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    129uguisu

    @129uguisu
    夢ば〜っかです

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    129uguisu

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    一生完成しないセベクくんと弊社監督生くんが頑張って元の世界に帰ろうとする話です

    タイトル未定月3万諸経費込みで異世界を生き残る方法

    生き残りを賭け、毎日が全力
    セベク・ジグボルト×弊社監督生
    ───────────────────





    『人生に必要なもの。それは勇気と想像力、そして少しのお金
    ──── チャールズ・チャップリン』


     なんて言葉が故郷にあるのを、思い出した。



    遊星からの物体Y
    ───────────────────



    『お』


     意外にも、非現実的な状況に陥った時に出てきた言葉は母音であった。
     寝ていたのであろう。しかし、寝る前の記憶が一切思い出せぬまま暗闇で意識を取り戻した。身動きは取れるものの何やら狭い箱の様な物の中に閉じ込められている事だけ理解し、誘拐か何かの類かなと状況にそぐわぬ冷静さで自分の身に何が起こったかを思案する。箱、と言うより、もう少し違ったモノのように感じる。
     自力での脱出を試みたが何やら蓋の様な物があるのだろう、重くて開けるのには中々苦労しそうだと感じゴンゴンと叩いて周りに気付いてもらおうとする。しかし、ただひたすらに無音が続くのみだった。
     兎角、開けてもらわぬ限り自分はこれ以上どうする事も出来ないので、諦めて何かしらのアクションが起こるまで待機とする。しかし数刻もせぬ内に外側から話声らしきものが聞こえてきたので開けてもらった時に寝たフリをしておくか起きておくかどうしようかと悩んだりなどした。
     の、だが、悩みは一瞬にして掻き消される。青い炎が身の回りに出現する、突然の事で熱いと思う間もなかった。そして箱の上部が取り外され、その時にこの箱が"棺桶"であると分かり、ぼんやりとまるで火葬みたいだと脳裏に過ぎった。


    「オマエ、何でもう起きてんだ!?」

    『うおッ、喋る狸』

    「誰が狸じゃーー!!」


     人語を話す狸、不思議な生物もいたもんだ。彼は他にもまだ何か言っていたが、とりあえず狸くらいなら放っておいても殺されはしないだろうとまず周りを見渡した。すると、目に映るは浮いている鏡やその他多くの棺桶達。やはり俺は火葬場にも来てしまったのだろうかと初めて焦りを感じた。生者が棺桶から出てきたなんて火葬場の長が知ったら不手際所の騒ぎじゃないからな……そもそも俺死んだのか? そうなる前までの記憶が思い出せないな……。
     しかし、火葬場にしてはと言ったところ。何で鏡や棺桶が浮いているんだと言うのもあるし、スルーしていたが……。


    「ふなーーッ! オマエ俺様の話を聞け!」

    『冷静に、狸が喋ってんのおかしいよな……』

    「俺様は狸じゃねェ! ”グリム”だ!」


     夢だろうかとも思ったが先程の炎の熱はしっかり感じたので現実なんだなァと肩を落とした。色々不思議な点はあるものの日本語を話す狸が居るので恐らく日本国内のどこかである事は間違いないと思うと少し安心した。
     一方、グリムとやらは俺の制服が欲しいらしい。制服? と思って改めて自分の姿を見てみると見たこともない制服を身に纏っている事に気付いた。


    『これ、欲しいんだ』

    「おう! さっさと寄越さないとオマエを丸焦げにしてやる!」

    『別に俺のじゃないから良いけど、サイズ合わないんじゃないか? オマエちっちゃいしベストだけで全身埋まるだろ』

    「ふなッ!?」

    『丸焦げにするって脅しも良くないな、丸焦げにして困るのはオマエじゃないか? 制服ごと燃やしたら意味ないし』

    「うるせェ!! いいから寄越すんだゾ!」


     うーん、言っても聞かないな。まァ俺は困らないからあげてもいいんだけどさ……。
     しかし、制服と言う事はここは何かしらの施設であることは間違いない。例を挙げるならそれこそ学校だが、軍なども有り得るな。とは言え制服の見た目からして前者であろう。
     学校であるなら責任者や教員、生徒が居るはず。何故俺がここに制服込みで居るのか分からないが聞き出す必要があるのでグリムに俺の制服を渡す事を条件に、共に一頻りここら一帯を見て回ることにした。


    「何でオマエに着いて行かなきゃならねェんだ!」

    『人に頼んで俺の制服を使うなりなんなりしてオマエの体型に合わせて作ってもらおう。欲しいんだろ?』

    「ふなッ……う〜ん……」


     制服を交渉材料にすると悩みながらも言う事を聞いた。それにしては何だか周りをキョロキョロ見回して如何にも人に見つかりたくなさそうだが。
     あちこち歩いて回ると本当に学校であるのだと分かる。教室らしき場所や通路から見た隣校舎、図書館なんかもあった。図書館なんだから人くらい居るだろうと戸を開けると浮いている本以外人っ子一人居ない。学校のくせにと思ったがさっきから浮いている物が多すぎる。どういう仕組みなんだろうと手を取ろうとすると背後からカツン、と足音が聞こえた。


    「ああ、やっと見つけました。君、今年の新入生ですね?」

    『おおッ……』


     ペストマスクを被った如何にも怪しい人物が現れる。あからさま過ぎて逆に違うんじゃないかとも思ったが、俺を探していたと言う旨の発言からしてまァ恐らく彼が責任者であろう。


    『アンタがここの責任者?』

    「如何にも! 私がこのナイトレイブンカレッジの学園長ことディア・クロウリーです。それにしてもダメじゃないですか、勝手に扉(ゲート)から出るなんて……それに手懐けられてない使い魔の同伴は校則違反です」

    「オレ様は使い魔じゃねェんだゾ!」


     ナイトレイブンカレッジ、日本語を喋る割に本名が外国人らしき名前、使い魔という発言。どれを取っても不可解な点しかない。
     ここは何処で何なのかを問い詰めると空間転移魔法、やら、記憶が混乱している等と独り言をポツリと零していたのを聞き逃さなかった。何だそれは、と聞くと詳細は歩きながら教えましょう。と言ってスタスタと歩き始める学園長と名乗る人物。追い掛けるしかなかった。
     はぐらかされるかと思いきやちゃんと説明をしてはくれたのだが、所々聞き慣れない言葉が飛び交っており受け取った情報を完全に整理し理解する前に入学式とやらが行われている会場へと辿り着いてしまった。どうしようか、入学式という言葉が何かしらの隠語だったら……。
     戸を開けると今まで人っ子一人居なかった校内とは打って変わって見渡す限りのローブを被った生徒達、どうやら本当に入学式らしい。出遅れて参加したみたいな形になったので各方向からの視線が痛い、俺だけローブ被ってないから余計目立ってるし。
     何もかもよく分かってないまま特別大きな鏡の前へ連れていかれ、鏡に映る仮面のような顔からの問いを下される。訳も分からず適当に返事をしていたらどの寮にも相応しくないと判決を下された。何だか某魔法学校でも似たようなの見た事あんなァと思ったのと、この結果は先程から度々出てくるワードの"魔法"が関係しているのであろうと思った。魔道士の育成に特化した学校と学園長……は話していたので。
     今までに得た少ない情報を少しずつ組み合わせ、脳内で不十分な所を知識で補完し、ある一つの結論を導き出した。とは言っても、全くもって馬鹿げた話なのだが。
     一人静かに考え事をしている一方で背後ではグリムが大暴れしているのをスルーしている。視界の端に再び青い炎が見えた、あれもきっと"魔法"と言うモノであろう。


    「どうにかしてください! 貴方の使い魔でしょう!?」

    『え、違いますけど』


     案外、学園長はあっさり理解してくれてグリムはそのまま学園から追放された。さて、あの得体の知れぬ狸の行方は俺には知ったこっちゃないので、今はこの何とも馬鹿げた話である自論に対しこれ以外に納得のいく説明を自分自身にしてやれないと理解するところまで終わった。
     暫くして入学式とやらが終わり、手違いでここに来てしまったので元の場所に戻しますと言う展開になった。このまま無事に戻れたら俺はとっても運がいい。
     が、恐らく、俺の推測では────。


    「この者のあるべき場所はこの世界のどこにもない────無である」


     読みが当たったという事に勢いのまま指を鳴らして喜んでしまいそうだったが、あァ、やはりそうかと言う落胆の方が勝ってしまった。そんな俺とは打って変わって慌てふためく学園長に、一つ、声をかける。


    『学園長、俺とオハナシしませんか』


    ◆◆◆


    「異世界から……来た?」

    『と、思うんですけどね』


     ファーストコンタクトとなった図書館へと戻り、少し広々としたテーブルに向かい合ってオハナシをし始めた。案の定学園長は呆れて何を言っているんだと言わんばかりの態度を見せる。そりゃそうだ、これが普通の反応。


    『じゃあ、お尋ねします。学園長は今までに日本・倭国・ジャパン・ジパング……この様な名前をした国をご存知ですか?』

    「ニホン……ワノクニ……? その様な名前の国は聞いた事ありませんねェ、私は世界中の主要な国は知っているつもりでしたが」

    『そうですか、ありがとうございます。ではこの国の公用語は何ですか?』

    「公用語は"英語"ですね」

    『……では学園長の耳には俺の声は"英語"として聞こえてますか?』

    「そりゃあそうでしょう、そうでなきゃ話せてませんしね。そもそもこの学園内には翻訳魔法がかかっていまして……」

    『なるほどなるほど……』


     学園長にこの世界の地図を見せてもらうと明らかに俺が居た世界とは全く異なる地形をした地図であった。所々に書かれている文字は本当に英語で、異世界にも英語ほどの主要言語は存在してるんだなァと謎に感心した。けれど、俺の目が勝手に英語として認識するようになっているのかもしれないので本当は違うのかもしれない。
     さて、面白い事に俺の目には今英語で書かれた文が見えているはずなのであるが、頭の中に流れてくるのは日本語であった。
     何が可笑しいんだ? とも思われるかもしれないが、目に見えているのは英語なのに脳内では日本語に置き換えられるのだ。相当頭の良い人間であれば英語を見たらすぐに日本語に和訳出来るのかもしれないが、そういうのでは無い。和訳ではなく、日本語(・・・)として処理されるのだ。
     母国語ではない言語をまず見た時はその単語や文章を理解してから順序立てて脳内で日本語に置き換えるだろうが、ノータイムで日本語として認識している。まァ、普遍文法とかそういう類いが脳内でバグってんのかもしれない。
     例えば、"Land of Dawning"と言う国があるが俺には脳内でそれを"黎明の国"と読んだ。Dawningと言う単語は"明け方"などの意味を持つが、これをノータイムで"黎明の国"とは読めない。のに、まるで"黎明の国"そのものを知ってていたかの様に読めているんだ。


    『高度な翻訳魔法? を掛けてるのは分かりましたが、俺には貴方の話す言葉が俺の世界のとある一種の言語、"日本語"として聞こえ、見える文字全てが"日本語"として処理されてます。翻訳魔法は異世界の言葉も翻訳してくれるんですかね……。それと、地図を拝見したところ俺の故郷らしき場所は見当たりませんしそもそも地形が全く違います。ユーラシア大陸とかご存知ないですよね?』

    「うぅ〜ん……異世界の言葉にまで適してるとは考えにくいですが……何しろ前例がありませんし。それにユーラシア大陸……ええ、君の言う通り聞いた事もありませんね」

    『身分証等を提示しようとも思ったのですが、この通りこの身一つなので。俺が嘘付きで今までの事が全て口から出任せとも思われるかもしれませんが百年務めて異常が無かった闇の鏡とやらが異常を来たした様な判決を下したので、そこが判断材料となってくれれば良いんですけど』

    「いえ……とりあえず信じましょう。魔法がある世界なのでそのような不可解な事も有り得なくはありません。君が嘘を言っているとも考えられませんしね。ですが、そうなると君は今見知らぬ世界に一人。親と呼べる人も帰る場所も無い君をこの学園から放り出すのも責任者であり、大人である私には気が引けます。ので」

    『ので?』

    「少し、離れにあり趣深いですが、君に寝床を用意しましょう」



    容疑者Yの献身
    ───────────────────



    「────と、言うわけで。こちら念には念を掛けて一ヶ月分の食費です」

    『えッ、ホントにありがとうございます』

    「いえいえ! 私優しいので。しかし足りなかったり生活する上で不便があったらすぐ教えて下さい。出来る限りの援助は致しますし君が健康で文化的な最低限度の生活を送れるよう手助けします」


     憲法25条は異世界にもあるんだなと思った夕暮れであった。


    ◆◆◆


     茶封筒の中を覗けば紙幣が三枚入っていると言う事が分かった。手に取って見てみるとどうやら通貨単位はマドルと読むらしく、ゼロが四つある事から1万マドルと見た。合計3万マドル、男子高校生一人の食費としてはお菓子等の嗜好品を買いさえしなければやりくり次第では充分であろう。こっちの物価全く分からないが……日本円で換算するなら3万だけれど、イランリアルと同じくらいだったらどうしようか。
     しかし、学園長。見ず知らずの異世界人に寝床と現金を提供してくれるなんてなんて良い人なんだともう去ってしまった彼へ向かって静かに手を合わせ拝んだ。ん? いやここ宗派なんだ? 英語が公用語だったし十字切っといた方が良いのかもしれない。
     とは言え離れにあって趣が深い、現在使われていない屋敷と言うのは良いように言えば本当に趣が深く、悪く言えばそれはもうとてもボロかった。とは言えこう言うのは片付けと掃除次第でどうとでもなる、雨風を凌げて寝る事が出来る環境に感謝だな。
     ボロボロになっていたが箒を見付けたのである程度の埃は払いあちらこちらに散乱している家具は直せるものだけ直しておいた。流石に人手が足りないのでソファ等の大きな家具は後回しにする事にしよう。
     パタタ、と音がする。雨がフローリングの床に当たった音であった。窓から外を見てみると急に雨風が強まり、天井からは雨漏りし始めていた。予想よりかなりボロいなと少し笑いさえ込み上げてきた。


    『にしても、酷い雨だ』

    「全くなんだゾ!」

    『うおッ』


     追い払われていたはずのグリムが何故だかあたかも平然と家の中に居た。俺が驚いたのをいい事に調子に乗っていたが、話を聞いてみるとチラホラと発言の中にこの学園に入りたいと言う旨を感じる。この学園はそんなに良いところなんだろうか、とは思ったが、なんか最初に学園長が優秀な魔法士がどうたらみたいな事を言っていたような気がするので恐らく良いところなんだろう。
     雨漏りが次第に酷くなってくる、どうしたもんかと思案しているとグリムに「魔法を使えばいい」と言われた後に使えないのかと煽られる。この世界は魔法が割と一般化しているのだろうか、しかしこれくらいの雨漏りはすぐ魔法で直せるという考えがあるということは日常生活でも頻繁に使われているに違いないだろうが……。


    『じゃあ、俺は魔法が使えないからグリムがやってくれ』

    「イヤなんだゾ! ツナ缶も出ないのにタダ働きなんてゴメンなんだゾ」

    『へェ、ツナ缶』


     ツナ缶があるんだ、そう言えばこちらの食文化はどうなっているんだろうか。英語圏なので米国と似たような食文化なのかはたまた元居た世界とは丸っきり違う食文化なのか……こう言うのを考え出すとキリがないな、実物を見るしかない。
     さて、グリムは手伝ってくれそうもないのでバケツかコップか何かしら雨水を貯める事の出来る容器を探そうかと廊下に出る。雨が降っていて時刻は夜なので灯りのない廊下はとても薄気味悪く、じとりと肌に纏わりつく様な湿っぽい感じがした。
     廊下の角を曲がると物置みたいな感じに物が置かれている場所があったのでそこに行けば何かしら見つかるかなと思いながら再び角を曲がると、幽体が1つ、2つ、3つ。


    『お』

    「イヒヒヒ……久しぶりのお客様だァ……」

    「腕が鳴るぞォ……」

    『へェ、コミカルな見た目』


     ジャパニーズホラーとは全く違う見た目だ、しかも自分から現れて話しかけてくると来た。日本は陰湿でねちっこいじわじわ追い詰める形のホラーや幽霊が多いからなァと呑気に思う。
     対する彼らは余りにも面白みのない反応をしてしまったので少し動揺していた。幽霊に「怖くないのかい?」と聞かれる事、中々無いな。


    『慣れてる、っつうか……まァ良いや。発言的に良くないモノだろう』


     日本とは違うなァなどと考えていた際に、人を脅かして追い払ったとか何とか言ってたもんな。一つ、ふぅ、と息を吐くと彼らはなにやら悟ったのか少し後退した。ほう、異世界の幽霊にも分かるのか……。なら好都合だ。
     ────上下関係を、しっかり教えてやらないと。
     ゆっくりと瞬きをして、彼らを見つめ直そうとした際────……。


    「ふなーーッッ!! お、オバケ〜〜!!」


     廊下一遍にグリムの叫び声が響く、大方部屋から出ていった俺が帰って来ないから様子を見に来たのだろう。幽霊を見た時の反応はこっちのが正しい。
     俺がどうこうする間もなく彼は御自慢の青い炎を噴いてなんとか彼らを退治しようとしていた。けれど外れる外れる、命中率の悪さは火を噴く時に目を瞑ってしまっているところだろうか。


    『んー……目を瞑らずに標的を見てごらん』

    「俺様に指図すんな!」

    『指図じゃない、アドバイスだ。怖いからと言って目を逸らさずその目でキチンと標的を捕らえて……狙いを定めて……────噴け!』

    「……ッ、ふなーーッッ!!」


     俺のアドバイス通りに視線を逸らす事なく標的目掛けてゴオッと火を噴くと、彼らのボディに青い炎がぶち当たる。その調子だ、と言うとグリムはそのまま命中率が下がる事なくまさに百発百中の勢いで彼らを蹴散らした。成仏、いや、何かしらの作用が働いて消えてしまったか一時撤退か……まァどちらでも構わないか。脅威があると知ってもう来ないだろう。
     さて、怖がりながらも追い払ってくれたグリムには正当な報酬を渡さなきゃならないなと思い、まずはとお礼を言った。最初は自分の成した事実に驚き呆然としていたが、すぐに調子を取り戻し「もっと感謝しても良いんだゾ」と言ってくる。はいはい、と軽くあしらいキッチンとかにツナ缶とかあるもんかねと思い探しに行こうとするとカランカラン、と玄関の戸に付いてるドアベルが鳴った。


    「こんばんはー、優しい私が夕食をお持ちしましたよ……ってそれは先程入学式で暴れたモンスター! 追い出したはずなのに何故ここに!?」

    『えッ、ありがとうございます。すみません色々……グリムは、なんか勝手に居ました。それと幽霊も居たんですけど彼が追っ払ってくれました。今更なんですけどアレ追っ払って大丈夫でした?』


     グリムが「ソイツの言う通りなんだゾ!」と誇らしげに自分が退治した事を自慢する中、対する学園長は黙り込んでしまった。あの幽霊……追っ払ったらマズイ感じだったか? それとも追っ払ったハズの狸が紛れ込んでるからか?
     暫く経って、ようやっと話したかと思えば学園長は「もう一度退治しているところを見せて下さいませんか?」との事。
     俺は別に良いのだけれど、生憎幽霊達はとっくに何処か彼方へと去ってしまったので難しいと言うと彼が変身して幽霊に成りきってくれるのだそう。更にやった暁にはツナ缶を差し上げる、とのことで。これにはグリムも揺らいだ様で「あと一回だけ」と言う条件下の元、再び幽霊退治のリプレイをする事となった。


    『とは言え、俺なんもやってませんけどね……』

    「そうだゾ!全部俺様の実力だ!」


     助言をしただけであって、グリムが彼自身の実力で追い払えたのは事実だ。だからあとは頑張れと言って俺は数歩離れたところからリプレイを見ていたが、先程より命中率が下がっている。対学園長だから、先程の幽霊より避けたりするのが上手いのか否か……。
     グリムはそれに慌て始めたのか、再び目を瞑るようになってしまった。このままだと明後日の方向へ火を噴き続ける事になる。


    『グリム』

    「なんなんだゾ!」

    『よく見て、自分の視界から敵を逃すな。先程より相手は強い。集中して、全神経を使って、息を吐いて呼吸を整えて。目を瞑ると軌道もブレる、真っ直ぐ、一点に集中して────』

    「…………!!」


     今だ、と俺が呟くと同時に青く幻想的な炎が彼(学園長)目掛けて向かっていった。


    ◆◆◆


    『こんな感じですね』

    「お前が仕切ってんじゃねーんだゾ!」


     ぜえはあと息を切らすグリムと考え込む学園長、そしてただ突っ立っているだけの俺。何をそんなに悩んでるんだと思ったが、どうやら先程の様にモンスターを従わせる事が出来るのはまあまあ珍しいと。それを魔法の使えない俺が容易く従わせているのでそういう才能があるんじゃないかとの事。アレは従わせた、と言うので良いんだろうか。
     彼は再び暫くうんうんと考え込んだ後に、一つ、提案を頂いた。


    「貴方達お二人で、雑用係として学園に滞在してみませんか?」

    『雑用係?』

    「ええ、その代わりに寝床は無償で提供します。学園内の細やかな雑用をお願いしたいのですが終わり次第異世界への帰り方や情報を得る為に図書館は使っても良いとしましょう。キミには先程も言いましたが調教師や猛獣使いの素質があります。グリムくんはこの学園に通いたいのですし、それ相応の誠意や入学させる価値を見い出せましたら特別入学も考えましょう」

    「ふなァッ!? 本当か!?」

    「ええ、私とっても優しいので」


     雑用自体は後に志願しようと思っていたから都合が良かった、なにせ俺はこの世界に来て一ヶ月分の食費を手渡され更に寝床まで用意してもらってるんだ。せめて食費や宿代くらいは働くなりして返さないと。
     それに、俺は実際この人に頭が上がらない状態なので『はい』としか答えようがないのであった。図書館でとか使っていいのは普通に有難いし。
     しかしまァ、不安点と言えばこのグリムが俺の言う事を聞いてくれてちゃんと雑務をこなしてくれるかどうか、と言うところだ。しかし彼の入学したい気持ちはホンモノであろうので、俺はただ信じるしかないのだ。


    「では決定ですね! それでは私はこの辺で、ツナ缶はまた届けに来ますので一先ずこの夕食を食べちゃってください」

    『ありがとうございます。ほらグリムもお礼言え』

    「ふな〜〜ッ! 無理矢理俺様の頭を下げるんじゃねェ!!」


     学園長が持ってきた夕食は栄養面をしっかり考えた種々雑多なサンドイッチであり、味も故郷で食べたのと大差無かったのでこの国の食文化は元の世界と似たような物だと分かった。
     あと、ツナ缶はキッチンの戸棚の中をガサゴソと漁れば見つかった。賞味期限もまだ先だったのでお疲れ様と言うことでグリムにあげといた。



    Yよ憤怒の河を涉れ
    ───────────────────



     と、言う出来事が起こったのが三週間程前。そして現在、俺とグリムは雑用係から昇格しナイトレイブンカレッジ生の一人として学園に通っており、俺は監督生と言う立場になった。
     話が飛躍し過ぎている感じはどうも否めないが、話すと長くなる。各所各所を啄んで話すと、雑用係初日に問題起こしたりシャンデリア割ったりドワーフ鉱山行ったりしたし、その次の日にはハーツラビュル寮のいざこざに巻き込まれた。何だかんだありハーツラビュル寮とは仲良くなったのでまァ良いとする。
     さて、まァ、俺的には三週間異世界に居ると言うのに帰る方法が微塵も分かっていないし、こちら世界の常識や一般教養が更々無いので色々面倒ではある。特に授業面では尚更なのである。
     以前あったように俺の瞳には英語で板書や教科書の内容は見えているが脳内では日本語として処理されているのでややこしいし、割とエネルギーを使う。英語と日本語を二重に受け取っているので一つの授業が終わる度にどっと疲れるし、何より授業何言ってるか分からん。
     魔法が使えないとは言え座学くらいは余裕だろうとタカを括っていたが皆が小・中学生でとっくに理解した内容を前提に話を進めているのでいきなりゼロからのスタートである俺にとってはホント何が何だかと言った内容ばかりだ。
     魔法史なんてものはまだ有難いのだが(全く分からないので差程有難くはないがこちらで言う日本史世界史と受け取ると比較的、だ)魔法解析学とやらは本当に意味がわからん。魔法を解析? となったし恐らく一つの魔法を出すのに様々な手順があるらしいのでそれを一つ一つ解析し、組み立てて一つの魔法になるのだと言う話なのであろうが、本当に分からん。平たく言えばマジックのタネを教えて貰ってるみたいな感じなんだろうが……。


    『こりゃ留年だな』

    「諦めるなよ! 俺も教えてやるからさ」

    「授業中頭にハテナ浮かべてたのは誰だよ」


     と、紹介が遅れたがこの両隣に居るのはエースとデュース。雑用係初日にして問題を起こしたとても元気のよろしい同学年であり、同クラスのオトモダチだ。多少問題児みたいな所はあるが魔法を持たない異世界人の俺を案外すんなり受け入れてくれたので悪い奴らでは無いと思う。寧ろ良い奴らだ。
     現在は図書館で課題をしている所だ、グリムは知らん。飽きたとか言ってどこかへ行ってしまった。課題は写させないので本人には苦労してもらおう。
     しかし魔法を持たないのに魔法関連の座学を理解しろと言うのは流石に厳しすぎやしませんかね、もう少し化学っぽかったら理解の余地があるんだが。


    「言うて化学っぽくね? 空気中の元素を主なエネルギーとして基礎の魔法は出来てんだし」

    『俺の世界にない元素の話されても困るんだな、元素は水平リーベ僕の船だろうが』

    「なんて?」

    『こっちの世界の元素の覚え方』


     異世界のワードを出すと興味ありげな反応を見せる二人、やはり異世界には興味津々か少年達よ。と、ニコリ、口角を上げる。
     とは言えこちらの世界との差異はホントに極端に言ってしまえば魔法だ、その他は全く違う訳では無いにしろ大きな不便や違和感があるような程差があるもんでも無かった。
     あァ、でも"食"関連には少し驚いたな。俺は初日の学園長からのサンドイッチでてっきりここは欧米文化圏の食文化なのかと思っていたのだが食堂のラインナップには納豆があった。
     かなりド肝抜かれたし納豆はどう考えても日本食だろうがと思ったが、納豆だけではなく普通にドリアやコロッケやらナポリタンやら、所謂日本発祥の食べ物があった。どうなってんだ、ここはやっぱり日本でそれこそ壮大なドッキリでも掛けられてんのかと疑ったが魔法があるのでそれは無いとすぐ持ち直した。
     それと、購買と言う場所がありそこではありとあらゆる物が買えるのだが(誇張表現ではなくマジだ)夕食を作るにあたって何かしら調味料を買わないとなと思い何があるか聞いたら普通に料理のさしすせそが出てきた。醤油はまだ分からんでもないが味噌は無理がある、欧米にもあるんだろうけれど……なんか殆ど日本じゃないか?


    『百歩譲って日本が無いにしても、ああいう発酵食品の類はどこから来てんだか……』

    「極東の国だろう」


     背後からの声に思わず肩を跳ねらせたが、それ以上に心臓を跳ねらせる単語が聞こえた。


    『お前、今、極東と言ったか?』

    「ああ、そんな事も知らないのか人間」


     後に俺の異世界人生での重大で重要で重鎮な人間となるセベク・ジグボルトとの対面であった。


    ◆◆◆


    『頼む! 詳しい事教えてくれ!』

    「断る。極東の事など文献を調べたら分かるだろうが」

    『文献が何処にあるかすら知らないんだ! ああ、極東と言う言い方もあったか……! 学園長に聞き忘れたな、いやそんなのは今はどうでもいい! 頼む! 今のところお前しか頼りにならない!』

    「貴様にお前と呼ばれる筋合いは無い!!!」

    『なら名を名乗れ!! 俺はユウ!! 監督生で構わない!!』

    「僕はセベク・ジグボルトだ!!!!!」


     うるさい、との事で図書館から追い出されてしまった。巻き添えでエースとデュース達も。完全にとばっちりである。
    彼らには何してくれてんだとだいぶ怒られてしまったが些細な事だ。めげず懲りずにセベクと名乗った彼に問い詰めると流石に鬱陶しいと思われたのか「やかましいぞ!!!」と一喝。耳にキィンと響く程の絶叫でくらりとした。


    『……元気が……宜しい事で……』

    「……行こーぜ、つーかそれなら学園長に今から聞きに行けばいーじゃん」

    『それもそうだ、すぐ知りたいと言う欲が勝ってしまって……。ええと、セベクくん? しつこく聞いて悪かったよ、でもお陰で極東の事を知れた。どうもありがとう』


     彼はフン、とだけ言って俺らに見向きもせずに足早に去っていった。俺はクールだなァとか思っていたが二人にはあまり好印象では無かったようで、別れた後に「態度わりー」と主にエースがボヤいていた。まァ、態度を悪くさせた原因は完全に俺なんだけれど……。
     俺は今から学園長の所に向かうよと言うと二人も着いてきてくれるらしい、別にいいのにと思ったが話し相手が居る分に困る事はないし、いいか。


    「つーか、そんな帰りてェの? 元の世界」

    「そりゃそうだろ! 監督生だってあっちに親御さんとか、友達とか居たもんな……」

    『ん? あー……いや、まァ別にそこが一番の帰りたい理由ではないな』


     はァ? と驚いた様に声を漏らす二人。まァ一般的にはデュースが言っていたのが主な理由になるんだろうけれど。


    「じゃあ、監督生の帰りたい一番の理由って何なんだ?」

    『俺がこの世界に居る事で何か問題が起こったら嫌だから』

    「……厨二病拗らせた?」

    『よーし、歯ァ食いしばってもらおうか』

    「ジョーダンだって! ジョーダン!」


     スッと掲げた拳を見てあからさまに態度を変えるエース、本気で殴ったりなんかしないけど流石にちょっとカチンときた。


    『……俺は異世界から来たんだぞ? 魔法がある世界だからそういう事もあるよね、みたいなノリで皆受け入れているが……世紀の大問題だこれは。俺が目覚めたのがここ賢者の島で、更にNRCではなかったらどうなってたか……匿ってもらっていなかったら俺は今頃どっかの研究所なり牢獄なり、まともな生活すら送れてないだろう』

    「え? そう言うもんなのか?」

    『そりゃそうだろ、皆の反応からして前例は無いみたいだし。異世界から来たと言う事は身体の作りとか脳とかも違うかもしれねェから、変な研究所とかで目覚めてたら解剖尋問エトセトラ……最悪何かが起こる前に死刑、なんてのもあったかも。まァ未来人説みたいな感じで根掘り葉掘り聞き出せるってのもあるが、用が済んだらそれこそ……だな』


     そもそも俺は何故ここに呼ばれたのか? 無作為であるならこれから先また俺のようなモノがこの世界のどこかで急に現れるのか否か……。
     それに、何故こっちに来たかは分からないとは言え誰かが俺を意図的に召喚したワケではないのなら俺は一体"何"によってこっちへ喚ばれた? 完全に無から呼ばれたとしたら、こちらの世界がおかしくなっていると言う可能性も無くはない。
     ゴーストなんかとはワケが違うんだから、俺がこっちにより長く滞在すれば滞在するほどこっちの世界に対して不具合、所謂不可解なバグがずっと起こっていると言うことになる。それによって歪みがより肥大化する可能性もある訳だ。


    『と、言う事で帰りたい。別に何とも無かったらそれに越した事は無いけど可能性はゼロじゃない。流石に俺がこっちの世界を滅ぼすキッカケみたいなのになりたくないし』

    「へ〜自意識過剰〜て言うか痛くね?」

    『俺の居た世界には「喝」と言うものがあってだな……』

    「あーー! 悪ィ悪ィホラ場を和ませようと思ってさ? 隣のデュースなんてプスプスいってるし?」

    『あ、ホントだ。いや今の話そんな難しかったか?』

    「だ、だい……大丈……バグ……? 歪み……?」

    『おっ、バグが進行してきてるな。主にデュースに』


     訳が分からないとなっているデュースにまァ難しく考えないでいいよと言ってそのまま学園長室へ向かってる最中、勉強に飽きたと行って何処かへ行っていたグリムが「子分ー!」と言ってこちらにやって来るのが見えた。手元にはサムさんの所で買ったと思わしき荷物が入っている袋……。


    「見てみろ! ツナ缶が安かったから買ってきてやったゾ!」

    『…………』

    「うーわ、また買ったね〜そんな食いきれんの……って、おーい? 監督生?」

    『…………もう、学園長から貰った今月分の金は底を尽きかけているから無駄な買い物はするなと言ったはずだけれど……?』

    「無駄な買い物なんかじゃねェんだゾ!」


     まァ、無駄では無い。食料なのだから。ただ問題なのはもう寮に大量のツナ缶があると言う事……。それにアイツは俺が弁当を用意しても食堂で高い商品を買うし……目を離すとこうやって余分に食料は買ってくるし……。俺達は居候で金も分け与えて貰っている身と言うのを実感してないのか……?


    『フゥ……ああ、エースとデュース。悪い学園長の所へ訪問するのはまた今度にしよう。今日は……あの狸に……金の管理と言うものを徹底的に叩き込んでやるから……』

    「あー……りょーかい」


     友人A曰く、「アイツ髪のせいで表情見えなかったけどガチギレだったよなー」との事。
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