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    こまつだよ

    せななるが好きで狂ってる。思い出したらポイピク!すべての投稿は個人hpにあります。

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    こまつだよ

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    春の気配 どうしよう。俺は病気なのかもしれない。
     もう見飽きたはずのなるくんの顔に、新たな感情が芽生え心臓が高鳴っただなんてどうかしてる。

     “かわいい”だなんて。

     “守ってやりたい”だなんて。

     こんな感情、今までゆうくんに向けたことはたくさんあったけど、なるくんにこんなことを思うなんてありえなかった。


    「……はぁ」

     共有スペースであからさまな溜息を吐いた俺に、「やっほー」だなんて声とともに顔を見せたのはかつてのクラスメイトである羽風薫だ。

    「どうしたの?溜息なんか吐いちゃって」
    「え〜。別になんでもないけど」
    「嘘が下手だなぁせなっちは。なんでもないっていうレベルの溜息じゃなかったけど?」

     はぁ。またしてもひとつ溜息を吐いてから、そういえばかおくんも、いつからか後輩のことを可愛いだなんて思うようになったと言っていた話を思い出して口を開く。

    「生意気な後輩がさぁ」
    「うん」
    「可愛い、とか思うってどんな気持ち?」
    「鳴上さんのこと?」
    「は?」

     なるくん。

     思いがけず図星をさされ少しだけ動揺。

    「お兄さんに話してごらん」
    「誰がお兄さんだってぇ?」
    「誕生日、俺のほうが1日早いしね」
    「はいはい」

     ソファに座った膝に肘をついてあごを乗せる。一度閉じた口を再び開いて、何から話そうかと思考を巡らせる。

     いちばん最初に、可愛いなって思ったのは俺がまだ制服を着てた頃のさいごの返礼祭なのかも。もったいないから泣かせない、って話をしたとき、あろうことかあいつは泣いた。その涙はぜんぶ俺のもので、俺以外の奴には見せてほしくないとまで思った。

     二回目はたぶん、ユーサネイジアのライブ中に俺に向けられたありがとうの言葉と、柔らかな笑顔。

     あいつは俺に対して、あんな風に柔らかく笑う奴だったっけ。

     いつでも憎まれ口を叩き合って、お互い無遠慮に言いたいことを言い合って。

    「……年下だとか、守ってやらなきゃ、とか。そういう風に考えたことって、なかったんだよね」
    「あ、それわかるかも。俺も晃牙くんやアドニスくんに対してそんなこと思ったこともなかったのにさ。卒業してからは特に、あの二人のことを気にかけちゃうし可愛い後輩たちって思うようになったよ」
    「そんなもん?」
    「そんなもんでしょ」

     かおくんが言ってることは一理ある。今まで、当たり前のようにすぐそばにいてくれたなるくんと、距離ができてはじめて「鳴上嵐」っていう人間の形を認識したというか。

     生意気な態度。楽しそうに笑う顔。普段は「お姉ちゃん」と言い張り年長者ぶってるくせに、俺をからかう時は年相応にキャッキャとはしゃぐ。何故か俺にだけ当たりが強いところも、あいつなりの甘え方なんだろうなぁと思うとそんなところさえ愛おしい。

    「って、」

     “愛おしい”ってなんだ。

     恥ずかしいことを考えてしまった自分を誤魔化すように額を軽く叩いて、なんでもない顔を装って視線を上げる。

    「せなっちって、だいぶ鳴上さんのこと好きだよね」
    「俺が好きなのはゆうくんだけだけど」
    「はは。無自覚っていうか、自覚があるからわざと隠そうとしてるっていうか」
    「はぁ?」

     自覚がある、ってどういうこと。

    「認めたくないんでしょ」
    「なにを」
    「自分が鳴上さんに夢中だってことに」

     その時だった。

    「あら、アタシの話?」
    「はぁ?誰もなるくんの話なんてしてないから」

     危ない。なるくんにこんな話聞かれたら、恥ずかしくて死んでしまう。

    「泉ちゃん、帰ってたのねェ」

     いつものノリで、「お土産は?」なんて聞いてくるなるくんに、「俺が帰ってきたことが何よりのお土産でしょ」とだけ答えてやれば「それもそうね」と笑ったなるくんが手持ち無沙汰に足を止める。

    「じゃあ、俺はこの辺で。零くん迎えに行かないといけないんだった。鳴上さん、ごゆっくり」
    「やだ、アタシ気を使わせたかしら?別に泉ちゃんなんかいつでも会えるのに」
    「ちょっとそれどういう意味」
    「冗談じゃない♪怒んないで?」
    「まったく」

     そんな風にいつものやり取りを繰り返す俺たちをの元から、柔らかな風が吹くかのように共有ルームを去る。

     それから、かおくんに代わって、どこか嬉しそうななるくんがソファに腰をおろした。

    「ねぇねぇ泉ちゃん、雑誌見たわよ」
    「……」
    「あんな大きなページ組んでもらえるなんて、すごいじゃない」

     まるで自分のことのように嬉しそうに話すなるくんに、何故だか心臓が高鳴る。俺が、なるくんに夢中?かおくんが馬鹿なことを言うから、いつもの調子がわからなくなってしまった。

    「?どったの泉ちゃん、なんか変よ?」

     ……変なのはお前のほうだ。

     俺の顔を覗き込んでくるその顔が可愛くて、今すぐキスしてやりたいなんておかしな思考にとらわれる。

     お気に入りのリップに薄く色づいた唇。カールした睫毛に囲われたアメジストの瞳が俺を見つめる。ふわりと香るのは、俺が前にプレゼントした香水だ。

    「……なるくん」
    「ん?」

     意識した途端にぼっと顔が熱くなって、名前を呼んだその次になんて言葉を発すれば良いかすらわからなかった。

     会うたびに綺麗になっていく。
     会うたびに、どんどん知らないお前になっていく。

     胸のドキドキを悟られたくなくて、必死に冷静を取り繕いながらも目の前のなるくんをもう一度だけ見つめる。

     俺が、なるくんのことを好きだなんて言ったらどんな顔するかな?不思議と、フラれるだなんて選択肢は俺の頭にはない。

    「……なによ、そんなに見つめちゃって」
    「別に。やっぱなんでもない」

     不可解そうな顔で俺を見るなるくんを、どう攻略していこうかで頭がいっぱい。まずはこの後、たまには俺からなるくんをカフェに誘うのも良いかもしれない。

    「なるくん」
    「うん」

     香り。指先。アクセサリーだって良いかもね。なるくんが気付かないところから、徐々になるくんを侵食していく。そばにいなくたって、俺のことを思い出しちゃうぐらいいっぱいに満たしたい。

    「……覚悟しといてね」

     桃色に染まった頬を誤魔化すように俯いたなるくんの目元にかかる前髪をさらりとよけてやれば、何かを期待するような菫色の瞳が俺を見上げる。

    「……それは泉ちゃんもおんなじよ?」

     途端に挑発的な表情を浮かべたなるくんにぶわりと感情が沸き立つのを感じた。

     『あぁ、俺が好きなのはこの鳴上嵐だ』なんてよくわからないことを思いながらも、お互いが発した言葉から辿り着く先はおんなじ未来を予感する。



     窓の外を吹き付ける嵐のような風が新たな季節の訪れを告げる。柔らかな日差しが差し込んだこの部屋は、そわそわするほど柔らかな空気に包まれている。

    「生意気」
    「そんなアタシが大好きなくせに」
    「まぁ、それはそうかもね」

     珍しくそう素直に返してみれば、またしても頬を桃色に染めたなるくんが居心地悪そうに顔を顰めた後、まるで花が咲くように笑顔を浮かべた。

     春は、すぐそこだ。


    おわり🌸



     



     
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