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    ふっかべ探偵もの第2話

    【連載】名探偵助手宇緑四季の憂鬱(2) やあ! 僕だよ。
     え? 「誰だ」って? イヤだな、分かってるだろう? 
     僕の名前は舎利弗玖苑とどろきくおん。かつて舎密せいみ防衛本部所属の志献官だった。今は燈京駅裏に事務所を構える名・探・偵・さ! 
     ことのはじまりはここまで読んでもらった通りだよ。僕は助手の四季くんとともに、煉瓦街の迷い犬探しの依頼を引き受けていた。でもね、犬の失踪はある事件の前触れでしかなかったんだ。
     青い宝石だけを狙う連続強盗事件。次々と狙われる富裕層の屋敷。そして奪われるサファイア――。
     これだけで――かなり心躍る事件だと思わないか? そうだろう四季くん!
     四季くんが持ってきてくれた事件だからね、名探偵舎利弗玖苑、必ずこの謎を暴いてみせるよ!


    「今までに、少なくとも四件の被害があった。間違いないですね」
     四季はそう整理して、順繰りに男達の顔を見渡した。ここは燈京駅裏、「よろず屋とどろき」の応接室だ。この場にいるのは、来客に茶を出して丸い盆を抱えたままの四季と、応接セットに悠々と腰掛けている玖苑と、それから被害に遭ったという煉瓦街の富裕層、若干二名である。
    「はい。我々の宝石コレクションが奪われたのは一週間前のことで」
    「一週間前」
     玖苑がおうむ返しに言って、長い足を組んだ。
    「一週間前、燈京に何か変わったことはあっただろうか? 四季くん」
    「……いや知らないですよ」
     四季の記憶によれば、雨の降らない日が一週間続いた程度のことしか思い当たらない。
    「事件の日、特段変わったことはありませんでした」
     そう説明したのは若い方の富豪だった。
    「普段通りに就寝して、朝起きて被害に気づいたんです。アクアマリン、サファイア……透明度の高い物も含まれていたので、かなりの痛手ですよ」
    「俺のところも似たようなものだ」
     年かさのほうも頷く。こちらは、四季をゴルフバットで殴ろうとした御仁だ。
    「朝起きたら、宝石のコレクションから青いものがごっそり消えていた」
    「その宝石のコレクションってのは、煉瓦街では流行りなんですか」
     四季が盆を片付けて訊ねる。ふたりの富豪は顔を見合わせ、首を横に振った。
    「あのあたりには煉瓦街宝石の会というのがあってね。手持ちの宝石を持ち寄って鑑賞したり語らったりする会なんだが……」
    「……ひょっとして被害に遭ってるのは、その会のメンバーってことですかね」
     四季が口にすると、
    「へえ」
     続けて玖苑が手を握り合わせ、目を輝かせた。
    「なら、強盗事件はその煉瓦街宝石の会のメンバーのことをよく知っている人間の犯行ということだ。君たちも容疑者というわけか」
     玖苑さん待てよ、と制止しかけた四季がなにか声を出す前に、若い方が声をあげた。
    「何を仰るんです、私たちは被害者なんですよ!」
    「まあ落ち着いて聞いてくれよ、何も君たちを犯人だと断言したわけじゃない。被害に遭ったと証言する君たちの中に犯人がいるかもしれない話をしているんだ」
     玖苑は激高した相手にも悠々と対応する。どれだけの力を込めても揺るぎない大樹のごとき泰然さだ。
     若い方は鼻息荒く玖苑を睨んでいたが、同じくらいの殺気を視線に込めて投げかけている四季に気づき、ようやくその牙を引っ込めた。四季は四季で、そっと手刀の形にしていた手を振りほどいた。
    「問題はホワイダニット、何故それがなされたかだよ。二人とも、青い宝石を求める人間に心当たりはあるかな」
     二人の富豪はまた顔を見合わせる。
    「なんでもいいんですよ。手がかりになりそうな情報ならなんでもね。気づいたこととか、ほんの些細なことでもいいんです」
     四季がさらに声をかけると、年かさの方が「そういえば、」と言った。
    「後藤さんが質の良いサファイアを手に入れたって言ってたのは……いつだったかね?」
    「確か二週間前でしたね」
     若い方も頷く。
    「質の良いサファイア?」「というと」
     名探偵とその助手が身を乗り出すと、富豪はどぎまぎしたように「関係ないかもしれない」と前置きした。
    「質の良いサファイアを買ったから、みんなに見せたいと言ってたんだよ。でも、この騒ぎになって『宝石の会』は取りやめになった。だから俺たちは、後藤さんが言ってたサファイアを見てないんだ」
    「そのサファイア、どのルートで入手したかわかるかい」
     玖苑が立ち上がって長い髪を払う。
    「……たしか……どこだかの質屋しちやだと」
     四季もまた立ち上がる。
    「玖苑さん。この一帯の質屋にサファイアのしち入れがあったかどうか聞いてきます」
    「頼んだよ、四季くん」 
     すっかり何かを理解した風のふたりに、富豪達は目を白黒させている。
    「なに、なにがあったんだ?」
    「はは、名探偵とその助手にかかれば、どんな手がかりでも見逃さないのさ」


     四季は質屋という質屋を回る聞き込みを開始した。地図に書き込まれた○印の箇所をしらみつぶしに回っていく。燈京の質屋は数が少なくない。そして、再生された都市やウツロ街などの半スラムにもそうしたたちの店は複数あった。
     聞き込み内容は決まっている。「青い宝石の質入れがあったかどうか」だ。
     しかし。サファイアを質入れし、そして富豪相手に売ったと証言する質屋は一つもなかった。四季はくたびれた身体を引きずって事務所に帰った。

    「……証言、とれませんでした」
     地に落ちたテンションのままソファにどっかりと腰を落ち着けると、乱れた髪をそっと手ぐしで梳く手がある。見ると玖苑が微笑みながら四季の頭をいたわるように撫でているのだった。
    「……大丈夫だよ四季くん。僕にはほとんど見えている」
    「ほとんど?」
    「そうだとも。あと一押しが足りないだけさ」
    「ああ、まあ、そうでしょうね……」

     実のところ四季にも大きな粗筋は見えていた。

    「犯人は宝石の会の存在とメンバーを知っている人間で」
     四季が言うと、玖苑が続ける。
    「おそらく、青い宝石を無作為にもとめているんじゃなく、『あるサファイア』が欲しい人間だね」
    「そして、質に入れられたサファイアを探している人間」
    「その通り。さすが僕の四季くんだ。ハグしてあげよう」
    「いらねえ」
     玖苑の顔を押しのけようとした四季だったが、その手をつかまれて抱きしめられる。見ている者がいればそれは恋人同士の抱擁に見えたかもしれない。
    「……そうだな。あとは……」
     耳元で囁かれる言葉の一つ一つに宿る知性を、四季は見逃さない。
    「忘れるところだった。……ポメちゃんを、探さないとね」




     やあ、みんな!
     事件の全貌が見えてきたよ! どうなるんだろうね?
     まあ、どうなるかなんて、この名探偵の僕にかかれば、万事解決以外の結末はありえない! さあ大船に乗ったつもりで、最後まで見届けてくれたまえ!

     さて。ヒントは出そろった。
     君には真相が分かるだろうか?







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