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    右🪲受け中心

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    顎髭なしの🪲が可愛いと言うだけの話

    #ムルグレ

    わちゃわちゃ囚人 <わあ、髭がないとなんだかすっごく若返ってみえるねえ>

     かちかちという分針の刻む言葉に、ムルソーは目を閉じるのをやめて視線をバスの通路へと滑らせた。
     メフィストフェレスの少し赤みがかかった四列固定シート席前方。運転席のほぼ真後ろ。
     時計頭の管理人が、シートの背もたれに体を預けるようにして、後ろを振り返っていた。
     行儀の悪い子供がプリントを後ろに配るように、身を乗り出して熱心に眺める先には茶髪の小柄な男……グレゴールが居心地悪そうに座っている。
     今日に限って彼の一人席は随分賑やかな様子だった。
     グレゴールの席を囲むようにホンルとロージャが立っており、騒ぎを聞きつけて好奇心を見せたのかドンキホーテやヒースクリフなども近寄ってきている。
     バスの平均身長は一般的に高い方なのもあいまって、人に囲まれたグレゴールの席は完全に彼らの背に埋没してしまっていた。

    「なにがあったんですかね」

     窓の外を見ていたイシュメールが訝し気に騒ぎに視線を向ける。
     その当たり前の疑問は、すぐさま解消された。事を大きくしたくないグレゴールの意思に反して、常にまぜっかえして話題に上げたがるのは面白い事が大好きな彼女だった。

    「グレッグ~、いいじゃない見せてよお。あなたっていっつも髭が汚いんだからたまにはいいでしょっ。ねっねっ」
    「ロージャ、勘弁してくれよ……」
    「せっかくホンルに整えてもらったんでしょう?ねえ?」

     きゃあきゃあと楽し気に騒ぐ彼女に対して、名指しされたホンルもにこやかに笑って頷いた。
     彼の手にはカバーがつけられた髭剃りが握られている。たおやかな顔とは裏腹のしっかりと筋張った男らしい手に握られた剃刀はいかにもブランド品といった凝ったデザインがされていた。
     ムルソーとしては、なんとなく彼にはあまり髭が生えないイメージであったため少しばかりそれは浮いてみえた。

    「そうですよ~。そもそもグレゴールさんがいいよって言ったんじゃないですか。どうしてそんなに恥ずかしがるんです?ちょっと顎がつるつるになっただけじゃあないですか」
    「そりゃ、手入れに手間取ってたのは俺だけど全部剃るとは思わないだろ!ちょっと長さを整えるだけでよかったのに……」
    「だって僕、髭の長さを整えるなんてしたことありませんから」
    「髭がないとほんとに可愛い顔立ちしてるのね~、ちょっと童顔?」
    「おお!本当にグレゴールくんの顎がとぅるっとぅるでありますな!!全然見慣れませぬ!」
    「はっ、いいんじゃねえの。いつもない威厳がもっと目減りしてるけどな」
    「お前らなあ!」

     耳に入る内容を精査していくと、どうやらグレゴールがホンルに髭の手入れを頼んだらしい。
     彼の顎を覆う無精ひげは、ああ見えて生えっぱなしではなく一応気を使って整えているものであるらしい。あくまでも長さを整える程度の、貫禄を補うのを通り越して不潔にならないためのケアなのだろう。元より片腕が虫腕たる彼にとって、髭剃りはそれなりに面倒なものなのは想像に容易い。
     存外、あの行為は片手でやるには工程が多すぎるのだ。
     とかく、それでどうやら顎髭を綺麗さっぱり失ってしまったようだった。綺麗な顎にされたグレゴールが嘆きながら席に座り、そこで囚人たちに目をつけられてしまった、と推測できる。
     隣にいるイシュメールもおおよそ同じ結論に至ったのだろう、呆れたように彼女は皮肉げに笑うと、窓枠に頬杖をついた。

    「朝から元気ですね……」

     バカバカしい、と言うわりには微笑まし気に様子を見る彼女を横目に、ムルソーは黙って組んでいた両手を降ろすと、ゆっくりと立ち上がった。
     それなりに広いバスの通路、わちゃわちゃと団子のようになっている彼らを視界に収めてむっつりと歩き出す。
     無表情のまま黙って移動を始めたムルソーを背に、イシュメールがなぜか少しだけ苦笑した声が漏れていた。

    「つーか旦那、時計回してくれよ。もとに戻るかもしんねえし!」
     <ええ?髭がないって負傷扱いにならないと思うんだけど>
    「そこの!変な手間を管理人様にかけさせるな!」
    「でもさ~~~、これでも頑張って手入れしてたんだぜ、元に戻すのも大変っていうか……」
     <そんな恥ずかしがることでもなくない?>
    「今の状況が嫌なんだって!」


     ウーティスの怒鳴り声にもめげず、グレゴールは前の席から微笑まし気に見るダンテへと再度願った。
     駄々をこねるような仕草にダンテは面白がるように返すと、軽く背もたれが蹴られる感触が返る。
     その仕草はあまり普段のグレゴールから見れるものではなく、拗ねる本人を無視してわっとまた笑い声が上がる。
     そんな最中である。
     ぬ、と人の輪を乱すように、ムルソーは片手に何かをもってグレゴールへと影を落としたのは。

    「ムルソーさん?」

     顔をぱっと上げるグレゴールの顔めがけて、分厚い布が投げつけられた。

    「ぶへっ」

     ばふっ、と音を立てて頭から被ったそれは、LCB社員、もとい囚人たちに支給された会社のコートだった。
     グレゴールよりも背が高い彼のコートは、グレゴールの頭だけではなく上半身をすっぽり覆いつくす。
     僅かに香るムルソーの整髪料の匂いと、分厚い生地に困惑しつつもグレゴールはわちゃわちゃと頭からコートを外そうとしたが変な所に引っかかったのか、あるいは虫の右腕で破く事を気にしているのかなかなか被ってしまったコートを剥がすことができない。

    「えっ、な。何……?え?!」

     ムルソーはその姿を見ると、小さく頷いた。
     満足そうにひとつ頷くと、また彼は踵を返して自分の席へと足を向けた。
     なんとか頭から引っぺがし、口元までコートを下げたグレゴールが再びムルソーを見た時には、彼は堂々と自分の席に既に戻っていた。
     きっちりと最初と変わらず、背を伸ばして座っている姿にグレゴールは何が起きたのかわからず、何度も瞬きを繰り替えす。

    「なに……?」

     唖然とするグレゴールをよそに、こそこそと囚人たちはグレゴールの席から距離をとるように管理人の席へと集まった。
     団子になり、満足げなムルソーと困惑したグレゴールを客観視して、導き出される答えはそう複雑ではない。
     苦笑交じりに声を囁き合う囚人たちの顔は、もどかしいような、面白い物を見るような、からかいと親愛まじりのものだった。

    「意外とあいつ、分かりやすいよな……」
    「どっちかというとわかりやすくなったの間違いじゃない?」
    「ムルソーくんは行動で語るタイプなのかもしれませぬ……!」
    「どうでしょう。あれ、無自覚だったらどうします?」
    「それはそれで可愛いと思うけど……グレッグは気づけるかな~」
    「おっさんだからなあ」
    「あの人、自分の好意に関しては卑屈になりやすいですからね」
    「ムルソーくんも、結構自分のこととなると尋ねねば黙る事が多いであるからなあ」
     <え?あ、も、もしかして?>

     管理人が不思議そうに二人と、囚人たちを見回すのに、彼らは揃って口元に手を当てた。

    「まだ内緒で!」


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