椿 きゅっと抱えるように丸めた手足を投げ出して、七瀬が睡っている。穏やかな冬の日だまりのなかにぽかりと開かれたぬくもりは、仁武の冷えた指先をもゆっくりと温めた。布団から身体を起こして、仁武は声だけで七瀬を呼ぶ。その声音は以前と比べるとあまりに頼りなく細かった。
「七瀬。七瀬。そんなところで寝たら、風邪をひくぞ」
しかし、七瀬は耳が良い。
長い睫毛がぴくりと動いたかと思うと、鏡のように澄み渡る瞳が仁武を見る。まるい瞳が仁武のやつれた姿を映し出したとき、七瀬は数度ぱちぱちと瞬きをして、その細指を仁武のほうへ伸べた。
「仁武さん? 今日はぐあいが良いんですか」
「ああ。……いい天気だしな」
七瀬はしなやかな手足をすっと伸ばすと立ち上がり、はたと気づいたように仁武の背中に綿入れの羽織を着せかける。すまない、と仁武が申し訳なさそうに言うと、七瀬は次に仁武の唇にふれた。
「寒いんですか。くちびるが青いです」
「ああ、そうなのか……?」
「自分のことなのに。ちゃんと教えてくれないと」
むうっと頬を膨らました七瀬は、子供らしいところもありながらしっかりしている。そのやわくて温かい手で仁武の大きな手を握ると、小さな口元まで引き寄せて暖かい吐息をかけた。
「ふう、ふう」
七瀬のそうした献身を、くすぐったいと思いながらも受け入れている仁武がいる。
「……ちゃんと、甘やかせなくてすまない」
「え?」
きょと、とする少年の年相応の表情を見たとき、仁武の中に去来したのは、不思議な感慨だった。武器を取って戦った少年。世界を救った少年。仁武を選んで、わざわざこの場にとどまってくれる少年――。
「……いや、うん、なんでもない、忘れて――」
「ぼくはちゃんと甘えています」
七瀬は仁武の言葉を遮るように、上手く曲がらない鉄の指を、そっとその柔くてまるい指で撫でた。
「いっしょにねむって、いっしょに起きて、いっしょにご飯食べて、いっしょに同じ時間を過ごしています。甘えています、ちゃんと」
「でも、七瀬。俺はおまえに世話をさせてばかりで」
困ったような仁武の表情を、七瀬はしかし、やはり丸く膨らました頬で一蹴した。
「ぼくがしたくてしていることなんです。ちゃんと受け止めてください」
「あ、ああ……」
「それで、ずっといっしょにいてください。ずっと」
七瀬は仁武の冷たい手に唇をよせる。やわくて暖かい少年の唇が、仁武の心の琴線にじかに触れる。
「ずっとぼくのこと、甘やかしてくれるんですよね」
庭で、椿の花がぽとりと落ちた。
小さな頭を抱きしめる腕に力はない。どちらかというと、抱きしめられている少年の方が、男の肩に強くしがみついていたように思う。バラバラになりそうな男の身体にしがみついて七瀬は小さく囁く。
「いっしょにいて、」
互いの胸に下げたドッグタグがふれあってかちんと鳴った。