青天白日出力がわからない、とインドラは常々零していた。サーヴァント相手にすら影響がある上、今は側に生身の人間もいる。ただの雷を扱うにも気を遣うし、「インドラ」の雷は同じ次元で語るものでも無い。マーニーの思考回路で操るインドラの雷は最早難敵で、殆ど出涸らしのようなか細いそれを用いて戦闘に慣れようとしている所だった。
「良いから!気にしないで!」
藤丸がどれだけ叫んでも、マーニーの細腕はインドラの雷を落さない。ここで躊躇して欲しくないのにと、華奢な背中に庇われた藤丸は令呪を使う覚悟を決めた。けれど言葉を発する前に藤丸の体は投げ飛ばされて、揺れる頭を抑えながら起き上がった頃に地面に倒れる軽い音が聞こえた。
「インドラ様!?」
間違えて何度もインドラと呼んでいたらもうそれでいいと許してくれた、やせ細った綺麗な女神様だ。象牙色の髪も雷光を宿した瞳も、藤丸が知っているインドラと何も変わりない。優しくて不器用な神様は、目の前の人間一人を助けるために身を挺してしまうと、知っていた。
「これ、何だ、」
腹に突き刺さっているのは人の腕程の骨のようで、先ほどまで戦っていた見た事の無いエネミーのものと思われた。脂汗をかいて歯を食いしばっているインドラは、痛みだけで呻いているようには見えなかった。
毒?
だったら対処出来るかもしれない。だけどその前に迫りくるエネミー達を何とかしなくては。皆とはぐれてしまった結果なので、合流しようにもどこを目指したらいいかがわからない。でも、インドラをこのままにしておくつもりも、無い。
「そのまま」
声が過ぎて、視界にひとつの影が落ちた。頭上にはアルジュナ・オルタの姿があり、見上げたその瞬間に全ての敵エネミーは掃討されていた。
神なるアルジュナ、一時の間だけ守られた人格。優しくて不器用で、ちゃんと愛を伝えたから、束の間自分を持てたあのインド異聞帯のアルジュナの姿。
地上に降り立ったアルジュナ・オルタにぐったりとしたインドラを渡す。指が額に張り付いた前髪を流して、少しの間じっとその顔を見つめていた。身をかがめてインドラに口付けをする光景は、魔力供給をしているのだとわかっていても、何故だかとても清らかで。
――愛してるんだなあ、と、思わずにはいられなかった。