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    watase_imas

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    12/5開催されたゆるいパバステでワンドロのお題を募集して、リクエストしていただいた「初詣・着物」で書いたキリ九です。
    ワンドロどころではない作業時間になりましたが、完成させることを第一目標に勢いだけで書きあげたのでクオリティはワンドロです。

    二年参り目の前1m先に推し事務所のアイドルがいた。

    具体的に説明すると、友人と二年参りの参拝にきた神社の境内ですし詰め状態で並んでいたら前の列の二人が315プロの猫柳キリオくんと清澄九郎くんだった。

    待って待って、本当にこんなことってあるの? 初夢? だとしてもめっちゃ縁起良すぎて怖い。あ、これ今年のチケット運全部使い果たしたな、と激しく動揺しつつ、ハッと一緒に参拝に来ていた隣の友人の存在を思い出した。
    私は友人の強烈なプレゼンで最近315プロに興味を持って箱推し気味にライブに行く程度の、言ってしまえばまだまだ歴の浅くゆるーい新参ファンだ。今も心臓はバクバクと高鳴りテンションも爆上がりしているが、それでもまだ何とか人の形を保っていられる。だが私の隣にいるのは私に315プロを強烈にプレゼンしてくれた友人その人だ。「315プロ? 最近名前聞くよね。ユニットはわからないけれどこの前流れた新曲ちょっと気になったよ」とうっかり興味を示した私をライブDVD漬けにし布教用だからとCDを全種類送りつけ、315プロがどれだけエモいかというプレゼンを切々と語ってくれた友人だ。今日の二年参りも『夏の315プロドーム公演のチケット、二人分ご用意されるように得を積みに行こう!』と彼女が発案したものだ。
    そしてそんな彼女の最推しユニットは、彩だった。
    恐る恐る横目で友人の様子をうかがうと、友人はうつむいて二人の草履だけを見つめながら祈るように両指を組全身を細かく震えさせてていた。明らかに寒さのせいではない震えだった。スマホでラインに『大丈夫?』とだけ打って、そっと画面を彼女に見せたら震える指で『むり しぬ』とだけ返された。うん、そりゃそうだわ。ひとまず彼女が呼吸はしていることに安心する。
    私はできるかぎりガン見にならないよう細心の注意を払いながら目の前の二人をチラ見した。キリオくんはニット帽子を深く被って、あの目立つ色の髪の毛を8割方隠していた。深夜の境内は参拝者のために参道を照らすライトが等間隔で点いてついているけれど昼間ほどには明るくはないため、よくよく見ないとあのミントグリーンとピンクの特徴的な髪に気づけないかもしれない。九郎くんもハンチング帽におそらく伊達メガネをかけている。足元をみると二人とも着物に草履を履いていた。普通なら着物の若い男の子二人はかなり目立つだろうけれど、二人ともコートを着ているせいか周囲から浮いている感じはしない。
    そんな風にちゃんと身バレ対策をしている二人に私たちが気が付けたのは、ファンの愛ゆえだけではなく二人の会話が聞こえたからだ。キリオくんの「~でにゃんす」に、ん?となり「猫柳さん…!」と声をひそめて名前を呼ぶ声にまさか…と思ったら目の前に推しアイドルの横顔が二つ並んでいたのだ。二人とも顔は小さいし九郎くんの横顔は芸術品か?と思うほど整ってオーラがヤバいしなんだかいい香りまでする気がする。香水というよりお香とかきっとそんな感じだ。普段九郎くんと翔真さんに挟まれているせいでものすごく小さく感じるキリオくんも私より身長が高くて男の子なんだなあと思わせてくれるけれど、くりっくりの目がこぼれるくらい大きくて表情がくるくる変わってヤバいくらいかわいい。そんな二人が目の前で『距離感ちっか…!!』と悲鳴を上げたくなるようなやりとりをしてる。キリオくんが九郎くんの耳元に顔を寄せて何か喋ったり、九郎くんがキリオくんのほどけてきたマフラーを巻き直したりと、ぶっちゃけて有り体な言い方をすれば大変イチャイチャしていた。
    私といえば、目の前の現実を受け止められないまま『さすが彩、プライベートも着物なんだ』と謎のポイントで感動していた。友人は悲鳴を抑えるためにか口元を両手でふさいで涙ぐんでいた。参拝が終わるまで彼女のメンタルが持つのかかなり心配になってきた。
    そんな私たちの荒れ狂う内心をよそに参拝者の列は少しずつだけれど拝殿に向かいじりじりと進む。私たちは万一にも二人にぶつからないようにと謎の緊張感を持ちながら気持ち広めのスペースを開けていたが、ざわざわとした喧噪の中でも二人の会話がとぎれとぎれに聞こえてしまう。
    「……て、小腹がすいたでにゃんす」
    「…お二人に花びら餅を…」
    違うんです、盗み聞きでは決してないんです、と心の中で誰へなのかわからない言い訳をしながらスマホで花びら餅をこっそり検索した。ごぼうとみそ餡をお餅でくるんだ新年のお菓子らしい。まったく味が想像できないけれど、なんとも風雅だ。彩って本当に私生活から和の心を体現してるんだなあとまたひとりで感動してしまう。それにしてもお二人って誰だろう? 華村翔真さんがそういえば見当たらないけれど、あとひとりは? と疑問が浮かび隣の友人にラインで質問した。
    『たぶんプロデューサー。翔真さんは選抜メンバーでお正月の仕事が入ってるから今日いないんだと思う』
    なるほど、だから今日はキリオくんと九郎くんの二人なんだ。それにしても二人で二年参りに来たりお土産ちゃんと買って帰ったりするなんて、315プロのユニットは大体どこもそうだけれど本当に仲がいいんだなと、私はしみじみと推し事務所の尊みを嚙みしめた。友人は両手で顔を覆いながら震えていた。このままだと推し供給があったときの絵にかいたようなオタクしぐさを一通り披露しそうな勢いだ。
    推しの供給過多に天国すぎて死にそうになりそうな時間を過ごしながら、私たちの列がようやく拝殿に近づいた。一列前のキリオくんと九郎くんが拝殿の階段を上がる。キリオくんがお賽銭をぽいっと投げて、がらんがらんと鈴を鳴らす。鈴が落ちてきそうな勢いで鈴緒を振り回すと、すぐ真横から『猫柳さん……!』と、小さく咎めるような声が耳に届いた。周りに気付かれてしまうことを気にしてなのか、ほんの少しだけひそめた声。
    キリオくんが『ささ、くろークンもご一緒に』とにっこり笑って鈴緒を差し出す。
    仕方ないですね、と言いたげに九郎くんが少しだけ困ったように笑ってそれを受け取る。
    私たちは何を見せられているんだろう。というのか見ていいのかこれ。駄目なんじゃないか。めちゃめちゃプライベートなんじゃないか。
    キリオくんがパンパンと勢いよく柏手を打って、目を閉じなむなむと口の中でつぶやくと『それは神社ではなくお寺でしょう』と、また小さく呆れたような九郎くんの声が聞こえる。でも声が優しい。めっちゃ優しい。九郎くんが拝殿に向かって手を合わせて目をつむる。キリオくんがそれを横目でちらちら見てる。その表情が、もうなんというか甘い。甘いよ。テレビのバラエティでもライブのMCでもラジオのトークでもこの二人が仲がいいのはわかっていたけれど、プライベートだと倍、いや5倍ぐらい甘くない? 友人が過呼吸になりかけてる。もう少しだけがんばれ。ここで倒れたら二人にも迷惑をかけるかもしれない。耐えろ。
    お参りが終わった二人が横に移動して私たちが拝殿前に出る。なにを祈ればいいんだろう。とりあえずこの幸運への深い感謝と、人生の運をすべて使い果たして死ぬことだけは許してくださいとしか思いつかなかった。友人は万札を賽銭箱に入れ涙ぐみながら感謝の祈りを捧げていた。
    死にそうな友人の腕を引き拝殿横の社務所へ交通安全のお守りを買いに移動したら、おみくじを引いている二人を見つけてしまった。大吉を引いたらしいキリオくんが九郎くんの髪の毛におみくじを結ぼうとして怒られていた。
    私と友人はお守りを全種類ありったけ買った。
    人の流れに沿って歩くとどうしても二人の後ろになる。決して、決して追っかけやストーカーをしているわけではないけれど、人の流れに逆らって二人の側を離れる決断をできるほど私たちの意思が強くはなかった。
    神社の大鳥居をくぐり抜けたところで、九郎くんが周りの屋台にきょろきょろと目移りしてるキリオくんの手をつないだ。と思ったらなぜかキリオくんが手を離した。『はぐれますよ』と言ってる九郎くんの顔が赤い。これ寒さのせいじゃないよね。かろうじて立っている友人の腕を支えている私もときめきで動悸がヤバい。
    手を離したキリオくんは手袋を片方だけ外した。そして指先が白くなっていた九郎くんの手にはめるとお互い手袋をはめていない方の手をつなぎなおしてにっこりと笑った。
    「この方が二人ともあったかいでにゃんすよ?」と。

    その後の私たちの記憶はない。
    気が付いたら友人のアパートの部屋の中で二人で座り込み息も絶え絶えになっていた。完全なオーバーキルだった。
    「ねえ、私たち二人して白昼夢を見てたのかな……」
    「いや深夜だから白昼夢じゃないと思う……」
    「ツッコむところ、そこ?」
    「じゃあ白昼夢でもいいよ。ねえ、これ記憶が消えないうちに文字に書き起こそう?」
    そうして表に絶対だせないこの日記が完成した。
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    watase_imas

    DONE12/5開催されたゆるいパバステでワンドロのお題を募集して、リクエストしていただいた「初詣・着物」で書いたキリ九です。
    ワンドロどころではない作業時間になりましたが、完成させることを第一目標に勢いだけで書きあげたのでクオリティはワンドロです。
    二年参り目の前1m先に推し事務所のアイドルがいた。

    具体的に説明すると、友人と二年参りの参拝にきた神社の境内ですし詰め状態で並んでいたら前の列の二人が315プロの猫柳キリオくんと清澄九郎くんだった。

    待って待って、本当にこんなことってあるの? 初夢? だとしてもめっちゃ縁起良すぎて怖い。あ、これ今年のチケット運全部使い果たしたな、と激しく動揺しつつ、ハッと一緒に参拝に来ていた隣の友人の存在を思い出した。
    私は友人の強烈なプレゼンで最近315プロに興味を持って箱推し気味にライブに行く程度の、言ってしまえばまだまだ歴の浅くゆるーい新参ファンだ。今も心臓はバクバクと高鳴りテンションも爆上がりしているが、それでもまだ何とか人の形を保っていられる。だが私の隣にいるのは私に315プロを強烈にプレゼンしてくれた友人その人だ。「315プロ? 最近名前聞くよね。ユニットはわからないけれどこの前流れた新曲ちょっと気になったよ」とうっかり興味を示した私をライブDVD漬けにし布教用だからとCDを全種類送りつけ、315プロがどれだけエモいかというプレゼンを切々と語ってくれた友人だ。今日の二年参りも『夏の315プロドーム公演のチケット、二人分ご用意されるように得を積みに行こう!』と彼女が発案したものだ。
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