こったわけでもないのだ。
     シュミットが誰かと食事に行き、コンサートを楽しみ、親しげな様子で店から出てきただけだ。
     彼は普段から紳士的だと思う。
     家では未成年のドゥラカや住み込みの家政婦のハンナ、そして彼の部下でもある同居人の皆に、分け隔てない態度で接している。
     話好きで熱くなることもあるが、基本的にはどんなことにも冷静沈着だ。
     年齢は三十近いし、ドゥラカからすればおじさん、という感じることもたまにある。
     会社もいくつか経営していて、当然だが仕事で付き合う人は多い。仕事に限らず交友関係も広いだろう。
     そんな彼が、仕事が終わったあとに誰かとデートしていても、そこに不自然なところは一個もない。

     だから、そう、意味がわからないのは、───どうしてそんな光景を見て、自分がこんなに動揺しているのか、ということだ。

    (……なんで、ほんとに、……何?)

     何か考えようとしても、頭の中ではその三つの単語くらいしか出てこなかった。そんな状態を自覚すれば、同じ言葉がさらに頭の中を駆け巡る。
     意味不明なこの状況に、ドゥラカは自分のことながら気持ち悪さも覚えはじめていた。

     気づいたら、家の前に着いていた。

     公園が近いこともあって、都心部よりもずっと空がよく見える場所。
     アルバイトから帰ってきたら、いつもなら自分たちの家と夜空を眺めてほっと息をついていた。
     でも、今日は空を見上げても、星の瞬きを目で追っても、胸のざわつきが止まらない。
     どうにもならないと諦めて顔を下ろし、ドゥラカは自転車をガレージの横にあるいつもの駐輪スペースに置いた。
     それほど急いで帰ってきたわけでもないのに、いつもより汗をかいている。暗がりで自分の手のひらを見てみると少し震えているようで、ドゥラカは酷く居たたまれなくなった。

     この体の状況も、理解出来なかった。
     理解できないから、なんだか怖い。

     庭を挟んだ離れには、家政婦のハンナが住む小さな家がある。七十歳近い彼女は寝入りの時間が早く、ドゥラカがアルバイトから帰るころにはいつも彼女の離れは暗くなっていた。
     灯りのついていないそこを見て、ドゥラカは小さく息を漏らした。
     今日は、いまはとくに、優しい彼女の顔が見たかった。他の同居人たちも優しいけれど。
     ハンナは今日から休暇を取り、彼女の娘の家に泊まりに行っている。
     そして、ドゥラカ自身も、明日と明後日は久しぶりに実家へ帰る。今日はゆっくりした後で、残りの荷造りをしようと思っていたのに。
     ドゥラカは踵を返して、ようやく家の前へと歩き出した。

    (……あ、…おみやげ) 

     背中のリュックの中にあるソーセージのことを思い出し、ドゥラカはリュックを下ろして中から袋を取り出した。これまで背負ってきたもののはずなのに、リュックがやけに重く感じる。
     家の窓から明かりが洩れている。
     いまリビングには、同居人のレヴァンドロフスキかフライが、あるいはふたり揃っているのだろう。
     ドゥラカは家の鍵を開けた。

    「……ただいま」

     声の出し方を忘れたかのような、力の無い、掠れた声だった。
     そんな自分の喉の状態にも困惑する。靴を脱いで自分のスリッパに履き替えると、ドゥラカはキッチンへと向かった。この家のキッチンはリビングの奥にある。
     リビングに入ると、部屋の奥のソファでレヴァンドロフスキがくつろいだ様子で座っていた。すでにルームウェアに着替えて、趣味で使う釣り竿の手入れをしている。

    「おぅ、お帰り」
    「……ただいま」
    「どうした?元気ねぇな」
    「そうですか?」
    「なんだ、今日はバイト忙しかったか?」
    「そうでもないですよ」

     これ、おみやげです。そう言って、ドゥラカはソファの前のローテーブルにソーセージの入った袋を置いた。
     気さくで親しみやすい同居人は、シュミットの仕事の右腕であるだけでなく、仕事柄、人の様子や状況を察知するのが得意だ。
     その観察眼がいま自分に向けられるのはなんとなく嫌で、小手先の技かもしれないが、つまみでレヴァンドロフスキの気を引いているうちに、ドゥラカはするりと奥のキッチンへ移動した。
     手を洗い、冷蔵庫からミネラルウォーターを出したドゥラカは、自分のグラスに水を注いだ。
     まだ少し手が震えているのかもしれない。グラスを持つ手が、どこかぎこちない。
     冷たい水を喉に流し、ようやく息をついた。
     リビングの方からは「こりゃ美味そうだ」と嬉しそうな同居人の声が聞こえた。
     もう少し水を注いで飲む、そんなドゥラカの横で、キッチンの小窓の端が一瞬ぱっと明るくなった。その光は、外の道を通る車のライトだ。
     この家の近くを車が通りすぎたということで、───耳を澄ますと、車の音は家のガレージの方へと近づいてきていた。
     シュミットが帰ってきたのだ。
     ドゥラカは、持っていたグラスの水を一気に飲み干した。

    「───お、隊長も帰って来たかな?」

     レヴァンドロフスキは訳あって、シュミットのことを隊長と呼ぶ。
     テーブルの上には、テイクアウト用の紙の器に入ったソーセージが置かれていた。今日の夜食だと決めていたのに、いまのドゥラカはそれどころではなかった。
     グラスを急いで洗って片付けると、リビングを足早に横切った。

    「レヴァンドロフスキさん、私これからシャワー室使うんで、皆さんお風呂入ってください」
    「ん?おぅ、わかった。って、これは食べねぇのか?」
    「はい、皆さんでどうぞ」

     言い捨てるようにして部屋を出ようとするドゥラカに、同居人が後ろで何か言ったようだったが、いまは本当に、それどころではなかった。

     シュミットが帰ってきたら。鉢合わせたら。
     いま、ものすごく、そうなりたくなかった。

     だが、ドゥラカの気持ちをよそに、現実はじつにタイミング良く、あって欲しくないことを引き起こしてくれる。
     ドゥラカがリビングから出たのと、シュミットが玄関のドアを開けたのは同時だった。

    「あ……」

     思いっきり、シュミットと目が合ってしまった。

     その瞬間、心臓が大きな音を立てて───顔じゅうが熱くなったような、一気に青ざめたような、とにかくよくわからない感覚がいっぺんにドゥラカを襲ってきた。

    「おぉ、ドゥラカ君。ただいま」

     にこりと、紳士的な穏やかさでシュミットが笑った。
     それが、何故かいま、───とても嫌だ、と、ドゥラカは思った。

     おかえりなさい、と、いつもならそう返す。
     けれど、ドゥラカはその笑顔を無視して、そのまま一階の奥の自分の部屋へと駆け出した。
     悪いことをした。
     そう思ったけれど、振り返れなかった。
     足を止められなかった。
     部屋に入って、慌てて後ろ手にドアを閉めた。
     リュックが勢いよくドアに当たり、ドアの音が響いてしまった。
     ごめんなさい、とドゥラカは反射的に思った。

     それから脱力する肩から、ゆっくりとリュックを下ろした。落ちたと言うほうが正確かもしれない。
     どす、とそれがドゥラカの足下で音を立てた。

     その瞬間、ドゥラカの中でも何かが零れて落ちたような気がした。

     それは、心の中から、突然現れたもの。 

     いや、それは。
     ずっと前から、───ここにあったもの。

    「………ウソ、でしょ……」

     呟いて、ドゥラカはゆるゆると、落ちたリュックの傍らにへたり込んだ。

     顔がやけに熱くて、けれど同時に胸のあたりが冷えていて、ドゥラカは自分がショックを受けていたのだと、ようやく気付いた。

     あまり、いや、かなり、認めたくはない。
     でも、そうだと、心のどこかで納得していた。

     シュミットのことが、好きなのかもしれなかった。






    つづく

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