忘れ物(ワンライ)最近鳴き始めた夏の蝉時雨がそこら中に降り注ぐ。生徒たちが通う通学路の道路には朝から陽炎が見える事もある。
暑い中通う生徒たちには期末テストが近づいている。
一昔前とは違って教室にクーラーか付いているのが当たり前の現代。それは彼女が主を務める保健室も同様だった。
デスクに向かって書き物をしていると、ガラガラと保健室の戸が開く。
“いつも”の痩せ身の彼が来る合図。
碧色のブラウスと黒いパンツの上に白衣をまとった彼女が、半袖カッターシャツの夏制服の生徒を迎える。
「あらあら、また来たの?」
「今日も休ませてくれるか?」
「お休みではなくおサボりでしょ?」
やんわり指摘すると、彼はばつの悪そうな顔をして『けっ』と短く言葉を吐き出した。
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