神様と結ばれる「今回は大変そうでしたね、ぬるぬるしていたしアルジュナも捕まっていたし」
「オルタ貴方あれ食べてましたけど本当に何ともないのですか」
「タコとイクラの中間くらいでしたね。中々の食感です」
その中間地点は果たしてどの辺りに存在するのか。味についてもコメントして欲しい所だったが、思うにオルタには大雑把な味覚程度しか備わっていないのだ。インドラが寝ぼけて炭にしたベーコンも食べていたし、インドラが手を滑らせてビール缶の中身を受け止めた味噌汁も飲んでいたし。
インドラがシャワーを浴びている間、湯上りのアルジュナは冷蔵庫の中身を確認していた。ドロドロでヌルヌルのままインドラの運転する車で帰宅はしたが、あの車は果たしてもう一度乗れるのだろうか。先にアルジュナを風呂場に押し込んだインドラが掃除をしてはいるようだが、あれが科学で洗い流せるとも思えなかった。
「直ぐ食べられるような物が良いですよね……今日は米も炊いていませんし」
「冷凍うどんがありますよ」
「出来れば長くて伸びてきそうな形状のものはちょっと」
「絡まってましたからね」
中々手ごわくて千切るのが大変だった。剥すのにも時間がかかったし。
結局食パンを見つけたのでそれを使ったサンドイッチを作る事にした。ツナサンドと卵サンドとハムと野菜のサンドイッチを作った所でインドラが風呂から上がって来て、すっきりさっぱりした顔をしてキッチンを覗いて来た。この人は本当にどうにも凄い事になった後なんだろうかと、毎度の事ながらアルジュナは感心した。やっぱり神様のお手付きを受けてると何かが違うのだろう。オルタはふよふよ近付いてインドラの肩に顎を乗せ、アルジュナがサンドイッチを沢山作ってくれましたよ、と笑いかけた。
「そ、そうか。では冷めない内に食べるぞ」
全部温かいサンドイッチでは無いが息子の手料理にはいつだって全力で喜んでくれているインドラなのだ、わかっているので何も言わずにサンドイッチをダイニングテーブルに運ぶ。髪の濡れたインドラはいつもより少し大人しい印象があり、加えてアルジュナの手料理に大層嬉しそうな表情だ。そう言えば今幾つなのかを尋ねた事は無いが、それでも相当幼く見えた。
「どうでしょうか」
サンドイッチを食べるインドラに尋ねると、毎度のお決まりのやり取りではあるが、本当に幸せそうにインドラは笑って言った。
「極上である!」
「良かったですね」
「うむ。流石はオレの息子――」
「もう一度」
和やかな食卓の空気が凍る。じっとインドラを見つめるオルタの目は、覗き込めばどこまでも落ちて行くような宇宙が眠っていた。
「父様。何故私がこんな風に貴方を呼んでいると思ってるのですか」
そういうプレイだとしか思えないのだが、一応理由もあるらしい。インドラに言い聞かせている所に何度か遭遇しているので知りたく無いけど知っていた。
インドラ・マガヴァーンの魂は神と縁を結ぶものであり、それは最早人間のものだとは言えないのである。であるからして縁を持つ神の他には触れる権利求める権利すら無く、かつこの縁はインドラが定めたものなのだ。
――あの日父様は私に名前を与えました。アルジュナと呼び、私を息子、自分を父として接した。役柄はこちらに合わせましょう。だから貴方は私のものだ。
と、言う事らしく。
それでいてインドラはひょいひょい他所の神に手出しをされているので。
その度にオルタは言い聞かせているのである。
「貴方は誰です?」
「……神」
「そうですよ。音なんてなんでも良いですから、自分が何者であるのかだけは。誰の何であるのかだけは、そうして染み渡らせてくださいね」
こくこく頷いてからぱくぱくサンドイッチを食べるので、実の父相手に仔ウサギか何かのようだと思わずにはいられない。せめて空気を戻そうと、アルジュナは大きな一口でサンドイッチに齧りついた。
「おいしい!」
にこにこ笑えばインドラもぴかぴか笑っていた。隣に座っている神様はやや笑顔に棘を宿していたが、二人の時にやってくれと心底願って暮らしているアルジュナであった。