たいみつ
珍しいな…と、思った。ちょっとした違和感。いつものクレープ屋の近くで待ち合わせてお決まりのように2人で食べてぶらぶら歩く。それがルーティンだと思って数年過ごしてきた。が、今日はクレープ屋には行かず、通りに面したカフェのしかも窓際の席。2階だからそこまで視線は気にならないが、いつもは『こんな高いところでゆっくりなんて出来ない雰囲気が無理』と言っていたのに。進んで入っていった。
俺としては、コッチの店の方がゆったりしたソファで旨いコーヒーとちょっとした甘味を寛いだ雰囲気で味わえて良い。外のガードレールで並んで食べるクレープも良いが…目立ちすぎる。
「で、どうしたんだ?」
「え?何が…?」
こいつ…三ツ谷隆はボーッと窓から外の景色を無意識に眺めて無言でいたことに気付いてもいなかった様子。
「いつもなら、こーゆう店に入らないだろう。それに、服装の指定もあったし…」
全身黒で揃えている大寿のコーディネートは三ツ谷も感心する程のモノだが、本日は黒NGなるべくカジュアルで動きやすいモノ。ときた。
ルナやマナの運動会にしては時期が違うし、待ち合わせ場所は同じ原宿。何を企んでやがるんだ…と思いはしたものの、拒否せず誘いに乗る自分の気持ちにも違和感を覚えつつ待ち合わせ場所に赴いた。
「…あーまぁ、ね、ソレをこれから説明させて。それで、大寿くんの判断で決めて欲しい」
やけに真剣な口調で語る三ツ谷に大寿にも少し緊張感が走る。
「…で?」
明治神宮の隣にある体育館へ、数多くの女性達の集団やちらほら見える男性に混じって人混みに倣って歩いていく。
「アイドルのライブ?に何で俺が?」
「さっきも説明した通り、ちょっとした縁でさ…大寿くんも若者文化に触れるイイ機会じゃん!?絶対楽しいから…って、オレも生で見るのは初めてなんだけど…DVDで予習はしてきた」
ペンライトと手作り内輪を上目遣いで、誇らしげに見せてくる。
「俺の内輪は無いのか?」
物珍しくペンライトをカチカチスイッチをオンにしたりオフにしたり。
「大寿くんの『推し』分からなかったし…」
「そうだな…お前一人でDVD見てた時に誘ってくれてたらな…」
「ご、ごめん…だってさ、」
「予習もなく駆り出された俺…」
兎の耳が付いてたら垂れ下がっていただろう落ち込みっぷりが可愛い。垂れ耳の大寿くん…。