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    こまつだよ

    せななるが好きで狂ってる。思い出したらポイピク!すべての投稿は個人hpにあります。

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    こまつだよ

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    執事×お嬢さまパロ

    #せななる
    theEndOfTime

    【せななる】あなただけのバトラー(r18)1.



    「朝ですよ、起きてください」

     耳に馴染む低い声と共に、ピシャッと開かれたカーテンの隙間から容赦なく差し込んでくる太陽の光によってアタシの朝が始まる。

    「……んぅ、……まだ眠いわァ」
    「起きてください」
    「……やだァ」

     無理矢理布団に潜り込んで、執事さんを困らせるのもアタシたちの日課。

    「……チューしてくれたら起きる」
    「バカ言ってないで早く起きな」
    「あん!泉ちゃんの意地悪」

     強引に剥がされた布団の温もりを恋しく思いながらも、胸元で眠っていたにゃんこをつぶしてしまわないよう意識しながらようやく身を起こす。

     にゃあ。とひとつだけ鳴いたにゃんこもまだ眠そうにしているし、「泉ちゃんってば意地悪よねェ、ごめんねにゃんこ」なんて謝れば、にゃんこには優しい泉ちゃんがそっと布団をかけ直した。

     アタシだってちゃんと優しくされたいのに。


    「ねぇ泉ちゃん、」
    「何ですか」
    「…………」

     またいつものように丁寧なそれに戻ってしまったのについ唇を尖らせる。

     これ以上泉ちゃんを困らせても仕方ないから、渋々諦めて身支度を整えた。


    ***


     今日着るお洋服。身につけるアクセサリー。全部全部泉ちゃんが選んでくれる。毎朝の朝食の内容もバランスは完璧で、スケジュールも何から何まですべて泉ちゃんが面倒を見てくれる。

     アタシ自身、泉ちゃんが選ぶものは見事に自分の趣味と合っているから何一つだって文句はない。

     外に着ていくものは少しだけ大人びたデザインのもの。家の中だけで過ごすときや、誰にも見せないルームウェアなんかはアタシの趣味を優先して少しだけ甘いものを選んでくれる。そんなところまで本当に完璧。文句のつけようがないのだ。

    「……泉ちゃーん」

     でもそれだけじゃ嫌。こんな日常、酷くつまらない。

    「つまんない」
    「我儘を言わないでください」

     目の前に並べられたのは、今夜の社交界に来る予定らしい人たちの名前。記号のように並ぶ文字を覚えるのは得意だし、全ての人間と当たり障りなく交流することだってとても簡単。

     だけどそれだけ。

    「……ねぇ、泉ちゃんは恋をしたことがある?」
    「ありませんが」
    「つまんないわねェ」

     はぁ。この堅物執事さんにこんなこと聞いたアタシが馬鹿だったのかしら。

     そう。今アタシが求めているのは『恋愛』よ。童話に出てくるような王子様って本当にいるのかしら?社交界なんて名前だけ聞けば素敵な出会いが生まれそうな響きだけれど、実際世の中って、そんな都合よくできてない。

    「……好きな人でもできたんですか?」
    「…………」
    「…………」

     珍しくアタシに質問なんてしてきた泉ちゃんを、思わせぶりにちらりと見る。少しだけ優越感に浸りながらぷいっと顔を背けて「教えなァい」とだけ答えればチッと舌打ちが聞こえた。

    「あ。今舌打ちしたでしょォ」
    「そんなことしませんが」
    「パパに言いつけるわよ」
    「どうぞお好きになさってください」

     やっぱりつまんない。
     昔はもう少しだけ泉ちゃんにも可愛げがあって、アタシのことを「なるくん」って呼んでもっとたくさん感情を見せてくれてたはずだったのに。

    「……泉ちゃん」
    「何でしょう」
    「つまんないわァ……」

     今日何度目かのその不満を口にすれば、アタシの頭にぽん、と手を置いた泉ちゃんは、なにを言うでもなく無機質な表情のまま部屋をあとにした。




    2.


     もう子供の頃から何度も参加している社交界にも慣れたもの。今更緊張なんてしないし、こんなものただの日常。だいたいアタシが何をするまでもなく、全て優秀な執事の泉ちゃんが管理してフォローしてくれるから何一つだって困ることはない。

     それでもやっぱり、疲れるものは疲れる。

     家についてからびっちりと着飾ったスーツの襟元を少しだけ緩めて、アタシの隣に座ったいつもの執事服とは違う一張羅を身にまとった泉ちゃんをまじまじ見つめた。

    「……泉ちゃんって綺麗な顔してるわよね」
    「今更でしょ、そんなの」

     ネクタイの結び目に指を差し込み、くい、と引っ張る姿がやけに様になっているから思わず見惚れてしまうのは仕方ない。

     おまけに今は二人きりだからか、はたまた執事服を着ていないからか。少しだけ口調が本来の泉ちゃんに近付いていて嬉しくなってしまう。

    「そのスーツって自分で選んでるの?」
    「そうだけど?」
    「今度アタシにも選ばせて」
    「どうして」
    「いいじゃない」

     はぁ。と溜め息を吐きながらも、なんだかんだとアタシのお願いは聞き入れてくれる泉ちゃんを知っているからふふんと笑ってみせた。

     前に聞いたことがある。社交界の時にどうしてそこまでバッシリ決めてくるの?って。

     その時に「あんたに変な虫がついたら困るから」って言ってくれた言葉をアタシは忘れない。

     そう。

     恋がしたい、恋ってどんなものかしら、なんて本当は嘘。アタシは気付いた時から泉ちゃんに恋をしているし、それと同時に、この恋は永遠に報われないんだろうなともなんとなくわかっていたからこそ辛かった。


    「次のオフはいつなのォ?暇ならお茶しない?」
    「別にわざわざオフに会わなくても、業務上の命令であれば明日でも構わないでしょ」

     それじゃ駄目。アタシが一緒にいたいのは執事の泉ちゃんじゃなくて、ただの泉ちゃんなんだから。

    「……お願い、泉ちゃん」

     しゅんとした顔をつくって、しおらしくおねだりすればいつだって泉ちゃんはアタシの思うまま。……のはずだった。

    「駄目」
    「……ケチ」

     やっぱり大きくなったアタシのことは、もう甘やかしてはくれないらしい。

     昔はあんなにアタシのことをかわいがってくれたのにね。なんだか泣きそうな気持ちになりながらソファから立ち上がって部屋へと足を向ける。

    「……部屋にもどってる」
    「お風呂の準備ができたらお呼びします」
    「はぁい」

     アタシの乙女心をまるで理解しようとしないなんて泉ちゃんの馬鹿。そんな悪態をつきながらアタシは次なる作戦を決行すべく思考を巡らせていた。



    3.


     泉ちゃんのオフの日。自分で選んだお洋服に袖を通して、極秘というか職権乱用で手に入れた泉ちゃんの住んでるお家の住所を片手にアタシはひとり外の世界へと飛び出した。

     電車なんて乗るのも初めてで、目的の駅までの切符を買うのだって一苦労。スマホで調べた電車の乗り方が本当に合っているかわからないから、改札の機械を通過しただけでなんだか心が踊る。

     周りにはスーツを着た大人がたくさんいて、ちょうど今が『通勤ラッシュ』というものだということに気付いてしまったときにはすでに遅かった。

     せっかく綺麗に整えた髪の毛も乱れちゃうし、何よりも人と人との距離が近すぎてストレスだってすごい。普通の人たちは毎日こんな風に辛い思いをして仕事をしているのかと思うと頭が上がらないし、こんなにもぎゅうぎゅうの電車には二度と乗りたくないって思ってしまった。


     なんとか目的の駅で電車から吐き出されたアタシは、もう一度スマホを取り出して地図アプリを開く。

     泉ちゃんのお家までは徒歩で10分。きっと驚くわよね、なんて思いながら夕焼けに染まる見慣れない町並みの中歩みを進めた。


    「…………」

     ……はずだったのに。
     もうずっと歩いてるのに地図アプリが目的の場所をゴールだって伝えてくれない。おまけにポツポツと降り出した雨粒に、夜から雨だなんて聞いてない!なんて心の中で文句を言いながら厚い雲が覆う空を見上げる。

    (どうしよう、誰か……)

     情けなくも途端に不安になって、周りに人がいないかきょろきょろ見回す。本格的に降り出した雨に唇を尖らせるけど、傘をさした人たちはみんな足早に帰路につくだけ。

     そんなアタシを見かねたスーツのお兄さんが声をかけてくれたから、行きたいマンションの住所を伝えれば親切にもすぐ隣の路地を入ったとこに立っているのがそれだと教えてくれた。


     傘を貸してあげようかと提案してくれたそれを断って、家を出発した頃とは打って変わって泣きそうな顔のまま目的の階へと向かったのだった。






    「……泉ちゃぁん……」
    「はあ?!」
    「……最低よ、たすけて」

     ぐすん。雨でグショグショになったみっともない姿でインターホンを鳴らせば、怒ったような、慌てたような顔をした泉ちゃんが玄関先で声を荒げた。

    「何してんの、こんなところで」
    「……聞かないで家に上げて」
    「言わないなら俺も上げない、ちゃんと言って」

     厳しい顔つきでそう言う泉ちゃんに、まず最初にこんなひどい格好になっちゃったアタシを心配してほしいのに、なんて気持ちになりながら「泉ちゃんに会いに来たのよ」と素直に白状する。

    「…………」
    「……お家に上げて、お風呂に入れて」

     雨に濡れて冷えたままのアタシに、はあ、と溜め息を吐いた泉ちゃんがまたしても厳しい顔でアタシを睨んだ。

    「……オフの日までこんなふうに俺に迷惑かけて、なに考えてるわけ」
    「……ごめんなさい」

     『オフの日まで』、って。なによそれ。いつもアタシが泉ちゃんに迷惑かけてるみたいじゃない。アタシはただ、泉ちゃんに会いたかっただけなのに。

     本当に怒ってるらしい泉ちゃんにしゅん、としたまま俯いていれば、大きなため息を吐かれた後に頭をぽん、と撫でてくれたから少しだけ心があったかくなった。






    「で?なんでこんなバカみたいな真似したわけ」
    「……泉ちゃんに会いたかったから。……ぎゅうぎゅうの電車に乗っちゃって、」
    「電車できたの?この時間に?あんたが??」
    「そうよ。あんなに人との距離が近いのなんて初めてだったし、いろんなとこに人の手があちこち当たって最低の気分よ」
    「……」
    「駅についてからも迷っちゃって、そうしたら空から雨が降ってくるじゃない?ずぶ濡れでさ迷ってたら知らないお兄さんが助けてくれて、」
    「…………」
    「雨が酷いからいったん家にくるかって言ってくれたけど、すぐに泉ちゃんのとこに行きたいからお断りしたらちゃんとここの場所を教えてくれたの」

     お風呂であったまった体ですっかりいい気持ちになって、今日ここに来るまでのはじめて体験した出来事を興奮気味に一通り伝えれば、「はあ」と溜め息を吐いた泉ちゃんが眉間に皺を寄せてもう一度溜め息を吐いた。

    「……なるくん、」
    「!なぁに?」

     『なるくん』。やっぱりオフの日の、それから二人きりのときはアタシのことを昔みたいに呼んでくれることが嬉しくて、期待に満ちた瞳で泉ちゃんを見つめる。

     なのに。

    「タクシー呼ぶから、そのまま帰って」
    「……」

     そんな風に冷たく言い放つ泉ちゃんはアタシの知ってる泉ちゃんじゃなかった。本当に迷惑そうな顔をしているし、もしかしたら本気で怒らせちゃった、ううん、呆れさせちゃったのかもしれない。

     だけどアタシだって、もう我慢の限界だ。


    「アタシは泉ちゃんが好きなの」
    「……なに言ってるの、急に」
    「急にじゃない。昔、泉ちゃんが指輪をくれたでしょ?……幸せになれるお守り、って」

     グショグショに濡れたままのバックの中から、ピンク色のケースを取り出す。中に入ってるのはアタシの宝物、今はもうはめることはできないおもちゃの指輪。

    「アタシはあの時から泉ちゃんが好きで、泉ちゃんに恋をしているの」

     そんな風に白状してみせれば、ケースの中に入った子供サイズの指輪を見た泉ちゃんがまたしても溜め息を吐いた。

    「……それで、俺にどうしろっていうの」
    「え?」
    「雇い主の子供に手を出して、クビになればいいとか思ってる?」
    「……アタシはそんな、」
    「あのねぇ、なるくんのことはあんたが小さい頃からずっと見てるの。今更そんな、恋愛の対象として見れるわけ……」

     そんな風に言ってみせる泉ちゃんに思わず泣きそうになりながら、その言葉を最後まで聞きたくなくてアタシは咄嗟に動いていた。


     伸ばした手のひらで泉ちゃんの口を塞いでから、「……一回だけでいいからアタシとエッチして」と伝えれば、少しの間をおいた後に強い力で寝室へと連れて行かれる。


     ぼふっ、という音ともに乱暴にベッドの上に押し倒されて、今まで見たこともない顔をした泉ちゃんがアタシの上に覆い被さってきた。

    「どこでそんな言葉を覚えたの」
    「……泉ちゃんの知らないとこよ」
    「自分がどんだけ馬鹿なこと言ってるかわかってる?好きでもなんでもない相手とセックスしようだなんて、なるくんはそんなに馬鹿だった?」

     冷たい瞳のまま泉ちゃんの手が強引にシャツを捲くりあげてきて、アタシの胸の先をそろりと撫でる。

    「……っ、アタシは泉ちゃんが好きだからいいの」
    「俺がなるくんのことを好きじゃなくても?」
    「……っ、」

     泉ちゃんはアタシのことが好きじゃない。

     突きつけられた現実が悔しくて、泣きそうになりながらもこくりと頷く。

    「俺は抱けるよ。なるくんのことが1ミリも好きじゃなくたって、無理矢理なるくんのここに入れるだけだし。その代わり優しくなんてしてやらない」

     そう言いながら強い力で脚を開かされて、泉ちゃんに貸してもらったパジャマの上からぐりぐりとそこを刺激されてつい怖くて股を閉じようとしてしまう。

    「……いい、それでも大丈夫」
    「……。ふうん、あっそう」
    「エッチして、泉ちゃんとシたいの」

     情けないけど震える声でそう強がって見せれば、相変わらず冷たいままの声で泉ちゃんが強引にアタシのズボンを下ろしていく。

     あれよあれよという間に下半身をさらけ出されて、少しだけ怖い、なんて気持ちがバレないように唇を噛めば、なんの言葉もないままに泉ちゃんの指がアタシのそこにつき入れられた。


    side izumi.


     ……ムカつく。
     俺の気も知らないでこんなふうに誘ってくるなるくんがムカついて仕方がなかった。

     酷くして、ビビらせて、もう俺のことなんか嫌いになればいいって思った。

     とくに優しい言葉をかけることもなく、なるくんのそこにローションを絡ませた指を挿入する。最初からそのつもりでここに来たのか、じゅうぶんに解れているそこに驚きながらも具合を探るために指を動かしてみせる。そうしながらも自分のベルトをかちゃかちゃ外して、無理矢理フェラでもさせれば今度こそ泣いて謝るかな、なんて思ってた。

     だけど現実は俺の思うままには進まないらしい。

     入れた指に感じながらも、目尻になみだを溜めたなるくんの瞳からぽろりと宝石みたいな雫が溢れる。子供だと思っていたなるくんの唇からは色っぽい濡れた吐息が漏れて、ずっと握っていた右手が緩んだときに、さっきまで大事そうにケースに入れていた指輪がシーツの上に転がった。

     それを見た瞬間いても立ってもいられなくなって、今まで自分の中に閉じ込めていた感情が次々溢れ出した気がした。

     なるくんを大事にしたい。
     何よりも大切ななるくんを、俺だけのものにしたい。

     俺は、なるくんがずっと好きだったっていうことを。


    「…………」

     されるがままにベッドの上で俺に身を委ねるなるくんから指を引き抜いて、「……なるくん、ごめん」と言って頭を撫でてからなるくんの体の上からおりる。

     突然開放された身体に目を開けたなるくんが不思議そうな顔をして俺を見るから、いたたまれなくなった俺はこの後どうしたものかと頭を抱えるだけだった。


    4.


    side arashi.


    「……泉ちゃん?」

     突然アタシに触れるのをやめたかと思えば、
    ベッドから降りた泉ちゃんが「はあ」と深い溜め息を吐く。中途半端に弄ばれた身体をどうしていいかわからずにいれば、泉ちゃんがそっと毛布をかけてくれた。


    「意地悪してごめん」

     シーツの上に転がったままの指輪を手に取った泉ちゃんが、その指輪を見つめたあとになんとも言えない顔でアタシを見る。

    「……なんでやめちゃうのよ、……アタシ、何か変なとこあった?」
    「変なとこだらけ」
    「ええっ……なによ、そんなの嘘!」

     変なところがあった?これだけ美容にも気を使って、いつだって綺麗にいられるようにって努力だってしてるのに。

     中々ショックな泉ちゃんからの言葉に動揺していれば、そんなアタシを見兼ねた泉ちゃんの手のひらがゆっくりとアタシの髪を撫でて、そして頬を柔らかく撫でられた。

    「なるくんは、毎日綺麗になっていく」
    「え?」
    「出会ったときはませたクソガキだったのに、気付けばこんなふうに大人になって……」

     聞いたこともない優しいトーンで喋る泉ちゃんにドキドキして仕方がない。まさかこんな展開になるなんて思っていなくて、たまらなくなったアタシは毛布がはだけるのも厭わずに身を乗り出す。

    「……もっと」
    「……」
    「……もっと聞かせてよ、……」

     もっと泉ちゃんに褒められたくて、もっと泉ちゃんに優しくされたくてたまらない。

     アタシの頬に触れていた指に触れて、もうどうにでもなれ、なんて投げやりな気持ちで泉ちゃんの唇にキスをした。

     ほんの一瞬。

     ちゅ、と触れただけなのに恥ずかしくてたまらなくって、唇が離れた後にどうして良いかわからず泉ちゃんの顔を見つめてみれば、怒るかと思った泉ちゃんが意外にも優しい顔で微笑んでくれた。

    「……こんな風に、ませてるとこはずっと変わんない」
    「……?」
    「昔っからあんたは俺にくっついてきて、……花嫁さんごっこだの、恋人ごっこだの、たくさん付き合わされてきた」
    「…………」

     それは泉ちゃんのことが好きだったから、なんて言いたいところだけど、今よりもずっと素直に泉ちゃんに対してアプローチしていた子どもの頃の話をされてしまい少しだけ恥ずかしくなる。

    「……泉ちゃん、」
    「…………」
    「お願い、キスして」
    「さっきしたでしょ」
    「違うの、……もっとちゃんとした、大人のキスがしてみたい」

     シーツの上にへたりと座り込んで、ベッドサイドに座っていた泉ちゃんに精一杯のお願いをする。

    「泉ちゃんとキスがしたい」
    「…………」
    「アタシは泉ちゃんがずっとずっと好きだったの」

     そう言った瞬間に、立ち上がった泉ちゃんが再度ベッドの上へと上がってくる。何をされるのかドキドキ待ち構えていれば、先程とはまったく違って、信じられないぐらい優しく押し倒されてしまった。

     少しだけ怖い気持ちを抑え込んで、さっきまでとは明確にちがう、優しい顔をした泉ちゃんの瞳をじっと見つめる。

    「泉ちゃんじゃなきゃ、アタシはいやよ」

     そう言って泉ちゃんの首に腕を回せば、いよいよ顔が近付いてきてそっと目を閉じる。

     ちゅ、と触れた唇は信じられないぐらい柔らかくて、泉ちゃんの唇が開いた動きに合わせて唇を薄く開けば、泉ちゃんの熱い舌が口の中に入ってくるのがわかった。

     生き物みたいにアタシの口の中を蠢いてる濡れた感触がすごくエッチで、夢中になってその舌の動きに合わせて舌を絡める。

     好きだとはまだ言ってくれなかったけど、こんな風にされたら錯覚しちゃう。


     アタシの上に乗りかかる泉ちゃんの体温すら愛おしい。絶対にこの執事さんを他の人間になんてあげたくなかった。アタシだけのものにして、アタシだけに愛の言葉を囁いてほしいの。

    「……っんぅ、いずみちゃ、」

     息継ぎの合間にそう名前を呼べば、今度はさっきとは比べ物にならないぐらいに深く口付けを交わされる。

     呼吸すら奪うようなそれに、息をするのも忘れてしまう。泉ちゃんの舌に八重歯を舐められて、下半身に溜まる熱に無意識に腰をくねらせる。キスだけで達してしまいそうで、あまりの気持ちよさに脳みそが溶けるような、そんな感じだ。

    「っぷは、……っはぁ、……はあッ……!」

     ようやく解放された唇で、酸素を求めて必死に呼吸を繰り返す。とろん、と溶けた瞳のまま泉ちゃんの顔を見つめれば、どこかぎらついたような鋭い視線に心臓が張り裂けてしまいそうだった。

     その後なんの会話を挟むことなく、泉ちゃんの手のひらが身体のラインを撫でて、固くなってしまったアタシのはしたないそこを優しく揉む。

    「……気持ちよくしてあげる」
    「あっ、……っあぁん、!」

     シャツを胸の上まで捲くり上げられて、泉ちゃんの唇がアタシの胸の突起にちゅう、と吸い付く。今までに感じたことのない刺激に、うっかり漏れてしまう声が恥ずかしくて必死に口をつむる。

     乳首を舐められながら股間のそれを扱かれて、自分じゃない誰かに、……大好きな泉ちゃんに与えられる快感に抗えることもなく無意識のうちに腰を揺らしてしまっていた。

    「っあ、……イ、っちゃう、……泉ちゃん、いっちゃう」

     恥ずかしい。だけどすごく気持ちが良い。

     ぬるぬるの先端からはひっきりなしに透明な汁が溢れてて、泉ちゃんに与えられる快感に素直に従ってるだけ。

     乳首を舐める舌の動きと、少し強く擦られる先端への刺激に我慢できなくなって、「やだ、でちゃうっ」なんて上擦った声が上がったと同時にアタシはびゅくりと精を吐き出してしまった。

    「……はぁ……っ、いっちゃった、」
    「……気持ちよかった?」
    「こんなに気持ちいいの、……っはじめて」

     つい本音を伝えてしまえば、もう一度アタシに乗り上げてきた泉ちゃんに深く口付けを交わされてしまう。このままエッチまでしちゃうのかも、なんて期待しながら泉ちゃんの首に腕を回して精一杯甘える。

    「……あたしも、」
    「なに?」
    「アタシも、泉ちゃんの舐めてみたい」

     とんでもない発言に目を見開いた泉ちゃんが、「それは駄目」なんて厳しく言ってのけた後に触れるだけのキスをして体を離した。


    5.


    side izumi.

     いつもの朝。

    「朝ですよ、起きてください」

     羽毛布団に包まるなるくんを起こすべく声をかける。そうすれば、特に無駄な抵抗をすることもなくぱちりと目を覚ましたなるくんが嬉しそうな顔でこちらを見た。

    「ついに明日ね」
    「…………」
    「アタシと泉ちゃんの、デート♪」

     うふっ、とウィンクしてきたなるくんを軽くいなして、寝癖で跳ねる髪の毛をブラシで柔らかく撫でてからベッドから連れ出す。

    「その前に、今晩の社交界もしっかりと対応をお願いしますね」
    「わかってるわ、ちゃあんとお利口さんにする。だから明日はめいっぱい甘やかしてね?」


     あの日以後、やけにテンションの高いなるくんに不安になりながらも、なんだかんだと愛しくて仕方のない笑顔にたまらずキスをしそうになるのをぐっと堪えた。

     どうせこの屋敷には俺となるくんしかいないのだからキスしたって誰に見られることもない。だけどこれは俺なりのけじめだった。


    ***


     約束のオフの日。

     また電車に乗りたい、なんて言うなるくんの要望を蹴って、車の助手席に乗せてショッピングへと繰り出した。

     なるくんのお気に入りのブランドの服屋に行って、一軒目から次々新作を買い込んでいく。途中からスイッチが入ってしまったのは俺の方で、ああでもないこうでもない、って着せ替えたなるくんが何だって着こなす姿を見るのが楽しくて仕方なくってついつい盛り上がってしまった。

     買い物をはじめて2時間経たないうちに両手いっぱいにショッピング袋を抱えたそれを一度車に置いてから、次は俺の私服を選ぶんだとやる気満々のなるくんに腕を引かれて店へと向かう。

    「泉ちゃんにと〜っても似合うわ!」

     そう笑ったなるくんに着せられたジャケットを満更でもない顔でレジへと持っていって、店員さんが新しいものを用意してくれている間にふとなるくんがアクセサリーの飾られたショーケースを覗き込んでいるのに気付いた。

    「欲しいものでもあった?」
    「うん。……新しい指輪がほしいな、って思っただけ」
    「どれ?」
    「どれがアタシに似合うと思う?」

     なるくんの隣に立って覗きこんで、顎に手を添えながらつい真剣に考え込んでしまう。

     なるくんは背こそ大きいけど、指先は案外華奢。シンプルなデザインが似合うから、このあたりかな。そんなことを呟きながら吟味した後、寄ってきた店員さんにケースの中から取り出してもらった指輪をなるくんの指にはめてみる。思ったとおり似合うそれに、「どう?」と顔を上げれば、どこか瞳をキラキラ輝かせたなるくんが「これがいい」と嬉しそうに答えた。

     その瞬間こそ、なるくんの考えてることがわからなかったけど、「一緒にお願いします」とレジで伝え会計を済ませた後に指輪が入った小さな紙袋を渡した時にハッとした。

    「……大事にするわね」

     昔、まだなるくんが小さかった頃におもちゃの指輪をあげた時の笑顔を思い出す。あの頃とは違う、大人びた笑顔で俺に微笑むなるくんに胸が締め付けられるようだった。




     たくさん歩き回って、疲れた足を癒やすべくなるくんの希望で向かったのはプラネタリウム。

     薄暗い館内を案内されて、指定されたペアシートに座り込んだ瞬間どっと疲れがやってきた。周りはカップルだらけだったけど、この際休めればなんだっていい。

     靴を脱いでシートに寝転んで、まだ開始前の人工の星が浮かんだ天井をじっと見つめる。

    「ふふ、アタシたち、恋人同士みたいね」
    「はいはい。いいから、なるくんもはやく寝転びな」
    「はぁい」

     俺の言葉に素直に従ったなるくんが、少しだけそわそわした様子を見せながら俺の隣にごろんと横になる。

    「綺麗ね」
    「そーだねぇ」

     上映開始のアナウンスと共にあたりの明かりがいっきに落ちて、天井には眩しいぐらいの星空が一面に広がる。どこかロマンチックな雰囲気に乗せられたカップルたちの距離が縮まって、自然と俺たちの距離もぴったりと近くなった。

     突然そっ、と繋がれた手に思わず隣を見れば、悪戯な笑みを浮かべたなるくんが俺を見た後にまた星空を見つめる。その横顔を見ながら、どこまでも美しく育ったなるくんに少しだけドキッとしながらもその手を握り返してみた。

     その瞬間、またしても俺の方を見つめたなるくんは少し驚いた顔をしていて、その表情がやけに子供っぽく思えた俺は愛おしさを覚えながらもくすっと微笑んだ。


    ***


     すべての演目が終わって、プラネタリウムを出る頃には日が暮れていた。

    「あーあ、楽しかったァ」
    「なにそれ。不満なのか満足したのかハッキリしない」
    「……まだ全然、帰りたくないわァ」

     むすっ、と唇を尖らせたなるくんに、「我儘言わないの」とだけ伝えてから押し込むように助手席へと座らせる。

    「……泉ちゃん、今日泊まっていかない?」
    「はぁ?」
    「……だってこんなに楽しかったのに、あんな広いお家に一人きりだなんて寂しくて死んじゃいそうよ」
    「にゃんこがいるでしょ」
    「それはそうだけどォ」

     もどかしそうな表情のなるくんに、なんだかんだと甘い俺はついつい「なるくんが眠るまでは一緒にいてあげる」なんて声をかけてしまう。

    「ほんとに?」
    「ほんと」
    「じゃあ朝まで起きていようかしら」
    「10時までには寝ること」
    「はいはい」

     そんな俺の小言すら嬉しそうに聞くなるくんを横目に、もう何度も通勤で通っている屋敷へと繋がる道を走った。


    6.


    side arashi.

    「泉ちゃんもお風呂に入っていけば?」
    「そんなことできませんが」
    「なんでよォ。これはアタシの“命令”よ。ね?いいでしょ?」

     ふふ。そう言えば渋々と頷く泉ちゃん。アタシが眠ったら帰るなんて言ったけど、そんなことさせるわけないじゃない。今日は絶対にあの日の続きがしたくって、アタシだっていろいろ策があるんだから。

    「じゃーん!泉ちゃんがいつでもお泊りできるように、泉ちゃんに似合いそうなパジャマも買っておいたのよォ♪」

     そう言ってしまえば、「だから、泊まらないってば」と言いつつもどこか口元が緩んじゃってる泉ちゃんに確かな手応えを感じた。

     今日のアタシは、……ううん、今日のアタシも準備ばっちり。いつもより丹念にスキンケアをしてもちもちすべすべの肌。いつもは着ないセクシーな下着だって着けてるし、それから、今日泉ちゃんに買ってもらった指輪だってさっそくつけちゃうんだから。

    「……ふふ、」

     ソファに座り込んで、アタシの左手の薬指にはめてみたそれについつい笑顔を浮かべる。おもちゃの指輪だって宝物だけど、またこうして新たにプレゼントしてもらった指輪はもっともっと宝物よね。

     ご機嫌なアタシの膝のうえに飛び乗ってきたにゃんこに指輪を見せて、「どうどう?似合うでしょ?」と聞けば、「にゃあ」とひとつ鳴いてくれた。

    「にゃんこもそう思うわよね」

     よしよし、と顎の下を撫でて、もう一度指輪を見つめてみる。

    「…………」

     策はある、って言ったけど、アタシの策ってこれで終わり?ふとした瞬間に我にかえって、いくらアタシが準備したところで泉ちゃんが乗ってくれなきゃ意味がないことに途端に焦りが芽生えた。

     この前キスもしたし、今日はデートだってした。指輪だってプレゼントしてもらったし、アタシ的にはもう恋人同士だ、って思ってるけど……。


     正確に言えば、無理矢理選ばせて買ってもらった指輪に少しだけ不安な心を覚えながらも、「お風呂ありがと。なんかすっごい、変な感じ……」なんて呟きながら出てきた泉ちゃんは元々着てた私服のままだったから胸がぎゅって痛くなってしまった。

    「……なんて顔してんの」
    「え?……べつに、なんでもないけど」
    「ふぅん」

     なんでパジャマ着てくれないのよ、とか、いつもならそんな文句を言ってるはずなのに、何故か今はそんな言葉すら言うのが躊躇われる。だってそれはあまりにも本心で、どんな顔をして伝えていいかがわからないんだもの。



     それまでアタシの膝の上にいたにゃんこまで、とんっと跳ねて部屋を出て行ってしまう。

     今の今まで持ってた自信はどこへやら。

     ひとり浮かれてた事実に途端に突き放された気分。今夜泉ちゃんは絶対に帰さない、なんて当然のように思ってたのに、突然ひとりぼっちを突き付けられたような感じがして酷く心細い。

     今までこんな風に思ったことなんてなかったはずなのに。お父さんもお母さんも、お兄ちゃんもいない。アタシのそばにいてくれたのは、にゃんこと、それから泉ちゃんだけ。

     しゅん、と塞ぎ込んでしまっていれば、「なるくん」と優しく名前を呼んだ泉ちゃんがソファの隣に座り込む。

    「もう寝る?」
    「……まだ8時じゃない」
    「なんか変だから。疲れたのかなって思っただけだけど」

     ソファの背もたれに肘をついた泉ちゃんが、アタシの顔を覗き込んでくる。絶対にこんな情けない顔見せたくない、って思えば思うほどどうしようもない表情をしている気がした。

     それを悟られたくなくって、ふん、と顔をそらしたその瞬間にアタシに覆いかぶさるようにした泉ちゃんによってキスをされる。

     一瞬、なにが起きたのかわからなくって、混乱してる間にあっという間に唇が離れてしまう。

    「な、なに急に」
    「してほしそうだったから」
    「…………!」

     おねだりしなくたって、泉ちゃんの方からキスをしてくれたことが嬉しくって、勝手に落ち込んでた気持ちが嘘みたいに上向いて泉ちゃんをもっとほしいって貪欲な気持ちがわいてくる。

    「……ベッド、連れてって」
    「変なことはしないけど」
    「だめよ。……シて」

     共用のリビングじゃ落ち着かない。特に嫌がる気配のない泉ちゃんの手を引いて、アタシの部屋へと招き入れる。そこからどうするのが正解かはわかんなかったけど、ぽすん、と先にベッドに座らせた泉ちゃんの膝に乗りかかるようにしてキスをしてみる。

     やっぱり拒否することなくキスを受け入れてくれた泉ちゃんに心臓がドキドキで爆発しそうになりながら、そのまんまベッドの上へと押し倒した。

    「……泉ちゃん、アタシを大人にしてほしい」
    「……だからそんな言葉、どこで覚えたの」
    「……秘密よ」

     ちゅう、と甘えるみたいにキスすれば、案外乗り気な泉ちゃんの冷たい手のひらが服の下の皮膚を弄って、アタシの下半身がきゅんと疼いた。






    「……っは、……いずみちゃ、……っあ、きもひぃ?」

     ベッドに座った泉ちゃんの脚の間に入り込んで、硬く勃起したそれを咥え込み必死で奉仕する。舐めてるだけで興奮しきったアタシの下着の中を知ったら、泉ちゃんにひかれちゃうかもしれない、なんて思いながら揺れる腰を止められない。

     アタシの頭を優しく撫でる泉ちゃんの手のひらが心地よくて、「気持ちいいよ」と答えてくれたそれに、もっともっと気持ちよくなってほしくって舌を這わす。

     この前は舐めさせてくれなかったけど、今日は舐めさせてくれるってことはもしかしたらそうなのかもしれない。

     今日こそ最後までエッチして、ようやく泉ちゃんがアタシのものになるんだという予感に興奮がやまない。

    「……待って、ごめん。……出るからはなして」

     限界を訴えた泉ちゃんの言うことも聞かず、もっと奥まで咥えこむ。喉の奥に泉ちゃんの先端が掠めるたびに変な声が漏れたけど、そんなことよりも泉ちゃんをイかせたくって必死だった。

     はなせ、っていう泉ちゃんに「んーん」と首を振り、搾り取るように唇と舌の動きを速めてみれば、限界を迎えた泉ちゃんのそれが口の中にどぴゅっと吐き出された。

     びゅー、と吐き出す瞬間震えるようなそれにしゃぶりついて、最後の一滴まで吸い尽くすように啜れば、はあはあと息を荒げた泉ちゃんが申し訳なさそうな顔でアタシを見つめた。

    「っなるくん、ごめん。はぁ、……ここに出して」

     アタシの口元に差し出された手のひらに、少しだけ考えたあと口の中にある白濁をちょっとだけ吐き出してみせる。どろりと溢れたそれにもう一度口を寄せて啜ってみれば、「こら!遊ぶな!」と声を上げた泉ちゃんにようやくアタシも笑いが溢れた。

    「うふふ。ねぇねぇ、アタシ、上手だった?」
    「はいはい、良かったよ」

     少し悔しそうな泉ちゃんの胸の上に乗っかるようにしてじゃれ付けば、またしても泉ちゃんの方からキスをされる。こんなの本当に恋人同士みたいで、アタシもその舌に舌を絡めて腰を擦り付ける。

     今日はなんだか不思議な気分。楽しくって舞い上がってみたり、急に寂しくって落ち込んでみたり。それから今は、目の前の泉ちゃんを絶対に逃したくなくって小悪魔な気持ち、ってとこかしら。

     興奮しきったアタシ自身を悟られるのは恥ずかしかったけど、こんなの恥ずかしがってたら先には進めないものね。

     泉ちゃんの手のひらがアタシのお尻を撫でて、キスをしながらパジャマをずらした後に下着のラインをなぞられる。

     この日のために選んだ下着だけはしっかり見てほしくって、下着まで脱がされてしまう前に手首を掴んで制止する。

    「……」

     一瞬だけ不思議そうな顔をした泉ちゃんに、自らパジャマの上を脱いでからベッドの上にごろんと横になる。

     泉ちゃんの視線が、黒のレースに、両サイドにリボンがついたそれに誘導される。布の下ではしたなく勃起したそれを恥ずかしく思いながら、内股をすり合わせるように身体を捩ってみせれば、アタシに乗りかかった泉ちゃんが愛おしそうにレースの上からキスをする。

    「あっ」
    「……いつの間にこんな下着……」

     意地悪な泉ちゃんが、アタシの先端を慈しむように何度も何度も下着越しにキスをしてくる。その度にエッチな声が上がっちゃって、このままじゃあっという間に達しちゃいそう。慌てて「脱がせて」とお願いすれば、リボンの部分を唇で噛んだ泉ちゃんによってじわりじわりと裸にされた。





    「あう、……だめ、またいっちゃう、きもちい……」

     泉ちゃんの指示のままに、ベッドの上で自ら脚を抱え、自分でも見たことのないそこを泉ちゃんに向かってさらけ出している。そこに突き入れられた指でグリグリされて、たまに一緒におちんちんを擦られてしまえばもう何も考えられない。

     泉ちゃんだから恥ずかしくない。泉ちゃんだからもっと見てほしいし、触れてほしい。

     もう2回イってるっていうのに、3回目の絶頂を迎えようとしてることに、もしかしてまた最後まですることなく終わらせるつもりなんじゃ。なんて少し不安になりながら、泉ちゃんの指を払いのける。

    「?気持ちよくなかった?」
    「……ちがう、泉ちゃんがほしいの」
    「えっ、」

     えっ、って。なによ。玩具なら何度も経験してるし、アタシは今日こそ泉ちゃんが欲しいんだから。

     抱えてた脚を下ろして、泉ちゃんの反り立つそれを指先で撫でながら身体を捩ってアナルへとあてがう。

     入り口にぴとりと触れた熱にそれだけで達しそうになりながら、擦り付けるみたいに腰を動かし「泉ちゃん」と名前を呼ぶ。

     そうすれば、やる気になったらしい泉ちゃんに脚を拡げられ、そのまま体重任せにアタシの中へと押し入ってきた。

    「あっ、!……ううっ、……!」
    「……っいや、って言っても止めないよ」
    「言わないっ、いわない……ッ!」

     玩具なんて無機質なものとは比じゃない。あつくって、ドキドキしてて、それからけっこう痛くって、それとおんなじぐらい愛おしい。

     いっきに奥まで押し入ってきたそれに言葉を詰まらせて、「……痛くない?」と聞いてきた泉ちゃんに痛いから抜いて、と言おうとしたけどぐっと言葉を飲み込みその背に手を回す。

     痛くたっていい。「なるくん、」と余裕なさそうにアタシの耳元で名前を呼んでくれる泉ちゃんが嬉しくって、声にならない声を飲み込んで僅かでも快感を探す。

     塗り込んだローションの音がぐちゅぐちゅ響いて、伺うように中を擦る泉ちゃんのそこに必死で集中した。

     普段玩具で遊んでる時とは違う。アタシの意図とは違う動きをする熱に煽られ、無意識に歯を食いしばり腰に脚を絡める。

     アタシが「痛い」なんて言えば泉ちゃんはそのまんまやめちゃいそうだから、それだけは我慢しなきゃ。

     そんなことを考えられたのも最初のうちだけ。いつからかお腹の奥の方に疼きを感じ始めた。「あっ…♡」なんて変な声が漏れたのを聞き逃さない泉ちゃんが、エスっ気のある笑みを浮かべ確認するようにもう一度責めてくる。

    「……っふ、ぅ……ッ」

    (待って待って、ホントにそこは駄目かも……!!)

     今まで感じたこともない快感の気配に、慌てて泉ちゃんの腕を掴んで動きを止めさせようって必死になる。そんなアタシの努力も虚しく、「なるくん」と優しく名前を呼ばれたあとに耳にキスをされてしまえばもう無駄だった。



     すっかり泉ちゃんとのセックスに虜になったアタシは、唇の端からよだれが垂れるのを拭う暇もなく喘ぎっきり。意地悪な瞳をした泉ちゃんが、アタシの反応を伺いながらズン、ズンッって腰を動かす。すごくイイ角度、強さ、それから速さでアタシのナカを責め立てるそれに夢中になって、はしたなく脚を開いて「もっとォ……♡」なんておねだりする始末。

    「……気持ちいいんだ」
    「うん、……っきもちぃ……!泉ちゃん、だいすき」

     泣きそうになりながらあんあん喘げば、すごく優しい顔をした泉ちゃんがアタシの唇をキスで塞ぐ。そのまんま泉ちゃんの身体が重なって、熱い肌と肌が密着して溶け合うかと思ったほど。泉ちゃんの首の後ろに腕を回して、離したくないとばかりに抱き寄せて舌に舌を絡めた。


     



    「……いずみちゃん……」

     ぐったり疲れた身体をベッドに沈ませて、いそいそと身支度を整えてる泉ちゃんの背中を見ながら名前を呼ぶ。

    「お水飲む?」

      違う。ふるふると首を横に振って、拗ねたように唇を尖らせてその腰に抱きついてみる。帰る、とか言い出しそうなその背中に不安になった、だなんて。

    「……帰らないよ」

     ぽんっ、とアタシの頭に手を置いた泉ちゃんが、どこか恥ずかしそうな顔で寝転んだままのアタシを見下ろす。

     その顔をじっと見つめてみれば、チュッ、と優しく口付けた泉ちゃんが再びベッドへと乗り上げてきた。

     そのまんまアタシの両手首をベッドに抑えつけるように押し倒してきて、まさかまだエッチしたりなかった…?!なんてドキドキしていれば、アタシの首筋に顔を埋めた泉ちゃんが深く深呼吸するのがわかった。

    「……好き」
    「え?」
    「ずっとなるくんが大切で、ずっとなるくんが大好きだった」
    「……えっ」

     そんな風に、突然顔を埋めたまんま告げられた告白にどうしていいかわからずに、なんの反応もできないままぽかんと口を開いてしまう。

    「……いつもいつも俺の後ろをついてきて、綺麗な顔で笑うなるくんが大好きだった。……他の奴にあげたくない、って。なるくんの隣は、俺だけのものだって思ってた」

     それから、痛いぐらい強く抱き締められたことになんでか泣きそうになった。

    「……いずみちゃん、痛い」

     震える声でそう訴えて、悪びれもなさそうな顔で「ごめん」と言った泉ちゃんに優しくキスをされる。

     離してもらった両手で泉ちゃんに抱き着いて、「……泉ちゃんはずっと、アタシのものでしょ」と呟いてからアタシからもキスをすれば、おかしそうにクスクス笑う。

    「……アタシのこと、泉ちゃんのお嫁さんにしてくれる?」

     なんて。

     どこか甘く柔らかい空気の中、言うなら今しかないと思ったこの台詞。

     まだ小さい頃、はずかしげもなく泉ちゃんに何度も言ってた言葉。大人になったらね、って、あの頃何度もはぐらかされてきたけど、今ならどうかしら。

     伺うように泉ちゃんの瞳を覗きこめば、ふっと笑った泉ちゃんが、「……なるくんも立派な大人になったからね」ってやさしく微笑んだ後、アタシの左手の薬指に嵌った指輪へとキスをしてくれた。

     初恋は叶わない、なんて漫画やドラマでよく言ってる。だけどアタシはどうかしら。幼い頃に、駄々をこねる度にやれやれって顔をしながら泉ちゃんが付き合ってくれた「演技」とはちょっと違う。

     息を奪われるぐらい深いキスをされて、「俺のお嫁さんにしてあげる」なんて少しだけ意地悪な笑顔を浮かべたアタシだけの執事さんにキスをされた。

     今までも、これからもずっと、アタシのそばには泉ちゃんじゃなきゃいやよ。泣きそうなぐらい甘くて優しい時間を、ぎゅっと目を閉じて噛み締める。

     こんな時に思い出すのは、ずっと昔、おもちゃの指輪を泉ちゃんがプレゼントしてくれた日のことだった。

    『なるくん、手を出してごらん』
    『なぁに?いずみちゃん』

     広いガーデンの中、木々の隙間から溢れる日差しが宝石みたいにキラキラと輝いてたのを覚えてる。

     誰からも見えない場所で、アタシの手をとった泉ちゃんがはめてくれたのはおもちゃの指輪。

     確か、お嫁さんになりたい!って言い出したアタシに、泉ちゃんが「寝言は寝て言って」なんて冷たいことを言った翌日のこと。

    『これは、なるくんが幸せになれるお守りだよ』

     って。まだまだ小さかったアタシは、そんなプレゼントが嬉しくてたまらなかったのよね。


    「……なに考えてるの」
    「泉ちゃんのことよ」
    「あっそう」

     満更でもなさそうな顔をした泉ちゃんの腕の中。アタシっていう人間をどんどん満たしていく不思議な感覚にやっぱり泣きそうになりながら、「アタシ、とっても幸せよ」と微笑んで見せれば、同じように微笑んだ泉ちゃんに痛いぐらい抱きしめられたのだった。 




    おわり


     
      


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