春風 きっと、運命だったのだと思う。跡部景吾という、この上なく美しい男に魅せられてしまったのは。
俺こと忍足侑士は何事もそつなくこなせるという自負が昔からあった。テニスもそれなりに出来、小学生ながらに先生や女子からの人気もそこそこある。今思えば狭い世界で生きていたものだ。まあしかし、自己に対してそのようなある種の自信を持ちながら東京にやって来た俺は、すぐにその自分の生温い価値観を改めることになる。
言うなれば跡部景吾は暗闇の中に迸る落雷であった。圧倒的なまでに彼を包む支配者たるオーラと、伝統ある氷帝テニス部員を完膚なまでに叩きのめすテニスプレイヤーとしての素質。成り行きで試合をし俺はその落雷をもろにくらって初めて気がついた。ああ、自分はこの強く美しい男に一目惚れをしたのだ、と。
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