名探偵助手宇緑四季の憂鬱「次の依頼は犬探しだよ四季くん!」
舎利弗玖苑は、意気揚々と指の間に挟んだ一葉の写真を揺らす。「さあ、さっそく探しに行こうじゃないか!」
華やかな顔立ちに煌めく笑顔。爽やかな香水を纏った長い髪を振り、玖苑は四季の前で両腕を広げてみせる。しかし当の四季――宇緑四季はさほど乗り気ではなさそうだ。写真の下部に書かれた情報を読み上げる声は低くややくぐもっている。
「白ポメラニアンのポメちゃん、オス……」
「飼い主の後藤さんは酷くやつれ果てていたよ。早く僕たちの手でポメちゃんを見つけてあげないとね」
きらきらとした笑顔を振りまく玖苑に対して、四季はやはりどこか腰の重い様子で、座ったままのソファから立ち上がることをしない。しばらく玖苑の持ち込んだ写真をじっとながめたかと思うと、麗しい流し目を玖苑になげかけた。
「仕事があるのは結構ですけど。また犬探しですか」
「また、というけどね四季くん。前のように命の取り合いなんかやってたら、身体がいくつあっても足りないよ」
四季の肩に手を置いて微笑む玖苑だが、その美貌に全く靡かない四季はチッと舌打ちした。
「……よろず屋なんて名前にするから全員から便利屋だと思われてんだよ」
「便利屋だよ?」
「あんた最初『探偵事務所』っていったろうが」
玖苑の構える「よろず屋とどろき」は燈京の駅裏に居を構える小さな探偵事務所である。探偵事務所というと聞こえは良いが、実際は四季がぼやくところの便利屋で、入ってくる依頼は犬探し猫探しが良いところだ。ときおり不倫調査やだれそれの素性を調べてほしいという依頼も入ってくるものの、決して多くはない。玖苑は高い確率で路地裏の地面に這いつくばって犬猫を探しており、とても「探偵」に見えないのが正直なところである。事務所を構えて半年。そうした玖苑の様子を、四季は苦々しく見守っていた。
「探偵なんて、便利屋くらいが平和でちょうどいいのさ。志献官をやめたあとだと特にそう思うよ」
玖苑はそう言って眉を下げた。四季はなんとも言い返せなかったのか、口をつぐみ、じっと玖苑を見上げると、犬の写真を玖苑に突き返してそのまま事務所の扉を開けた。
「ポメちゃんの写真、なくていいのかい」
「もう覚えたんで大丈夫です、先行きますよ」
「犬の顔まで覚えられるなんて、さすが僕の四季くんだ」
そうして玖苑は、ポメちゃんの写真を片手に町へと繰り出した。